第7節 第3次国連海洋法会議

1.概況

第3次国連海洋法会議は,包括的な新しい海の秩序を形成する目的で73年に開始されたが,82年3月8日から開催された第11会期において,最終日の4月30日に海洋法条約草案が採択された。7月12日から8月25日まで開催された起草委員会においては,同条約草案の修辞上の修正の残されていた部分について本会議への勧告が作成され,同勧告は9月の再開第11会期において採択された。12月にジャマイカのモンテゴ・べイにおいて第3次国連海洋法会議最終議定書署名会議が開催され,会議最終日の12月10日に「海洋法に関する国際連合条約」が署名のために開放され,同日117か国が署名し,第3次国連海洋法会議は終了した。

我が国は,同条約は海洋国家としての我が国の長期的国益に合致し,かつ,国際社会全体の利益に沿うものであるとの判断の下に,83年2月7日に同条約に署名した。同条約は60番目の批准書又は加入書が寄託された後1年で発効することになっているが,83年4月22日現在,署名数は125,批准数は5である。

83年3月15日から4月8日まで国際海底機構及び国際海洋法裁判所のための準備委員会第1会期が開催され,議長にワリオバ=タンザニア代表が選出された。

2.第11会期の審議状況

(1)概況

第11会期は,3月8日から4月30日まで,ニューヨークで開催された。

同会期は,実質最終会期として,米国が再検討を主張していた深海底開発問題・先行投資保護問題,準備委員会設立問題,民族解放団体・国際機関等の条約参加資格問題等に関して審議を行った。各国から31の公式修正提案が出されたが,4月26日行われた公式修正提案に関する投票時までには,ほとんどの提案が自発的に撤回され,最終的に投票に付された三つの提案も否決された。会議最終日の4月30日の本会議において,条約草案及び関連決議案は米国の要求により投票に付され,賛成130か国(日本,フランス,カナダ,スウェーデン等北欧諸国,豪州及び開発途上国の大部分),反対4か国(米国,イスラエル,トルコ,ヴェネズエラ),棄権17か国(英国,西独,ソ連等)で採択された。

(2)交渉の概要

(イ)深海底開発問題

条約草案全般について見直しを行うとの再検討政策を打ち出していたレーガン政権は,82年1月29日に再検討作業の結果を大統領声明の形で発表し,条約草案で改善を要する点として6項目を挙げたが,第11会期において米国は,非公式な形で230項目にも及ぶ具体的修正提案を提出した。これらの修正案は,深海底開発条項の中の技術移転,生産制限,国際海底機構の理事会における意思決定方式,再検討会議等の問題を含んでいた。この修正提案に対しては,探査活動を既に行っている西側先進国は一般的に支持する姿勢を示したが,開発途上国は交渉を逆戻りさせるものであり交渉の基礎になり得ないとして強く反発した。北欧諸国,カナダ等による米国と開発途上国の中間案,米国及び我が国を含む西側7か国の共同修正案,コー議長の妥協案等の動きもあったが,結局,米国の修正案については最後まで実質的な交渉は行われず,米国が条約草案の採択について投票に付すことを要求した結果,条約草案及び関連決議案は投票により一括採択された。

(ロ)先行投資保護問題

条約発効前に国又は企業が行う深海底探査活動などに関する投資を保護,促進しようとする先行投資保護問題については,西側先進5か国の間で非公式な協議が続けられ,先行投資保護に関する議定書案が日本,米国,英国及び西独の4か国共同案として提出された。これに対し開発途上国等は,この4か国案は深海底資源開発を一部先進国で独占しようとするものであるとして反発し,対案を提出したが,最終的にはコー議長の妥協案に沿って決議案としてまとめられ,条約草案と共に採択された。

(ハ)準備委員会設立問題

国際海底機構及び国際海洋法裁判所のための準備を行う準備委員会の設立問題については,議長ペーパーを基礎として21か国から構成される作業グループにおいて審議が行われた。先進諸国と開発途上国との間で意見の対立のあった委員会の構成,意思決定方式,資金手当等を中心に交渉が行われ,決議案としてまとめられ条約草案と共に採択された。

(ニ)民族解放団体・国際機関等の条約参加問題

海洋法会議にオブザーバーとして参加してきた民族解放団体は,オブザーバーの資格で,最終議定書への署名,準備委員会及び国際海底機構への参加が認められることになった。

国際機関は,その構成国の過半数が条約の署名国であれば条約に署名することができ,その構成国の過半数が批准又は加入した場合には,構成国から当該国際機関に移譲された権限の範囲内で条約当事者となり得ることになった。

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