第3節 経済問題
1.第37回国連総会
(1)国連包括交渉(GN)
一次産品,エネルギ、貿易,開発,通貨・金融を包括的に交渉の対象とする国連包括交渉(GN: Global Negotiations)を発足させることは第34回総会以来の大きな課題であり,第37回総会でも発足のための非公式な協議が行われた。しかし,専門機関の権限擁護の問題を巡って実質的進展がなく,83年の第37回総会再開会期で継続審議されることとなった。
(2)開発途上国救済のための緊急措置
GNという包括的な交渉アプローチに並行して,開発途上諸国の抱えるセクター別問題解決の緊急性に関する認識も高まり,第37回総会で「開発途上国救済のための緊急措置」に関する決議が採択された。
(3)新・再生可能エネルギー
81年8月,ケニアのナイロビで新・再生可能エネルギー国連会議が開催され,新・再生可能エネルギーの利用・開発のための政策的・技術的側面を網羅した「行動計画」が採択された。第37回総会では,そのフォローアップのための機構問題が審議され,新しい政府間委員会の設立とそのための小さな事務局ユニットの設置が認められた。これは,国連が新・再生可能エネルギーというエネルギーの1分野とはいえ,エネルギー問題を本格的かつ組織的に取り扱う素地を作ったものとして評価すべきものと考えられる。
2.経済社会理事会
我が国は,第36回国連総会において理事国に選出(任期3年)され,82年年頭から本理事会の審議に参加した。
82年の経済社会理事会では,国際経済社会政策,経社理再活性化,国連開発事業活動災害救済特別援助,食糧,環境などの諸問題を審議した。特に7月に開催された第2通常会期において,過去数年来の重要審議案件であった経済社会理事会再活性化につき引き続き審議が行われ,本理事会の作業合理化を中心とした極めて実務的な内容の決議がコンセンサスで採択され,本理事会の再活性化に向かって第一歩が打ち出された。その内容は,議題の統合,文書量の制限,下部機関新設の回避といった実務的なものである。
3.国連における多国籍企業問題の検討
多国籍企業の行動規範を作成する作業が政府間作業部会において継続された。同作業部会は,82年中に3回(1月,3月及び5月)の会合を開き,多国籍企業の定義・適用範囲並びに行動規範の内容のうち,契約の再交渉,政府間関係への不介入,受入国による多国籍企業の取扱いの原則,国有化・補償,裁判管轄権等未解決の条項及び行動規範の履行について草案の検討を行った。契約の再交渉,政府間関係への不介入及び行動規範の履行については,未合意の点は若干あるが,ほぼ草案がまとまった。受入国による多国籍企業の取扱いの原則,国有化・補償,裁判管轄権などについては,従来南北間で基本的に対立している問題を含んでいることもあり,種々の点について意見の一致を見ず,草案作成に至らなかった。また,多国籍企業の定義・適用範囲についても草案の検討を終了し得なかった。今後の起草作業については,8月~9月開催された第9回多国籍企業委員会の勧告を受けて,82年経済社会理事会再開会期で,すべての国が参加できる形の多国籍企業委員会特別会期を3月及び5月に各々2週間開催し,未検討の前文・目的,定義・適用範囲並びに多国籍企業の活動及び取扱いに関する規定の未合意部分に優先的に取り組み,行動規範の最終草案を経済社会理事会を通じて83年の第38回国連総会に提出することを目標に,本作業を行うことが決定された。
4.国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP: United Nations Economic and Social Commission for Asia and the Pacific)
(1)我が国は,アジア太平洋諸国の繁栄と安定なくして我が国の繁栄と安定はあり難いとの認識に立ち,これら諸国との協力拡充を目指しており,ESCAPについてもアジア太平洋の議会と言える総会をはじめとする諸会合に積極的に参加し,また,同委員会のほとんどすべての分野にわたる事業活動への資金拠出,国際協力事業団による専門家の派遣,研修員の受入れ等の実質的協力を行った。
(2)第38回ESCAP総会は,3月から4月にかけてバンコクにおいて開催され,我が国からは木村俊夫元外務大臣を首席代表とする代表団が出席した。同総会では,「アジア太平洋地域における食糧供給及び分配―中期的見通し及び地域協力」及び「ESCAP優先分野の再評価」を中心に討議が行われ,「アジア太平洋地域における食糧供給及び分配」,「アジア太平洋開発センター憲章」等11件の決議が採択された。
