(ニ) 日本とマレイシアとの共同新聞発表(仮訳)
(1981年1月17日,クアラ・ルンプール)
1. 鈴木善幸日本国総理大臣は,フセイン・オン=マレイシア首相の招待により,夫人とともに1981年1月15日から1月17日までマレイシアを公式訪問した。
総理大臣夫妻には,伊東正義外務大臣,亀岡高夫農林水産大臣,瓦力官房副長官他政府高官が随行した。
2. 鈴木総理大臣夫妻は,1月17日マレイシア国王・王妃両陛下に拝謁を賜わった。
3. 鈴木総理大臣とフセイン・オソ首相は,1月15日会談を行い,両国関係の様々な側面につき討議し,また双方が共通の関心を有する国際的,地域的な広範な諸問題について意見交換を行った。
この会談には,日本側より,伊東外務大臣,亀岡農林水産大臣,瓦官房副長官,マレイシア側より,マハディール副首相,ガザリ・シャフィ内務大臣,リタウディン外務大臣及びラザレー大蔵大臣が出席した。
4. 総理大臣と首相は,この首脳会談が親密かつ友好的な雰囲気の中で行われ,両首脳が諸問題につき極めて誠意に満ちかつ有意義な意見交換を行うことができたことを高く評価した。
5, 総理大臣と首相は,今回の訪問によって,日本とマレイシアとの間に存在する友誼と相互信頼との関係を改めて確認したことを喜ぶとともに,両国政府は,政治・経済・文化及び技術の分野で更に緊密に協力し,特に人的交流を一層活発にすることを通じ,両国間の友好関係を更に強固な基礎の下に置く用意がある旨表明した。
6. 鈴木総理大臣とフセイン・オン首相は,日本とASEAN諸国との間の緊密な関係が,益々強化されつつあることを歓迎し,日本とASEANとの間のより緊密な協力が,アジアの平和と安定の促進に実質的に貢献するであろうとの確信を表明した。
鈴木総理大臣は,日本国政府はASEANがより大きな地域的強じん性と発展を追求することに対し,引き続き援助を行う旨述べた。更に総理大臣は,ASEANの創設以来マレイシアがASEAN諸国間の協力強化のために指導的役割を果してきた点を高く評価した。
総理大臣と首相は,ASEANの協力,連帯及び統一を具体的に明示するものとしてのASEAN工業プロジェクトの重要性を認識した。この関連において,鈴木総理大臣は,同プロジェクトに対し日本が引き続き関心を有する旨再度表明した。マレイシアにおけるASEAN尿素プロジェクトに関して,総理大臣と首相は,日本から供与される資金融資によって,同プロジエクトが,その早期履行に向け前進が可能となることに満足の意、を表明した。
総理大臣と首相は,ASEANと日本がASEAN産品の市場アクセスの改善,ならびにこれら相互間の貿易の拡大及び発展に向けて努力する必要性を認識した。この関連において,両国首脳は,ASEAN貿易・投資・観光促進センターを設立する協定が,東京において締結されたことに満足の意をもって留意した。両国首脳は,このセンターが日本とASEANとの間の経済関係の発展に貢献することを期待する旨述べた。
7. 総理大臣と首相は,カンボディアの現状,特にその東南アジア地域の安全に対する不安定効果について憂慮を共有するとともに,国連総会決議34/22及び35/6に従って,カンボディアの全ての外国軍隊の撤退を基礎としたカンボディア紛争の早急な政治的解決を図ること及びカンボディア国民が外国からのいかなる介入及び強制をも受けることなく自らの政治的将来を決定することが必要であるとの共通の信念を再確認した。この関連において,鈴木総理大臣は,カンボディア問題に関してASEANがとっている正当な立場に対する日本の全面的な支持をあらためて表明した。
総理大臣と首相は,東南アジアに平和と安定をもたらすために更に協力していくとの決意をあらたにした。
8. 鈴木総理大臣は,日本がその国力にふさわしい積極的な政治的,経済的役割を果たすことにより,世界の平和と安定に積極的に貢献すべき立場にあることを認識し,日本は,アジアにおける安定勢力として地域の平和と繁栄のため,今後共貢献していく決意である旨表明した。
鈴木総理大臣は,日本は平和に徹し,軍事大国とならないと誓っている日本の基本的立場を説明した。更に,総理大臣は,そのための日本の基本的安全保障政策は,積極的な外交的役割を果たす努力を行い,現行憲法の枠の内で,自衛力の着実な整備とともに,日米安保条約の一層円かつで効果的な運用を図ることにおかれている旨述べた。
