第6節 科学技術及び原子力問題

1. 科学技術

資源,エネルギー,環境,食糧等,人類全体が直面する諸問題の解決を模索する上での鍵として,また,現下の世界経済情勢の下,世界経済の再活性化に貢献するものとして,科学技術に寄せられる期待は著しく高まっている。これに伴って,近年,科学技術分野における国際協力の重要性が強調されている。我が国は科学技術分野の先進国の一つとして,二国間及び多国間の国際協力を積極的に推進してきている。

(1) ヴェルサィユ・サミットに基づく科学技術作業部会

82年6月のヴェルサイユ・サミット宣言に基づいて設置されたサミット参加国の専門家から成る「技術,成長及び雇用に関する作業部会」は82年8月以降,科学技術の経済,雇用及び文化への影響の検討と国際協力プロジェクトの選定を行った。協力プロジェクトは既存案件4件と新規案件18件の計22件で,新規18案件のうち,我が国は「太陽光発電」,「光合成」及び「先端ロボット」の3件に協力の中心のリード国となるのをはじめ,2件を除く全プロジェクトに参加した。作業部会の報告書は3月に公表され,5月のウィリアムズバーグ・サミットにおいて各国首脳により承認された。

(2) 二国間の科学技術協力

(イ) 日米協力

(a) エネルギー分野

この分野の協力は,日米エネルギー等研究開発協力協定に基づき核融合,光合成,高エネルギー物理学,地熱エネルギー等の分野で着実に進展している。特に核融合分野では,既存の日米間の核融合調整委員会設置取極及びダブレットIII計画協力取極に加え,1月には炉心技術及び炉工学を含む包括的な核融合研究開発協力のための実施取極が締結され,両国協力関係が更に拡充強化された。

(b) 非エネルギー分野

81年9月に日米科学技術研究開発協力協定に基づき東京で開催された第1回日米合同委員会において取り上げられた宇宙開発,核物理,生物工学,保健,環境,農業等の分野にわたる40以上の案件について着実に協力が進められている。

(ロ) 日仏協力

82年4月のミッテラン大統領訪日の際,日仏両首脳間で両国間の協力を一層充実,強化させることで意見の一致が見られたことが両国間の協力推進の重要な契機となり,日仏科学技術協力協定に基づく82年10月のパリでの第6回混合委員会及び10月の東京での第7回混合委員会を通じ,協力の範囲が,海洋開発,エネルギー,宇宙通信,科学技術情報等の分野に加え,バイオテクノロジー,新材料,エレクトロニクス等,最先端の科学技術分野を含むものへと飛躍的に拡大した。

(ハ) 日・西独協力

10月,日・西独科学技術協力協定に基づく両国合同委員会第8回会合がボンで開かれた。日・西独双方は,既存の協力分野(海洋科学,生物学・医学,環境保護技術等)の拡充に合意するとともに,新たに新材料,原子力安全規制に関する情報交換等の協力が合意された。

(ニ) 日・豪協力

11月,日豪科学技術研究開発協力協定に基づく両国合同委員会第2回会合が東京で開かれ,日豪双方は,生物学,物理学,海洋科学技術等の分野にわたる個別協力案件の多くが成功裏に進捗していることで意見が一致した。

(ホ) 日・加協力

両国間の協力はこれまで日加科学技術協議の枠組みの下で行われてきており,生物学,エネルギー,宇宙科学等多岐の分野にわたる約30の協力案件が実施ないし計画中である。

(へ) その他各国との協力

(a) 上述の諸国以外の先進諸国のうち,英国,イタリア,ベルギー,アイルランド等の諸国及びECとの間でも科学技術分野における協力を強化すべく話合いが行われている。

(b) さらに,我が国は東欧諸国及び開発途上国との間にも科学技術協力協定を締結して協力を行っている。我が国が83年末現在で科学技術協力のための協定ないし取極を結んでいる国は14か国に達している。

(3) 多数国間の科学技術協力

(イ) 開発のための科学技術協力

国連総会の下で開発途上国の科学技術能力強化のための国際協力の在り方を検討する「開発のための科学技術政府間委員会(ICSTD:Intergo-vernmental Committee on Science and Technology for Development)の第5回会期が6月に国連で開催され,開発途上国の科学技術能力強化のために融資を行う「国連科学技術融資システム」問題が主として論じられた。第38回国連総会では,ICSTDの報告書を承認し,融資システムヘの各国政府の協力を呼び掛ける決議を採択したほか,ICSTDの活動の効率化に関する勧告も行われた。

