第8節 国連専門機関

1.概況

(1)国連専門機関は,労働,教育・科学・文化,農業,保健等の極めて幅広い分野にわたり,専門的,技術的観点から各分野における多国間の協力関係を促進することを目的とした事業を実施している。

(2)近年専門機関の場に国際政治問題が持ち込まれる例が増えてきているが,82年には第35回世界保健機関(WHO)総会等の場でイスラエル非難決議,南アフリカのアパルトヘイト非難決議が採択され,また第114回及び第115回国連教育科学文化機関(UNESCO)執行委員会,ナイロビ国際電気通信連合(ITU)全権委員会議等のフォーラムにおいてもイスラエル非難決議が採択された。このような動きについて我が国は,本来専門的・技術的問題を扱うべき国連専門機関においては政治問題を討議することは専門機関の本来の所掌分野の諸問題についての審議を阻害し,専門機関を不毛な政治対立の場とする恐れがあり好ましくないこと,特定の国を締め出しても本質的な解決にはならないこと,専門機関における普遍性の原則が維持されるべきであること等の観点からかかる動きには同調し得ないとの立場をとっている。

(3)また,近年南北問題の深刻化の中で,各専門機関の事業活動を拡大し,開発途上国に対する援助の強化を志向する開発途上国の動きが目立ち,国内経済の低迷,財政状況の悪化を抱える先進国との間で,予算等を巡り激しい議論が行われる場面が見られる。

国際労働機関(ILO),WHO,UNESCO,国連食糧農業機関(FAO)の4大専門機関は2年度予算を採用しており,82年はこれらの専門機関においては予算審議の年ではなかったが,ユネスコ特別総会においてはユネスコ中期計画(84~89年)が審議された際,次期事業計画予算案(84~85年)については,実質成長率4~6%を作業仮説として作成する旨決議された。

(4)我が国は,万国郵便連合(UPU)を除くすべての専門機関において理事会メンバーを務め,その事業活動の運営に積極的に貢献するとともに,財政面においても,分担金のほか多くの任意拠出金を拠出した。

2.各国連専門機関における活動

(1)国際労働機関(ILO: International Labour Organization)

82年1月~83年3月の間においては,第68回総会及び第220回~222回各理事会が開かれた。

第68回総会においては,国際文書として,「使用者の発意による雇用の終了に関する条約(第157号)及び同勧告(第166号)」,「社会保障の権利の保全のための国際システムの設立に関する条約(第158号)」,並びに「農園条約(第110号)の改正に関する議定書」が採択され,また職業リハビリテーションの第一次討議が行われた。

その他では,特に理事会の結社の自由委員会において,我が国の仲裁裁定問題(第221回理事会)及び人事院勧告実施見送り問題(第222回理事会)並びにポーランドの労組活動問題(第220~222回理事会)について報告が承認されている。

我が国は,82年度においてはILOに対して,分担金1,131万9,109ドル(分担率9.51%)を支払い,アジア地域におけるマルチ・バイ方式による技術協力活動(セミナー,スタディ・ツアー等)への任意拠出金約1,200万円を拠出している。

(2)国際連合教育科学文化機関(UNESCO: United Nations Educational, Scientific and Cultural 0rganization)

(イ)82年にユネスコにおいて開催された主要会議としては,第4回特別総会,第114回及び第115回執行委員会のほか,教育分野で第22回国際教育局理事会,自然科学分野で第2回アジア・太平洋地域科学技術担当大臣会議,国際水文学計画第5回政府間理事会,政府間海洋学委員会第15回及び第16回理事会,同第12回総会,文化分野で世界文化政策会議,また,コミュニケーション分野で国際情報開発計画第2回及び第3回政府間理事会がある。第4回総会では,80年代後半におけるユネスコの主たる任務及びユネスコ事業計画・活動の方向付けを打ち出すための第2次ユネスコ中期計画(84~89年)が審議・採択された。また,第2回世界文化政策会議では,今日の世界における文化の基本的問題につき審議が行われ,文化的独自性の尊重,国際的文化協力の促進等各国文化政策の在り方に関する原則を網羅したメキシコ宣言が採択された。

(ロ)82年度の我が国の対ユネスコ協力としては,分担金1,888万ドル(分担率9.48%),アジア地域教育刷新計画に15万ドル,基礎科学地域協力事業に10万ドル,西太平洋海域共同調査事業に3万ドル,教育分野の5事業信託基金に計約16万ドルのほか,ヌビア,ボロブドゥール及びモヘンジョダロの各遺跡救済事業に計26万ドルを拠出した。