(3)82年度中に開催されたESCAPの主要会議としては,上述の総会のほか,第6回産業・技術・人間居住・環境委員会,第3回アジア太平洋人口会議,第3回社会開発委員会,第9回天然資源委員会,第24回貿易委員会,第4回開発計画委員会及び第6回海運・運輸・通信委員会の7常設委員会とアド・ホック鉄道大臣会議がある。
以上のほか,数多くの政府間会合,専門家会合,ワークショップが開催されたが,そのうち観光開発に関する政府間会合,第19回アジア沿海鉱物資源共同探査調整委員会(CCOP)会合,台風委員会TOPEX(Typhoon Operational Experiment)準備会合,鉄道信号通信セミナー等が我が国で開催された。また,ESCAPと横浜市,国連人間居住センター(Habitat)の共催で横浜都市会議が同市で開催された。
(4)農業人口が7割というこの地域で,貧困農村部を救うためにも食糧増産は急務であるが,その一環として,9月からインドネシアのボゴールで粗粒穀物・豆類・根菜類調査開発地域調整センター(CGPRT)が本格的な活動を開始した。
5.国連貿易開発会議(UNCTAD: United Nations Conference on Trade and Development)
世界景気の低迷に伴い開発途上国の経済的窮状が深刻化する中にあって,UNCTADに対する期待も大きいものがあった。82年には,貿易,通貨金融,一次産品等多岐にわたって開発途上国が直面する諸問題に関し審議が行われた。特に国際貿易の分野では,不況下で保護主義措置が増大するのに対し主として開発途上国側から強い反発がなされ,世界貿易の拡大,国際貿易体制の改善について積極的な検討がなされた。
我が国は,従来南北対話には積極的に対処してきたが,82年のUNCTADの諸活動にもこのような基本姿勢で臨んだ。
(1)国際貿易
世界経済の停滞が長期化する中で,保護主義措置の増大に対する対応策が問題の焦点となっている。11月に開催されたガット閣僚会議と並んでUNCTADの場においても特に南北の観点から貿易問題が取り上げられた。
(イ)保護主義・構造調整
3月の貿易開発理事会(TDB: Trade and Development Board)において,第5回UNCTAD以来の最大の焦点であった保護主義・構造調整の第1回年次レビューが行われた。同レビューでは現下の保護主義問題が検討されるとともに,構造調整の必要性が改めて認識された。審議の結果,今後の作業の方向として,(a)農業及びサービス貿易も検討の対象に含める,(b)非関税障壁に関する調査を行う,(c)国際貿易の透明度を改善するための国際的措置を検討する等が合意された。本問題は,83年4月のTDB,続いて同6月の第6回UNCTADの主要争点になる見込みであり,諸困難を抱える国際貿易問題に対し南北対話の視点から建設的提言を行うことが期待されている。
(ロ)国際貿易体制のレビュー
戦後の国際貿易の枠組みを提供してきたガット体制は,国際貿易の複雑化,発展に対応し得ず,その依拠する基盤たる最恵国待遇(MFN),相互主義の枠を外される方向で発展してきていると,開発途上国は認識している。このような認識に基づき,開発途上国は,81年秋のTDBにおいて,MTN諸協定の履行から生ずる結果及び現在の国際貿易制度をTDBで見直すとの提案を行った。その後のTDBでは,この提案を巡って鋭意検討がなされた。特に9月のTDBでは,ガット閣僚会議開催前に何らかの合意に達すべきであるとの一部先進国の強い意向もあり交渉が行われた。開発途上国が,レビューの対象として国際貿易の原則及び政策自体を含めることを要求したため,先進諸国はガット体制そのものに干渉する恐れありとしてこれに反対した。本問題も今後のUNCTADの貿易問題での主要争点として引き続き審議される。
(ハ)特恵
5月に開催された第11回特恵特別委員会では,特恵延長問題については一応の決着を見ていたこともあり,ガット閣僚会議,第6回UNCTAD総会に向けて開発途上国側がどのような態度に出てくるかが焦点であった。開発途上国は,一般特恵制度(GSP)の改善に関する従来の要望を取りまとめた16項目にわたる決議案を提出した。同決議案は,83年3月の製品委員会でも審議されたが,GSPのバインド化,GSPにかかわるセーフガード・メカニズムの導入等先進国として受諾し難い内容が多々あり,交渉は時間を要しよう。なお,開発途上国側が,以上の決議案を提出するに至った背景には,いわゆる卒業問題の進展に歯止めをかけることをねらったものとも考えられている。