(ロ) その他の多数国間協力

OECDの科学技術政策委員会では,82年の閣僚理事会の決定事項で

あるハイテク製品の貿易上の問題について他の関連委員会と共に分析・検討を行っている。また,82年OECDの協力を得て我が国で開催された科学技術の国際協力ハイレベル会合の成果を今後,同委員会でフォローすることになっている。さらに,バイオテクノロジー,科学技術と国際競争力との関係についても検討を行っている。

このほか,国連教育科学文化機関(UNESCO)等の国連専門機関,国

連システム内及びその他の国際機関でも,科学技術の研究開発とその利用,科学技術の発展に伴う諸問題などについての意見や情報の交換,政策面での検討などの協力が行われている。

(4) 宇宙開発と利用

(イ) 宇宙空間の平和利用は,今日,人類に不可欠のものとなっており,米ソをはじめとする各国は宇宙開発を積極的に推進しているが,我が国も通信,放送,気象観測などの分野で実用衛星の打上げを行うなど活発な活動を行うとともに,国際協力についても,積極的に推進が図られている。

(ロ) 第38回国連総会では,国連宇宙空間平和利用委員会第26会期(6月)の報告書を承認し,また,84年の宇宙空間平和利用委員会の審議項目を決定すること等を内容とする「宇宙空間の平和利用に関する国際協力」と題する決議(38/80)が採択された。なお,右決議には宇宙の軍事利用問題について,宇宙空間平和利用委員会における審議を要請するなどの項目が含まれているが,右に賛成する東側諸国及び開発途上国と,宇宙の軍事利用問題は,軍縮専門家によりもっぱら軍縮委員会において審議し,宇宙空間平和利用委員会で審議することは適当でないとして,右に反対する西側諸国とが対立するなど,幾つかの項目で両者が対立し,最終的には本件決議案は,西側諸国の反対にもかかわらず表決により採択された。

84年の宇宙空間平和利用委員会科学技術小委員会(2月)及び法律小委員会(3月~4月)では,人工衛星による地球の遠隔探査(リモート・センシング),原子力衛星の安全性の問題などについて審議が行われた。

(ハ) 10月,国際電気通信衛星機構(インテルサット)の第8回締約国総会がワシントンで,また,国際海事衛星機構(インマルサット)の第3回総会がロンドンでそれぞれ開催された。

(ニ) 84年1月,レーガン米大統領は一般教書の中で,恒久的有人宇宙基地計画を発表し,右計画に関係国の参加を呼び掛けたが,日本に対しても,3月ベッグズ米航空宇宙局(NASA)長官を派遣し,右計画への参加を要請してきた。

(5) 南極地域の調査と保全

(イ) 9月,キャンベラ(豪州)で,第12回南極条約協議国会議(2年に1回)が開催され,電気通信・気象データ,人間の南極環境に及ぼす影響,特別科学的関心地区,南極条約体制の運営等の各議題につき討議され,計8件の勧告が採択された。本会議では,インド(8月加盟)及びブラジルが協議国として初めて参加したほか,協議国以外に6月加盟した中国等の条約加盟国(11か国)が初めてオブザーバーとして参加した。

(ロ) 南極条約協議国は,これまで南極地域の環境保全,科学調査のための国際協力を主要問題として会合を行ってきたが,最近では鉱物・生物資源問題にも各国の強い関心が示されており,最重要検討課題の一つとなりつつある。1月,7月及び84年1月,それぞれウェリントン,ボン及びワシントンで,このための特別協議国会議が開かれ討議された。この問題については,南極環境の保護を確保しつついかに探査・開発の在り方を定めるか,協議国間の南極領土権に関する立場をいかに調整するかなどの困難な問題がある。

(ハ) 南極問題は,最近,国際的関心の対象となりつつあり,マレイシアのイニシアティヴにより3月のニューデリー非同盟諸国会議・経済宣言で国連による検討を要請する旨謳われ,また,12月の国連総会においては,事務総長による南極問題の包括的研究がなされるべき旨決議された。

2. 原子力の平和利用

(1) 概況

2次にわたる石油危機を契機として,石油代替エネルギーとしての原子力の重要性に対する認識はますます強まっており,我が国においても,83年6月現在,27基の発電用原子炉が稼働しており,その発電設備容量は,約1,900万kWと全発電設備容量の約13%を占め,今後一層の伸びが期待されている。

