(9) レーガン大統領の就任演説(要訳)
(1981年1月20日,ワシントン)
1. 円滑な政権移行のためのカーター大統領の協力を深謝する。
2. 米国はその歴史上最悪の部類に属するインフレ,失業といった経済的困難に直面し,国民は重い税負担に苦しんでいる。加えて,そのような税負担にも拘らず,米国の財政赤字は累積してきており,我々のみならず,我々の子供の将来をも抵当に入れるがごとき事態となっている。このような状況をいつまでも続けることはできない。我々は,未来を守るために,今直ちに行動を起さなければならない。
3. 過去数十年間にわたり我々を苦しめてきた経済の悪化は,短期間で解決することはできないが,それは必ず解決できる。なぜなら,過去においてそうであったように,この最後で最大の自由のとりでたる国を堅持する能力を米国民が持っているからである。現在の危機においては,政府は解決をもたらすものではなく,むしろ政府こそ問題となっている。また,政府の内外を問わず,我々はすべて協力して負担を分担しなければならず,ある特定の集団がより高い代償を支払うということがあってはならない。我々が配慮すべきは国民全体の利益である。
4. 我々の目的とするところは,偏狭な信念や差別による障害を持たず,すべての国民に平等な機会を与えるような,健全で,活気に満ち,成長する経済でなくてはならない。米国が再び活動するということは,全国民が再び仕事を手にすることであり,インフレに終止符を打つということは,天井知らずの生活費の高騰という恐怖から全国民を解放することである。全国民がこの経済回復に向けての「新たな出発」の事業に参画し,その任務を分担するとともに,成果をともに享受しなければならない。
5. 政府は国家のためにあり,国家が政府のためにあるのではない。政府は国民から与えられた権限のみを持つのが米国の特徴である。今や国民の同意を越えて肥大化してきた政府を縮小すべき時である。私は,連邦政府の規模と影響力を減じ,また,連邦政府に与えられた権限と各州及び国民が保持している権限とを区別していく。誤解があってはならないが,私は政府を廃棄しようと考えているのではない。政府は国民の重荷となるべきでなく,国民のために機能すべきであると考えている。
6. なに故に米国がこれほどに成功したかという問いに対する答えをさがすなら,それは人間のエネルギー及び個人の能力をこれほどに発揮させた国がほかになかったこと,また,個人の自由及び尊厳がこれほどに確保された国がほかになかったことに求められる。このような自由は時として高くつくことがあったが,米国民は自由の代償を支払うことに消極的であったことはない。現在我々が直面している問題の大きな要因は,政府の不必要かつ過度の肥大化と,それに伴う政府の国民生活への介入であるといえる。
7. 米国は小さな夢に自らを限定するにはあまりに偉大な国である。米国は一部の人達がいうように・不可避的に衰退を運命づけられているわけではない。私は,我々がなにをしょうとも運命に遭遇するということは信じない。私は,我々がなにもしない場合に,我々の上に運命が訪れるであろうことは信ずる。
8. そこで,我々の創造的活力をもって,国家の再生の時代を拓こうではないか。我々の確信勇気,力強さ,信念,そして希望を再生させよう。我々は英雄的な夢を抱くあらゆる権利を有している。もはや英雄は存在しないと主張する人々は,ただどこをみればよいかを知らないだけである。毎日工場の門を出入りしている人々,米国民と他の多くの国民を養うに十分な食糧を生産している人々,新しい雇用機会と富を創出する人々,納税によって政府を,自発的支出によって教会,慈善事業,文化,芸術,教育を支えている人々,そのような人々の愛国心は静かであるが,深い。彼らこそわが国の国家的生活を維持している英雄である。
9. 私の政権は,米国民の気質の一部となっている同情心を反映することになろう。国民各人が,困ったときは助け合い,単に理論上のみならず,実際に平等になるような機会が国民に与えられねばならない。
10. 我々は,直面している問題を果して解決しうるであろうか。答は全く疑問の余地のない「しかり」である。私は,米国経済の成長をにぶらせ,生産性を低下させた諸々の障害物を取除き,また,連邦政府,州政府,その他の自治体の間の均衡を取戻すための措置を講じていく。進歩は遅々たるものかもしれないが,我々は前進するであろう。米国の巨大な産業の力をよみがえらせ,政府の機能を本来の範囲内にもどし,過酷な税負担を軽減することが最重点事項であり,これらの点については,我々は妥協しない。
11. 米国は,国内で再生を遂げるにつれ,世界においてもより力強い存在となり,再び自由の模範,希望の光となるであろう。
自由の理念を分かち合う隣国及び同盟国に対しては,歴史的なきずなを強化し,これら諸国に対する米国の支持と確固たるコミットメントを約束する。忠誠には忠誠をもって応えていく。互恵的な関係を推進していくが,友情の名の下にこれら諸国の主権に容かいすることはしない。
自由の敵,潜在敵対国に対しては,平和こそが米国民の最も崇高な目標であることを想起せしめる。そのためには,交渉し,犠牲も払うが,決して屈服することはない。
米国の忍耐を決して誤解してはならない。争いを躊躇することを意志の欠如と見誤ってはならない。米国の安全確保のために行動が必要とされる時は行動を辞さないし,必要とあれば,米国が優位に立つに十分な力を維持する。そうすることこそ,力を行使せずにすむ最善の方途だからである。
12. 我々は,自由な人々の意志と道徳的勇気にまさる武器はないということを承知しておくべきである。それは米国の敵対国にはない,米国民の持つ武器であり,そのことをテロ行為や隣国への侵蝕を行っている者達に分らせるべきである。
13. (式場周辺のワシントン,ジェファーソン,リンカーンの記念碑の存在や,幾多の戦死者がアーリントン墓地に葬られていること等に言及した後)我々が今日直面している危機はこの種の犠牲を必要とするものではない。しかし,我々が最善の努力をつくし,また,我々には偉大な行為をなしうる能力があることを信じることが必要である。