第3節 国際投資問題
1. 我が国の投資概要
(1) 82年度の我が国の海外投資の状況は,中近東,中南米,北米及び欧州の各地域で増加が見られたものの,アジア地域の大幅減少等により,対外直接投資届出額は77億300万ドルと,過去最高であった81年度(89億3,100万ドル)に比べ12億2,800万ドル(13.7%)の減少となった。
(2) 82年度の届出額を業種別に見ると,製造業は化学,輸送機が増加したものの,食料,電機等が減少したため,全体では対前年度比10.0%減の20億7,500万ドル(構成比26.9%),商業は同613%増の18億9,900万ドル(同24.7%),運輸等は同28.3%増の9億2,600万ドル(同12.0%)となっている。
投資先を地域別に見ると,北米は対前年度比15.2%増の29億500万ドル(うち米国は同16.3%増の27億3,800万ドル),欧州は同9.8%増の8億7,600万ドル,中近東は同29.2%増の1億2,400万ドルとなっているのに対し,アジアは同58.5%減の13億8,400万ドル,大洋州は同0.7%減の4億2,100万ドルとなっている。
(3) 82年度末現在の対外直接投資届出累計額は531億3,100万ドルとなっている。業種別に見ると,製造業169億5,200万ドル(構成比31.9%),鉱業102億9,100万ドル(同19.4%),商業84億8,200万ドル(同16.0%)等となっている。
地域別に見ると,北米152億2,500万ドル(構成比28.7%),アジア145億5,200万ドル(同27.4%),中南米88億5,200万ドル(同16.7%),欧州61億4,600万ドル(同11.6%),大洋州33億7,000万ドル(同6.3%),アフリカ25億700万ドル(同4.7%),中近東24億7,900万ドル(同4.7%)となっている。
また,我が国の主要投資先国を累計額で見ると,米国,インドネシア,ブラジルの順に多く,この3か国で全体の46.6%を占めている。
2. 投資保護協定の締結の促進
(1) 我が国の対外直接投資は,70年代から急激に増加してきており,今後とも一層活発に行われることが予想される。こうした背景もあって,近時いわゆるカントリー・リスク問題についての認識が深まっている。
海外投資は,投資母国の経済に貢献するのみならず,資本・技術等の移転,雇用創出効果等により投資受入国の経済発展にも資するものであり,また,経済的・人的交流を通じて両国関係を緊密化する。こうした効果を有する海外投資を今後とも更に促進していくことが望ましいが,海外投資に関しては,投資家にとって予見可能性及び法的安定性が限られる可能性があり,この意味で投資環境は国内投資の場合と異なると言えよう。
(2) こうした投資環境への対応は,一義的には海外投資を行う民間の責任と判断に委ねられているものであるが,投資母国及び投資受入国の役割は,この投資環境をできる限り良好なものに整備することであろう。
投資保護協定は,投資保険,税制等の施策と並んで,こうした投資環境の整備のための諸施策の一環として重要である。我が国は,かつては海外投資が必ずしも活発でなかったこともあり,海外投資については通商航海条約中の投資関連規定で対応するとの考え方をとっていたが,海外投資が近年急増している状況の中で,投資のみを対象として実体的及び手続的規定を共に詳細に定める投資保護協定の必要性が認識されるに至っている。
(3) 我が国は,既にエジプト及びスリ・ランカとの間に投資保護協定を持っているが,上述の認識の下に,80年12月の日中閣僚会議及び81年1月の鈴木総理大臣のASEAN諸国訪問の際,中国及びASEAN諸国とも,それぞれ投資保護協定の締結交渉に入ることにつき合意に達し,現在,鋭意交渉を行っている。
3. OECDにおける討議
国際投資・多国籍企業委員会は,76年にOECD閣僚理事会が採択した「国際投資及び多国籍企業に関する宣言」(79年に一部改定)の各国における適用ぶり等をレビューした「中間報告書」を82年6月に完成させた。これを踏まえて,84年春を目途に「第2回目のレビュー」を実施しており,閣僚理事会にその結果を報告することとなっている。
また,同委員会の下に設置されている次の3作業部会では,それぞれ関係分野の検討を行った。
(1) ガイドライン作業部会
「多国籍企業の行動指針」の各国の遵守ぶりのフォローアップ。
(2) 国際投資政策作業部会
内国民待遇関係では,各国の例外措置を評価分析し,内国民待遇適用拡大の方途を検討すること等(結果をレポートにまとめ出版の予定)。
国際投資政策関係では,加盟国が導入している国際投資促進及び抑制措置の一層のトランスパレンシーの確保を目指し,「貿易関連投資措置」をも検討。
(3) 会計基準作業部会
会計基準の比較と調和化の検討。
これらの作業を進めるに際し,OECDの民間諮問機関である経済産業諮問委員会(BIAC:Business and Industry Advisory Committee)及び労働組合諮問委員会(TUAC:Trade Union Advisory Committee)との協議が行われた。
また,国連及びその他の国際機関における多国籍企業と国際投資に関する動きについても意見交換を行った。