第4章 国連における活動とその
他の国際協力
第1節 政治問題
1. 第36回国連総会
第36回国連総会は,9月15日,イラクのキタニ外務次官を議長として開催された。その後12月にいったん休会となり,82年3月,国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA: United Nations Relief and Works Agency for Palestine Refugees in the Near East)の財政問題審議等のため再開された後再び休会となった。開会冒頭の9月15日,バヌアツ共和国の加盟が認められ,同25日にはベリーズが,11月11日にはアンティグア・バーブーダの加盟がそれぞれ認められ,国連加盟国は,157か国となった。9月21日から一般討論演説が行われ,大統領6名,首相5名,皇太子1名,副大統領3名を含む,145か国の代表が演説を行った。我が国を代表して,園田外務大臣が,9月22日に一般討論演説(資料編参照)を行った。
今次総会では,138の議題が本会議及び七つの委員会において審議された。
政治関係では,カンボディア,アフガニスタン,中東,南部アフリカ問題等の主要議題につき活発な審議が行われた。
2. 国連事務総長任命問題
国連事務総長任命問題は,ワルトハイム事務総長の任期終了(81年末)に伴い安全保障理事会において審議され,当初ワルトハイム事務総長とサリム・タンザニア外相との間で投票が行われたが,16回にわたる投票にもかかわらず決着を見ぬまま両候補が退いた。結局,安保理は,新たな候補者の中から,ペルーのハビエル・ペレス・デ・クエヤル候補を次期国連事務総長として,82年1月1日から86年12月31日まで(5か年間)の任期で任命するよう総会に勧告することを決定した。右決定を受けて,国連総会は,12月15日の本会議で,同候補を第5代国連事務総長として全会一致で任命した。
3. 安全保障理事会理事国としての活動
我が国は,安全保障理事会において,81年~82年の2か年を任期とする非常任理事国として,積極的な役割を演じた。安保理は,国際の平和と安全の維持に関する主要な責任を有する重要な機関であり,このため,イスラエルのレバノン攻撃(3月),ナミビア問題(4月),イスラエルのイラク原子炉攻撃(6月),南アフリカ共和国のアンゴラ侵攻(8月),セイシェルにおける傭兵事件(12月),イスラエルによるゴラン高原併合問題(12月及び82年1月),ニカラグァ問題,アラブ被占領地情勢(以上82年3月)等の諸問題の審議が行われた。我が国は,安保理理事国としての責務を自覚しつつ,関係国が対話と協調の精神に基づいて問題の実効的かつ相互に受諾可能な解決のために真摯な努力を払うべきであるとの基本的態度をもって臨み,関係諸国により評価された。なお,我が国は,82年5月に安保理議長国となり,ゴラン高原における国連兵力引離し監視軍(UNDOF: United Nations Disengagement Observer Force)の任期を更新する決議の採択等に寄与した。
4. 国連における主要政治問題
(1) カンボディア問題
国連決議35/6に基づき7月にニューヨークにおいて国連主催によるカンボディア国際会議が開催され,外国軍隊のカンボディアからの早期撤退及び国連監視下における自由選挙の実施を含むカンボディア問題に対する包括的政治解決の基本的枠組みを提示する会議宣言(資料編参照)及び国際会議アド・ホック委員会の設立を決定する決議(資料編参照)を全会一致で採択した(我が国はアド・ホック委のメンバー国となった)。
第36回国連総会におけるカンボディア代表権問題は,9月18日の委任状委員会報告に関する決議の表決において,民主カンボディア政府の代表権を否認しようとする修正案が賛成36・反対79,棄権30で否決され,民主カンボディア政府の議席が確保された。
