第5節 資源エネルギー問題

1. 国際石油情勢

(1) 第二次石油危機以後の大幅な石油需要の減少を背景に,国際石油市場は81年春以降緩和基調で推移していたが,83年に入り,世界的な暖冬,石油会社の買い控え等により値下げ圧力が高まり,まず英国,エジプト等の非OPEC諸国が公式販売価格の引下げを行い,OPEC内では北海原油と競合していたナイジェリアも直ちに引き下げた。このためOPECは3月14日に臨時総会(ロンドン)を開き,OPEC結成以来初めて基準原油価格を34ドル/バーレルから29ドル/バーレルへ引き下げ,国別割当を付した1,750万B/Dの生産上限枠を決定した。

(2) その後夏場にかけて,OPEC諸国は生産割当量をおおむね遵守し,市況は堅調に推移した。こうした状況を受け7月のOPEC定例総会(ヘルシンキ)では現行体制を当分の間維持することが確認された。

(3) しかし,非OPEC諸国が着実に生産を伸ばした中で,OPECでも,石油需要の下げ止まり感から,第3四半期に入り,サウディ・アラビア,ナイジェリア,アラブ首長国連邦等多くの加盟国が割当量を超える生産を行ったため秋以降,市況は再び弱含みとなった。

(4)こうした緩和基調の下で,12月OPEC定例総会が開催され,3月のロンドン総会で合意した基準原油価格,生産上限及び国別割当を遵守することが再確認された。しかし同総会では,イラン・イラク紛争を反映したイランとサウディ・アラビアの確執が表面化し,各国の生産割当拡大要求,油種間価格差の調整,長期戦略等微妙な問題はすべて先送りとなった。

(5)83年末から84年初めにかけてOPECの最も弱い環と言われるナイジェリアにおけるクーデター,オマーン,カタール,アラブ首長国連邦等における実質的値下げの動き等も現出したが,厳冬,イラン・イラク紛争の影響から市況は辛うじてバランスを保ち,3月に開催された市場監視委員会も現行体制の維持を総会に勧告することを決定した。

(6)84年は,自由世界においては2%程度ではあるが4年ぶりに石油需要の増加が見込まれており,また83年後半過剰生産を行い需給緩和の原因とされたサウディ・アラビアが減産していることから石油の不需要期である第2四半期をOPEC諸国が乗り切れば湾岸情勢に特段の変化がない限り現行価格体系が守られる可能性は高い。

2. 国際エネルギー機関(IEA)を巡る動き

83年におけるIEAの活動は,OPEC基準原油価格の引下げに象徴される石油市場の緩和基調の下,これまでの短期的供給攪乱対策に加え,今後の持続的な経済成長を可能にするエネルギー資源の安定的な供給確保というエネルギー安全保障の問題に焦点が当てられた。

(1) 5月の第9回閣僚理事会に向け,西欧の対ソ連エネルギー依存度の上昇を懸念する米国の提唱でIEA/OECD諸国の安定的なエネルギー供給確保の問題に焦点を当てたエネルギー必要量安全保障研究が進められ,5月8日の閣僚理事会において以下の結論が得られた。

(イ) 省エネルギー,代替エネルギーの開発導入,供給源多角化等の政策を費用対効果の均衡を考慮しつつ推進し,石油依存低減を図る。

(ロ) OECD域内エネルギー資源の優先的開発利用を図る。特に,天然ガスについては,単一供給源に過度に依存することは避け,今後供給構造を大きく変更する場合は,他の加盟国に通報するものとする。

本件結論はその後9日,10日フランスを含むOECD閣僚理事会においても承認された。これにより,米国は西欧の対ソ連エネルギー(特に90年以降の天然ガス)輸入に歯止めをかける手掛かりを得た。

(2) ウィリアムズバーグ・サミットでも上記結論の趣旨に沿ってエネルギー政策を進めることが合意された。

(3) 今後のエネルギー需給は緩和基調で推移すると予想されるが,中東情勢の動向もあり,IEAとしては石油供給攪乱の際の緊急時対策の充実のための努力を引き続き行った。83年5~6月にはIEAの緊急融通システムの演習を行うとともに,この成果等を踏まえ,小規模な石油供給攪乱への対応を含む緊急時対策の在り方につき検討することとなった。

