第6節 食糧・漁業問題
1.食糧問題
(1)世界食糧需給動向
82年の穀物生産は,オーストラリアの干ばつによる不作は見られたものの,米国をはじめとする主要穀物生産国の生産が順調に伸びたため,全体としては,国連食糧農業機関(FAO)の推定によれば,81年より約3,000万トン増加し約15億6,500万トンになったものと見込まれる。
この結果,82年末の繰越し在庫は世界の消費量の約21%に当たる3億3,200万トンになったものと推定されるが,この在庫の約50%は米国に偏在している。
一方,82年産(82年7月~83年6月)穀物の貿易量については,開発途上国の輸入量はその需要増と生産不振により年々増加しているものの,ソ連をはじめとする主要先進輸入国の輸入減により,全体としては前年より1,700万トン減の1億9,800万トンとなるものと見込まれている。
(2)主要穀物の安定確保
我が国は国内生産と海外からの輸入を適切に組み合わせることにより食糧の安定供給を確保することを基本としている。このため国内においては,生産性の向上に努めるとともに適切な備蓄政策を講じ,対外的には主要供給国との友好関係を維持発展させるとともに,アジア諸国を中心とする開発途上国の食糧増産のため資金的あるいは技術上の協力を推進してきている。また国際小麦理事会は,小麦の市況の安定及び世界の小麦問題に関する国際協力の観点から,世界の小麦需給等に関する情報交換及び協議を行っており,我が国は,この理事会の活動に積極的に参加してきている。
2.漁業問題
最近の世界経済の動向は,漁業分野においても,漁船燃油価格が依然として高水準にあること,水産物需要が停滞していることなどの面で様々な影響を及ぼしている。さらに,沿岸国による200海里水域設定という新たな海洋秩序への対応は我が国漁業にとり大きな課題となっている。
我が国は,82年においても,このような状況に対処するため我が国沿岸・沖合漁業の振興を図るとともに,遠洋漁船の安定的操業を確保するために数多くの外交交渉を行ってきた。また,開発途上国に対する水産無償協力の一層の推進をも図ってきている(第3章第3節参照)。
しかしながら,米国をはじめ,沿岸国の中には遠洋漁業国の水産物市場への自国水産物のアクセスと,当該国漁船の入漁条件をリンクさせようとする国があり,我が国遠洋漁業を巡る環境は厳しいものがある。
(1)二国間漁業交渉
82年においては,米国200海里水域内での我が国漁船の操業条件を定めた日米新漁業協定(87年まで有効)に署名した。また,ソ連との間では,「日ソ」・「ソ日」漁業暫定協定を83年まで延長する議定書を締結するとともに,我が国のさけ・ます漁業の82年の操業条件を規定した議定書を締結した。
他の国々についても200海里水域における我が国漁船の漁獲量・入漁料その他の条件等について交渉を行った。
(2)多数国間漁業交渉
「南極海洋生物資源保存委員会」の第1回会合が5月に開かれ,南極オキアミ資源の国際管理に向けての第一歩が踏み出された。また,我が国は,「北太平洋漁業国際委員会」「大西洋まぐろ類保存国際委員会」など多くの国際漁業機関の会合に積極的に参加している。
(3)捕鯨問題
鯨・いるか・あざらしなど海産哺乳動物の保護運動は欧米では根強い支持があり,7月の国際捕鯨委員会年次会議では,これらの運動を背景に,85/86年漁期からすべての商業捕鯨の捕獲枠を零とする決定が行われた。我が国はこの決定は科学的根拠を欠いていること等の理由から,11月,委員会設立条約の規定に従い異議を申し立て,我が国の立場を留保した(資料編参照)。一方,我が国はこれら反捕鯨諸外国に対し我が国の立場と実情を理解させるため一層の努力を続けている。