第3章 経済協力の現況

第1節 総論

1. はじめに

83年,国際情勢は,東西関係を中心に依然として厳しい状況にあり,開発途上地域でも,カンボディア,アフガニスタン,イラン・イラク,レバノン等で多くの軍事的対立が継続し,また,世界経済は,一部の先進国で景気回復の動きが定着しつつあるものの,開発途上国はいまだ景気回復の恩恵を受けるに至っていない。このような状況の下,我が国は,経済協力の分野においても,開発途上国の福祉の向上と民生の安定に寄与し,もって自由で開かれた国際経済秩序の維持とこれら諸国の安定と発展のために努力していくとの考え方に立って,83年においても引き続き経済協力を拡充・強化した。

各国が国際社会の平和と繁栄に貢献していくには種々の方法があるが,我が国の場合,自由世界第2位の経済力を有し,貿易,資源,エネルギーその他の面で開発途上国と深い相互依存関係を有することにかんがみ,開発途上国に対する経済協力の拡充によって世界の平和と繁栄に貢献することが望ましい。また,世界経済自体がますます相互依存の関係を深めていることから,南北問題は最も重要な国際課題の一つとなっており,経済協力,中でも政府開発援助(ODA)は,南北問題解決のための最も重要な方途の一つである。

我が国の経済協力の目的は,開発途上国の経済社会開発に貢献することにより,民生の安定及び住民の福祉の向上を図ることにあるが,経済協力の実施に際しては,外交上,政治・経済上の種々の考慮を行っており,我が国の総合安全保障を確保するとの見地から現下の国際情勢を踏まえつつ,我が国独自の立場で援助の強化を図るよう心掛けている。

このような背景の下に,我が国は,政府開発援助の拡充に努め,78年から80年の3年間ODA倍増計画の達成に引き続き,81年1月に我が国ODAの対GNP比の改善を図るとともに,85年までの5か年間のODAを過去5年間(76年~80年)の実績107億ドルの2倍以上,すなわち,214億ドル以上とするよう努めるとの中期目標を発表した。

我が国は,この中期目標の下に今後ともODAの量・質両面における拡充に努力していくこととしており,83年には約37億6,100万ドル,GNP比0.33%の実績を示した。

また,我が国は,援助対象分野として,引き続き人造り,農業開発,エネルギー開発,社会インフラストラクチャーの整備などに対する協力を重視していくとともに,教育,保健,医療,人口など地域住民の福祉に直接貢献する分野に対する協力を推進していく方針であり,特に,(1)農村・農業開発,(2)エネルギー開発,(3)人造り,(4)中小企業の振興の4分野に重点を置いていく旨国際的に表明している。

2. 83年の我が国経済協力実績

(1) 概観

83年のODA実績は37億6,100万ドルと82年に比べ24.4%の大幅の増加となった。また,開発途上国に対する「資金の流れ総量」では82年の88億8,900万ドル(支出純額ベース,以下同様)から83年には86億6,300万ドルと2.5%減少した。ODAの対GNP比は,82年の0.28%から0.33%へと上昇した(なお,83年のDAC諸国平均は0.36%)(詳細は資料編付表参照)。

(2) 政府開発援助(ODA:0fficial Development Assistance)

(イ) 83年の我が国のODA実績は,37億6,100万ドルとなり,82年の30億2,300万ドルに比し24.4%の大幅の増加となった。これを対GNP比で見ると,82年の0.28%から0.33%へと上昇し過去最高となった。

上記の実績は,量の上ではDAC諸国中,米国,フランス(海外県,海

外領土を含む)に次いで第3位であるが,対GNP比では第12位となっており,今後一層の努力が必要である。

(ロ) 我が国のODA実績を項目別に見れば,次のとおりである。

(a) 二国間贈与については,82年の8億500万ドルから83年には9億9300万ドルと23.4%の増加となった。このうち,無償資金協力と技術協力とに分けると,無償資金協力は対前年比29.8%,技術協力は16.6%,各々増加した。