原子力開発の促進のためには,安全性の向上,放射性廃棄物の処理・処分問題の解決等に努めるとともに,原子力の利用に不可避的に伴う核拡散の危険をいかに防止するかという問題に効果的に対処する必要があり,原子力の平和利用と核拡散防止との両立を図るべく,多数国間及び二国間で種々の協議が行われている。

(2) 各国との原子力関係

(イ) 新日豪原子力協定の発効

核拡散防止策の強化とこのための規制を予見可能かつ実際的な態様で運営すべき手順(いわゆる「プログラム・アプローチ」)を明確にした82年8月の新日豪原子力協定の下で,豪州最大のレンジャー鉱山から我が国向けのウラン輸出が順調に行われている。

3月新たに発足したホーク首相の労働党政権は,同国の原子力政策を見直してきたが,豪州の現実的な対応が望まれている。

(ロ) 米国との関係

81年10月の新しい日米共同声明・共同決定に基づき,両国政府は,84年末までに,日米原子力協定上の諸規定が,「予見可能で,かつ,信頼性のある態様」で実施され得るような「長期的取決め」を作成することとなっていたところ,82年6月,米国の新対外原子力政策(日本及び欧州原子力共同体(ユーラトム)諸国を対象として,原子力協定上米国が有する事前同意権の包括化を図るとの内容)が発表され,「長期的取決め」作成のための協議の前提条件が整った。これを受けて,82年8月以来協議が行われている。

(ハ)カナダとの関係

日加原子力協定改正議定書は,80年9月発効したが,81年2月の第1回日加合同作業委員会の際,カナダ産核物質に係る再処理等についてのカナダ政府の事前同意を包括的なものとするための協議を開始したい旨先方から提案があり,1月の第2回合同作業委員会以来,協議が行われてきたところ,このための交換書簡が4月14日オタワで署名・交換された。

これにより,今後は,これまでのようにカナダ産核物質の再処理や英国及びフランスヘの再処理のための管轄外移転について,カナダ政府の事前同意を個別のケースごとに得る必要はなくなったため,我が国の原子力平和利用の安定的な運営・発展に資することとなる。

(ニ)中国との関係

9月の第3回日中閣僚会議において,両国間の原子力協力を更に促進するため,政府間で話し合うことで意見の一致を見たことを受け,10月以降原子力協定締結に関し協議が行われている。

また,中国の秦山原子力発電所への機器の移転についても話し合われ,移転される機器の平和目的利用の確保について双方の合意が得られ,このための書簡が84年3月16日両国政府関係当局間で交換された。

(3) 多数国間の原子力協力

我が国は83年も,遠心分離法ウラン濃縮施設保障措置プロジェクト会合,IAEAにおける国際プルトニウム貯蔵(IPS;International Plutonium Storage)や供給保証委員会(CAS:Committee on Assurances of Supply)等の諸会合に積極的に参加するとともに,アジア地域においては,RCAの枠内で幅広い協力を行った。

(4) 国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agency)の活動

(イ) 82年9月の第26回総会で,イスラエルの委任状が否認されたため,米国代表団の退場及び米国の対IAEA政策再評価という事態を引き起こし,IAEAの政治化防止が大きな課題となったが,2月理事会における米国の復帰により一応問題は収拾された。

(ロ) 71年12月,理事会が国連にならい台湾追放を決議した後も中国はIAEAへの参加を見合わせてきたが,8月中国政府はブリックス事務局長を招待し,IAEAへの参加に強い関心を示し,9月に入り,加盟申請手続をとった。中国の加盟は10月の第28回総会で承認され,84年1月に112番目の加盟国となった。なお,台湾に対するIAEAの保障措置は引き続き適用されることになった。

(5) 原子力平和利用国連会議

開発途上国の提唱により,83年に開かれることになっていた原子力平和利用国連会議は,国際協力に際して核不拡散の枠組みをどのように扱うかにつき各国の思惑が一致しなかったため,83年の開催は見送られ,第38回国連総会で86年の開催が決定された。

(6) 経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)の活動

NEAは,83年に設立25周年を迎え,これを区切りとして新たな活動の展開が見られた。82年から開始されたNEAの活動の見直しは,従来の専門的・技術的活動からより広い原子力に関する政策的意義を有する活動への転換を模索するものであったが,4月のNEA運営委員会において,従来の活動を継続する一方,政策指向型の新規活動が「拡大計画」として採択された。このため米国などから特別拠出金の拠出,我が国,英国などから専門家が派遣され,83年秋から核燃料サイクルの経済性,使用済燃料管理,原子力施設のデコミッショニング等の研究が開始された。本計画は85年に完了することになっている。

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