5. 西欧地域
(1) 我が国と西欧諸国は,米国をはじめとする他の先進民主主義諸国とともに,自由と民主主義,市場経済という基本的価値観を共有しており,現下の厳しい国際情勢の下で,今日,世界の平和と繁栄に多大な責任を有している。
このような認識は,日欧間の交流が経済面を中心に着実に緊密化してきていることを背景に日欧双方で深まってきており,日欧協力,とりわけ政治協力推進の気運は近年著しく高まっている。
中曽根内閣成立後間もない83年1月,安倍外務大臣は就任後初の外遊先として欧州を選び,我が国が西欧諸国との関係を重視していることを行動をもって示した。特に,各国首脳との一連の会談を通じて,世界の安全保障についての日欧の共通の利害と関心,そして日欧間の政治対話強化の必要性が確認された。このような認識を背景にその後我が国とEC議長国との外相レベルの政治協議が創設された。第1回協議は5月にパリで,第2回協議は9月にニューヨークでそれぞれ西独及びギリシアを議長国として開催されたが,このような協議の制度化は,日欧政治対話の大きな前進
として注目される。
6月に開催されたウィリアムズバーグ・サミットの政治声明において,我が国は欧米諸国と共に,西側の安全は不可分であり,グローバルな観点から取り組まれなければならないとの認識を明らかにするとともに,平和と軍縮の探求のために共に努力するようソ連に対して呼び掛げた。このことは,我が国が西側全体の安全保障に共通の立場を示したものとして欧州諸国からも高く評価され,その後の日欧協力関係を推進する上で重要な要素となった。
(2) 西欧諸国と我が国は,自由貿易の維持・発展に共通の利益を見出しており,OECD,サミットをはじめとする種々の場で保護主義防圧を目指して努力を重ねてきている。日欧間に大幅な貿易不均衡が存することから貿易経済問題を巡って,依然日欧間には緊張要因があり,時として欧州側に保護主義的動きが顕在化することがある。しかし,欧州諸国は,1月の安倍外務大臣のEC委訪問,その後の基準・認証制度の大幅な改善,更には10月の総合経済対策等の中曽根内閣の一連の対応を評価しており,また,日欧関係の重要性につき認識が深まっており,双方において日欧経済関係の改善と発展を図る動きが見られた。特に,ECとの間では,2月のハーフヘルカンプ,ダヴィニオンEC委両副委員長の訪日を機に相互の協力を産業協力,科学技術協力,開発援助協力等を含んだ幅広いものとすべきことにつき基本的合意が見られた。こうして,日・EC委間に閣僚会議を設置することが合意された(84年5月にブラッセルで第1回会合を開催)。このような経済面での協力の拡充は,政治面での対話の促進と相まって日欧関係の基盤をより広く強固なものとするのに役立っている。
(3) 欧州では,近年,ダイナミズムと発展の可能性を秘めたアジア・太平洋地域に対する関心が高まっているほか,我が国に対して経済面にとどまらず,政治,文化,社会を含めた幅広い分野においてその発展と真の姿を学びとろうとする姿勢が見受けられる。我が国は,日欧間の国民レベルの相互理解を一層促進し,相互の協力関係を更に確固たるものとするため,毎年欧州の青年50数名を日本に招き,その姿を肌で感じとってもらうなど幾つかの招待計画を実施している。