他方,カンボディア情勢に関しては,総会は,10月21日,ASEAN,日本等35か国が共同提案した決議案を賛成100,反対24,棄権20で採択した。
同決議は,カンボディア国際会議宣言・決議を承認するとともに,我が国が一般討論演説において行った問題解決のための交渉に至る過程において事務総長特使の関係国派遣が有益である旨の示唆を盛り込んだものであった。
82年に入り,事務総長は,2月後半から3月後半にかけ,アーメド特別代表をASEAN諸国,ヴィエトナム,ラオス,中国,日本等に派遣し,問題解決のため事務総長がいかなるイニシアティヴを取り得るか等につき関係諸国と協議を行わしめた。
(2) アフガニスタン問題
2月,アフガニスタン問題に関する国連事務総長の個人代表にペレス・デ・クエヤル特別政治問題担当国連事務次長が任命された。同代表は4月及び8月にパキスタン,アフガニスタン両国を訪問し,また,9月に国連において両国外相と会談を行って問題の解決に努めたが,具体的成果は得
られなかった。
本問題は,前回総会に引き続き第36回総会においても審議され,外国軍隊の即時撤退を要求するとともに政治的解決の努力の継続を国連事務総長に要請する決議が,賛成116(我が国を含む),反対23,棄権12,投票不参加6で採択された。
(3) イラン・イラク紛争
パルメ国連事務総長特使は,80年11月のイラン・イラク訪問に引続き1月,2月及び6月の3度現地を訪問し調停に努めたが,具体的成果は得られなかった。
(4) 中東問題
81年は,新たに発生したイスラエルによる「イラク原子炉攻撃事件」(6月),「ゴラン高原へのイスラエル法適用問題」(12月)が安保理において審議され,イスラエルの原子炉攻撃を非難する決議(資料編参照)及びゴラン高原へのイスラエル法の適用等を無効として取消しを要請する決議がそれぞれ採択された。また,3月と7月には南レバノンを巡り悪化したレバノン情勢について審議が行われ,国連レバノン暫定軍(UNIFIL: United Nations Interim Force in Lebanon)兵士死亡事件に関する議長声明及びイスラエル・PLO間の停戦決議が採択された。その他,国連平和維持活動に関して,UNDOF,UNIFILの活動を継続する決議が4件採択された。
第36回総会においては,「中東情勢」,「パレスチナ問題」,「イスラエル占領地人権問題」及び「近東におけるパレスチナ難民のための国連救済事業機関(UNRWA)」等について,ほぼ例年どおりの審議が行われた。しかし,81年に新たに発生した問題として,イスラエルによる「イラク原子炉攻撃」,「地中海一死海運河計画」があり,イスラエルの原子炉攻撃非難決議及び運河計画中止要請決議がそれぞれ採択された。また,「中東情勢」については,安保理審議と並行してゴラン高原問題が審議され,イスラエル法の適用等を無効とし,取消しを要求する決議が採択された。
(5) 南部アフリカ問題
(イ) 南アフリカ共和国のアパルトヘイト政策問題
80年11月の南ア最高裁のANC(南アの解放団体)メンバー3名に対する死刑判決に関連し,2月,安保理議長(フランス)は,全安保理メンバーを代表して,これら3名に対する死刑判決に重大な懸念を表明するとともに,南ア政府に対し,南ア情勢の悪化を回避するため,かかる懸念を考慮にいれるよう強く勧奨する旨の議長声明を発出した。
5月にパリにおいて開催された対南ア制裁国際会議では,アパルトヘイト政策撤廃を目指し,各国政府と国民を動員することを狙いとする計画を含む「対南ア制裁に関するパリ宣言」及び「ナミビアに関する特別宣言」が採択された。この会議は,第35回総会決議に基づき,国連反アパルトヘイト特別委員会がアフリカ統一機構(OAU)と協力して組織したものであるが,我が国及び多数の欧米諸国は参加しなかった。