(2)通貨・金融
開発途上国の累積債務問題が深刻化する中にあって通貨金融問題は,主としてTDBの場において議論された。特に,9月のTDBでは「貿易開発報告」(注.81年に第1回目の報告が発表されたのに続き今回は2回目)を中心に現下の国際通貨金融問題に関し,南北対話の視点から活発な意見交換がなされ,南北双方の認識を深めることに役立った。
このほかに,1月に輸出信用保証制度(開発途上国の輸出信用に関する資本市場へのアクセス改善を目的とする構想であり,既に10年来の懸案)設立のための政府間専門家会合が開催された。同会合では,本制度の機能に関し技術的な検討が加えられたが,先進国側から本制度の有益性に関する多くの疑問が出されたため結論を得るに至らなかった。
第6回UNCTAD総会を控えて83年3月に開催された貿易外融資委員会では,同総会用に作成されたUNCTAD事務局文書に対するコメントを中心に総会を念頭に置いた意見交換が行われた。開発途上国側からは,事務局文書に沿って現下の国際通貨金融体制の改善に関する諸方策(IMF資金の拡充,開発金融と特別引出権(SDR)のリンク等)が主張された。また援助に関しては,開発途上国は対GNP比0.7%目標を援助供与国が実現するよう強く要請した。これらの諸要請は,第6回UNCTADの主要争点になるものと考えられる。
(3)一次産品
(イ)80年6月に採択された一次産品共通基金設立協定は,当初の発効目標日であった3月31日までに発効要件を満たすに至らなかった。このため,6月に既締約国会合が開催され,次の発効目標日を第6回UNCTAD総会後の83年9月30日と決定した。我が国は,共通基金設立交渉に積極的貢献を行ってきたところであり,81年6月には受諾書を寄託し,この協定の第5番目の締約国となった。また,批准が遅延している状況を考慮し,我が国はUNCTADの諸会議,主要国首脳会議等の場において共通基金の早期発効を強調しており,第37回国連総会では前回総会同様に共通基金設立協定早期発効促進決議を各国と共同して作成し,この結果同決議が採択された。なお,83年2月現在,共通基金の署名国は92,批准国は41である。
(ロ)共通基金と並んで一次産品総合計画(第4回UNCTAD総会で採択)のもう一つの柱である個別産品協議についても進展が見られた。すなわち,10月に国際ジュート協定が採択された。本協定は,一次産品総合計画採択後に成立した新しい商品協定として,天然ゴム協定に次ぐものであり,研究開発,加工度向上等の価格安定策以外の「その他の措置」を主たる内容とする最初の協定としての意義を有する。また,一次産品総合計画の対象18品目のうち熱帯木材については,6月に予備協議,11~12月に協定交渉前協議が開催された。83年3月には国連熱帯木材交渉会議が開催されたが協定採択には至らなかった。なお,我が国は,熱帯木材の最大の消費国であることを十分認識し,予備協議,国連会議の議長を務めるほか,交渉の促進を図るため協定草案を作成の上提出した。以上のほか,茶,マンガン等についても予備協議,専門家会合が開催され鋭意検討が進められている。
(ハ)82年1月及び83年1月に開催された一次産品委員会では,一次産品総合計画の進捗状況がレビューされるとともに,第5回UNCTAD総会の決議に基づき輸出所得安定化問題並びに一次産品の加工,マーケティング,流通部門における国際協力のための枠組みの作成問題が審議された。
(4)技術・海運問題
(イ)UNCTADにおいては,企業間の国際技術移転契約における制限的慣行を規制することにより開発途上国への特許技術,ノウハウ等の移転を目的として技術移転国際行動規範の作成が検討されてきている。82年も3回にわたって準備のための会合が開催されたが,規範を任意的ガイドラインとするか,法的拘束力を有するものかなどに関し,南北双方の意見の隔たりが大きく合意に達しなかった。このほか技術分野では,食物加工,資本財及びエネルギー部門における開発途上国の技術能力強化の方途を探求すべく地道な検討が行われた。
(ロ)海運分野においては,6月に第10回海運委員会が開催された。最大の争点は,不定期船分野において開発途上国海運に対する参入障壁が存在するか否かという問題であった。結局,鉄鉱石・リン鉱石・ボーキサイト・アルミナの分野につき参入障壁の存否について,検討を行った専門家会合の結論(両論併記)につき種々議論の結果,同専門家会合の勧告を実行し結果を第11回及び第12回の両海運委員会で検討すること,及び石油輸送につき参入障壁の存否を調査検討する専門家会合を83年に開催することが決定された。
