(14) 第6回IEA閣僚理事会コミュニケ(仮訳)
(1980年12月9日,パリ)
国際エネルギー機関(IEA)閣僚レベル理事会は,1980年12月9日パリにおいて,チャールズ・W.ダンカンJr.アメリカ合衆国エネルギー長官の議長の下で開催された。
1. 閣僚は短期の問題について経験されている困難が構造改革を実現するための行動の必要性を強調することを認識して,短期の石油市場1青勢及び中期的な構造改革を達成する必要性の双方につき見解を表明した。閣僚は,中東の2箇国の紛争が,具体的な戦争状態に発展したことにつき特に遺憾の意を表明し,紛争を終了せしめるための努力が成功することを希望した。
世界石油市場の評価
2. 閣僚は,将来の石油供給に新たな不確定要因を投げかけかつ世界経済に対し潜在的に厳しい脅威をもたらしている中近東における事態を危惧の念をもって受けとめた。閣僚は,IEA諸国が世界石油市場の秩序を維持し,価格圧力を低減するために積極的に貢献するとの決意を表明した。閣僚は,世界経済が健全であるためには石油価格安定が何よりも重要であることについて意見の一致を見た。閣僚は,1981年に予見される経済活動の回復が弱いものであること,また,大幅な石油価格の上昇は,経済回復の機会及び経済活動に極めて悪影響のあるインフレ圧力のコントロールの機会をほとんど確実に消失せしめることに留意した。閣僚は,それ故,需給の不均衡の可能性を極小化するような方法で現在の情勢を処理するため国際協力が決定的に必要であることを強調した。閣僚は,最も影響を受けた消費国を援助しかつ世界石油市場全体の需給を均衡させるのを支援するための若干の産油国の増産を歓迎した。閣僚は,現在の情勢により引き起こされる諸困難に対して,加盟国政府が優先的に注意を払うこと及び工業国が事態を効果的に処理するためにあらゆる努力を払うことの決意を表明した。
3. 閣僚は,全体的な世界石油市場の情勢を分析し,1981年第1四半期については,高水準の備蓄,消費の低下傾向及び追加的生産により状況をコントロールしうると結論した。閣僚は,イラク・イラン紛争より生じた純供給減はこれまで概ね陸上及び海上備蓄の取崩しにより対処されてきているが1980年末のIEA諸国の陸上備蓄総量は1979年末より高水準であり,また1981年第1四半期において一層の備蓄取崩しを行ってもIEAの備蓄は未だ1979年4月1日水準より若干高い水準に低下するだけであろうことに留意した。閣僚は,また,この全体的なパターンの下で個々の国や企業によってそのポジションが相当に異りうることをも認識した。
短期の行動
4. 閣僚は,かかる条件下で工業国が全体として引き続き備蓄取崩しを行うことにより自己の経済に十分な石油の供給を続けられる旨結論した。しかしながら閣僚はまた,市場及び価格に不必要な圧力を及ぼす購入を思いとどまらせ,石油消費をコントロール下におき,備蓄及び供給の偏在がもたらす国及び企業間の不均衡を是正し,かつ域内の高水準生産を既存の施設により達成する必要性を認識した。
5. 閣僚は,1980年10月1日の理事会で合意された措置は,備蓄を取崩し,スポット市場での異常な購入を抑制するために有効であったとの結論に達した。閣僚は,これらの方策を再確認し,1981年の第1四半期にまでこれを延長し々
6. 閣僚は,IEA諸国の目的は必要以上の高価格により世界経済に悪影響を及ぼす深刻な潜在的市場圧力を取除くことにある旨合意した。また,閣僚は,以下の点に合意した。
(a) IEA加盟各国は,斯る成果を達成することに貢献する。
(b) 市場圧力を強める惧れのある潜在的インバランスを回避するために,IEA諸国のうちで相対的に有利な状況にある国は,相対的に不利な立場にある国にかかる圧力を軽減することに貢献する。
(c) 国内のインバランスを是正するための各国それぞれの努力にもかかわらず残存し,かつ,価格に対して不当な市場圧力を及ぼす諸国間及び企業間の深刻なインバランスについては,これを是正する必要がある。
7. 以上の目的を達成するため,各国政府は,以下に示された措置を衡平な方法でとる。
(a) 1980年第4四半期及び1981年第1四半期において,世界市場における石油の需給均衡を維持するため,備蓄の取崩しを必要に応じて行う。また,相対的に高水準の備蓄あるいは供給をもつ諸国は,より深刻な影響を受けた他の諸国での供給不足を考慮して,自国の備蓄が取崩されることを認める。
(b) 購買者のその時点での全般的状態(供給,備蓄,予想される需要その他)及び過去のやり方と関連させた上で,価格,量及びタイミングの各要素を含む幅広い基礎に立って,できるかぎり購買圧力を除去するとの観点から,市場圧力を増加させる効果をもつ価格水準での好ましくない購入を思いとどまらせるようにする。
