第3節 国際通貨・金融問題
1.国際通貨情勢
82年の国際通貨情勢は,81年に引き続き,主として米国の金融政策の動向と密接に関連したものであった。
(1)82年の米国の金融政策は,年前半までは,それまでの厳格なマネー・サプライのコントロールを基本的に維持するものであり,この間米国金利は,高水準で推移した。加えて,フォークランド紛争,中東情勢等の国際緊張の高まりもあって,米ドル相場は,年初来,欧州通貨,円に対して堅調に推移した。
しかしながら,夏以降の米国の金融政策を見ると,(あ)インフレの沈静化,(い)景気低迷の長期化,(う)メキシコをはじめとする国際金融不安の台頭などを背景に,次第に緩和気味の運営に転じ,同国の金利は,公定歩合をはじめとして年末にかけ大幅に低下した。この間,米ドル相場は,米国の金融緩和が市場に根付くまでは,金利低下局面においても強含みに推移していたが,10月末以降は,金利の本格的低下期待と共に軟化し,年末にかけ急速に下落をたどった。
(2)欧州通貨・日本円の対ドル相場は,かかる地合いを受けて年初から秋口まで軟化傾向にあったが,年末にかけて回復を示した。ただし,英ポンドは,石油価格の先行き軟化による経常収支悪化予想等を背景に下落を続けた。
(3)欧州通貨制度(EMS)内では,各国の経済パフォーマンス格差を反映させる形で,2月と6月に通貨調整が行われた。
2.債務累積問題
(1)開発途上国全体の中長期対外債務は,82年末で,6,260億ドルに達するものと見込まれ(OECD統計),71年末の約7倍となっている。この間,債務の返済額は,約12倍の1,313億ドル(82年)に達し,その輸出収入に占める割合も20%を超える高い水準となった。
(2)かかる開発途上国の債務問題の深刻化は,2度にわたる石油危機後,多くの開発途上国において引締的な政策導入が遅れたことのほか,先進国経済の低迷,一次産品価格の下落に伴う輸出収入減,世界的な高金利下で利払い負担増が影響を及ぼしている。
(3)82年には,81年の東欧諸国に次いで,メキシコをはじめとする中南米諸国を中心に債務救済が相次いだが,これは,比較的信用力があり借入れも順調であった中進国にまで,債務返済困難が及んだことを意味するものであった。このため,債務累積問題は,国際金融システムや国際経済全体に影響を及ぼす問題としてクローズアップされ,それがまた,今日の債務問題の大きな特徴となっている。
(4)国際金融市場では,こうした債務返済困難の増加を背景として,カントリー・リスクに対する認識が急速に高まった。81年のポーランド問題を契機として東欧諸国への貸出しが慎重化したのに加え,82年には,メキシコの債務救済要請を契機として中南米諸国への貸出しが慎重化するなど,銀行の対外貸出しは一層選別化の方向に動き,同時に貸出しの条件も厳しいものとなった。
(5)しかしながら,かかる借入国の債務返済困難や貸出し慎重化は,国際金融システムを混乱させるものではなかった。これまでの対応を見ると,(あ)借入国の安定化政策の実行,(い)BIS・IMFによる呼び水的な金融支援,(う)各国の公的・民間債権者が債務繰延べに応じ,新規供与にも応じる等の諸措置が講じられた結果,困難な事態の発生は未然に回避されてきている。
(6)債務累積問題の解決には,今後長期間を要するものと見られるが,何よりもまず,債務国側で,適切な債務管理と経済調整努力を継続することが必要である。また,かかる債務国の調整を円滑に促すには,先進国としても,景気の拡大を持続的なものとすることが重要である。さらに,
(あ)途上国の輸出拡大のため,開かれた市場を維持すること。
(い)金利低下のために適切な政策運営を行うこと。
(う)IMF,世銀を通じ国際的な協力を継続し,必要に応じて国際通貨体制を強化すること。
(え)民間銀行に対し債務国の調整努力と合致した貸出継続協力を求めること。
(お)公的債務を中心とする低所得国に対しては,二国間,多国間援助を充実すること,等の対応を国際的な協力・協調の下に進めることが望まれる。
3.国際通貨基金(IMF: International Monetary Fund)を巡る動き
82年には,開発途上国の債務累積問題の深刻化の中で,IMFの融資活動は活発化した。また,IMFが加盟国の調整プログラムを立案し,その実施を助けるためには,十分な資金規模を有する必要があるとの認識が深まり,83年年初の一連の国際通貨関連の会議において,IMF資金基盤充実のための合意がなされた。
(1)第8次増資
IMFの資金補充は原則として,増資によることとされている。第8次増資については,81年2月から理事会等の場で検討が進められてきたが,82年9月のIMF・世銀総会において,十分な規模の増資を行うことで幅広い支持が得られた。その後,金融情勢の不安定要因の増大にもかんがみ,作業は早急に進められ,83年2月のIMF暫定委員会では,以下のような合意に達した。
(イ)増資の規模
現行の約610億SDRから900億SDRに拡大する(約47%の増資)。
(ロ)増資の配分方法
40%は現行の出資割当額に応じて割り当て,残り60%は,計算上の出資割当額のシェアに応じ,世界経済における加盟国の相対的なポジションを反映した選択的な調整の形で配分する。
(ハ)増加した出資割当額の払込み
各国の増加した出資割当額の25%は,SDR又はその他の利用可能通貨で支払う。
(ニ)増資の発効期日
増資が83年末までに発効できるよう,各国政府に対し,直ちに必要な手続をとるよう要請する。
(2)GABの拡大
暫定委に先立つ83年1月の10か国蔵相会議では,GAB(IMF加盟の先進10か国間で,この中のある国がIMFから引出しを行う場合,他の参加国が約束した資金規模内でIMFに対し自国通貨を貸し付ける取極)の拡大につき,以下のとおり合意された。
(イ)GABの規模を64億SDRから170億SDRに増加する。
(ロ)スイスのGAB正式参加を認める。
(ハ)IMFと他の加盟国間でのGABと同様の借入取極を歓迎する。
(ニ)GAB資金の貸付先を先進10か国に限らず,国際金融制度の安定性が脅かされるような場合には,非参加国の利用も可能とする。
(3)IMFの融資状況
82年度(81年5月~82年4月)における一般勘定を通じた流動性の供給額は,グロスで70億SDR(81年度44億SDR),ネットで49億ドル(同19億SDR)に達し,IMFを通じた国際収支支援はかなりの増加を示した。
(4)SDR配分問題
82年1月からの第4基本期間におけるSDRの配分については,基本的に合意が得られず,「次回暫定委員会までに加盟国の間で広い支持を集め得る新しいSDRの配分提案ができるかどうかを専務理事が判明できるよう,理事会に対し,成長,インフレ,国際流動性の最近の動向を検討するよう要請した」(第20回1MF暫定委コミュニケ)。