4. 東南アジア諸国連合(ASEAN: Association of South East Asian Nations)

(1) 域内協力の状況

ASEANは,67年の設立以来,東南アジアの地域協力機構として着実に発展し,今やこの地域の平和と安定に欠くべからざる重要な存在となるに至った。81年において,ASEANの域内協力は,政治,経済の両分野で着実な進展を見た。

(イ) 政治面での協力

ASEANは,81年も国際世論の支持の下に,カンボディア問題の包括的政治解決の実現に向けて,政治面での積極的な協力を推進した。

具体的には,5月に臨時外相会議,6月に第14回外相会議を開催し,カンボディア国際会議に臨むASEANの姿勢を明確にするとともに,国連事務総長に同会議の早期開催を要望する書簡を発した。この結果,7月,同国際会議が93か国の参加を得て開催され(ただし,ヴィエトナム及び東欧諸国不参加),ASEANの草案を軸として,国連平和維持軍の導入下での外国軍隊の撤退,自由選挙実施のための諸施策及び国際的保障等,包括的政治解決の要綱を盛り込んだ宣言及び国際会議暫定委員会の設置を定めた決議が全会一致で採択された(宣言及び決議は資料編参照)。12月の臨時外相会議では,抗越勢力連合作り促進のためにシンガポールが提案した「緩やかな連合政府」構想に全面支持を与えた。

更に,第36回国連総会においても,ASEANの働きかけにより前年を上回る支持を得て,民主カンボディアの国連代表権が維持されるとともに,「カンボディア情勢に関する決議案」が圧倒的多数の支持で採択された。

なお,ASEANは,高級官吏会議の場を通じてカンボディア問題のほか,国際連合で取り上げられている諸問題等について共通の立場の維持・確立に努めた。

(ロ) 域内経済協力

ASEANの域内経済協力は,81年においても着実な進展を見た。

5月にジャカルタで開催された第11回ASEAN経済閣僚会議では,ASEAN工業プロジェクトでフィリピンが銅加工プロジェクトに対象を変更すること及びASEAN産業補完計画の基本協定案につき承認するとともに,域内特恵関税の対象品目を6,581品目(約700品目追加)に拡大することを決定した。

また,82年1月にクアラルンプールで第12回ASEAN経済閣僚会議が開催され,産業補完計画の対象産品について一律50%の関税引下げを6月1日から実施すること及び域内特恵関税の対象品目を8,529品目とし,特恵マージンの供与を輸入額が100万米ドル以下(従来50万米ドル)の品目に拡大すること等について決定を行った。

また,81年には,エネルギーや農業に関する大臣レベル会議が開かれたほか,貿易,観光,鉱工業,エネルギ、農林業,運輸,通信,金融協力等にかかわる各種協力事業を企画するASEANの各常設委員会が活発に活動し,特に域内の海運整備やエネルギー協力に重点が置かれた計画作りが行われた。

(2) 域外諸国とASEANとの関係

域外先進諸国との協力関係は,前年に引き続き着実に進展してきているが,81年を通じ特色ある事項は,同年6月に開催された拡大外相会議に,日本,米国,豪州,カナダ,ニュー・ジーランド,ECの6か国(地域)が勢揃いしたこと,80年3月にECとの間で署名された協力協定と同種の協力協定が,9月にカナダとの間で署名されたことであろう。

ASEANと域外諸国との重要会議は次のとおりである。

(3) 我が国とASEANとの関係

(イ) 鈴木総理大臣のASEAN諸国歴訪

(a) 80年代に入り,日・ASEAN関係発展のため我が国が行った外交努力のうち特筆されるのは,81年1月に鈴木総理大臣が総理大臣就任後初の外国訪問としてASEAN諸国を歴訪したことである。鈴木総理大臣には,伊東外務大臣,亀岡農水大臣,瓦官房副長官ほかが随行した。我が国総理大臣のASEAN諸国への訪問は,77年8月の福田総理大臣以来3年半ぶりであり,日・ASEAN友好協力関係の一層の増進,また広く我が国アジア外交の基盤強化に大きく貢献した。

(b) 各国における首脳会談では,アジア情勢(なかんずくカンボディア問題)を中心とする国際情勢並びに二国間及び日・ASEAN間の経済,経済協力,文化など広範な分野における協力関係の発展について率直な話合いが行われた。総理は,各国において,二国間の経済関係や経済協力などの分野で種々の協力を実施していく意向を表明したほか,具体的な対ASEAN協力事項として次のような諸提案・コミットメントを行った。

○経済協力……ASEAN「人造り」プロジェクト(総額約1億ドル)の実施

…ASEAN工業プロジェクトヘの資金協力(インドネシア尿素プロジェクトに189億円の追加資金協力,マレイシア尿素プロジェクトに480億円の資金協力)

○経済………一般特恵関税制度の10年間延長など

○文化協力……ASEAN地域研究振興計画への協力

…アジア・太平洋若手外交官日本語研修計画の実施

これらの各種協力案件は,以下(ロ)に示されるとおり,81年を通じて大半が実施に移されており,残された案件についても82年度には実施段階に入る見通しとなっている。

(ロ) 81年における協力関係の発展

鈴木総理大臣のASEAN諸国歴訪を受けて,81年には,我が国とASEAN諸国との間に一段と多角的な協力・協調関係の発展が見られた。

政治面においては,6月の第4回目・ASEAN外相会議,7月の国連主催カンボディア問題国際会議第36回国連総会などの機会に,我が国は,カンボディア問題の包括的政治解決を目指すASEANの立場を支持し,緊密に協力した。また,我が国は,鈴木総理大臣の訪米,先進国首脳会議出席の際に,グローバルな視野に立つ日・ASEAN協調増進を目的として,ASEAN諸国との緊密な連絡を維持した。

経済面では,81年における我が国の対ASEAN輸入が,原油や一次産品に関する国際市況の低迷を反映して若干の減少となったが,総貿易額では対前年比5.6%増の362億ドルに伸長した。また,6月にASEAN貿易投資観光促進センターが本邦に開設され,我が国は,同センターに対して81年度分として4億6,000万円の拠出を行った。

一次産品については,ASEAN諸国の強い関心に配慮し,6月に他の先進国に先駆けていち早く共通基金協定を受諾するとともに,第6次国際すず協定の採択にも大きく貢献した。

経済協力の分野でも,二国間の経済・技術協力に加え,ASEAN工業プロジェクトヘの資金協力を実施するとともに,ASEAN人造りプロジェクト実施のため協議・調査を重ねて事業内容の具体的詰めを取り進めた。

文化面では,ASEAN奨学金制度に対して第2年度分100万ドルの拠出を行い,また,ASEAN諸国を主たる対象とする新規事業としてアジア・太平洋若手外交官日本語研修計画を開始した。ASEAN地域研究振興計画についても,82年度からの実施を目途として,その具体的実施ぶりにつき日・ASHAN間の協議を重ねた。

また,82年1月,ジャカルタにおいて日・ASEANフォーラムの第5回会合を開催し,経済協力,貿易・投資,一次産品,文化等の諸分野における日・ASEAN協力の在り方につき活発な意見交換を行った。

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