(c) 1980年の石油消費抑制(全体で1979年に対し約6%減)につき,工業国の消費者が既に示したかなりの前進を支持し発展させるため経済成長を制約せずに,石油の合理的使用及び他の形態のエネルギーによる代替を奨励するエネルギー政策を遂行,実施する行動を強める。
(d) 自国における高水準の石油・ガスの国内生産を奨励し,支持するような現存設備の能率的な利用のための政策をとる。
(e) 付属書1に掲げられた「決定」に従い深刻なインバランスの是正のために貢献する。
8.(a) 事務局の試算によれば,これらの行動を総合した成果として,1981年の第1四半期の世界市場におけるIEA諸国の石油需要量が,行動をとらなかった場合の試算必要量である2億6,400万トンから2億3,800万トンへ削減されることとなる。これは,世界石油市場の安定化及び経済的に悪影響をもたらすような世界エネルギー価格の上昇防止へのIEAの貢献になる。
(b) 閣僚は,通常の200万B/Dの備蓄取崩しに加え,この削減が220万B/Dに相当するとの事務局の試算を承認した。
(c) すべてのIEA加盟国はこのコミットメントに貢献する。
(d) これらの行動の実効性をモニターするため,現行のレビューにおいて,消費量,備蓄量変化及び国内生産量から算出した国別の1981年の石油必要量についての事務局試算値を出発点として,各国の努力を測定し,比較する。各国の実施状況の評価にあたっては,経済成長,異常気象,エネルギー構造の変化等の理由による需要量変化も考慮に入れる。
(e) この作業を行うため,理事会は必要に応じ会合し,コミットメント実現のための進捗状況をレビューする。このレビューにおいては,短期の供給見通しに照らし各国政府が約束した行動の修正が正当化される状況か否かを評価する。
9. 閣僚は,上記の措置の実施を確保するために以下の点について更に合意した。
(a) IEA諸国政府は,成功裡の実施に必要な石油企業の支持を得るため,適当なハイレベルで一層の努力を払う。
(b) 事務局は,インバランスの状況の深刻さを判断し,可能な解決策をみつけだすに際し,石油企業と緊密に協議する。
(c) 事務局及びすべての加盟国政府は,これらの措置の有効性を確保するため,石油市場動向を詳細にモニターする。
(d) 閣僚は,必要と思われるときは,短い予告で再度会合する用意がある。
10. 閣僚は,引き続き事態をレビューし,必要な場合には,1980年5月に合意した方法による石油輸入シーリングの採用の可能性も含め行動の強化を考慮することに合意した。
構造変化へ向けてのモニタリングの進展
11. 閣僚は,また,この先10年間にわたる健全な経済成長の基礎として中期的にエネルギーの需給をバランスさせるために必要であるとして1980年5月に合意したエネルギー経済に於ける構造変化の達成に関する現在までの進展状況をレヴューした。閣僚は,IEAの石油純輸入総計が,1985年のグループ目標並びに1985年の石油純輸入についての加盟国の現在の試算値の双方を相当に下廻らなくてはならないこととなろうとの点で意見の一致をみた。閣僚は,強化された政策ケース(Prudeat Policy)は1985年に2,200万から2,300万B/D程度の石油輸入を目途とすることを示唆しているとの事務局の分析に留意した。
12. 閣僚は,1985年までの経済成長予測が相対的に低いにも拘らず,石油を可能な限り温存し代替するようエネルギー需要の管理を行い,非石油型のエネルギーの生産,貿易及び使用についての現在の予測にこれ以上遅延を生じさせないようにするために,より強力な措置が必要とされるであろうとの,また強化された政策シナリオの達成に失敗すれば,1980年代初めから中頃にかける経済の回復が危うくなることもあり得るとの見解を明らかにした。
13. 閣僚は,1985年以降は,石油の供給不足により経済成長が更に妨げられることもあり得るがこれは,石炭の生産,貿易及び使用の拡大,適切な状況下での原子力開発の拡大,天然ガスの生産・貿易及び利用の増大,代替エネルギー源による石油代替の強力な推進,並びに非在来型の合成燃料の開発・強制回収プロセス・及び長期的に域内生産を極大化する為のIEA加盟国内に於ける探査・開発努力の増進等を通じ液体燃料の供給を拡大すること,等を目的とした強力かつ緊急の政策手段によって回避されうるものであることを認識した。
14. 閣僚は,現行の国別審査プロセスが,構造変化の進捗度をモニターし個々の国がよりよい成果を達成できる分野を具体的な形で見出す上で極めて重要であると考える。閣僚は,事務局に対し引き続きこうした審査を基本的に,(i)1985年に市場を均衡させる為に必要とされる水準に石油輸入を抑えた場合の石油及び他の燃料セクター別最終使用量,(ii)個々の国が1985年につき,現在期待されている結果より相当によい成果を上げ得る可能性があると思われる特定の分野についての分析をより正確かつ充実したものとすること並びにこれを実現する為に必要な政策及び計画の評価を行うよう要請した。こうした分析の結果は,1980年5月に閣僚により合意された1985年グループ目標の下方修正幅の数量化の基礎として次回会合において閣僚がレヴューし検討するために準備されるべきである。