(4) IEAは84年に創立10周年を迎え,これまでの政策実績を踏まえつつ,長期的展望の下に今後ともエネルギー政策を着実に進展させる必要があろう。

3. 日米エネルギー作業部会を巡る動き

(1) 83年1月の中曽根総理大臣の訪米の際に,レーガン大統領との間で,エネルギー分野における日米間の協力の推進を目的として日米エネルギー作業部会の設立が合意された。

同作業部会は4月ワシントン,7月東京で開催され,世界全体のエネルギー展望,日米両国のエネルギー情勢,石油,石炭,天然ガス等のエネルギー分野における貿易の発展と協力の方途などにつき事務レベルでの協議が行われた。

(2) こうした協議を通じ,米側は特に石炭,天然ガスの共同開発あるいは対日輸出水準の維持又は拡大につき我が方の協力を求めるとの考えを示した。これに対し日本側は,従来の我が国のエネルギー需給見通しを下方修正せざるを得ない点につき米側の理解を求めつつ,日米間のエネルギー協力は,(イ)長期的視点,(ロ)経済性と供給の安定性の均衡,(ハ)エネルギー貿易における民間の主体性に留意して行われるべき旨を主張し,米側もこれを了承した。

(3) かかる協議の結果を踏まえ,日米両国政府は,11月11日,レーガン大統領の訪日を機に,「日米エネルギー協力に関する共同政策表明」を発表した。

これを受けて,両国はそのフォローアップに努力を傾注しており,84年2月の本作業部会において,日米石炭貿易の拡大の可能性等を探るため,我が国の民間のミッションが5月に訪米する旨発表された。また,「共同政策表明」に示されているアラスカ天然ガスの共同開発の可能性の調査,米国原料炭輸入水準の維持,アラスカ原油輸出解禁(米国輸出管理法の改正が必要)等についても鋭意実現のための努力が続けられている。

(4) 現在,エネルギー需給の緩和状況からエネルギー供給国との間にエネルギー資源の引取りを巡る諸問題を抱える我が国として,今後,他のエネルギー供給国との関係にも配慮しつつ,いかに日米経済関係の緊密化に資する形でエネルギー協力を進めて行くかが課題となっている。

4. エネルギー以外の資源問題

(1) 83年の主要資源の市況

80年以降,大幅に低迷していた一次産品価格は,82年央から回復傾向を見せ,83年においてもおおむね回復基調が続いた。まず金属では,金が2月をピークに,以後価格を下げたものの,アルミ,亜鉛等は,引き続き上昇又は高値を維持した。農産品では,米国における穀物の大幅な減産を背景に大豆,とうもろこしが高騰,天然ゴム,綿花,ココア等も上昇した。砂糖は秋口まで回復傾向を示したものの,秋以降,再び下落している。また,大きな過剰生産を抱える鉛は,83年に入っても市況回復は見られなかった。

(2)一次産品総合計画(IPC:Integrated Programme for Co-mmodities)個別産品協議の進捗状況

(イ) 緩衝在庫ないし輸出割当制度を有する一次産品協定(コーヒー,ココア,天然ゴム,砂糖及びすず)のうち,資金不足(ココア)及び有効な輸出割当実施の困難(砂糖)に直面していた協定は,83年も基本的にその状況は改善されなかった。

(ロ) IPCの下では,国際天然ゴム協定,国際ジュート協定に次ぐ第3番目の協定として,国際熱帯木材協定が11月18日に採択された。

(ハ) また,83年には,茶についての政府間専門家会合が開催された。一方,砂糖については2度にわたる新協定交渉会議が開催されたが合意に至らず,84年6月に第3回目の交渉会議が予定されており,ココアについても84年5月に新協定交渉会議が予定されている。

(ニ)我が国は,一次産品貿易の安定を図ることは南北協力を進める上で重要な意義を持つとともに,輸入国として安定供給を確保する上でも重要であるとの認識に立ち,産品ごとの特性を重視しつつ一次産品協定及び各種協議に積極的に参加した。

