第5章 文化交流及び報道・広報活動
第1節 我が国の文化交流の現状
1.概況
82年度においては,新たにギリシャ,スペイン及びバングラデシュとの間の文化協定が発効し,また,米国,中国,豪州,オランダ,フィンランドの5か国との間で文化交流に関する協議が行われた。文化交流事業としては,大学生の韓国派遣事業及び韓国大学生招へい事業を発足させるなど各種人物交流事業の拡充を図るとともに,対中国,対韓国日本語普及特別事業を国際交流基金と協力しつつ実施したほか,在外公館における各種の日本文化紹介事業を一層活発に行った。
また,中曽根総理大臣の訪米に際し,83年1月米国のアスペン人文研究所に対し,日米関係研究プログラムの原資として50万ドルの基金を贈与したほか,カナダのブリティッシュ・コロンビア大学アジア・センターにおいて行われる日本研究事業に対して81年度に引き続き国際交流基金と共に資金援助を行った。さらに,開発途上国における文化,教育の振興に協力するための文化無償協力を行い,また,東南アジア文相機構やユネスコなどの国際機関を通じる協力など種々の協力が行われた。
他方,外務省所管の特殊法人である国際交流基金は,外務省との密接な協力の下に,82年度において約43億円の事業費をもって各般の文化交流事業を活発に行ったが,特に82年度は国際交流基金設立10周年に当たり,国際交流基金による下記の各種事業が本邦で実施され好評を博した。
(1)南アジア映画祭
(2)バリ島古典舞踊劇公演
(3)アジアの宇宙観展(コスモス展,曼陀羅展)
(4)中国錦繍展
(5)セネガル現代美術展
なお,近年民間や地方公共団体を通じる国際文化交流も極めて活発に行われており,政府としては,これらの活動の側面援助に努めている。
2.諸外国との文化交流のための基盤の整備強化
我が国は,諸外国との文化交流を推進する法的な枠組みを整備するため,文化協定や交換公文などの文化交流に関する取極を締結するとともに,これら取極に基づき各国政府との協議を通じ,各国との文化交流を促進する具体的な方途につき協議している。
(1)文化交流に関する諸取極の締結
(イ)82年度はギリシャ,スペイン及びバングラデシュとの文化協定が8月,10月及び12月にそれぞれ発効し,この結果,我が国は23か国との間に文化協定を有することとなった。
(ロ)また,我が国は中国,ソ連,東欧諸国の9か国との間で文化取極を締結している。
(2)文化混合委員会などの開催
82年度中に開催された文化混合委員会や随時協議は次の5件である。
(イ)第1回目蘭文化協議(4月,東京)
(ロ)日米文化教育交流会議(82年カルコン合同委員会)(6月,東京)
(ハ)第4回目豪文化混合委員会(11月,キャンベラ)
(ニ)第2回目フィンランド文化協議(83年3月,東京)
(ホ)第2回日中文化交流政府間協議(83年3月,東京)
3.国際交流基金による文化交流事業
国際交流基金の82年度における事業費総額は,約43億円(累計約485億円の政府出資金の運用益を主とする)であった。事業費の配分を地域別に見ると,アジア・大洋州約43.6%,北米約14.7%,欧州約15.7%,中南米約8.3%,中近東約6.2%,アフリカ約1.5%となっている。また,事業別に見ると,人物交流29.6%,日本語普及・日本研究の助成事業39.0%,公演・展示等催物事業16・6%,出版助成や図書寄贈7.0%,映画フィルム・TVフィルムの購送など視聴覚事業5.3%となっている。
これらの事業は,外務省及び我が国在外公館と緊密に協議しつつ実施されているものであり,我が国の国際文化交流事業の中心的な柱として,着実な成果を挙げている。
(1)人物交流
国際交流基金は,広く世界各国を対象として,文化人,学者,スポーツ専門家などの派遣・招へい事業を行っている。
(イ)人物派遣
82年度には,開発途上国に柔道,空手,体操,バレーボールなどの専門家15名を派遣したほか,各種国際会議セミナー,シンポジウムなどに文化人,学者33名を派遣した。また,生花,音楽,囲碁,柔道,体操等の従来行ってきた分野に加え,外国人による日本文化講演などの日本文化紹介巡回チームを派遣した。
