第4節 資源・エネルギー問題

1.国際石油情勢

81年春以降の需給緩和基調は,82年に入っても継続し,OPECをはじめとする産油国は,引き続き販売不振による値下げ圧力を受けた。

このため,82年3月の臨時総会においてOPECは,全体及び国別の生産上限を設定し,事態の改善を図った。OPECの会議においては常に価格問題が討議の中心となっていたが,同総会において具体的な生産上限を設定したことは,OPECが生産カルテルヘの動きを示すものとして注目された。

しかし,この生産上限は,当時の生産量をそのまま追認したにすぎず,その実効については疑問視する向きもあったが,事実,一部加盟国の値引き販売,国別上限を越えた生産等により,石油市場は軟化傾向を続けた。

OPECは7月に再度臨時総会を開催したが,何ら具体的合意は得られず,かえって加盟国間の利害対立を表面化させた結果となり,生産上限も事実上有名無実化され,石油市場の混乱が懸念された。

この結果,一部産油国では歳入不足及び債務累積等財政上の困難に直面し,また,OPEC全体としても82年の経常収支は赤字に転じたものと見られる。

83年に入り,石油会社の買い控え等による値下げ圧力は一段と高まり,まず,北海,エジプト等の非OPEC諸国が販売価格の引下げを行った。

このためOPECは更に厳しい対応を迫られることとなり,非OPECを含めた接触の末,3月の臨時総会においてOPEC結成以来初めて基準原油価格の引下げを決定した。

このような合意に達したことは,従来の厳しい経済的現実にかんがみ,加盟国間における対立を棚上げし,経済的利益の調整に一応の成功を収めたものであり,これにより,一部に懸念されていた石油市場の混乱は短期的には一応回避されたものと見られる。

今後は,国際石油情勢の緩和基調の中で,OPECはその価格支配力の低下を補うべく,非OPEC諸国との協調を図るため,種々の接触を推進することも予想される。

(1)生産上限と基準原油価格維持の決定

世界経済の低迷,エネルギー消費構造の変化等により先進国の石油需要は79年をピークに減少に転じ,82年のOECD石油消費量は79年に比し,15%以上の減少となった。

さらに余剰在庫の取崩しも加わり,同年のOPEC生産量は大幅に減少した。一方,比較的柔軟な石油政策をとり得た非OPEC諸国は堅調な生産を維持し,OPECの生産量を上回る結果となった。

販売不振が続く中でOPECは3月の臨時総会において,基準原油価格は維持しつつ,OPEC全体の生産量を4月1日から1,800万B/D(サウディ・アラビアが自国の生産量を50万B/D引き下げたために実質の上限は1,750万B/D)とすることを決定した。

(2)決定の不履行

臨時総会前は大幅に下落していたスポット価格は,この決定により第2四半期に入ると基準原油価格の水準まで回復した。

しかしながら,生産上限は,臨時総会当時のOPEC生産量を追認したにすぎず,OPECの一部加盟国は,値引き販売(イラン)や,国別の生産上限を越えた生産(イラン,ヴェネズエラ,リビア,アルジェリア)を行い,石油市場は緩和基調が継続した。

OPECは,82年中4回(3月,5月,7月,12月)の総会と,数次にわたる市場監視委員会(ア首連,アルジェリア,インドネシア,ヴェネズエラの4閣僚にて構成され,石油市場動向を把握し,講ずべき措置を総会に勧告することを目的としている)を開催し,石油市場への対応を協議したが,基準原油価格の維持と生産上限の必要性は認めながらも加盟各国の利害が対立し,OPECとしての統一行動が打ち出せない状態であった。

販売量の減少は,原油価格の低下傾向と相まって産油国の石油収入を大幅に減少させ,一部の国においては,国家予算及び開発計画の見直し等の困難に直面するに至っている。

(3)態勢立直しへの動き

12月のOPEC総会では新たに83年の生産上限を1,850万B/Dとしたが,従来の焦点であったサウディ・アラビア原油と軽質のアフリカ原油との油種間格差の問題は,アフリカ原油が北海原油と競合する関係から何の決定もなし得なかった。

(4)値下げ圧力の増大

83年に入り,世界的な暖冬による石油需要の減少,先行きの原油価格値下がりを見越した買い控え等により石油需要は更に減少し,産油国に対する価格引下げの圧力は一段と高まった。

このような状況において,北海をはじめエジプト,ソ連は相次いで公式販売価格の引下げを行った。

北海が値下げを行ったことにより,同原油と競合し,財政上最も深刻な困難に直面していたナイジェリアは,OPECの合意を待たず直ちに自国産原油の引下げを発表した。1月の非公式会合においても具体的な対応策を打ち出し得ないままであったOPECは,このため一層厳しい選択を迫られることとなった。

(5)基準原油価格の引下げ

このような原油価格体系の混乱に対応するためOPEC諸国は,非OPEC諸国(メキシコ,英国等)への接触を行うとともに,3月3日からロンドンでOPEC8か国の非公式協議の結果,3月14日,臨時総会を開き,OPEC結成以来初めて基準原油価格を引き下げ(34ドル/バーレル→29ドル/バーレル),国別上限を付したOPEC全体の生産上限枠(1,750万B/D)を決定した。

(6)国際石油市場安定化への動き

現在のような需給緩和の時期にこそ,国際エネルギー情勢安定のため,我が国をはじめ消費国側は,気を緩めることなく,IEAでの合意を踏まえ省エネルギー,代替エネルギーの開発等の政策努力を推進すべきであるとの立場をとっている。

特に我が国としては,無秩序な石油価格の変動を克服することは,経済活動全般への自信と,民間の投資意欲を回復し,ひいては世界経済の回復をより確実なものにするとの見地から,石油市場の安定に向けて産油国との相互理解を増進するよう種々の場において主張してきた。

他方,前述のごとく,OPEC諸国は非OPEC諸国と協調の方向にあり,これら産油諸国が消費国との関係をどのように改善していくかは今後注目されるところである。

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