(ロ) 日本とインドネシア共和国との共同新聞発表(仮訳)

(1981年1月13日,ジャカルタ)

1. 鈴木善幸日本国総理大臣とスハルト=インドネシア共和国大統領は,1981年1月10日から13日までジャカルタにおいて会見し,両国にとって共通の利益と関心のある広範な問題につき建設的意見の交換と討議を行った。

討議は,最も親密かつ友好的雰囲気の中で行われ,両国間の相互理解を深める上で大いに貢献した。総理大臣と大統領は,この会談が両首脳の間に緊密な個人的関係を確立する上で大いに貢献したことを満足の意をもって留意した。

2. 両国首脳は,ASEANが,東南アジア地域における平和,安定,進歩及び繁栄の増進に当り有意義な役割を演じているとの確信を表明した。

両国首脳は,日本とASEAN諸国との間の緊密な協力関係が益々強化されつつあることを歓迎し,このことが,この地域の平和と安定の維持に実質的に貢献するであろうとの確信を表明した。

鈴木総理大臣は,日本国政府は,ASEAN諸国が,より大きな国家的及び地域的強靱性と発展及び東南アジア平和自由中立地帯構想を追求することに対し,引き続き協力を行う旨述べた。

3. 両国首脳は,カンボディアの現状,特にその東南アジア地域の安全に対する不安定効果についての憂慮を表明した。両国首脳はカンボディアの平和ができるだけ早期に回復されるべきであり,カンボディア問題に関する正当かつ永続的解決は,関係国連決議に従ってのみ達成可能であるとの共通の信念を再確認した。

この関連で,鈴木総理大臣は,カンボディア問題についてASEANがとっている正当な立場に対する日本の全面的な支持を改めて表明した。

両国首脳は,東南アジアに平和と安定をもたらすために更に協力していくとの決意をあらたにした。

4, 鈴木総理大臣は,日本がその国力にふさわしい積極的な政治的,経済的役割を果たすことにより世界の平和と安定に積極的に貢献すべき立場にあることを認識し,日本はアジアにおける安定勢力として地域の平和と繁栄のため今後共貢献していく決意である旨表明した。

鈴木総理大臣は,日本は平和に徹し軍事大国とはならないと決意している旨述べた。更に,総理大臣は,そのための日本の基本的安全保障政策は,積極的な外交的役割を果す努力を行い,現行憲法の枠の内で,自衛力の着実な整備とともに,日米安保条約の一層円かつで効果的な運用を図ることにおかれている旨述べた。

5. 両国首脳は,現下の国際情勢を検討し,湾岸地域に広がっている緊迫した状況に対する懸念を表明した。両国首脳は,全ての関係当事者に対し,外国からのいかなる介入も受けることなく,交渉による平和的解決に到達するために,最大限に自制すべきである旨呼びかけた。

アフガニスタン情勢に関し,両国首脳は,国連憲章の諸原則,特に国家主権及び領土保全の尊重,武力行使または武力行使による威嚇を行わないこと,並びに内政不干渉の原則に対する支持を再確認した。また,両国首脳は,1980年11月20日の国連決議A/RES/35/37に従って,早期に政治解決することが重要である旨強調した。

6. 総理大臣と大統領は,新国際経済秩序の樹立に向けて,種々の場において今日まで行われた交渉の進展につき検討した。両国首脳は,国際経済協力のためのより良い環境造りの促進に向けての努力を一層強化する必要性を強調した。

両国首脳は,南北対話において,有意義な成果を達成するために,積極的かつ建設的努力がなされるべきことを期待した。

両国首脳は,このような対話の場として,グローバル・ネゴシエーションを開始することに関し合意が達成されることを希望した。

7. 大統領は,第3次5ケ年計画の下において達成した満足のいく成果について説明した。総理大臣は,スハルト大統領の卓越した指導の下にインドネシア国民が払った開発努力を高く賞賛した。総理大臣は,インドネシアの国家的強靱性の強化を目指すこの様な努力に対し,経済・社会インフラ・ストラクチャーに加え,食糧増産,農村・農業開発,エネルギー開発,及び人造りに特に重点を置きつつ,種々の形の援助と協力を行っていくとの日本政府の意向を再確認した。

両国首脳は,日本のインドネシア政府に対する580億円及び282億円の円借款に関し,1980年12月に2組の交換公文が取り交されたことに満足の意をもって留意した。

総理大臣は,日本が,インドネシア援助国会議において引続き実質的な役割を果たし,インドネシアと積極的かつ効果的な協力を継続していく旨述べた。

更に,総理大臣は,化学工業訓練開発センター及びバイオマス・エネルギー研究開発センターの建設,更に,プラムカ地域開発訓練センターに対する機材供与のため,無償援助を供与するとの日本国政府の意向を表明した。

