第5節 資源・エネルギー・原子力及び科学技術問題

1. 国際エネルギー情勢

81年の春以降,国際石油需給は緩和基調で推移し,この傾向は82年に入っても続いている。これは,消費国側における景気の低迷,省エネルギーの推進及び代替エネルギーの開発・導入の進展等による石油需要の大幅な減退によるところが大きい。これにより,石油輸出国機構(OPEC:Organization of the Petroleum Exporting Countries)側は,81年春以降,終始かかる状況への対応に追われ,生産調整,価格の引下げ等を迫られることとなった。

(1) 80年秋のイラン・イラク紛争拡大の影響を受けて,80年末の国際石油市場は一時不安定化に向かったものの,81年に入り,一時途絶えていた両国からの輸出がある程度回復したことにより,春には,需給は緩和基調を示すに至った。

その後も,先進消費国側における景気の低迷,節約や燃料転換による需要の減退,高水準の備蓄等の要因に加え,サウディ・アラビアが81年夏まで高水準の生産を続けたこともあって,国際石油需給の緩和基調は年末まで続いた。ちなみに,OECD諸国における石油消費は,79年の4,090万バーレル/日から,81年には3,530万バーレル/日へと560万バーレル/日減少(14%)した。

82年に入ってからも世界経済は依然として低迷を続けており,需要の落込み,余剰在庫の取崩し等からOPEC諸国としても減産を強いられ,3月のウィーン臨時総会では,生産上限につき合意することとなった。

(2) 原油価格については,81年春以降の需給緩和を背景に,直接取引等においてプレミアムが圧縮され,公式販売価格の引下げが相次ぎ,一部産油国では更に減産をも余儀なくされた。このような状況下で,超軽質の高値原油を産するアフリカ諸国は,サウディ・アラビアに対し,減産とサウディ基準原油価格(32ドル)の引上げを強く求めた。これに対し,サウディ・アラビアは,サウディ原油以外の原油の価格引下げを求め,価格の統一が達成されるまでは従来の生産水準を維持するとして対立した。5月の第60回OPEC定例総会でも歩み寄りは見られなかった。その後も,一部OPEC諸国が幾度となく会合し,8月にはOPEC特別会合を開いて意見の調整を図ったが合意に達せず,結局結論は,10月末の第61回ジュネーヴ臨時総会に持ち越されることとなった。

同総会では,漸く妥協が成立し(プレス・リリースは資料編参照),基準原油価格を34ドルに設定するとともに(82年まで凍結),同価格で基準原油が統一された(従来の価格体系は,基準原油価格32ドル,見なし基準原油価格の上限36ドル,最高価格41ドル)。このほか,他の油種との油種間格差についても微調整が行われた。また,サウディ・アラビアは,総会後,11月から減産を実施し,生産上限を850万バーレル/日とする旨発表した。

12月に開催されたアブダビ定例総会では,この基本的な価格体系の枠組みにおいて,油種間格差の微調整が行われ,OPEC平均価格が若干引き下げられる結果となった。

冬場の需要期を迎えても販売不振が続く中で,OPEC諸国の間には,価格の引下げよりもむしろ生産量の調整が行われるべきであるとの認識が強まった。このような状況を背景に,82年3月に,ウィーンで開催された第63回臨時総会(プレス・リリースは資料編参照)では,基準原油価格(34ドル)を再確認しつつも,OPEC全体の生産上限につき合意し,4月1日から同上限を1,800万バーレル/日に設定することとした(なお,ヤマニ=サウディ・アラビア石油鉱物資源大臣は,総会後の記者会見において,生産上限は,同国を除いて合意されたものである旨述べた。また,同大臣は,4月1日から生産水準を700万バーレル/日とする旨発言しており,そのため,上限は1,750万バーレル/日となった)。