さらに,83年3月に,日本学生選抜バレーボール・チームをASEAN諸国に派遣した。
(ロ)人物招へい
82年度には,基金フェローシップにより177名の日本研究者を我が国に招へいしたほか,文化人短期招へい計画により世界各国で影響力のある著名文化人110名を招へいした。このほか,グループ招へいとしてアジア,大洋州,北米,欧州の19か国から176名の中学・高校教員を招いて,我が国の教育事情の視察,関係者との懇談を実施したほか,開発途上国から9名の柔道及びバレーボールの専門家を招へいしてグループ研修を行った。
また,6月には,フランス国立行政学院(ENA: Ecole Nationale d'Administration)の日本研修セミナー参加者一行11名を招へいした。
(ハ)中近東スポーツ交流促進特別事業
我が国と中近東諸国との文化交流の一環として,これら諸国において関心の高いスポーツによる交流を促進させるため,国際交流基金は,民間資金の導入を図りつつ,81年度から5か年にわたり,スポーツ・ミッションの派遣,スポーツ専門家の交流,スポーツ器具の寄贈などを継続的に実施する中近東スポーツ交流促進特別事業を発足させた(事業費総額約5億円)。
82年度には,全日本代表サッカーチーム使節団を派遣したほか,柔道,空手の専門家の長期招へい等を行った。
(2)日本語普及
現在,世界各国の日本語教育機関における日本語学習者は約40万人(このほか中国にはラジオによる日本語学習者が約100万人いると推定されている)といわれ,その数は増加の一途をたどっている。特に,ASEAN諸国,中国,韓国などにおける日本語学習者が急増している。
国際交流基金は,このような趨勢にこたえるため,82年度には海外30か国の大学などに対し128名の日本語教育専門家を派遣したほか,332か所の日本語教育機関に対し教材などを寄贈した。また,例年どおり,海外日本語講師研修会及び海外日本語講座成績優秀者研修会を我が国において開催した。このほか,海外日本語講座講師謝金助成,海外日本語弁論大会助成などの各種助成を行った。
79年12月の大平総理大臣訪中の際の華国鋒総理との合意に基づき発足した対中国日本語教育特別計画(80年度から5か年にわたり毎年120名,計600名の中国日本語講師を対象に,北京の日本語研修センターにおいて日本語教育法に関する再教育を行う)の第3年目として,82年度においても引き続き国際交流基金から同研修センターに対する日本語教育専門家の派遣及び教材の寄贈を行い,また118名の中国日本語講師を我が国に招へいした(83年3月)。
(3)日本研究の振興
これまで海外における日本研究は,主に欧米先進国の大学・研究機関において,限られた範囲で行われてきたが,近年我が国の国際的地位の向上に伴い,欧米諸国のみならず東南アジア,大洋州諸国などにおいても日本研究が盛んになりつつある。国際交流基金は,このような趨勢にこたえるため,82年度には海外19か国の大学などに71名の日本研究学者,専門家を派遣したほか,現地講座スタッフの拡充,日本研究プロジェクトなどについて各種の助成を行った。また,各国大学学生などの訪日研修事業に対しても14件の助成を行った。
80年5月,大平総理大臣のカナダ訪問の際,ブリティッシュ・コロンビア大学アジア・センターの日本研究事業に対し,日加両国で資金援助を行うこととし,日本政府は,81年度から3年間に,政府の直接拠出及び国際交流基金事業を組み合わせて,総額50万カナダ・ドルの援助を行うことを約束した。これに基づき,81年度には政府,基金から合計約157,700カナダ・ドルを拠出したのに加え82年度には日本政府から約67,800カナダ・ドルを同センターに拠出し,また,国際交流基金からは日本人客員教授の派遣,会議費助成等約79,400カナダ・ドルの助成を行った。
(4)公演・展示事業
82年度に国際交流基金は,音楽,演劇,舞踊などの分野における我が国の伝統及び現代芸能を海外に紹介するため,芸能団の公演2件を主催し,27件につき助成した。また,我が国の美術,工芸,版画,写真などの海外展示会を10件主催し,7件に助成した。
