第4章 国連における活動とその他の国際協力

第1節 政治問題

1.第37回国連総会

81年12月,審議未了案件を残したまま休会に入っていた第36回国連総会は,9月20日,未審議案件たる国連パレスチナ難民救済機関(UNRWA)の審議をまず終了し,サイプラス問題,包括的交渉(GN)を第37回国連総会の仮議題に含めることを決定し,正式に閉会した。翌21日,第37回国連総会は,ホライ外務次官(ハンガリー)を総会議長として開催された。9月27日から10月15日まで各国首脳等による一般討論演説が行われ,大統領4,副大統領3,首相6,副首相6,外相117及び常駐代表等11を含む147か国の代表が演説を行った。我が国を代表して櫻内外務大臣が,10月1日に一般討論演説(資料編参照)を行った。今次総会では,139の議題が本会議及び七つの委員会において審議された。政治関係では,国連の平和維持機能強化,フォークランド諸島,カンボディア,アフガニスタン,中東,南部アフリカ問題等の主要議題につき活発な審議が行われた。

2.国連の平和維持機能の強化

(1)我が国は,国連がその主要な目的である国際の平和及び安全の維持のため必ずしも十分に機能を発揮していないとの認識に立ち,6月の第2回国連軍縮特別総会の鈴木内閣総理大臣演説,第37回国連総会の櫻内外務大臣一般討論演説等において,国連の平和維持機能の強化につき具体的提言を行った。

(2)9月,ペレス・デ・クエヤル国連事務総長が第37回総会に提出した年次報告は,従来の総花的な報告と異なり,平和維持機構としての国連の問題点を正面から取り上げた意欲的なものであり,大きな反響を呼んだ。

(3)我が国は,第37回総会において,率先して事務総長と協議しつつ,有志の国と共に,「事務総長年次報告」議題の下で,国連の平和維持機能の強化に関する決議案(資料編参照)を作成・提案し,これが全会一致で採択された。

3.国連における主要政治問題

(1)カンボディア問題

(イ)第37回国連総会におけるカンボディア代表権問題は,10月25日,委任状委員会報告に関する決議案の表決において,民主カンボディアの代表権を否認しようとする修正案が賛成29,反対90,棄権26で否決され,民主カンボディアの代表権が維持された。

他方,カンボディア情勢に関しては,第37回国連総会は,10月28日,ASEAN,日本等49か国共同提案の決議案を賛成105,反対23,棄権20で採択した。同決議案の内容は,外国軍隊のカンボディアからの撤退,カンボディア人の自決権行使,事務総長の仲介努力継続等の要請を盛り込んだものであった。

(ロ)このほか,82年の国連におけるカンボディア問題の主な動きとしては,2月後半から3月後半にかけ,アーメド事務総長特別代表がASEAN諸国,ヴィエトナム,ラオス,中国,日本等を歴訪し,問題解決のため事務総長がいかなるイニシアティヴを取り得るかなどにつき関係諸国と協議を行った。

また,カンボディア国際会議アド・ホック委員会も7月から9月にかけて,フランス,ベルギー,西独,タイ,スウェーデン,オーストリアヘミッションを派遣し,カンボディア問題の政治解決の探求を行った。なお,我が国は同委のメンバーとして訪タイ・ミッションに参加した。

(2)フォークランド諸島問題

4月,アルゼンティン軍のフォークランド諸島侵攻に端を発し,英国とアルゼンティンの武力紛争とフォークランド諸島の領有権帰属問題が国際社会の注目を浴びたが,国連では,安保理にて本件が審議され,停戦,撤兵,外交交渉を求める決議が採択されたほか,国連事務総長による精力的な調停努力が行われた。