(3) OPEC諸国の生産量は,80年には,2,684万バーレル/日と全世界生産の45%を占めていたが,81年には2,235万バーレル/日へと減少し,そのシェアも40%となった。また,82年1月において,OPEC諸国は2,183万バーレル/日と更に生産を下げており,そのシェアも38%に低下してOPECの供給者としての相対的地位は一層低下することとなった。

また,スポット価格は,石油需給の緩和基調を背景に80年秋以降着実に低落し,基準原油たるアラビアン・ライトも6月には当時の公式販売価格(32ドル)を割り込み,31ドル台まで低下した。基準原油のスポット価格は,その後秋にかけて若干上昇したものの,世界経済の低迷が長引くとの見通しが強まり,81年末以降82年の石油需要は更に減退するとの予測が徐々に浸透していく中で,82年1月中旬以降急速に下がり始めた。同価格は,新公式販売価格(34ドル)を割り込み,3月に入ってからは更に28ドル台にまで落ち込んだ。

(4) 81年春以降の石油需給の緩和基調は,産油国側に深刻な影響を与えた。

特に,82年に入ってからの販売不振,価格の軟化現象は,石油収入の大幅な減少を余儀なくさせ,産油国における経済運営,開発計画の推進を困難にするものと見られている。

2. 国際エネルギー機関(IEA: Internationa1 Energy Agency)を巡る動き

81年のIEAでは,国際石油需給の緩和基調にもかかわらず,かかる基調に安心することなく,引続き脱石油に向けた政策努力を続けるべきである点が強調され,また,イラン・イラク紛争に伴って生じた供給削減の経験にかんがみ,短期的供給撹乱対策(短期サブ・クライシス対策)の検討が行われ,一応の結論が出された。

(1) IEA諸国は,81年に入り,イラン・イラク紛争の影響が一段落してからも,国際石油情勢の先行き不透明感から3月末に理事会を開き,第2及び第3四半期に備蓄の季節的積増しを行うこと等につき合意した。

(2) 6月に開催された第7回IEA閣僚理事会では,短期及び中長期問題につき以下のとおり合意した(コミュニケは資料編参照)。

(イ) 石油市場は依然として脆弱である。現状に満足してはならず,今後とも備蓄水準の動きを注視する必要がある。

(ロ) 短期的供給撹乱への対応策について,81年中に結論を出すよう検討を継続する。

(ハ) 石油依存型経済からの脱却へ向けて,特に石炭の生産・利用拡大及び原子力に主要かつ増大した役割を果たさせるための行動が必要である。

(3) オタワ・サミットにおいては,経済成長と石油消費とのリンクを断ち切るとのヴェニス・サミット合意を再確認するとともに,短期の石油市場問題への対応能力改善のため,特に石油備蓄の強化がうたわれた。

(4) その後12月に開催されたIEA理事会において,年末までに結論を出すことになっていた短期供給撹乱対策につき以下の決定が行われた。

(イ) 平常時のための情報制度を導入する。

(ロ) 石油市場の悪化が予想される場合には,理事会を招集し,所要の施策を決定する。

(ハ) その際,検討対象となり得る施策として,例えば(あ)好ましからざる取引の抑制,(い)消費抑制,(う)燃料転換,(え)域内高水準生産,(お)備蓄運用についての石油企業との協議がある。

(ニ) これらの諸施策につき,政府は石油企業と個別に協議する。

なお,短期対策の柱の一つと考えられていた備蓄政策については,問題の複雑性からコンセンサスが得られず,継続して検討されることになった。

(5) 本年に入ってからの石油の値崩れ現象は,経済政策の面からは一応好ましいものとして受け止められたが,他方,エネルギー政策面からは節約や代替エネルギー開発のテンポが遅れるのではないかとの懸念が生じている。