エネルギー価格
15. 閣僚は,均衡のとれたエネルギー市場,代替燃料の開発及びそれに伴う石油依存の低減,並びに一層のエネルギー効率化を促進するために,石油価格は,一般に国際石油価格を反映すべきであるとの見解を再確認した。閣僚は,これらの目的達成に資するため,IEAは,エネルギーの価格付け一般をより詳細に検討すべきであり,エネルギー価格付けに関するより効果的なモニタリング制度を作りだすべきであることに合意した。閣僚は,次の会合においてこの問題を再び取りあげる。
エネルギー需要管理
16. 閣僚は省エネルギーを促進し石油代替を奨励するためのエネルギー需要の効果的な管理が,エネルギー経済の構造変化を確保する上で本質的に重要であると考える。省エネルギー及び燃料転換に対する国民の関心をより高め,一般的な意図の表明から成果を達成するためのより具体的な行動へと踏み出すために,閣僚はエネルギー節約及び燃料転換の為の行動指針を採択し,国家政策においてこれを実施する。
石炭産業諮問委員会
17. 閣僚は,石炭産業諮問委員会(CIAB)の最初の報告を受けCIAB特別委員会のメンバーと報告について意見を交換した。
凪閣僚は,CIABが国際取引上の専門知識をコールチェーンの全局面に導入して,政府・産業双方に実際的な助言を与えるための重要なフォーラムを提供するということを再確認した。閣僚は,これを他に類例をみない国際協力の例であると考え,この点でCIABメンバーのなしてきた貢献を認識し評価する。
19. 閣僚はまた,
(i) 「現在の不確実性を減ずるための強力な行動が今とられない限り,1990年までに石炭生産・利用を倍増するという目標は達成され難い。」「石油依存度低減のため石炭を充分な時間的余裕をもって開発するには,石炭利用の増大及びそれに対応する生産とインフラ設備の開発に対する,より強いコミットが必要である。」というCIABの結論を受諾した。
(ii) CIABの勧告は,IEAの石炭行動原則と合致するものであるということに留意し,各政府がこれらの原則の枠組の中で,石炭の利用・生産・貿易を拡大する政策や計画を強化しつづけることに同意した。行政府は,CIABの個々の勧告を注意深くレヴューし,必要ならばそれらの勧告に従って行動をとる。このレヴューの過程で,各閣僚が個別に,関係のCIABメンバーに会ってCIABの結論や勧告についてより詳細にわたり意見を交換することができる。
(iii) 閣僚は,事務レベル理事会が,その参加国の石炭に関する政策や計画をレヴューするに際してCIAB報告書に注意深く考慮を払うことを要請した。
(iv) 閣僚は,IEAエネルギーシステムの中で石炭が果たすべき役割を抑圧している
不確実性を減ずる上で,石炭の利用・生産・インフラ開発に関する見通しについてのより包括的な情報の公開が大きな貢献をなしうるということに同意した。閣僚は,事務レベル理事会にCIABの助言に基づいて,重複を避け,報告に伴う負担が最少限のものとなるようなシステムを整備することの必要性に留意しつつ石炭に関する適切な情報システムを開発することを要請した。
(v) 閣僚はまた,CIAB報告をフォロー・アップしょうという理事会の計画を歓迎し,支持した。特に,CIABの下記のような行動を促した。
―各国内において石炭の利用・生産を増大することの全般的な潜在的可能性及び斯る可能性を実現するためにとりうる措置につき,政府に助言を与えること。
―石炭の使用・生産・貿易に対する制約要因を具体的に認定し,それらを除去するための実際的な方法を示唆すること。
―石炭の品質及び灰処理の問題に注意を向けること。
―石炭利用に伴う環境要因に対して特に注意を払い,個々のケースについて,満足できる環境基準の下で石炭利用を増大するためにどのような措置が存在するかについて助言を与えること。
加盟国におけるエネルギー投資
20. 閣僚は,個々の加盟国における構造調整を促進するために必要なエネルギー・プロジェクトに関連した投資問題を取り扱う統一的で包括的なアプローチが必要であることに合意し,事務レベル理事会に対し,プロジェクトの選定基準及び可能な支援・援助措置を含むそうしたアプローチのための手続を開発し,次回閣僚レベル会合に報告するよう要請した。
21. 閣僚は,こうしたアプローチを明らかにする一助とするために2~3のプロジェクトを試みに評価することも可能であるとの見解を表明し,関心を有する国に対して,事務レベル理事会に次回会合までに候補となるプロジェクトを提出するよう要請した。