また,第37回国連総会では,ラ米諸国が,英国,アルゼンティン両国政府による交渉再開を求める決議案(資料編参照)を提出し,賛成90,反対12,棄権52で採択された。我が国は本件決議案は,すべての国際紛争は平和的手段により解決されるべきであるとの我が国の基本方針に沿ったものであったので賛成した。しかし,同時に,我が国は投票理由説明において,アルゼンティンに対し,武力不行使の原則の遵守を強く訴えるとともに,紛争解決のための交渉が平和裏に行い得る環境醸成の必要性,アルゼンティン側が前提条件なしに幅広い話合いを行うとの態度をもって問題の解決を図ることの必要性を強調した。

(3)南アフリカ問題

(イ)南アフリカのアパルトヘイト政策問題

5月にマニラにおいて開催されたアジア地域反アパルトヘイト会議では,南アフリカに対する融資や投資を打ち切り,スポーツ,文化等の交流の中止をはじめ国連が勧告している他の経済制裁措置の実施を要請する「反アパルトヘイト行動に関するマニラ宣言」が採択されたが,我が国は棄権した。国連がこの種の会議をアジアで開催するのは今回が初めてで,我が国,豪州,ニュー・ジーランド等のアジア及びオセアニア地域諸国の政府,南アフリカ及びナミビアの解放団体,非政府機関等が参加した。

第37回総会では,南アフリカ問題に関し14件の決議が採択された。我が国は投票に付された12件の決議案のうち,南アフリカにおける投資禁止等5件に賛成し,対南アフリカ包括的強制制裁1件に反対し,その他6件に棄権した。

(ロ)ナミビア問題

ナミビアの早期独立のため,西側コンタクト・グループ(米,英,仏,西独,カナダ)は南アフリカ,南西アフリカ人民機構(SWAPO),フロントライン諸国(ザンビア,タンザニア,ジンバブエ,ボツワナ,モザンビーク,アンゴラ)等との交渉を進め,7月には独立ナミビアの制憲会議,憲法に関する諸原則につき関係者間で合意に達した旨の報告を国連事務総長に行ったが,ナミビア制憲会議組織のための選挙方法及びアンゴラからのキューバ兵撤退問題については最終的な決着がつかなかった。その後特にアンゴラからのキューバ兵撤退問題を巡り,米・南ア会談,ブッシュ米副大統領のアフリカ訪問,米・ソ協議,米・アンゴラ会談,南ア・アンゴラ会談及び国連事務総長のアフリカ訪問等を通じて引き続き話合いが続けられたが,関係者間で合意が見られなかった。

第37回総会では,5件の決議が採択された。我が国は国連ナミビア理事会作業計画等2件の決議に賛成したが,南アフリカによるナミビア不法占拠に起因するナミビア情勢,安保理決議435の履行等3件には棄権した。

(4)中東問題

1月に「ゴラン高原へのイスラエル法適用問題」が安保理において引き続き審議され,その関連で提出されたイスラエル制裁決議案は米国の拒否権行使により否決された。このため,第9回緊急特別総会が招集され(1月12日),対イスラエル制裁,孤立化決議が採択された。

その後3月から4月にかけて安保理は,イスラエルによる「西岸市長の解職問題」及び「ジェルサレムのイスラム聖地冒とく問題(乱射事件)」を審議したが,米国の拒否権行使により非難決議の採択にまで至らなかった。このため,第7回緊急特別総会(再開会期)が招集され(4月),イスラエルの諸占領行為を非難する決議が採択された。

6月の「イスラエル軍のレバノン侵攻問題」に関しては,安保理で10件,3度にわたり開催された第7回緊急特別総会で5件の関連決議が採択された。安保理において採択された主な決議には,我が国が単独提案した軍事行動の停止要請決議(決議508)のほか,イスラエル軍の撤退要請決議(決議509),国連監視員のベイルート配置決議(決議516),パレスチナ難民虐殺非難及び国連監視員増強決議(決議521)等の決議がある。また,南レバノンの国連レバノン暫定軍(UNIFIL)は,イスラエル軍の侵攻を防止できなかったが,任期を延長して引き続き平和維持活動を行っている。