また,高金利政策が,エネルギー投資及び備蓄水準の維持・向上に及ぼす影響についても新たな不安定要因と見られるに至った。

(6) 81年末以降,安全保障の観点から天然ガスの供給確保問題についても関心が高まった。

(7) 我が国は,IEAの原加盟国であり,また,極めて脆弱なエネルギー供給構造を有していることから,IEA等を通じる国際協力には積極的に参加している。例えば,81年以降,6つの研究・開発プロジェクト実施協定に新たに参加(82年3月現在,日本の参加プロジェクトは21件)したほか,IEAの最高意思決定機関である理事会の議長を我が国から選出して,会議の取りまとめに大きく貢献している。

3. 原子力の平和利用

(1) 総論

2次にわたる石油危機を契機として,石油代替エネルギーとしての原子力の重要性に対する認識はますます強まっており,オタワ・サミット宣言においても,国民一般による原子力エネルギーの受入れを促進すべき旨がうたわれている。

また,開発途上諸国においても原子力に対する関心が高まっており,83年8月には,開発途上国の経済・社会開発のための原子力平和利用における国際協力の在り方を検討するための国連会議が開催されることとなっている。我が国の対開発途上国原子力協力について言えば,開発途上国のための原子力平和利用として,農業,工業,医療などの分野でのアイソトープ,放射線利用を中心とした技術協力が行われているが,我が国は国際原子力機関(IAEA: International Atomic Energy Agency)を中心とするアジア・太平洋諸国に対する「原子力地域協力協定」(RCA: Regional Cooperative Agreement)の枠組みの中で指導的役割を果たしており,81年においても,調査団及び専門家の派遣,研修員の受入れ並びにワークショップ,専門家会合及びセミナーの開催等に対して積極的な協力を行った。

我が国においては,82年3月末現在,23基の発電用原子炉が稼動しており,その発電設備容量は,約1,600万kWと全発電設備容量の約12%を占めており,今後一層の伸びが期待されている。

他方,原子力開発の促進のためには,安全性の向上,放射性廃棄物の処理・処分問題の解決等に努めるとともに,原子力の利用に不可避的に伴う核拡散の危険をいかに防止するかという問題に効果的に対処する必要がある。6月のイスラエルによるイラクの原子力施設爆撃事件は,核拡散防止の重要な手段であるIAEA保障措置制度の意義につき世界の注意を喚起した。

7月には,レーガン大統領声明という形で原子力開発に対する米国の積極的な姿勢が打ち出され,これを受けて,10月には,日米両国間で再処理問題等に関する共同声明が発表された。また,82年3月には,核不拡散を確保しつつ,我が国の核燃料サイクルを長期的かつ安定的に運営し得るための「プログラム・アプローチ」を導入した日豪原子力改正協定の署名が行われたが,これらは核不拡散と原子力平和利用とは両立するとの考え方を具現化した例と言えよう。

(2) 各国との原子力関係

(イ) 日豪原子力協定改正交渉の妥結

現行日豪原子力協定の改正交渉は,82年1月,約3年半の交渉を経て妥結し,改正協定は,同年3月にキャンベラにおいて日豪双方により署名が行われ,その後国会に提出された。

今回の改正の眼目は,核拡散防止策の強化とこのための規制を予見可能かつ実際的な態様で運用すべき手順(いわゆる「プログラム・アプローチ」)を明確にしたことであり,これにより,我が国の核燃料サイクルを長期的,安定的に運営し得ることとなった。

具体的には,核拡散防止との関連では,現行協定にはない核物質等の不当な奪取等からの防護及び再処理等についての規制に関する規定等を有している。他方,これらの規定の運用との関連では,本協定及びその関連の交換公文で,エネルギーの有効利用等の観点から必要とされる再処理及びこのための第三国移転の事前同意等を包括的に与える条件を明確に定めている。

(ロ) 米国との関係

5月の日米首脳会談及び7月の「核不拡散及び原子力平和利用協力に関するレーガン大統領声明」を受けて,10月に東海再処理施設における米国産核燃料の再処理等に関する新しい日米共同決定文書が署名され,同時に共同声明その他の関連文書が発表された。

