4. 中南米地域

(1) 中南米地域は,3億5,000万人を超える人口を有し,開発途上国の中にあっては,「中進国」に位置付け得る比較的水準の高い国々を含む33の独立国から成り立っており,広大な土地と豊富な天然資源,人的資源にも恵まれ将来に向けて大きな発展の可能性を秘めた地域である。その国際社会における政治・経済的な地位も近年ますます増大している。これら中南米諸国と我が国とは,政治面で伝統的に良好な関係にあるほか,経済面でも,同地域の豊富な資源と我が国の工業・技術力を背景とする相互補完関係にある。100万人に近い日系人及び在留邦人は,我が国とこれら地域との友好関係の促進にも大きな役割を果たしている。

(2) 我が国としては,中南米諸国との間に現存する幅広い友好協力関係を一層堅固な基盤の上に強化・拡充していくことを基本方針とし,もって,中南米諸国の安定と繁栄に貢献することを重視している。

(3) 以上の基本的考え方に基づき,83年には,3月にメキシコ,4月にエクアドル,5月にホンデュラス及びハイティ,11月にジャマイカの各外務大臣を迎えたほか,我が国からも8月に中尾栄一衆議院議員をパラグァイに,12月に徳永正利参議院議長をアルゼンティンに,84年1月に森下元晴衆議院議員をヴェネズエラにそれぞれ大統領就任式の特派大使として派遣するなどハイレベルの人物交流を進め,政治・経済面の対話を強化するとともに,文化・技術の面においても,これら諸国との,より幅広い関係を築くべく外交努力を積み重ねてきている。

(4) 流動化と混迷の度を深めている中米情勢について,我が国は,域内から問題解決へのイニシアティブが生まれてくることが重要との考えから,7月に「中米和平を巡るいわゆるコンタドーラ・グループの外交努力(156ページ参照)に関連して,コンタドーラ・グループの中米問題の平和的解決に向けての域内努力を高く評価するとともに,こうした努力と関係諸国の協力によって中米問題の平和的解決がもたらされることを強く期待する」旨の外務大臣談話を発表した。

他方,我が国は,中米地域の安定を確保するためには,同地域の経済開発の遅れ,社会的不公正の存在等の問題に対しても改善が図られることが肝要であるとの認識に立ち,この観点から,主として経済技術協力を通じ,地域の経済開発と民政の安定に貢献すべく努力してきている。

(5) 経済分野において,同地域は,83年も前年に引き続き深刻な経済困難に直面し2年続いてマイナス成長(83年-3.3%)を記録した。注目された同地域の対外累積債務問題は,IMF,民間銀行団,債権国政府等の支援措置と債務国自身の引締政策,輸出奨励・輸入削減等の自助努力により当面の危機的状況は回避されつつあるが,中長期的に見て情勢は厳しいものがある。債務国における引締政策は,これら諸国の国内不安定化要因ともなっている。このような状況の下,84年1月,中南米26か国の首相・外相らはキトに会し,「キト宣言」を採択した。

我が国は,これら諸国の債務問題解決に資するとの観点から,パリ・クラブ(債権国会議)を通じ,コスタリカ,キューバ,メキシコ,エクアドル,ペルー,ブラジルの6か国に対し債務繰延べを行い,またIMF,国際決済銀行(BIS)を通じできる限りの協力を行ってきている。

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