第36回総会では,南ア問題に関し16件の決議が採択された(うち,2件は無投票で採択された)が,そのうち10件は何らかの形で対南ア制裁に言及したものであった。我が国は,投票に付された14件の決議案のうち,対南ア武器禁輸等4件に賛成し,南ア情勢,対南ア包括的強制制裁等3件に反対し,対南ア制裁国際動員年,対南ア石油禁輸,対南ア制裁国際労働組合会議等7件に棄権した。
(ロ) ナミビア問題
1月にジュネーヴで開催された国連ナミビア独立計画実施前会議が不成功に終わり,同年中にナミビア独立を達成するとの国連の構想の実現が不可能となったこと等にかんがみ,4月に開催された安保理においては,南アに対し国連憲章第7章に基づく強制制裁を課するアフリカ諸国等提出決議案5件中4件が表決に付され,いずれも米国,英国,フランスの拒否権行使により否決された(我が国は,武器禁輸決議案に賛成したが,憲章第7章に基づき各種の対南ア強制制裁措置をとることを決定するいわゆるアンブレラ決議案及び対南ア包括的制裁,石油禁輸の各決議案に棄権した)。
8月下旬,南ア軍がナミビアに隣接するアンゴラに侵攻し,アンゴラ軍と交戦する事態が発生したことに関連し,安保理は,(i)対南ア非難,(ii)南ア軍の即時無条件撤退要請,(iii)調査委のアンゴラ派遣決定を骨子とする非同盟決議案の表決を行った(我が国は賛成した)が,米国の拒否権行使により決議は不成立に終わった。ナミビア問題審議のため,9月3日から開催された第8回緊急特別総会は,同14日,(i)南アのナミビア不法占拠非難,(ii)安保理決議435の即時無条件実施要請,(iii)安保理に対南ア強制制裁を課するよう要請,(iv)加盟国に対し,南アを孤立させるため,同国との全取引の停止を要請する等を骨子とする決議を採択した(我が国を含む25か国は棄権した)。
第36回総会では,6件の決議が採択された。我が国は2件の決議に賛成したが,加盟国に対し,南アとのすべての取引の停止,外交,領事,貿易関係の断絶を求める決議案等4件には棄権した。
(6) 非植民地化問題
第35回総会と同様,第36回総会においても東チモール,西サハラ,外国経済権益活動問題等が審議された。特に,西サハラ問題に関しては,6月に開催された第18回OAU首脳会議において,モロッコが本件紛争発生以来初めて西サハラにおける住民投票を受諾し,本件紛争の解決に向けて進展が見られたが,決議としては従来どおりの対モロッコ非難決議が採択された。
(7)平和維持活動の包括的検討問題
第36回総会においては,平和維持活動の包括的検討問題に関し,国連平和維持活動(PKO: Peace Keeping Operations)特別委員会に対して,PKO合意ガイド・ラインの完成に努力し,PKO実施に伴う特別の諸問題に注意を払うよう要請する決議が採択された。
我が国は,PKO特別委員会は所期の成果を挙げていないものの,その困難な課題にもかんがみ十分時間をかけて作業を続けるべきこと,財政問題については,国連の費用として総会によって割り当てられるところに従い,加盟国がその経費を負担すべきであることを強調し,PKOガイド・ライン作成と具体的方策の検討に強い期待を有していることを表明した。
(8) 国連憲章再検討問題
(イ) 本件に関する特別委員会第6会期の報告を審議した第36回総会は,特別委のマンデートを延長するとともに,「紛争の平和的解決」議題の下で,従来審議されてきている総会宣言案(「マニラ宣言案」)の起草を完了すること及び「国際の平和及び安全の維持」議題の下で各国からの諸提案のリスト・アップを行い,勧告を作成することを要請する決議を採択した。
(ロ) 上記決議に基づき,82年2月~3月,ジュネーヴにおいて開催された本件特別委第7会期は,紛争の平和的解決に関するマニラ宣言案の起草を完了し,第37回総会に対し採択のため送付した。「国際の平和及び安全の維持」の分野においては,各国提案の一応の審議を了したものの,勧告作成については,非同盟諸国から安保理常任理事国全会一致の規則の一部制限に関する勧告案改訂版が提出されたが,審議未了となった。