これに基づき両国政府は,84年末までに,日米原子力協定上の諸規定が,「予見可能でかつ信頼性のある態様」で実施され得るような長期的取決めを作成することとなっている。

(ハ) カナダとの関係

日加原子力協定改正議定書は,80年9月発効したが,2月の第1回日加合同作業委員会の際,カナダ産核物質に係る再処理等についてのカナダの事前同意を包括的なものとするための協議を開始したい旨先方から提案があり,82年1月の第2回合同作業委員会においても本件に関しカナダ側と意見交換が行われた。これを受けて,引続き本件に関する協議が行われている。

(3) 多数国間の原子力協力

我が国は,81年も引続きIAEAの場における国際プルトニウム貯蔵(IPS: International Plutonium Storage)や供給保証委員会(CAS: Committee on Assurances of Supply)等の諸会合に積極的に参加するとともに,アジア地域においては,前記の「原子力地域協力協定」(RCA)の枠内で幅広い協力を行った。

(4)国際原子力機関(IAEA: International Atomic Energy Agency)の活動

(イ) 6月に発生したイスラエルのイラク原子力施設爆撃事件につき,同月開催された理事会は,イスラエルを非難し,IAEA保障措置制度の有効性への信頼を確認する決議を採択した。この後,9月に開催された第25回年次総会で,イスラエルに対するIAEAの技術援助の停止,第26回総会での審議の継続等の内容を含む決議が採択された。

(ロ) 上記6月の理事会で,事務局は,80年においても平和目的核物質の軍事転用を示唆する異変がなかったこと等の内容を含む保障措置実施報告を行った。

(ハ)上記年次総会では,新たにジンバブエのIAEA加入が認められ,IAEA憲章の規定に従って同国が同憲章の受諾書を寄託すれば,これで加盟国数は111になる。

(ニ)9月に開催された理事会は,スウェーデンのハンス・ブリックス外務次官を次期事務局長に選任し,続いて開かれた総会でこれが承認された。ブリックス博士は,前任者エクランド博士(スウェーデン人)の任期満了を待って12月1日就任した。

(ホ)上記総会後の新理事会で,我が国が議長に選ばれた。

(ヘ)82年2月の理事会で,米国等の提案により,「原子力安全協力及び緊急相互援助条約」の必要性等につき今後1年間検討を行うため専門家グループを発足させることになった。

4. 科学技術

科学技術の進歩は,資源,エネルギ、環境,食糧,人口等人類が共通して抱えている諸問題に対する解決を模索していく上での鍵であり,また,現下の厳しい世界経済情勢の下で,世界経済再活性化のために科学技術に期待されている役割は大きい。開発途上国にとっては,経済発展を遂げ福祉の向上を図っていく上で,科学技術能力の向上は不可欠と言えよう。

我が国は,科学技術の進歩の果たし得るこのような役割を十分に認識し,各国と力を合わせ,我々が直面している諸問題に取り組むべく積極的に国際協力を推し進めてきている。

我が国の対外科学技術協力の概要は,以下のとおりである。

(1) 二国間の科学技術協力

(イ) 日米協力

(a) エネルギーの分野における研究開発協力

日米エネルギー等研究開発協力協定を機軸として,核融合,地熱エネルギー,高エネルギー物理学等諸種の分野での日米科学技術協力関係は着実に進展している。81年における特記事項としては,両国間の新たな研究協力プロジェクトとして締結された日米光合成研究協力実施取極が挙げられる。

(b) 非エネルギー分野における研究開発協力

9月,非エネルギー分野の米国との科学技術研究開発協力協定に基づく第1回日米合同委員会が,東京で開催された。この合同委員会においては,宇宙開発,組替えDNA,省資源等40以上の研究協力プロジェクトにつき幅広く討議され,また,新規研究協力プロジェクト案件についても,将来の展望を踏まえた有意義な話合いが行われた。