このほか,海事不正行為及びコンテナ輸送の運賃に関するモデルルールにつきそれぞれ専門家会合を設置すること等が決定された。
また,海運委員会以外の注目すべき動きとしては,4月と11月の2回にわたって便宜置籍船問題(開発途上国側は,途上国海運を発展させるためには,便宜置籍船を廃止させるべきであるとしているのに対し,先進国側は,便宜置籍船の問題点として指摘される堪航性の欠如,労働環境の劣等性については,ILO等の関係国際機関で既に検討されているとし,廃止が真に開発途上国の利益となるか疑問を有している)に関する政府間準備会合が開催された。南北双方の主張にはいまだ大きな相違があるが,83年の準備委員会を経て,84年早期には国際約束の採否を検討するため全権会議が開催されることになった。
このほか,第9回国際海運立法作業部会が開催された。
6.国連工業開発機関(UNIDO: United Nations Industrial Development Organization)
(1)82年においては,第16回工業開発理事会並びに第17回及び第18回常設委員会が開催され,UNIDOIVの準備及び仮議題の採択,84年~85年事業計画についての審議などが行われた。
82年には,協議システム会合として第3回鉄鋼会合,第1回工業融資会合及び第1回工業人材研修会合が開催され,各分野の専門家による意見交換が行われた。
(2)UNIDOを専門機関にするためのUNIDO憲章は,80か国以上の国が批准し,批准国間で効力発生について合意することをその発効要件としているが,7月に同憲章を批准した国の数が80か国に達したことから,同憲章発効への動きが具体化した。
12月の国連総会決議により,同憲章発効の合意に関する協議が批准国及び関心国間で83年に開催されることとなり,83年1月にはニュー・ヨークにおいてその第1段階としての手続協議が開かれ,5月に実質協議を開催することが決定された。
(3)82年における我が国の具体的協力としては,国際協力事業団による研修員(20名)の受入れ,国連工業開発基金への拠出に基づく研修事業として,工業開発エコノミスト養成コース(11名)及び工業製品品質改良コース企業内集団研修(16名)を実施したほか,国連工業開発基金へ95万ドルの任意拠出を行った。
7.国連開発計画(UNDP: United Nations Development Programme)
(1)UNDPは66年発足以来国連システムにおける技術協力の中心機関として開発途上国の経済的,社会的開発促進のための技術援助を行っている。UNDPは72年以来各国の国別開発計画を踏まえた5年を1サイクルとする援助方式を採用しており,現在は第3次サイクルに入っている。
(2)第3次サイクル(82年~86年)における拠出目標は毎年の拠出の伸びが14%であることを前提として設定されたが,第1年目の82年の総拠出額は6億7,370万ドルで前年とほぼ同額にとどまり,80年,81年に引き続き拠出目標を大きく下回ったため,UNDPにおいては今後いかに財源難に対応するかが大きな問題となっている。
(3)かかる状況を背景に,6月に開催された第29回UNDP管理理事会においては,各国からUNDPの技術協力機関としての中心的役割及び調整機関としての役割を強化すべきこと,財政的基盤を高めること等の意見が表明された。しかし,主要議題であった「UNDPの拠出をより安定的な予測可能なものにする方途」については結論が出ず,次回管理理事会までに3回会期間委員会を開催し,その検討結果を踏まえ,83年6月の管理理事会において再審議されることになった。
(4)82年におけるUNDPへの我が国の拠出額は5,140万8,000ドル(第4位)であるが,我が国の拠出は,79年3,500万ドル(第9位),80年4,100万ドル(第7位),81年4,590万ドル(第7位),と毎年着実に増大してきている。
8.世界食糧理事会(WFCL: United Nations World Food Council)
6月にアカプルコ(メキシコ)において第8回世界食糧理事会が開催され,開発途上国の食糧自立達成のための国家食糧戦略,アフリカの食糧問題,食糧安全保障のための開発途上国保有備蓄構想等につき討議され,開発途上国保有備蓄構想をUNCTAD,FAO,IWC,IMF等の国際機関の協力を得て,専門家レベルで検討すること等を内容とする「結論と勧告」を採択した。
また,83年2月にはマニラにおいてアジア食糧政策閣僚会議が開催され,アジア地域における国家食糧戦略の促進につき協議が行われた。