9. 総理大臣と首相は,国際経済協力のための環境の改善に引き続き関心を有する旨表明した。この関連で,両国首脳は,現実的かつ建設的な対話が行われグローバル・ネゴシエーションズ等の場において南北問題について相互の理解と協調の下に,有意義な成果が得られることを希望した。
10. 鈴木総理大臣は,マレイシアが,特に天然ゴム及びスズ等重要一次産品の安定的供給のために積極的役割を果してきた点を評価した。フセイン・オン首相は,日本が共通基金の設立及びその第2の窓への拠出,1979年の国際天然ゴム協定の締結をはじめとする一次産品問題解決のために,重要消費国の立場から建設的役割を行ってきたことを評価した。
フセイン・オン首相は,マレイシアの一次産品のための重要市場としての日本の役割を十分評価しつつも,日本とマレイシア間の貿易は拡大し,かつ多角化することを希望した。フセイン・オン首相は,マレイシアの工業開発の促進に貢献する,同国の輸出関心品目である半加工品及び工業製品の市場アクセス改善のために,日本が引き続き努力することを希望した。
11. フセイン・オン首相は,第3次マレイシア計画の成果について鈴木総理大臣に対し説明すると共に,マレイシアの経済開発に対する日本の協力に深甚なる謝意を表明した。この関連で,両国首脳は,1月16日クアラ・ルンプールにおいて,第7次円借款の交換公文が伊東正義外務大臣とリタウディン外相との間で取り交されたことに満足の意をもって留意した。
12. フセイン・オン首相は,今年開始される第4次マレイシア計画の概要について説明すると共に,日本が同計画に対し,資金援助を含む協力を行うことを要請した。
鈴木総理大臣は,第4次マレイシア計画の下における農村・農業及びインフラストラクチャーの開発プロジェクトに対し,これまで通り年次ベースで円借款の供与を行うことを含め,日本は引き続き種々の形の協力と援助を行っていく旨表明した。
更に,鈴木総理大臣は,マレイシアの着実な経済発展に伴い,日本の経済協力は民間ベース主体に移行していく旨及び日本は,経済・社会開発に向けてのマレイシアの努力に対し,特に農村・農業開発,代替エネルギー開発を含むエネルギー開発及び人造りの分野,更には,工業化及び経済・社会インフラストラクチャーの分野において,引続き協力と援助を行う用意がある旨述べた。
13. 鈴木総理大臣は,人造りに貢献するために,日本国政府がマレイシアに対し,引き続き技術協力を行うとの意図を表明した。これに関連して,総理大臣は,ASEAN各国にセンターを設立するとの,人造りのためのASEANプロジェクトを提案すると共に,この目的のため,日本国政府は,ASEAN諸国に対し,1億米ドルの無償資金協力及び技術協力を行う旨表明した。更に,総理大臣は,このプロジェクトに関連し,日本国政府としては沖縄にセンターを設立する旨述べた。
フセイン・オン首相は,この提案を歓迎し,同提案を他のASEAN諸国と協議する旨述べた。
14. 総理大臣と首相は,マレイシアの経済・社会の発展のために民間直接投資の果たして来た役割の重要性を認識し,投資保証協定の締結のための交渉を,早期に開始することに同意した。
15. 総理大臣と首相は,両国関係をより広範な基礎のもとに置くことの重要性を認識し,あらゆるレベルにおける活発な文化交流及び文化協力を通じ,両国民の相互理解と友好を更に促進させる意向であることを再確認した。
この関連において,鈴木総理大臣は,マレイシアの教育省及び文化・青年・スポーツ省に対する文化無償援助に言及した上,ASEAN地域研究振興を援助するための特別計画及びアジア及び太平洋地域の若手外交官のための日本語研修計画等の特定のプロジェクトを提案した。
16. 両国首脳は,今回の鈴木総理大臣のマレイシア訪問が,両国間の相互理解と既に存在する友好関係の一層の強化に大いに寄与したことに深い満足の意を表明した。両国首脳は,この訪問を通じ成功裡に確立された個人的信頼と尊敬の関係を更に深めることに合意した。
17. 鈴木総理大臣は,マレイシア滞在中,同総理大臣夫妻及び随員一行がマレイシア政府及び国民より受けた暖かい歓迎と厚遇について,深甚なる感謝の意を表明した。