(3) 商品機関の現状

(イ) 商品協定

(a) 国際小麦協定

79年の国連小麦会議の中断後,国際小麦理事会の場で新たな小麦貿易規約の交渉が行われたが,その後交渉再開の目途が立っておらず,現行協定は価格安定のための経済条項を持たないまま,86年6月まで延長されている。国際小麦理事会では,新規約が作成されるまでの間,現行協定に基づく情報交換及び協議の機能を強化し,国際小麦需給の変化に対処することとしている。

(b) 国際すず協定

82年7月暫定発効した第6次協定については,その規定により,83年12月の理事会において加盟国の間で確定発効させるか否かにつき検討が行われたが,依然,米国,ソ連,ボリヴィア等の主要産消国が未加盟であること等の理由により,引き続き暫定発効とすることとなった。

また,83年中のすず市況は,理事会による輸出統制の継続及び緩衝在庫管理官による活発な市場介入によって,年初は堅調に推移したが,依然膨大な余剰在庫が存在し,また,需要の伸びが期待されたほど大きなものとならなかったことから,年央から軟化し,後半は,協定の下限価格付近で低迷した。また,83年中は,生産国における密輸取締りがいまだ十分徹底していなかったため,これが市況軟化の根底の原因と考えられ,数度にわたり,理事会の場でその対応策に関し検討が行われた。

その結果,現在,生産国を中心に積極的な対応措置がとられており,その成果が期待されている。

(c) 国際ココア協定

81年9月から協定に基づき開始された緩衝在庫の購入は十分に機能し得ず,過剰生産基調の中で低迷していた市況は,83年に入り,西アフリカにおける干ばつによる生産減少の見通し等から,徐々に回復を示した。他方,現行協定は,84年9月末に失効予定となっているため,新協定準備委員会での検討が行われ,84年5月に本交渉が開始される予定となっている。

(d) 国際コーヒー協定

生産は過剰傾向にあるが,80年10月以降,引き続き協定に基づき輸出割当が発動されていることにより,コーヒー価格は安定的に推移してきている。83年10月からは,前協定を踏襲する新協定が発効(6年間有効)している。

(e) 国際砂糖協定

83年は,一時期ヨーロッパの砂糖の減産等から,国際価格が回復傾向を見せたが,全般的には,大幅な供給過剰のため引き続き国際価格は低迷した。このため82年に引き続き輸出割当及び特別在庫の貯蔵による価格安定措置が継続された。また,現行協定は,84年末で失効するため,新協定交渉会議が5月及び9月に開かれたが合意に至らず,84年6月に第3回目の交渉会議が予定されている。

(f) 国際天然ゴム協定

83年1月まで低迷していた市況は2月から急上昇し,協定の指標価格は4月に上方介入価格に達した。6月にいったん下落した後,再び上昇し,12月以来は上方介入価格の付近を上下している。

(g) 国際ジュート協定

83年7月1日を発効目標日としていたが,同日までに協定に規定する発効要件を満たすには至らず,結局,84年1月9日の受諾国会議で暫定発効した。この協定は一次産品総合計画(IPC)にいう研究・開発等,いわゆる「その他の措置」を中心とした新たな協定である。

(h) 国際熱帯木材協定

83年11月,IPCの下での第3番目の協定として採択された。本協

定は,国際ジュート協定と同様,IPCにいう「その他の措置」を中心とした協定である。84年10月からの発効が予定されている。

(ロ) 商品研究会

(a) 国際鉛亜鉛研究会

9月,再生鉛・亜鉛に関する特別会合がワシントンで開催され,再生鉛・亜鉛の回収技術並びに市場動向等につき討議行われたほか,10月ジュネーヴにて開催された第28回総会においては,鉛・亜鉛需給見通しや財政問題等につき討議が行われた。

(b) 国際綿花諮問委員会

10月,米国のメンフィスで第42回総会が開催され,83年の綿花の生産,需給動向及び綿製品の動向が討議された。

(c) 国際ゴム研究会

6月,ロンドンで第95回年次会合が開催されたほか,ゴムの生産・消費・貿易などの動きに影響を及ぼす諸要因を分析するため新たに「産業諮問パネル」が設置された。

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