4.東南アジア諸国連合(ASEAN: Association of South East Asian Nations)
(1)域内協力の状況
ASEANは,67年の設立以来,相互の差異を克服し,調和のとれた地域協力機構として着実に発展し,地域の平和と安定にとって欠くべからざる重要な存在となっている。82年は,結成以来15周年目に当たり,8月にはインドネシアのジャカルタにおいて盛大な記念行事が開催された。また,10月には15年間にわたって積み重ねられてきたASEANの諸活動を,その運営面も含めてレヴューし,併せて将来の展望及び改革案を具体的な形で取りまとめるべくASEANタスク・フォースを結成するなど,地域協力を更に強化する試みが行われた。
(イ)政治面での協力
ASEANは,82年も国際世論の支持の下に,カンボディア問題の包括的政治解決の実現に向けて,政治面での積極的な協力を推進した。特に82年は,カンボディア問題の膠着化,長期化に伴う国際的関心の低下への懸念からASEAN諸国は,民主カンボディア政権,ソン・サン派及びシハヌーク派の三派から成る抗越連合政府結成の実現のため積極的な外交努力を傾注し,この結果,7月に民主カンボディア連合政府(シハヌーク大統領,キュー・サンパン外務担当副大統領,ソン・サン首相)が正式に樹立された。第37回国連総会においては,国際的にも知名度の高いシハヌーク大統領を前面に出して国際的支援の獲得に努めた結果,民主カンボディアの国連代表権は81年を大幅に上回る表決により維持されるとともに,カンボディア情勢に関する決議案も圧倒的多数の支持を得て採択された。
さらにASEANは,外相会議,高級官吏会合等の場を通じてカンボディア問題のほか,国連で取り上げられている諸問題についても共通の立場の維持・確立に努めた。
(ロ)経済面での協力
ASEANの域内経済協力は,82年を通じて貿易,工業プロジェクト,産業補完計画,エネルギー等広範な分野で着実に発展した。域内経済協力の推進機関は経済閣僚会議が中心であり,関係閣僚会議や各種委員会の活動の報告を受け総括を行った。
1月,クアラルンプールで開催された第12回経済閣僚会議では,産業補完計画の対象産品について一律50%の関税引下げを行い,また域内特恵関税のシーリングを100万米ドルとし,対象品目を8,259品目に拡大した。
5月,マニラで開催された第13回経済閣僚会議では11月のGATT閣僚会議に向けて,保護主義の防圧,構造調整,熱帯産品をはじめASEANとしての優先議題を確認した。
11月,シンガポールで開催された第14回経済閣僚会議では,ASEAN合弁事業基本協定が署名されたほか,域内特恵について,1品目の輸入額1,000万ドルを新たなシーリングとして,20%~25%の一律関税引下げが適用されることとなった。
(2)域外諸国とASEANとの関係
域外先進国との協力関係は82年も着実に進展してきたところ,ASEANと域外諸国との主要会議は次のとおりである。
時期 | 会議名 | 開催地 |
82年1月 3月 5月 6月 10月 11月 83年3月 |
第5回ASEAN・日本フォーラム 第4回ASEAN・米国協議 第3回ASEAN・カナダ協議 ASEAN拡大外相会議(日,米,豪,加,EC,ニュー・ジーランド) 第7回ASEAN・豪州フォーラム 第3回ASEAN・EC合同協力委員会 第4回ASEAN・EC閣僚会議 |
ジャカルタ ワシントン マニラ シンガポール ペナン パタヤ バンコク |
(3)我が国とASEANとの関係
82年は,我が国とASEANとの間に,一段と多角的な協調・交流関係の発展が見られた。11月,中曽根総理大臣は組閣直後,ASEAN各国首脳に対し電話による挨拶を行い,また83年1月の施政方針演説においても我が国のASEAN重視の姿勢を宣明し早期のASEAN諸国訪問を表明した。
政治面では,6月の第5回目・ASEAN外相会議,第37回国連総会などの機会に我が国はカンボディア問題の包括的政治解決を目指すASEANの立場を支持し緊密に協力した。また難民問題についても,6月の拡大外相会議において「自主帰還難民受入れセンター」の設置を提案するなど積極的に協力した。
経済面では,82年の日・ASEAN間貿易は順調に拡大し往復で343億ドルに達したほか,対ASEAN直接投資累計も100億ドルを超えた。また,我が国は特恵関税の引下げ,輸入制限の緩和等市場開放措置を実施し,ASEAN産品の輸入拡大に努力した。さらに,我が国とASEAN諸国の協同運営によるASEAN貿易投資観光促進センターもASEAN諸国の対日輸出促進に大きく貢献したが,我が国は82年度分として同センターに対し,5億2,000万円の拠出を行った。
経済・技術協力の分野では,我が国はASEAN諸国を最重点地域として積極的な資金・技術協力を実施した。特にASEAN工業プロジェクトに対し,引き続き協力を行ったほか,ASEAN人造りプロジェクトについても各国と協議を重ね順次プロジェクトの内容を確定した。
文化面でも,ASEAN文化基金(50億円)の運用は順調に進展し,またASEAN奨学金制度に対し第3年度分の100万ドルを拠出した。
ASEAN地域研究振興計画については,計画の第一段階として「日・ASEAN産業協力」に関する研究が実施された。