第7節 食糧・漁業問題

1. 食糧問題

(1) 世界食糧需給動向

83年の世界の穀物生産は,特に米国でPIK計画(現物支給による減反計画)等による大幅な減反と7月から同国を襲った熱波による被害により,粗粒穀物を中心に大幅な減産となったことが影響し,国連食糧農業機関(FAO)の推定によれば,世界全体としては史上最高であった82年の17億300万トンから約4.4%減の約16億2,800万トンになったと見られている。

一方,83/84年度(7~6月)の穀物貿易量は,中国及びインド等の輸入が,これらの国の穀物生産増から減少すると見られているものの,他の低所得食糧不足国の輸入が逆に増加する見込みであるため,全体として,前年より100万トン増の1億9,600万トンになると予測されている。

この結果,83/84年度の穀物全体の期末在庫は,前年度より約6,200万トン減の約2億6,000万トンになるものと推定される。これは,世界の消費量の約16%に当たる。この減少のうち,特に粗粒穀物の落ち込みが最も大きく,前年度の1億6,000万トンから約47.5%減の8,400万トンになると見込まれている。

(2) 主要穀物の安定確保

我が国は国内生産と海外からの輸入を適切に組み合わせることにより食糧の安定供給を確保することを基本としている。このため国内で,生産性の向上に努めるとともに適切な備蓄政策を講じ,対外的に主要供給国との友好関係を維持発展させるとともに,アジア諸国を中心とする開発途上国の食糧増産のため資金的あるいは技術上の協力を推進してきている。また国際小麦理事会は,小麦の市況の安定及び世界の小麦問題に関する国際協力の観点から,世界の小麦需給等に関する情報交換及び協議を行っており,我が国は,この理事会に積極的に参加してきている。

2. 漁業問題

我が国漁業は,我が国周辺水域におけるまいわし等の多獲性魚の好漁に支えられ,83年も1,100万トン台の漁業生産を維持し得た。これは,最近水産物の栄養的な良さが再認識されてきたこと,燃油価格が高水準ながらも比較的落ち着いた動きを見せていること,さらには省エネルギーのための努力が重ねられてきたことなどが反映された結果によるものと言えよう。

しかし,我が国漁業を取り巻く国際環境は依然として厳しく,予断を許さない情勢にある。新海洋秩序を先取りした形で200海里水域がほぼ国際的に定着した現在,沿岸国による外国漁船の入漁条件は年々厳しさを増している。

先進漁業国では対外漁獲量の段階的削減により長期的には外国漁船の締め出しを図るとともに,その間,漁業技術移転,合弁事業,さらには水産物市場開放等を入漁条件として課すことにより自国漁業の振興を図ろうとしており,開発途上国では自国経済に寄与せしめるため多額の入漁料や性急な経済技術協力を要求してきている。

我が国は,83年も,このような状況に対処するため,我が国周辺水域での漁業振興を図るとともに,我が国の遠洋漁業が大きく依存する米国やソ連等の沿岸国とは,これら沿岸国が利用しない余剰資源の合理的利用を前提としつつ,合弁事業や技術協力,水産物貿易等を通じて我が国の伝統的漁場が維持されるよう粘り強い外交交渉を展開したほか,開発途上国に対しては沿岸国の漁業開発に協力しつつ,相互に漁業の発展を図るとの観点から,各種技術協力や水産無償協力の一層の推進に努めた。

(1) 二国間漁業交渉

83年には,我が国遠洋漁業最大の漁場である米国200海里水域内で引き続き安定した操業を確保するため,米国と数多くの交渉を行ったが,米国は我が国が国際捕鯨委員会の商業捕鯨全面禁止決定に対し異議申立てを行ったことを不満として83年の対日漁獲割当予定量の一部を留保したほか,84年の割当予定量も自国漁獲能力の増大を理由に前年より削減した。また,漁獲割当の重要な考慮要件となっている洋上買付事業及び水産物貿易問題についても協議が行われ,それぞれ合意が得られた。83年3月には排他的経済水域に関する大統領宣言が行われた。

ソ連との間では,まず4月に83年の日本のさけ・ます漁業の操業条件を規定した議定書を締結し,次いで年末には,「日ソ」「ソ日」漁業暫定協定を84年末まで延長する議定書を締結した。なお,ソ連は84年3月に,排他的経済水域を設定した。このほか,中国,韓国,豪州,ニュージーランド,カナダ,太平洋島嶼国等との間においても我が国漁船の入漁条件等についての交渉が行われた。

(2) 多数国間漁業交渉

83年の多数国間漁業条約関連会議では,こうした国際環境の下で規制強化の動きが懸念されたが,日米加さけ・ます,北太平洋おっとせい,大西洋まぐろ,熱帯まぐろ等については,ほぼ従来どおりの漁獲枠及び規制措置を維持することができた。しかし84年以降は厳しい状況が予想される。その中で,捕鯨問題については,対日漁獲割当削減を挺子に国際捕鯨委員会の商業捕鯨全面禁止決定に対する我が国の異議申立ての撤回を迫ってきている米国との間で,何らかの形での捕鯨の存続につき協議を重ねてきているが,その他の反捕鯨諸国に対しても我が国の立場と実情を理解させるため一層の努力を続けている。

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