(b) 国際機関への出資・拠出など国際機関向けODAについては,82年の6億5,600万ドルに比し103.6%増の13億3,600万ドルとなった。ODAに占める国際機関への出資・拠出などの割合も,82年の21.7%から35.5%へと増加した。この内訳を見ると,国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)など国連諸機関及びその他の国際機関に対する贈与は,82年の2億6,000万ドルから3億500万ドルヘと増加し,国際開発協会(IDA)などの国際開発金融機関に対する出資及び拠出は,82年の4億100万ドルから10億3,500万ドルヘと158.2%の大幅な増加となった。

(c)ODAの中で大きな割合を占めている二国間政府貸付は,14億3,200万ドルと82年の15億6,200万ドルに比べ8.3%減少した。

(ハ) 我が国援助資金の条件について見れば,83年におけるODA約束額の総合グラント・エレメントは,82年の74.2%から79.5%へと上昇した。これは,政府貸付の平均グラント・エレメントが,82年の57.2%から54.3%へ若干低下したにもかかわらずODA約束額中に占める贈与の割合が,82年の39.8%から55.2%へと増加したことによるものである。

(注)ODAの条件の緩和度を示す指標。個別の援助のグラント・エレメントを加重平均して算出する。個別の援助のグラント・エレメントは,金利が低くなり,据置期間及び償還期間が長くなるほどパーセントが高くなり,贈与は100%と定義され,逆に,商業条件(金利10%)の借款は0%とされている。

(ニ) 二国間ODAの地理的配分については,従来,地理的,歴史的,経済的に我が国と密接な関係を有するアジア地域に重点が置かれてきているが,83年は,アジア地域の占める割合が66.5%と前年の68.6%に比べ減少した。その他の地域については,アフリカ地域が前年の11.3%から10.8%に減少し,中南米地域は7.8%から9.9%へ増加した。また,中近東地域は8.3%でほぼ前年並みであった。

(ホ) 84年度ODA事業予算については,総額12,952億円が計上され,83年度の9,678億円に比し33.8%の伸びを示し,予算の対GNP比では0.438%と83年度の0.344%に比し大幅に改善した。また,予算中の贈与分が83年度の4,468億円から7,327億円へと64.0%増加したことにより,事業規模に対する贈与の割合は51.8%(83年は41.9%)となった。

(3) その他政府資金及び民間資金の流れ

83年のその他政府資金及び民間資金の流れは,合計(非営利団体による贈与を含む)で49億200万ドルと82年の58億6,500万ドルから16.4%の減少となった。

これを形態別に見ると,輸出信用は82年の9億1,300万ドルの受取超から15億9,700万ドルの受取超となり,また直接投資等は24億5,800万ドルから18億7,400万ドルヘと減少した。市中銀行による対外貸付は24億500万ドルから17億3,300万ドルに,証券投資は3億9,400万ドルから6億600万ドルにそれぞれ減少し,国際機関に対する融資等は14億9,800万ドルから22億5,600万ドルに増加した。

3. 経済協力実施体制

最近の我が国の経済協力の拡大に伴い,政策面及び実施面の双方において,経済協力に関する行政の円滑な推進のための努力が払われている。我が国の経済協力は,対外関係事務の総括の衝に当たる外務省の実質的な調整の下に,大蔵省,通商産業省,経済企画庁など関係各省庁間で連絡協議を図りつつ進められている。

経済協力のうち,有償資金協力(円借款)については,61年3月に設立された海外経済協力基金(OECF:Overseas Economic Cooperation Fund)を通じ,引き続き円滑な業務の実施が図られている。また,経済協力実施体制の強化を図る努力の一環として,74年8月に設置された国際協力事業団(JICA)は,我が国政府ベース技術協力にかかわる業務を積極的に推進している。

なお,61年6月に政令に基づき総理大臣の諮問機関として設置された対外経済協力審議会は,引き続き積極的な活動を続けている。

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