国際エネルギー問題
22. 閣僚は,エネルギー問題の解決は強化された国際協力に基づくべきであるとの確信を再確認した。閣僚は,他の諸国,特に石油輸出諸国が同様の見解をもつことへの希望を表明し,IEA諸国がエネルギー問題についてこれらの諸国と討議する意向のあることを再び強調した。閣僚は,開発途上国がその長期的なエネルギー必要量を満たすことの困難さについて引き続き関心を表明した。このため,閣僚は,国連内の活動を含む他の国際機関の活動を歓迎し,開発途上国のエネルギー資源の開発にとって多大の重要性があると考えられる世界銀行エネルギー計画の強化を特に支持した。
インバランス是正に関する理事会決定
(付属書1)
理事会は,IEAが,イラク・イランの供給停止から生ずる国家間又は企業間の深刻な石油供給インバランスを是正するため,1980年12月9日以降次の措置を適用することを決定した。
1. 目的
この決定の目的は,起こりうるすべてのインバランスを是正することではなく,国家が自国内のインバランスを是正しようと努力するにも拘らず残存し,かつ,価格に対して不当な市場圧力を及ぼすであろう深刻なインバランスを是正することにある。
2. データ・ベース
事務局は,イラク・イランの石油供給停止が続く期間中,毎月質問書A及びBに対する回答を受け取り,処理し,分析し続けることとする。質問書Aにおいては,将来の月の海上備蓄のデータ,質問書Bにおいては,当該月及び将来の月の非報告企業のデータも提出される。
3. インバランス測定の基礎
国の供給ポジションは,事務局が関係国と協議して試算したその時点での真の必要量も考慮に入れつつ,グループに入手可能と予想される総石油量を基準期間最終消費量(BPFC)に比例して各国に配分することにより決定される理論上の供給量と比較される。
4. 国家間のインバランス
(a) この決定は,上記パラグラフ1に説明されているインバランスを是正するために適用される。
例えば,ある国が,
―総供給(又は主要な製油の供給)の相当程度深刻な減少がある場合であって,
備蓄がこれを補うに足る水準にない時,
―備蓄が不釣合に低く,潜在的に危険な水準にまで低下した場合がそれである。
(b) 加盟各国の要請を受け,又は,自らの発意により,事務局長は市場に対する圧力となりそうな重大なインバランスを認定する。その際,経済成長,天候,エネルギー構造の変化等に伴う備蓄変動のみならず,1980年10月1日の理事会で合意された方策を実施にうつすことによって起る備蓄の変動を考慮に入れて,この認定を行うこととする。
(C) このような場合,事務局は事務局の評価及びインバランス是正に要する措置について関係国と協議するとともに,すべての代表団に状況をすみやかに通知し討議する。
(d) 事務局は,インバランス状況の深刻さを評価し,可能と思われる解決策を発見するに際し,個別の企業とも協議する。
(e) 事務局は,各国政府に対し,それぞれの管轄内で営業している企業と話し合うことを要請し,各国政府がその結果を事務局に通報するよう要請することができる。
(f) 事務局長は,こうしたすべての協議を考慮に入れ,インバランス是正に必要な量の石油の供給を可能とする供給源及び可能な措置を認定する。
(g) 事務局は,適切な緊急時の行動がとれるように上記の如く認定された措置,(石油)量及び可能な供給源を関係国の政府に対して示す。
5. 企業間のインバランス
(a) イラン・イラクの供給停止の結果として一国内で深刻な企業間インバランスが生じる場合には,当該国政府は,価格への圧力を増加させるような行動をとることを企業が差し控えるよう,必要と考えるすべての努力をする。
(b) 各国政府が各々の努力は国際的行動によって補完されうると考える場合には,案件をIEA理事会に提起できる。
(c) 一国の管轄をこえた国際的規模での企業間インバランスが生じた場合には,案件について理事会及び関係国政府の注意を喚起し,彼らが,解決策をみいだすことができるようにすることができる。
(d) 事務局は,集計データを提供し,一般的にそのような状況の分析について助力する。
6. 政府の支援
各国政府は,本決定が有効に実施されることを確保するために,十分な支援を与える。
7. 期間
この決定は,1981年第1四半期に生じうる潜在的な市場圧力を緩和するためになされている。供給停止によるインバランスがこの期間を越える場合には,理事会は,これを更に延長することができ,また,必要ならば将来活用するために利用可能にしておくことができる。
8. 法的側面
政府は,この決定の効率性と有効性を促進するという見地からその実施に係る法的側面について検討することに合意する。