(8) 第5回IEA閣僚理事会コミュニケ(仮訳)

(1980年5月22日,パリ)

国際エネルギー機関(IEA)の理事会は,1980年5月22日パリにおいて,オット・グラフ・ラムスドルフ=ドイツ連邦共和国経済大臣の議長の下に,閣僚レベルで会合した。

1. 1979年12月に開催された前回の閣僚理事会において,閣僚は,1980年の石油輸入シーリングを設定し,1985年グループ目標を改訂するとともに,同グループ目標の国別内訳を設定し,モニター・システムを創設し,そして石油市場に秩序を回復するため,今後更に一層の措置を講じてゆく必要性がある旨強調することにより,石油市場の波乱にとんだ状態に対応した。今回閣僚は,達成された進捗振りをレビューし,追加的な行動をとるために会合した。

世界エネルギー情勢の評価

2. 閣僚は,経済活動が低下し,すべての国に深刻かつ否定的結果をもたらしつつある世界経済に直面する石油価格の水準につき懸念を表明した。特に,1979年末以降の価格上昇は,石油需要低下にも拘らず生じたものであり,かかる上昇は世界経済に対する悪影響を考慮することなくなされたものであるようにみえる。

3. 閣僚は,1980年代における世界のエネルギー需給の趨勢の見通しを検討し,経済成長見通しを維持し且つ高めるため,IEA諸国が,中期的にエネルギー経済に実際に構造変化をもたらし,かくしてエネルギー,就中石油に対する需要を削減するような方法で各々のエネルギー政策を引き続き強化し,実施してゆくと同時に,他方短期の市場撹乱に対する対応策を準備しておくことに合意した。

閣僚は,もしエネルギー問題が解決されないのであれば,経済全体を効率的に運営する能力は重大な試練にさらされることとなり,これは永続的基盤の上での経済成長の展望を損う可能性があることを認識した。

中期における構造変化を確保するための手段

4. 閣僚は,IEA長期協力作業部会によって行われたIEA諸国のエネルギー政策と計画の1979年年次審査の結果を検討し,その報告書「IEA諸国のエネルギー政策と計画―1979年審査」に留意した。閣僚は,エネルギー政策のためのIEAの原則で要求されている措置のうち,必ずしも全ての措置が実施されなかったこと,又は必要な結果をもたらすのに十分ではなかったということに同意した。

5. 閣僚は,IEA諸国がいかなる程度までエネルギー政策の原則をフォローアップしたかについて討議した。閣僚は,付属で示されているように,IEA各国においてエネルギー政策が強化され得る分野についての事務局の分析に留意し,これらが,IEA諸国のエネルギー政策努力の実体的及び質的なモニターのための有益な道具であると考えた。閣僚は,指摘された分野が,中期に亘って顕著な成果を達成するための大きな潜在力を有するものを示していることを認めた。閣僚はそのため,各国でいかなるエネルギー政策が必要とされるかについて決定を行う際にこれらコメントを重視していくことに合意した。

6. 閣僚は,政府が石炭の生産,貿易及び利用を大いに増加させるための計画と政策を発展させるために役立つ石炭産業諮問委員会の設置を歓迎した。閣僚は,委員会が,石炭の開発のための政策の策定において,極めて重要な役割を担うべきであると信じ,秋までに行動計画を進展させる同委員会の意向を歓迎し,1990年までに同委員会が石炭の生産と利用を倍増するのに必要な行動に関する具体的勧告を提供するよう要請し,またその勧告を大いに重視し,それらを迅速に検討することに合意した。閣僚は,また適切な条件の下で,INFCEにおいてなされた進捗を考慮に入れ原子力の拡大が中期の構造変化を確保する上で不可欠であることに留意した。

7. 閣僚は,エネルギー経済の構造改革の過程は,相当の投資を包含するものであり,それは活発な政策によって奨励されねばならず,また経済成長という条件の下で最も良く進展するものであることを認識した。閣僚は,いくつかの国の特定の環境の下では,かかる過程に困難が生じ得るというそれら諸国の懸念に留意し,事務レベル理事会はこれを検討し,次回の閣僚会合に報告するであろう。

8. 閣僚は,中・長期グループ目標が,構造変化の方向を示し,かかる方向に到達するのに必要な措置を識別するための枠組を提供し,また進捗をモニターするための基礎を成す数字的な指標として利用される重要かつ合意された道具であることに合意した。かかるグループ目標は,単に状況に歩調を合わせるだけでなく,十分それに先んじたものが作成されるべきである。

