2.原子力の平和利用

(1)概況

2次にわたる石油危機を契機として,石油代替エネルギーとしての原子力の重要性に対する認識はますます強まっており,ヴェルサイユ・サミット宣言においても,エネルギーを節約し,原子力を含む代替エネルギー源の開発を促進するため,引き続き努力する必要性がうたわれている。

我が国においては,83年3月末現在,25基の発電用原子炉が稼働しており,その発電設備容量は,約1,700万kWと全発電設備容量の約13%を占め,今後一層の伸びが期待されている。

開発途上国においても原子力に対する関心が高まっており,77年の国連総会以来,開発途上国の経済・社会開発のための原子力平和利用における国際協力の在り方を検討するための国連会議を開催すべしとの意向も示されている。我が国の対開発途上国原子力協力については,農業,工業,医療などの分野でのアイソトープ,放射線利用を中心とした技術協力が行われているが,我が国は国際原子力機関(IAEA: International Atomic Energy Agency)を中心とするアジア・太平洋諸国を対象とした「地域協力協定」(RCA: Regional Cooperative Agreement)の加盟国として指導的役割を果たしており,82年においても,調査団及び専門家の派遣,研修員の受入れ並びにワークショップ,専門家会合及びセミナーの開催等に対して積極的な協力を行った。

他方,原子力開発の促進のためには,安全性の向上,放射性廃棄物の処理・処分問題の解決等に努めるとともに,原子力の利用に不可避的に伴う核拡散の危険をいかに防止するかという問題に効果的に対処する必要があり,原子力の平和利用と核拡散防止との両立を図るべく,多数国間及び二国間で種々の協議が行われている。8月には,核拡散防止を確保しつつ,我が国の核燃料サイクルを長期的かつ安定的に運営し得るための「プログラム・アプローチ」を導入した新日豪原子力協定が発効し,また,83年4月には同様内容を取り極める書簡がカナダ・日本間で交換されたが,これらは核拡散防止と原子力の平和利用とは両立するとの考えを具現化した好例と言えよう。

(2)各国との原子力関係

(イ)新日豪原子力協定の発効

核拡散防止策の強化とこのための規制を予見可能かつ実際的な態様で運営すべき手順(いわゆる「プログラム・アプローチ」)を明確にした新日豪原子力協定が,8月発効し,これにより我が国の核燃料サイクルを長期的,安定的に運営し得ることとなった。

新協定の下で,豪州最大のレンジャー鉱山から我が国向けのウラン輸出が順調に行われている。

83年3月新たに発足したホーク首相の労働党政権は,同年4月現在同国の原子力政策を見直し中と伝えられているが,豪州の現実的な対応が望まれている。

(ロ)米国との関係

81年10月の新しい日米共同声明・共同決定に基づき,両国政府は,84年末までに,日米原子力協定上の諸規定が,「予見可能で,かつ,信頼性のある態様」で実施され得るような「長期的取決め」を作成することとなっていたところ,6月,米国の新対外原子力政策(日本及び欧州原子力共同体(ユーラトム)諸国を対象として,原子力協定上米国が有する事前同意権の包括化を図るとの内容)が発表され,「長期的取決め」作成のための協議の前提条件が整った。これを受けて,8月以来協議が行われている。

(ハ)カナダとの関係

日加原子力協定改正議定書は,80年9月発効したが,81年2月の第1回日加合同作業委員会の際,カナダ産核物質に係る再処理等についてのカナダ政府の事前同意を包括的なものとするための協議を開始したい旨先方から提案があり,1月の第2回合同作業委員会以来,協議が行われてきたところ,このための交換書簡が83年4月14日オタワにおいて署名・交換された。

これにより,今後は,これまでのようにカナダ産核物質の再処理や英国及びフランスヘの再処理のための管轄外移転について,カナダ政府の事前同意を個別のケースごとに得る必要はなくなったため,我が国の原子力平和利用の安定的な運営・発展に資することとなる。

(3)多数国間の原子力協力

我が国は82年も,原子力発電経験会議IAEAにおける国際プルトニウム貯蔵(IPS: International Plutonium Storage)や供給保証委員会(CAS: Committee on Assurances of Supply)等の諸会合に積極的に参加するとともに,アジア地域においては,RCAの枠内で幅広い協力を行った。

(4)国際原子力機関(IAEA: International Atomic Energy Agency)の活動

(イ)81年に発生したイスラエルのイラク原子炉爆撃事件に関連し,9月に開催された第26回総会に提出されたイスラエルの特権及び権利停止決議案は否決されたが,イスラエル代表団の委任状は否認された。

(ロ)このため米国は,対IAEA政策を再評価するとして理事会等への出席を見合わせ,また,未払分の分担金等の支払いも停止したが,理事会から「イスラエルはIAEAのフルメンバーである」との保証を得て83年2月理事会で復帰を決定した。

(ハ)パキスタンのカヌップ炉に対する保障措置の改善につき,83年2月に全面的解決を見た。

(ニ)技術援助基金の大宗を占める任意拠出金目標額を,6月理事会で,84年からの3年間についてそれぞれ2,250万ドル,2,600万ドル及び3,000万ドルとすることになった。

(ホ)9月の第26回総会でナミビアのIAEA加盟が承認され,83年2月に同憲章受諾書が寄託された。これで加盟国は111になった。

(5)原子力平和利用国連会議

77年の第32回国連総会において,「経済的社会的発展のための原子力平和利用に関する国連会議」の開催についての決議が採択されたことに基づき,81年8月以来4次にわたる準備委員会が開かれたが,国際協力に際して核不拡散をどのように取り扱うかにつき各国の思惑が一致しないため,議題等が決まらず,開催の見通しはついていない。

(6)経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)の活動

(イ)我が国を含むNEA加盟国は,今日原子力開発を推進するに当たり様々な問題点や制約条件放射性廃棄物の処理・処分問題,核燃料サイクルの経済性見通し,パブリック・アクセプタンスの問題等に直面している。したがって,NEAには,各国が抱えているこうした問題を積極的に集約し,それらを国際協力の課題として取りまとめていくことが求められている。

(ロ)こうした背景から82年は,NEAの活動を技術的な専門家活動を中心とする従来の活動から,より広い政策的意義を有する政策指向型へと転換する過渡期であった。

すなわちNEAの活動については,細分化された専門的事項への偏重が数年前から問題視され,NEAの在り方の見直しの必要性が指摘されてきたところであるが,82年は新たに就任した米国出身の事務局長の積極的なイニシアティヴの下にNEAの体質改善の検討が精力的に進められた。

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