(ロ) その他各国との協力

西独及びフランスとの間の協力は,科学技術協力協定の下での多岐の分野にわたる幅広い協力を中心として,とみに深まってきている。特に,フランスとの間では,82年4月のミッテラン大統領の訪日を機に,両国間の協力を一層充実,強化させることで,日仏両首脳間で意見の一致が見られた。また,豪州との間の科学技術協力も活発に推進されており,日豪科学技術研究開発協力協定に基づく第1回目豪合同委員会が82年7月に開催される予定である。

更に,我が国は,東欧諸国及び開発途上国との間にも科学技術協力協定を締結して協力を進めており,我が国が81年末現在で科学技術協力協定ないし取極を締結している国は13か国に及んでいる。

このほか,我が国は,カナダをはじめ科学技術協力協定を有さない国々との間でも科学技術面での協力を増大させてきている。

(2) 多数国間の科学技術協力

(イ) 開発のための科学技術協力

開発途上国の科学技術能力強化のための国際協力の在り方を検討するため,「開発のための科学技術政府間委員会(ICSTD: Intergovernmental Committee on Science and Technology for Development)」第3回会期が5月及び8月の2度に分けて国連で開催された。5月の会合では,開発途上国の科学技術能力強化のためにいかなる国際協力を行うべきかを中心に議論が行われ,その枠組を示すものとして「実行計画(Operational Plan)」が承認された。8月の会合では,開発途上国の科学技術能力強化のために融資を行う「国連科学技術融資システム(United Nations Financing System for Science and Technology for Development)」の設立問題が取り上げられた。融資システム設立問題については,その後も関係国間で引続き検討が行われている。

(ロ) その他の多数国間協力

OECDでは,加盟国間の科学技術協力を促進するため,科学技術政策委員会(CSTP: Committee for Scientific and Technological Policy)が設けられているが,3月には,科学技術大臣会議が開かれ,80年代における科学技術の役割と技術革新の環境作り等につき話合いが行われた。

このほか,国連教育科学文化機関(UNESCO: United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization)等の国連専門機関,国連システム内のその他の機関及びアジア科学連合(ASCA: Association for Science Cooperation in Asia)等の国際機関の場においても,科学技術の研究開発とその利用,科学技術の発展に伴う諸問題などについての意見や情報の交換,政策面での検討など国際協力が活発に行われている。

年7月に開催される予定である。

更に,我が国は,東欧諸国及び開発途上国との間にも科学技術協力協定を締結して協力を進めており,我が国が81年末現在で科学技術協力協定ないし取極を締結している国は13か国に及んでいる。

このほか,我が国は,カナダをはじめ科学技術協力協定を有さない国々との間でも科学技術面での協力を増大させてきている。

(2) 多数国間の科学技術協力

(イ) 開発のための科学技術協力

開発途上国の科学技術能力強化のための国際協力の在り方を検討するため,「開発のための科学技術政府間委員会(ICSTD: Intergovernmental Committee on Science and Technology for Development)」第3回会期が5月及び8月の2度に分けて国連で開催された。5月の会合では,開発途上国の科学技術能力強化のためにいかなる国際協力を行うべきかを中心に議論が行われ,その枠組を示すものとして「実行計画(Operational Plan)」が承認された。8月の会合では,開発途上国の科学技術能力強化のために融資を行う「国連科学技術融資システム(United Nations Financing System for Science and Technology for Development)」の設立問題が取り上げられた。融資システム設立問題については,その後も関係国間で引続き検討が行われている。

(ロ) その他の多数国間協力

OECDでは,加盟国間の科学技術協力を促進するため,科学技術政策委員会(CSTP: Committee for Scientific and Technological Policy)が設けられているが,3月には,科学技術大臣会議が開かれ,80年代における科学技術の役割と技術革新の環境作り等につき話合いが行われた。

