第4節 政府直接借款

1. 概況

政府直接借款は,通常,円借款と呼ばれ,供与形態の違いにより,プロジェクト借款,商品借款及び債務救済の3形態に区分される。円借款は,我が国二国間ODAの大宗を占め,開発途上国への重要な援助手段となっている。81年度の円借款供与実績(交換公文締結額)は,5,610億円と80年度実績(4,813億円)を16.6%上回る着実な増加となり,1958年のインドに対する円借款供与以来,これまで24年の間に60か国に対し,4兆4,979億円(82年3月末累計)を供与している。また,我が国を取り巻く内外経済環境の厳しさにもかかわらず,援助の新中期目標に掲げられた円借款の積極的拡大を図っているほか,調達方式の一般アンタイド化等引続き円借款の質・量の改善に努めている。

2. 81年度供与実績の特徴

(1) 地域別供与動向

我が国は,これまで地理的,歴史的,経済的に密接な関係を有するアジア地域を重点的に円借款を供与してきているが,我が国の経済力の拡大に伴う国際的責務の増大及びODAの5年倍増という新中期目標をより確実にするため,中近東,アフリカ,中南米等アジア以外の地域に対する円借款の拡充にも努めている。こうした結果,81年度のアジア以外の地域に対する円借款供与額(交換公文締結ベース)は,前年(821億円)を大幅に上回る1,292億円となった。

 

図1 地域別供与実績(交換公文締結ベース)

(2)形態別供与動向

新たに供与する円借款は,形態上,プロジェクト借款,商品借款に2分類される。前者は,道路,港湾,発電所,通信施設等のプロジェクトに対して供与するものであり,後者は,国際収支の悪化や外貨不足等から,国内経済を維持するのに必要な基礎的物資の輸入に困難を来たしている国に対して,その輸入資金として供与するものである。近年図2のとおり,商品借款の割合が減少し,プロジェクト借款の割合が増加する傾向にあったが,81年度は,商品借款供与額が前年度(425億円)の2倍以上の974億円となった。更に,中国に対する既往プロジェクト借款からの商品借款への転用分(400億円)を含めると80年度の3倍となる。また,既往借款に対し,その債務返済が困難に陥った場合,国際的な協調の下に行う債務繰延べ措置は,81年度はパキスタン,リベリア及びトルコの3か国に対し実施した。

 

図2 形態別供与実績(交換公文締結ベース)

 

(3) 調達方式別供与動向

円借款の調達方式(注)は,74年の「開発途上国(LDC)アンタイイングに関する開発援助委員会(DAC)了解覚書」に基づき77年まではLDCアンタイドが調達方式の主流をなしていたが,77年末の対米通商交渉を契機として,一般アンタイド化を積極的に実施することに踏み切り,78年1月の牛場・シュトラウス共同声明において,「日本政府が資金援助を一般アンタイド化するとの基本方針を遂行する」旨の確認がなされた。こうした方針に基づき,78年4月以降の新規意図表明案件から一般アンタイドを基本方針としており,その率も76年度,77年度とそれぞれ0.8%,15.4%であったものが,78年度には46.3%にまで前進し,79年度から60%前後で推移している。

図3 調達方式別供与実績(交換公文締結ベース)

(注)援助の調達方式は,大別して次の3種類に分けられる。

(あ)タイド(調達先を我が国に限定するもので,いわゆる“紐付き”と呼ばれるもの)

(い)LDCアンタイド(タイドから一般アンタイドに至る中間的措置として,調達先を我が国及びDACの定める開発途上国にまで広げたもの)

(う)一般アンタイド(調達先をすべてのOECD加盟国及びDACの定める開発途上国とするもの)

援助のアンタイドとは,一般的に援助によって購入する生産物及び役務の調達先を援助供与国のみに限定しないことを意味し,一般アンタイドは,援助受取国にとっては国際競争入札により最も良質で最も安価な調達を可能とするもので,援助資金の効率的使用につながるものである。

(4)所得水準別供与動向

最近の累次の石油価格上昇,世界経済の低迷は,開発途上国,なかんずく特に貧困な開発途上国に大きな打撃を与えており,こうした状況にかんがみ,我が国は円借款供与に当たり貧困国重視の方針をとっている。81年度は,LLDC及び78年の一人当たりGNPが320ドル以下という特に貧困な国に対し,供与総額の約41%に当たる2,290億円が供与され,80年度の同区分(LLDC及び77年の一人当たりGNPが295ドル以下)への供与額(1,026億円)に比べると2倍以上となっており,国際的要請に見合ったものとなっている。

表1 所得水準別供与実績(交換公文締結ベース)

 

(5)分野別供与動向

プロジェクト借款について,対象分野別の供与動向を見ると,従来から運輸・通信及び電力で約6~7割を占めている。81年度においてもこの傾向は見られ,運輸・通信,電力案件に対する供与額は2,907億円で,シェアは63.7%であった。このように,経済開発・社会開発基盤整備のためのインフラストラクチャー(具体的には,道路,鉄道,港湾,水力・火力発電,通信等)が円借款供与対象の大宗を占めている。また,81年度は工業分野への供与額が増大している(345億円→987億円)が,その過半は農業関連案件である肥料工場建設(供与額634億円)であり,我が国が従来表明している農業分野重視の援助方針に沿ったものとなっている。

表2 分野別供与実績(交換公文締結ベース)

 

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