第4節 国際投資問題

1. 我が国の投資概要

(1) 80年度の我が国の海外投資の状況を見ると,先進工業国及びアジア地域の一部の国に対する投資額が増加したにもかかわらず,中南米地域において大幅な減少が見られたため,対外直接投資届出額は,46億9,300万ドルとなり,79年度(49億9,500万ドル)に比べて3億200万ドル(6.0%)の減少となった。

(2) 80年度の届出額を業種別に見ると,製造業は鉄・非鉄,機械で減少したものの,化学,電機,輸送機で増加したため,全体では対前年度比0.8%増の17億600万ドル(構成比36.4%)となったのに対し,鉱業は同34.1%減の5億6,500万ドル(構成比12.0%),商業は同4.4%減の7億9,700万ドル(構成比17.0%)となっている。

投資先を地域別に見ると,北米は対前年度比11.0%増の15億9,600万ドル(うち米国向けは同10.3%増の14億8,400万ドル),欧州は同16.8%増の5億7,800万ドル,アジアは同21.5%増の11億8,600万ドルとなったのに対し,中南米は対前年度比51.3%減の5億8,800万ドル,大洋州は同23.0%減の4億4,800万ドルとなっている。

(3) 80年度末現在の対外直接投資届出累計額は,364億9,700万ドルとなっている。

業種別に見ると,製造業125億7,300万ドル(シェア34.4%),鉱業70億7,100万ドル(同19.4%),商業54億900万ドル(同14.8%)等となっている。

地域別に見ると,アジア98億3,000万ドル(シェア26.9%),北米97億9,800万ドル(同26.8%),中南米61億6,800万ドル(同16.9%),欧州44億7,100万ドル(同12.3%),大洋州25億2,500万ドル(同6.9%),中近東22億5,900万ドル(同6.2%),アフリカ14億4,500万ドル(同4.0%)の順となっている。

また,我が国の主要投資先国を累計額で見ると,米国,インドネシア,ブラジルの順に多く,この3か国で全体の44.4%を占めている。

2. 投資保護協定の締結の促進

(1) 我が国の対外直接投資は,1970年代から急激に増加してきており,今後とも一層活発に行われることが予想される。こうした背景もあって,近時いわゆるカントリー・リスク問題についての認識が深まっている。

海外投資は,投資母国の経済に貢献するのみならず,資本・技術等の移転,雇用創出効果等により投資受入国の経済発展にも資するものであり,また,経済的・人的交流を通じて両国関係を緊密化する。こうした効果を有する海外投資を今後とも更に促進していくことが望ましいが,海外投資に関しては,投資家にとって予見可能性及び法的安定性が限られる可能性があり,この意味で投資環境は国内投資の場合と異なると言えよう。

(2) こうした投資環境への対応は,一次的には海外投資を行う民間の責任と判断に委ねられているものであるが,投資母国及び投資受入国の役割は,この投資環境をできる限り良好なものに整備することであろう。

投資保護協定は,投資保険,税制等の施策と並んで,こうした投資環境の整備のための諸施策の一環として重要である。我が国は,かつては海外投資が必ずしも活発でなかったこともあり,海外投資については通商航海条約中の投資関連規定で対応するとの考え方をとっていたが,海外投資が近年急増している状況の中で,投資のみを対象として実体的及び手続的規定を共に詳細に定める投資保護協定の必要性が認識されるに至っている。

(3) 我が国は,既にエジプトとの間に投資保護協定を有しているが,上述の認識の下に,81年には,スリ・ランカと鋭意交渉を行った結果,投資保護協定の内容について合意に達し,3月にコロンボにおいて同協定の署名を行った。また,80年12月の日中閣僚会議及び1月の鈴木総理大臣のASEAN諸国訪問の際,中国及びASEAN諸国とも,それぞれ投資保護協定の締結交渉に入ることにつき合意に達し,現在,鋭意交渉を行っているところである。

3. OECDにおける討議

国際投資・多国籍企業委員会は,76年にOECD閣僚理事会が採択した「国際投資及び多国籍企業に関する宣言」(79年に一部改定)の各国における適用ぶり等をレビューした「中間報告書」を,82年6月までに完成させるための作業を行った。

また,同委員会の下に設置されている次のワーキング・グループでは,それぞれ関係分野の検討を行った。

(1) ガイドライン・ワーキング・グルーブ

「多国籍企業の行動指針」の各国の遵守ぶりのフォローアップ。

(2) 国際投資政策ワーキング・グループ

内国民待遇関係では,投資に関連する諸手続の明瞭化,例外措置の研究等。国際投資政策関係では,「OECD加盟国の投資促進政策」の検討及び「最近の国際直接投資の傾向」(公表報告書)の作成。

(3)会計基準ワーキング・グループ

会計基準の比較と調和化の検討。

これら作業を進めるに際し,OECDの民間諮問機関である経済産業諮問委員会(BIAC: Business and Industry Advisory Committee)及び労働組合諮問委員会(TUAC: Trade Union Advisory Committee)との協議も行われた。

また,国連及びその他の国際機関における多国籍企業と国際投資に関する動きについても話し合った。

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