このほか,国連教育科学文化機関(UNESCO: United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization)等の国連専門機関,国連システム内のその他の機関及びアジア科学連合(ASCA: Association for Science Cooperation in Asia)等の国際機関の場においても,科学技術の研究開発とその利用,科学技術の発展に伴う諸問題などについての意見や情報の交換,政策面での検討など国際協力が活発に行われている。

(3) 宇宙の開発と利用

(イ) 宇宙空間の平和利用は,今日,人類に不可欠のものとなっており,米ソをはじめとする各国は宇宙開発を積極的に推進しているが,我が国も通信,放送,気象観測などの分野において実用衛星の打上げを行うなど活発な活動を行っている。

(ロ) 国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS: Committee on the Peaceful Uses of Outer Space)は,81年(6月~7月)においては,国による直接テレヴィジョン放送衛星の利用を律する原則案,人工衛星による地球の遠隔探査(リモート・センシング)に関する問題,第2回国連宇宙会議開催問題,原子力衛星の安全性問題などについて審議を行った。

第36回国連総会では,宇宙空間平和利用委員会の報告書につき検討が行われるとともに,同委員会に対し,上記諸問題の検討の継続を求める宇宙オムニバス決議,第2回国連宇宙会議の準備に関する同会議準備委員会の勧告を承認する決議の2決議が採択された。

また,82年の国連宇宙空間平和利用委員会(3月~4月)においては,前年と同じ議題について審議されたが,第2回国連宇宙会議の最終報告書案につき,わずかな部分を残して合意が得られた。

(4) 南極地域の調査と保全

(イ) 南極条約協議国は,これまで南極地域の環境保全,科学調査のための国際協力を主要問題として会合してきたが,近年の資源有限時代を反映して,最近では鉱物・生物資源問題にも各国の強い関心が示されている。

(ロ) 80年9月にキャンベラで署名された南極海洋生物資源の保存に関する条約は,82年4月に発効した。本条約は,鯨,あざらしなど既存の国際協定により規制されているものを除く南極海洋生物資源(主としてオキアミなど)を対象とし,科学的データに基づくそれらの保存と合理的な利用を図るため国際協力を行うことを目的としている。

(ハ) 鉱物資源の探査・開発問題については,6月のブエノスアイレスにおける第11回南極条約協議国会議で,鉱物資源探査開発の国際的な取極の作成手順等につき話し合われ,特別協議国会議を開催して同取極案の検討が行われることとなった。本件については,南極環境の保護を確保しつついかに探査・開発の在り方を定めるか,協議国間の南極領土権についての立場の相違をどのように調整するかなどの困難な問題が存在する。

5. エネルギー以外の資源問題

(1) 1981年の主要資源の市況

銅,鉛,亜鉛などの非鉄金属の価格は,80年初以降弱含みで推移したが,81年においても世界的な景気の停滞による需要減退等を要因として,総じて前年より更に低下する傾向をたどった。

また,小麦,粗粒穀物の価格も,ソ連の3年連続不作などはあったものの,主要生産国である米国などの豊作から世界的な需給には安定感が強まったため,80年後半の高値から漸次低下傾向を示した。

また,砂糖,天然ゴムなどの産品も,豊作や需要低迷から価格は低落した。

このため,一次産品の市況は全般的に低下傾向を示し,79年から80年の上昇局面が一転するところとなった。

(2) 一次産品総合計画(IPC: Integrated Programme for Commodities)個別産品協議の進捗状況

(イ) 以上の市況低下に対応し,すず,コーヒーなどの既存の商品協定においては,緩衝在庫の買入れ,輸出割当ての実施などの価格安定措置が検討,実施された。

(ロ) 他方,80年4月から開始されたすず協定改訂交渉会議は,6月に至り第6次の国際すず協定を採択し,また,80年11月に採択された「1980年の国際ココア協定」は,8月から暫定的に発効したほか,ジュートに関しては1月及び5月に研究開発,消費振興などのいわゆる「その他の措置」を中心とした協定を作成すべく交渉会議が開催された。