主な公演事業としては,日中国交正常化10周年を記念して我が国民族芸能団の中国公演,宝塚歌劇団の東南アジア公演,世阿弥座欧州能公演,歌舞伎北米公演などがあり,展示事業としては現代日本版画展の中国国内巡回展,東南アジア巡回クラフト展,カナダ巡回現代陶芸展等が挙げられる。その他,パリ,ヴェニス,アレキサンドリア等におけるビエンナーレに参加している。
また,国際交流基金は,一般に我が国において公演・展示される機会の少ない開発途上国の芸能,美術を我が国に紹介するため,これら諸国からの芸能団の公演を3件主催し1件助成した。また展示会を2件主催し,2件助成した。
主なものとしては,インドネシア・バリ島ダルマサンティ舞踊団の本邦公演,アジアのコスモス展及びセネガル現代美術展等が挙げられる。
(5)映画テレビなどの視聴覚事業
国際交流基金は,82年度に国際交流基金映画祭(南アジア映画祭)を我が国で開催し,インド,スリ・ランカ,タイ,インドネシア,フィリピンからの映画11作品を上映した。他方南米南部においては巡回日本劇映画祭,映画評論家による講演会を開催した。
また,同基金は劇映画66本,文化映画114本を各国で開催される映画会の使用に供するため,世界各地の在外公館所属のフィルム・ライブラリー用に購入した。さらに米国に対しては6大学フィルム・センターのうち4大学フィルム・センターに対し27種類合計80本の文化映画を提供した。
(6)図書寄贈,出版援助及び国際図書展助成
82年度に我が国は,国際交流基金を通じて外国の大学,教育機関及び公共機関など204の機関に対し,図書33,094冊,マイクロフィルム974リール,ビデオテープ2本を寄贈するとともに36件の日本紹介図書の海外における出版を助成した。
また出版文化の交流を図るため11件の国際図書展に参加ないし助成した。
4.在外公館による文化事業
我が国在外公館においては,独自の企画により,あるいは,現地の各種文化団体とも協力しつつ,我が国文化の紹介事業を活発に行っている。82年度には,各地の在外公館において,劇,文化映画会,文化講演会,生花実演,日本文化紹介展,日本文化祭,日本文化週間,音楽会,折紙講座,茶道実演,囲碁大会など多種多様の文化行事が行われた。
5.開発途上国との文化・教育協力
(1)概況
開発途上国との文化交流に当たっては,我が国文化の相手国への紹介という側面のみならず,相手国の文化的,教育的水準の向上努力に対する協力(いわゆる「文化協力」)が重要である。このため,我が国は開発途上国に対し文化・教育関係の資機材を購入するための資金を贈与する「文化無償協力」を実施しており,またユネスコなどの国際機関を通ずる開発途上国の遺跡保存事業に対する資金協力,ASEANの青年に対する奨学金制度に対する協力など幅広い協力を実施してきている。
(2)文化無性協力
82年度に署名した文化無償協力の交換公文は18件,総額7億3,300万円である。供与先を地域別にみれば,アジア大洋州10件,中南米4件,中近東アフリカ4件である。また供与した機材の目的別分類では教育研究関係8件,芸術振興関係6件,文化財保存関係4件であった。
(3)ASEAN青年奨学金制度
我が国は,ASEAN諸国の有為の青年に対する教育の機会増大に寄与するため,80年度からASEAN青年奨学金を拠出しているが,82年度には第3年度分として100万ドルを拠出した。
(4)アジア・太平洋地域外交官日本語研修計画
81年に,ASEAN諸国を中心とするアジア・太平洋地域諸国の若手外交官に対し,我が国で日本語及び日本事情を研修する機会を与えるアジア・太平洋地域外交官日本語研修計画が発足したが,82年度には7か国から7名を受け入れた。
(5)東南アジア文相機構(SEAMEO: Southeast Asian Ministers of Education Organization)への協力
東南アジア諸国の教育,科学,文化面での協力を推進するSEAMEOの事業に関連し,我が国は,82年度において,同機構の教育開発特別基金及び細菌培養研究機材購入計画に対し,総額約176,000ドルの資金協力を行うとともに,専門家の派遣等を行った。
(6)遺跡保存のための協力
