第2節 通商問題
1. ガット
(1) 83年のガットの活動は,82年のガット閣僚会議宣言のフォローアップに重点が置かれた。
(イ) 保護主義防圧
82年のガット閣僚会議宣言に謡われた保護主義の防圧については,83年7月の特別理事会で,同理事会が上記決定の監視を行うことが合意されるとともに,ガット事務局が保護主義的措置に関する透明性の改善の確保に努めることとされた。その後同年11月開かれた特別理事会で各国から提供された情報等を基に作成された保護主義的措置のリストを基に検討が行われた。
(ロ) セーフガード
ガット閣僚会議作業計画のスケジュールに沿って,83年総会までにセーフガードについて包括的合意を作成すべく主要加盟国間で鋭意作業が行われたが,灰色措置の規制策を巡る主としてECと途上国間の対立により実質的進展が見られず,総会では,作業を今後とも継続し,84年秋の総会までに包括的合意の作成を目指すこととなった。
(ハ) 途上国問題
ガット一般協定のうち途上国との貿易を規定している第IV部に関する協議,熱帯産品,南北貿易の展望,後発途上国貿易等に関し,貿易開発委員会を中心に,作業計画上の課題に基づいて協議が行われた。
(ニ)農産物貿易
82年の閣僚会議宣言に基づき設立された農業貿易委員会では,農産物貿易のより一層の自由化を達成するため,関税・非関税措置で(あ)市場アクセスと供給に影響を及ぼす貿易措置及び(い)ガットの例外として又は適用除外によって維持されている貿易措置について,各国別に審議が行われ,84年秋の総会に向けて引き続き勧告案作りの審議を継続することとなっている。また,農業に影響を及ぼす補助金,特に輸出補助金に関し,同委員会で審議が行われてきている。
(ホ)その他,数量制限とその他の非関税措置,関税,MTN協定及び取極,構造調整,不正商品,国内的禁制品の輸出,資本財に対する輸出信用,繊維及び衣類等についても作業計画に基づき作業が行われるとともに,新分野たるサービスについても,同じく作業計画に基づき,各国ごとにナショナル・スタディーが実施された。
(2) 18か国協議グループ(CG18:Consultative Group of 18)
83年,2回にわたり会合し,特に最近の累積債務問題等を背景にして,貿易と金融に関し活発に議論が行われた。累積債務問題は単に金融のみならず貿易にも多大の影響を及ぼすものであり,この関連で,累積債務国のとっている貿易制限措置とガットルールとの整合性の問題,さらには,貿易と金融各々の関連国際機関間(ガットとIMF及び世銀等)の協力の問題等の幅広い視点から今後とも検討を行っていくこととされた。
2. OECD
(1) 保護主義を巻き返すための行動
第二次石油危機後の長期にわたる不況期に,各国によって種々の貿易制限措置が導入され,自由で多角的な貿易体制の環境は次第に悪化した。OECDではこれに対して強い懸念を表明し,83年5月の閣僚理事会で,各国閣僚はこうしてとられた保護主義的措置を,「経済回復によってもたらされた好条件を活用して漸時緩和・撤廃」することを決意した。これが保護主義巻き返し(ロール・バック)の合意である。これを受けて貿易委員会は同宣言の実現を最重点課題の一つとして作業を進めた。
手始めに,貿易政策の透明性を改善するため,これまで年1回行われていた貿易措置についての定期レビューを4か月に1度ずつ行い,しかも各国のとった措置についての実質的な討議を併せて行うこととした。
また,保護主義巻き返しのための短期的措置として,東京ラウンドで合意された関税引下げのスケジュールを1年早めて実施するという方向が定められ,自由貿易の環境改善の第一歩が記された。また,新ラウンドの開始について我が国はOECDにおいても積極的に各国に対し呼び掛けを行い,多くの国の賛同を得た。
(2) サービス分野の貿易
貿易委で,市場アクセス,設立権,透明性,無差別待遇,内国民待遇等の製品貿易における諸概念がどの程度サービス貿易にも適用しうるかにつき検討が行われた。今後は,銀行,保険,海運等の個別部門の研究結果を踏まえ,これらと各部門に共通する問題の検討の成果を統合する作業に重点を移すことになろう。
(3) 開発途上国との貿易関係
6月のUNCTADVIに臨むに当たり,貿易委でOECD諸国の共通のポジションを作るために検討を行った。
(4) 東西貿易
本年も東西貿易の発展,東欧と中国の経済実績の検討を行い,またカウンター・トレード(自国産品による輸入代金支払い)についても西側諸国としての共通行動をとる可能性につき議論したが結論は出ず,引き続き検討することとなった。今後は東西間の経済情報のギャップ問題,知的所有権の尊重に関する問題を取上げる予定である。
(5)輸出信用アレンジメント
82年来交渉を続けてきた既存のアレンジメントの改訂は,83年10月14日妥協が成立し,15日から以下の新アレンジメントが発効した。
(イ) 市場金利水準の変動に伴い自動的に変動するマトリクスを採用。
(ロ) マトリクス金利は,高所得国向けは不変,中・低所得国向けを0.5~0.65%引き下げた。
(ハ) ただし,今回の引下げ分についての補助的要素を一定期間内に除去する。
(ニ) 低金利国の扱いについては83年7月の交渉で,低金利通貨に関する基準金利が設定され,その評価に関するガイドラインが採択された。その結果我が国については,従来長期プライムレートに等しく設定されていた基準金利が長期プライムレート・マイナス1%に変更され,また輸銀融資に対するプレミアムも0.3%から0.2%に削減された。