(ハ) 更に,熱帯木材,硬質繊維,食肉,植物油などについて,「その他の措置」を中心として,協定の作成ないし既存機関の利用の方向で予備協議や専門家会合が進められる一方,82年2月には国連貿易開発会議(UNCTAD)一次産品委員会が開催され,共通基金の早期発足とともに個別産品協議の早期妥結を勧奨することにつき合意を見た。

(ニ) 我が国としては,一次産品貿易の安定を図ることは南北協力を進める上で重要な意義を有するとともに,輸入国として安定的供給を確保する上でも重要であるとの認識に立って,これらの国際協力に積極的な参加を行った。

(3) 商品機関の現状

(イ) 商品協定

(a) 国際小麦協定

79年の国連小麦会議の中断後,国際小麦理事会の場で行われてきた新協定交渉については,備蓄在庫の規模,備蓄運用に伴う開発途上国への特別措置等を巡っていまだ合意が得られず,今後更に交渉が続けられることになっている。

また,国際小麦理事会は,新協定が作成されるまでの間,現行協定に基づく情報交換及び協議の機能を強化し,国際小麦需給の変化に対処することとしている。

(b) 国際すず協定

ジュネーヴで4度にわたり開催された交渉会議の結果,第6次協定が6月に採択された。他方,すずの市場価格は,81年初以来相当変動しているため,緩衝在庫管理官が適宜市場に介入している。また,理事会は,82年3月に生産国の義務拠出及び消費国の任意拠出を決議した。

(c) 国際ココア協定

80年11月の国連ココア会議で採択された「1980年の国際ココア協定」は,ココアの大産出・消費国である象牙海岸,米国が協定に参加しなかったため,当初の予定どおり発効せず,8月から協定受諾国の間で発効した。急落状態にあったココア価格の回復を図るため,9月末から協定に基づく緩衝在庫の購入が行われている。

(d) 国際コーヒー協定

コーヒーの価格は79年半ばから下落傾向にあったため,その安定を目的として,80年10月から協定に基づき輸出割当てが発動された。

81年に入っても下落傾向が続いたが,10月からの輸出割当ての継続実施により,コーヒー価格は以後順調に推移してきている。

(e) 国際砂糖協定

80年11月以降の国際価格の下落に伴い,5月から,協定に基づく輸出割当て及び特別在庫の貯蔵による価格安定化措置が実施されたが,82年までの国際需給は一層の緩和が見込まれていることから,国際価格は引続き低迷し,82年に入ってもこれら措置は継続された。

また,11月の国際砂糖理事会において,現行協定を84年末まで2年間延長することが原則的に決定された。

(f) 国際天然ゴム協定

IPCの下で新規に成立した最初の商品協定として80年10月に暫定的に発効した現行協定は,以来数回にわたり各種委員会及び理事会が開催され,諸規則の制定等の活動体制の整備が進められた。他方,天然ゴム価格の下落に対応し,10月に緩衝在庫操作のための第1回緩衝在庫拠出要請が行われて以来,82年3月まで延べ3回の拠出要請がなされた。

また,82年4月に至り,協定の確定的発効の要件が満たされ,協定実施の基盤が強化された。

(ロ) 商品研究会

(a) 国際鉛・亜鉛研究会

10月にジュネーヴで第26回総会が開催され,アルゼンティンの加盟承認,需給見通しの作成等が行われたほか,初めての試みとして「新技術が鉛・亜鉛の生産・消費に与えるインパクト」に関するシンポジウムが開かれた。

(b) 国際綿花諮問委員会

11月にリスボンで第40回総会が開催され,81年の綿花の生産,需給動向及び綿製品の動向が討議された。同時に,この委員会の機構改革問題について,事業の拡大強化の観点から検討された。

(c) 国際ゴム研究会

6月にロンドンで第94回総会が開催され,天然ゴム及び合成ゴムの需給見通しが検討されたほか,国際天然ゴム機関の設立との関連で本研究会の将来の活動等について討議された。

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