我が国はユネスコの遺跡保存のための国際的事業に対し,82年度は,インドネシアのボロブドール遺跡復興事業に15万ドル,パキスタンのモヘンジョダロ遺跡保護開発事業に10万ドルをそれぞれ拠出した。なお上記ボロブドール遺跡復興事業は83年2月23日に完了し現地で盛大な落慶式が行われ,同事業に対する我が国政府の拠出総額は115万ドル,また,我が国民間からも同額の115万ドルの拠出を行った。
(7)ASPAC(Asian and Pacific Council)
文化社会センター我が国は,82年度に,ASPAC文化社会センターに対し9万ドルの分担金を拠出し,同センターのフェローシップ交換事業などに参加した。
6.その他の文化交流事業
(1)教育交流
(イ)留学生交流
外務省は,文部省に協力しつつ,本省及び在外公館を通じて国費留学生の募集,選考を行っている。82年度には943名の国費外国人留学生が新規に採用された。このほか,在外公館においては,国費留学生ばかりではなく,私費留学生に対しても我が国留学に関する指導,助言を行った。
さらに,留学生アフターケア対策として,第9回「東南アジア日本留学者の集い」を開催し,元日本留学者を日本へ招へいした。また,ASEAN各国における元日本留学者団体を中心に各種助成(集会施設提供,集会経費援助など)を行った。
(ロ)英国人英語教師の招へい
外務省は,文部省と協力しつつ,78年10月から英国人英語教師招へい計画を実施している。82年度は36名が招へいされ,大学,高校,民間企業などにおいて英語教育に携わりつつ,受入校学生,企業従業員などとの交流を行った。
(ハ)日米教育交流
58年以来,経費全額米側負担で大学院生,研究生,教授などの交流を主たる内容とする日米教育交流計画(いわゆる「フルブライト計画」)が実施されてきた。79年,同計画を経費折半方式による日米共同事業として一層発展させるため,日米両国政府間で協定が締結された。82年度には,我が国は,協定に基づき設置された日米教育委員会に約2億6,000万円を拠出したほか,外務省と文部省が協力しつつ,同委員会の活動の指導,援助を行った。
(2)学術交流
文部省,日本学術振興会は,欧米主要国,中国,東南アジア諸国などとの学術交流を行っており,外務省は,これらの事業に対し側面協力を行っている。
また,日ソ間の学術交流について,外務省は,日本学術振興会及び科学技術庁と協力して,65年以来ソ連高等教育省,また,73年以来ソ連科学アカデミーとの間でそれぞれ学者,研究者の交流を行っており,82年度には13人を派遣し12人を受け入れた。
そのほか,文部省の補助金を得て我が国大学,研究機関が実施する海外学術調査については,在外公館が,調査の円滑な実施のため側面的に協力を行った。
(3)青少年・スポーツ交流
次代を担う青年層を対象とした諸外国との交流も文化交流事業の重要な一環である。外務省は,82年度において,欧州,アジア,中南米諸国から205名の青年を招へいした。また,政府は米国の国際青少年団体YFU(Youth for Understanding)が実施する「日米交流特別計画」に年額約25万ドルの資金協力を行うこととしているが,82年度は同計画により米国高校生100人が来日し,全国各地で約2か月間の家庭滞在を行った。このほか,外務省は,総理府,地方自治体などが行っている「青年の船」,「東南アジア青年の船」その他青少年の国際交流事業に対し協力を行っている。
スポーツ交流の分野においては,各種国際スポーツ大会への我が国代表団の派遣,各種スポーツ団体による選手の派遣・受入れ,登山隊の派遣などについて側面協力を行っている。
(4)民間・地方レベルの文化交流(姉妹都市提携など)
近年,民間団体や地方公共団体を通じての文化交流が活発となり,政府としても,かかる分野での交流の発展にできる限りの側面的協力を行っている。
特に,我が国地方公共団体と外国相手先との間のいわゆる「姉妹都市提携関係」(83年3月末で市町村間で420件,県州間で28件,計448件に達している)の動きは極めて盛んであり,これに関連して多種多様な文化交流事業が行われている。事業の内訳は相互親善訪問,青少年交流,児童生徒の作品交換等に加え,最近では技術研修,共同研究,交換留学生の派遣・受入れなどが増えている。