第37回国連総会においては,このようなイスラエルによる一連の対外強硬政策にかんがみ,イスラエルの委任状を否認する動きが見られたが,決議採択までには至らなかった。

(5)イラン・イラク紛争

82年,イランの攻勢下に紛争が激化したため,安保理は停戦,撤退並びに国連監視団の派遣を要請する決議を2度にわたり採択した。また,第37回総会も同紛争がもたらした大規模な被害を討議した。

(6)アフガニスタン問題

2月,コルドベス特別政治問題担当事務次長がペレス・デ・クエヤル事務総長の個人代表の後任に任命された。同代表は4月にアフガニスタン,パキスタン及びイランを訪問し,その結果に基づき,6月,ジュネーヴにおいてコルドベス代表の仲介による,パキスタン外相とアフガニスタン外相間の第1回間接会合が行われた。右会合では,(イ)外国軍隊の撤退,(ロ)アフガニスタンの内政不干渉,(ハ)不干渉の国際的保障,(ニ)難民の帰還,の四つの議題について話し合われた。また,ペレス・デ・クエヤル事務総長は9月訪ソしブレジネフ書記長と会談するとともに,国連において10月にパキスタン,アフガニスタン両国外相と会談し,12月にハック=パキスタン大統領と会談を行って問題の解決に努めたが,具体的成果は得られなかった。

本問題は,前総会に引き続き第37回総会においても審議され,外国軍隊の即時撤退を要求するとともに政治的解決の努力の継続を国連事務総長に要請する決議が,賛成114(我が国を含む),反対21,棄権13,投票不参加9で採択された。

なお,83年に入り,1月末から2月にかけ,コルドベス代表は,パキスタン,アフガニスタン及びイランを訪問し,4月,ジュネーヴにて第2回間接会合を開催することに関係国の了解を取り付けた。また,3月にはペレス・デ・クエヤル事務総長がアンドロポフ書記長の招待により訪ソし,本件問題についても討議したが具体的進展はなかったと見られている。

(7)平和維持活動の包括的検討問題

第37回総会では,国連の平和維持活動(PKO: Peace Keeping Operations)を特別委員会にて引き続き検討する旨再確認し,第38回総会の仮議題として本件を含めることを決定した決議が採択された。

我が国は,PKOが現在,国際社会で果たしている役割を高く評価するとともに,これに対しできる限りの協力を行うとの基本的立場を表明し,事務総長の年次報告で指摘され,また我が国が提案した国連の平和維持機能強化に関する研究促進のための提言を踏まえ,国連はかかる強化の方策を積極的に検討すべきである旨加盟国に訴えた。

(8)非植民地化問題

第37回総会での本件審議では,キューバ,ソ連等がプエルト・リコ問題を同総会の議題とすべく掲上を要求したが,米国の反対により一般委は議題として掲上しない旨決定した。また,太平洋信託統治地域問題についても,ソ連等が施政国たる米国を非難する趣旨の決議案の採択を第四委において求めたが,米国,豪州,ノールウェー,我が国等の反対のため,本件決議案の表決は行われなかった。

その他,東チモール,西サハラ,外国経済権益活動問題等が81年同様審議された。

(9)国遠憲章再検討問題

第37回国連総会は,2月~3月ジュネーヴにおいて開催された国連憲章及び国連の役割強化に関する特別委員会第7会期の報告を審議の上,特別委のマンデートを更新する決議を採択した。

また,同総会は,特別委第7会期において起草が完了された「国際紛争の平和的解決に関するマニラ宣言」を全会一致で採択した。同宣言は,7年にわたる特別委の作業の最初の具体的成果とも言うべきものである。

4.ペレス・デ・クエヤル国連事務総長の来日

ペレス・デ・クエヤル国連事務総長は,6月の第2回国連軍縮特別総会に出席した鈴木総理大臣の招待にこたえ,8月23日から28日まで公賓として来日した。事務総長は,滞日中,天皇陛下と会見されたほか,鈴木総理大臣及び櫻内外務大臣と会談し,また広島市等を訪問した。鈴木総理大臣との会談においては,国連の平和維持機能の強化及び軍縮問題を中心に意見交換がなされた。

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