(3)国連食糧農業機関(FAO: Food and Agriculture Organization of the United Nations)

82年に開催された会議の主なものとしては,第7回世界食糧安全保障委員会,第16回アジア太平洋地域総会,第82回理事会がある。第7回世界食糧安全保障委員会では,(イ)アフリカの低所得食糧不足国の食糧農業問題に関する研究,(ロ)世界食糧安全保障概念及び食糧安全保障関連諸機関の活動レビューを今後検討していくことが決定された。第16回アジア太平洋地域総会では域内の食糧安全保障の促進を目的としてアジア太平洋地域食糧安全保障委員会を設立することが決議されたほか,農業・農村開発における新・再生可能エネルギー及び総合農業システムの促進と開発に関する決議が採択された。第82回理事会では右地域総会での安全保障委員会の設立が承認されるとともに,75年の第18回総会で採択された食糧農業分野における広範な国際的努力目標を提示する「国際農業調整ガイドライン」の改正問題が検討され,その結果改正案が取りまとめられ,第22回総会に提出されることが決定された。なお,83年3月には第7回農業委員会が開催され,「国際植物遺伝子銀行及び植物遺伝資源保存に関する国際規約準備のための提案」が審議され,今後,作業部会を設けて検討を進めることとなった。

我が国は,FAOに対し,82年度において分担金として2,064万9,000ドル余り(分担率11.72%)を拠出したほか,運転資本基金水準引上げに伴う分担分として55万4,000ドル余り,及びフィールド・プロジェクトに92万ドルを拠出した。また,FAOと国連の共同計画として開発途上国への多数国間食糧援助を行う世界食糧計画(WFP: World Food Programme)に対し,82年度には,通常のWFP活動分として675万ドル拠出するとともに,国際緊急食糧リザーヴ(IEFR: International Emergency Food Reserve)分として137万5,000ドルを拠出した。

(4)世界保健機関(WHO: World Health Organization)

82年には,第35回世界保健総会,第69回,第70回執行理事会及び地域委員会が開催された。第35回総会においては,西暦2000年健康世界戦略行動計画の策定,母乳代替品の企業活動に関する国際コード推進決議の採択等が行われた。我が国は,82年においてWHOに対し分担金2,115万1,875ドル(分担率9.42%),任意拠出金113万9,000ドルを拠出し,また,WHOの附属機関である国際がん研究所(IARC: International Agency for Research on Cancer)に対し分担金956,827ドルの拠出を行ったほか,WHO研修生の受入れ等を行うなどWHOの活動に協力した。

(5)国際民間航空機関(ICAO: International Civil Aviation Organization)

ICAOは,国際民間航空の安全かつ秩序ある発展,国際航空運送業務の機会均等の原則に基づいた健全かつ経済的運営を目的としている。

82年1月から83年3月までの間においては,第105回~第108回ICAO理事会が開催され,国際民間航空の諸問題について審議されたほか,11月には,デンマーク・アイスランド共同維持協定を北大西洋横断航空業務の現状に即したものに改正するための議定書が同協定の締約国会議において採択され,12月我が国は,加入書をICAO事務局に寄託した。

また,83年1月シンガポールにおいて第2回アジア・太平洋地域航空会議が開催され,アジア・太平洋地域における民間航空の諸問題について討議されたが,その際に,日本・中国間の航空路の短縮(現行の航空路を171マイル短縮するもの)についてICAO事務局を中心に関係国との協議が行われた結果,右短縮航空路の設定が基本的に了解された。

なお,我が国の83年分担金は,201万ドル余(分担率は8.31%)である。

(6)万国郵便迎合(UPU: Union Postale Universelle)

82年には,執行理事会(5月)及び郵便研究諮問理事会(11月)が,共にベルンで開催された。

執行理事会では,UPUの83年度予算,人事,通常郵便及び技術協力等にかかわる事項が審議された。また,研究諮問理事会では,電子郵便と他の新しい通信システム及び発展途上国における郵便作業の機械化等について検討が行われ,我が国は,第3委員会(郵便機械化,局舎及び自動車輸送)議長国として会議に寄与した。

なお,我が国は,83年分担金としてUPU予算の4.6%に当たる875,000スイス・フランを支払った。

(7)国際電気通信連合(ITU: International Telecommunication Union)