8. 総理大臣は,インドネシアにおける人造りに貢献するために,日本国政府が引続き技術協力を行うとの意図を表明した。これに関連し,総理大臣は,ASEAN各国にセンターを設立するとの人造りのためのASEANプロジェクトを提案した。

総理大臣は,この目的のため日本国政府が1億ドルの無償資金協力及び技術協力を行なう旨述べた。更に,総理大臣は,このプロジェクトに関連し,日本国政府としては,沖縄にセンターを設立する旨述べた。

スハルト大統領は,総理大臣の提案を評価し,インドネシア政府は,この提案について他のASEAN諸国と協議する用意がある旨述べた。

9. 総理大臣は,インドネシアにおけるASEAN尿素プロジェクトに対し,日本国政府としては,189億円の追加的な資金援助を供与する用意がある旨表明した。

総理大臣と大統領は,これにより同プロジェクトの実施のために必要な全ての資金が確保され,同プロジェクトが完成に向けて進捗することとなったことに満足の意を表明した。

10. 総理大臣と大統領は,日本とASEANの対話の枠組の中における経済面での協力で今日までに達成された進展に留意し,この様な協力が一層拡大され,高められることを期待した。

両国首脳は,ASEAN貿易・投資・観光促進センターを設立する協定が1980年12月に東京において締結されたことを喜こび,この協定が,日本とASEANとの経済関係の一層の発展に貢献することを期待する旨述べた。

11. 両国首脳は,平等及び相互利益の原則のもとに科学技術に関する協力を促進することは,両国の利益の促進に資するとの認識を共有し,「科学技術協力に関する日本国政府とインドネシア共和国政府との間の協定」の締結が,この様な協力の促進に大いに貢献するよう希望を表明した。

12. 総理大臣は,エネルギー資源の安定供給の為にインドネシアが行ってきた協力に謝意を表した。両国首脳は,エネルギー分野における協力を一段と促進させることに合意した。更に,両国首脳は,提案されていた日本・インドネシア・エネルギー合同委員会の下における会合が1981年々央にジャカルタにおいて,両国政府高級官吏間において行われることに満足の意を表明した。

13. 総理大臣と大統領は,日本とインドネシアとの間の貿易が拡大し,かつ多角化しつつあることは,両国の利益に適うものであることについて意見の一致を見た。スハルト大統領は,日本が,インドネシアにとって輸出関心のある半加工品及び工業製品のための市場アクセスを改善すべく引き続き努力するよう希望を表明した。両国首脳は,両国政府としても,健全な貿易関係の発展のためにできる限りの努力を払うとともに,この様な健全な貿易関係の促進のために民間企業が払う各種の努力を支持する旨表明した。

14. 両国首脳は,インドネシアの経済・社会発展のために日本の民間投資の果す役割の重要性を認識し,投資保証協定の締結のための交渉を,早期に開始することに合意した。

更に,両国首脳は,「所得に対する租税に関する二重課税防止のための日本国とインドネシア共和国との間の協定」が,両国間の経済関係強化に貢献するよう,早期に締結されることを希望する旨表明した。

15. 両国首脳は,漁業の分野における協力につき意見を交換した。

両国首脳は,日本漁船のインドネシア群島水域内の通航問題につき早急に協議することに合意した。

鈴木総理大臣は,インドネシアの「200海里排他的経済水域」内での日本漁船の操業の維持・継続につき,インドネシア側の配慮を要望した。スハルト大統領は,インドネシア法令及び国際法に従い,日本の漁業利益を十分尊重する旨約した。

16. 総理大臣と大統領は,両国関係をより広範な基礎のもとに置くことの重要性を認識し,あらゆるレベルにおける活発な文化交流及び文化協力を通じ両国民の相互理解と友好を更に促進させる意向であることを再確認した。

この関連で,総理大臣は,技術教育教員資質向上センターに対する文化無償援助に言及した上,ASEAN地域研究振興を援助するための特別計画及びアジア及び太平洋地域の若手外交官のための日本語研修計画等の特定のプロジェクトを提案した。

17. 両国首脳は,今回の鈴木総理大臣のインドネシア共和国訪問は,両国間の相互理解と,既に存在する友好関係の一層の強化に大いに貢献したことに深い満足の意を表明し,この訪問において両国首脳間に成功裡に確立された個人的な信頼と尊敬の関係を更に深めて行くことに意見の一致をみた。

18. 鈴木総理大臣はインドネシア滞在中,同総理大臣夫妻及び随員一行がインドネシア側から受けた温かい歓迎と厚遇についてインドネシア政府及び国民に対し,深甚なる感謝の意を表明した。

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