9月~11月には,9年ぶりにナイロビにおいて全権委員会議が開催され,国際電気通信連合条約(ナイロビ条約)等の最終文書及び我が国の提案によるITU条約の憲章化決議等が採択されたほか,管理理事国選挙では我が国が,また,国際周波数登録委員会(IFRB: International Frequency Registration Board)委員選挙においては我が国の栗原芳高候補がそれぞれ選出された。

また,82年には,国際無線通信諮問委員会第15回総会(2月)及び第37回管理理事会(4~5月),83年には,移動業務のための世界無線通信主管庁会議(3月)が,いずれもジュネーヴにおいて開催された。

81年秋の国連総会において83年を「世界コミュニケーション年」とすることが決議されたことにより,83年には各国において各種記念行事が多数開催される予定であり,また,83年9月ジュネーヴにおいてITU主催により,電気通信展「テレコム83」が開かれることとなっており,各国から積極的な参加が期待されている。

なお,我が国は,83年度暫定予算に基づき83年分担金として予算の4.66%に当たる340万スイス・フランを支払った。

(8)世界気象機関(WMO: World Meteorological 0rganization)

80年~83年のWMO事業は,79年に開催された第8回世界気象会議で決定されているが,主要事業としては,「世界気象監視(WWW: World Weather Watch)」がある。これは,全球的に観測した気象データを処理し,解析して最終利用者に提供することを目的としており,組織としては,全球観測,全球資料処理,全球通信の各組織から成っている。

また,我が国は,アジアの関係諸国において台風の共同観測を行い,気象予報技術を向上するとともに,台風被害を軽減することを目的とするWMO/ESCAP台風委員会の「台風業務実験計画(TOPEX: Typhoon Operational Experiment)」の推進に中心的役割を果たしており,82年に第1回本実験を実施し,83年にも第2回本実験を行うこととなっている。

(9)国際海事機関(IMO: International Maritime Organization)

IMOは,海上の安全と航行の能率及び海洋汚染防止を確保するため,条約及び勧告の作成などを行っている。

82年には,海上人命安全条約の第2次改正作業,海洋汚染防止条約実施上の諸問題の検討,有害危険物質の海上輸送にかかわる責任と補償に関する新条約の作成作業,油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約及び油による汚染損害の補償のための国際基金の設立に関する国際条約の改正作業等が進められた。

なお,5月から,この機関の名称が従来の政府間海事協議機関(IMCO: Inter-Governmental Maritime Consultative Organization)から国際海事機関(IMO)に変更となった。

我が国は82年において,104,401ドルの分担金(分担率9.63%)を支出した。

(10)世界知的所有権機関(WIPO: World Intellectual Property Organization)

WIPOは,工業所有権及び著作権の保護を世界的に促進することを目的としている。

82年には,工業所有権の保護に関するパリ条約改正外交会議第3会期,WIPO調整委員会等が開催された。

外交会議第3会期では,パリ条約締約国の正式国名を商標として使用することを禁止することにつき実質的な合意が得られ,また地理的名称の商標への使用に一定の歯止めを掛けることにつきおおむねの合意が得られたが,特許の南北問題である特許発明の不実施に対する制裁措置を強化する問題,社会主義諸国における発明保護制度である発明者証制度を特許制度と同等のものとしてパリ条約上で認知する問題等のその他の懸案事項については,84年2月~3月に開催される外交会議第4会期に再度審議が持ち越された。

(11)国際農業開発基金(IFAD: International Fund for Agricultural Development)

77年11月に発足したIFADは12月現在,西側先進国(カテゴリーI)20か国,産油国(カテゴリーII)12か国及び非産油開発途上国(カテゴリーIII)107か国の加盟国を数えるに至り,既承認プロジェクト総件数114件,融資承諾額では15億ドル以上に及んでいる。

懸案であった第1次増資については,1月に開催された第5回総務会において増資決議が採択され,6月18日に発効の運びとなった。

また,84~86年度における資金補充の必要性にかんがみ,12月に開催された第6回総務会においては,第2次増資に関する交渉を可能な限り早期に開始する旨の決議が採択された。

我が国は第5回総務会の増資決議に基づき,4月30日,6,021万ドルの拠出誓約書を事務局に寄託し,9月に第1回目の払込み(2,007万ドル)を行った。

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