9. 閣僚は,IEA諸国によってグループとして達成される1985年のネットの石油輸入の実績が,潜在的な節約及び石油生産の可能性を反映し,既存の1985年グループ目標(バンカーを含んだ2,620万BDの石油輸入)を相当程度下まわるべきであることに合意した。閣僚は,消費と輸入を考慮に入れ,モニターの過程の一部として削減を数量化することに合意した。事務局は現在入手しうる情報に基づき,既存のすべての不安定要因をふまえ,この可能性を約400万BDと算定している。

10. 閣僚は,石油輸入を削減する努力を1985年以降も続けることに合意した。

これらの努力の結果として,今後10年間に,IEA加盟国全体のエネルギー消費増加率と経済成長率との比率を約0.6に,また,1990年までに総エネルギー需要に,おける石油の割合を現在の52パーセントから約40パーセントに減少させることが可能になると期待される。

11. 閣僚は,既存の及び追加的な政策手段が実施され,その結果として全IEA諸国に於いて実際に必要な構造変化がもたらされるようにするには,定期的に効果的なモニターを行うことが肝要である旨合意した。

短期の政策手段

12. 閣僚は,構造変化を達成するまでに時間が必要であるため,それまでの間,石油市場に発生する可能性のある価格又は量についての短期的撹乱による経済的悪影響を制限するため,短期の政策手段が準備されなければならぬとの結論に達した。

従って閣僚は,IEA諸国の準備を改善するため次の措置を決定した。

目安(ヤードスティック)と上限(シーリング)

(a) 構造変化及び中期目標の達成についての進捗状況を測定するため並びに石油市場の悪化にIEAとして迅速に対処するため,目安(ヤードスティック)及び上限(シーリング)に関する取決めは以下のとおり。

―消費量,備蓄変化及び国内生産から算出される国別石油必要量の見積りを毎年作成する。

―通常の市場状況下において,この見積りは,構造変化の達成のための実施措置についての進捗状況を測定するための目安(ヤードスティック)としての機能を果たす。この目的に従い,この見積りは,措置及びその結果が中,長期目的に向っているかどうかを決定するために,中期目標と比較する。また,この見積りは,石油市場の発展をモニターするため短期石油供給見通しと比較する。

―いかなる時であっても市場の逼迫した状況が差し迫ったものであると考えられる場合には,閣僚はショートノーティスで会合する。もし閣僚が逼迫した石油市場の状況が存在すると認めれば,IEA諸国は,必要に応じて,そうしなければ起るであろう希少な資源をめぐる争奪を防ぐ為に,積極的かつ有効な行動,特に需要を抑制する為の措置をとる。そのような場合には,閣僚は,それら予測値に部分的に基礎を置き,自ら課す抑制手段として,またその効果をモニターする為の手段として,各国別石油輸入シーリングの使用につき決定する。シーリングは,各国が逼迫した市場状況の中で進んで自らに課す自制の度合を表すという政治的なコミットメントを表わす。

(b) 新規の石油輸入シーリング及び目標を設定し,また石油市場の変化がそれらの調整を必要とする場合,迅速にこれに対応する必要が生じるかも知れないとの理由に基づくシーリング及び目標の調整のためのシステム

備蓄政策

(c) IEA内に於ける政府間の及び政府と石油企業の間の備蓄政策についての協議の為のシステム。このシステムは石油市場の状況に対応する為に1980年から使用される。事務レベル理事会は,この目的のため備蓄の利用についてのガイドラインにつき検討するであろう。

(d) 90日の緊急備蓄義務が将来の緊急事態に対する合理的な防衛になると思われることの再確認。

13. 閣僚は,短期的な石油市場撹乱に対処するため以下を含む他の政策手段についても検討した。

―短期的な市場撹乱に対応するため,90日緊急備蓄必要量を超える備蓄分及び通常備蓄の弾力的運用

―1979年12月の閣僚理事会において閣僚に一より言及されたものを含むその他のメカニズム

これらの分野については,いずれも事務レベル理事会において更に検討される。

14. 閣僚は,1980年第1四半期についての最初の一連のモニターの結果をレビューした。その結果,1979年12月の閣僚理事会において設定された1980年の石油輸入シーリングの限界内に全てのIEA諸国がおさまる見込みであることが示された。また閣僚は,現下の国際石油市場1青勢を検討し,現在のところ,1979年12月に設定された1980年石油輸入シーリングは,調整の必要がないとみられ,他方1981年についてもシーリング設定の必要性はないようにみられるとの結論に達した。ただし,もし石油供給又は石油需要状況が悪化すれば,1980年又は1981年にこの点に関し急速な変更が生じることもあろう。閣僚は,本年秋の会合において石油市場情勢につき再検討する。

エネルギー研究,実証及び開発並びに商業化

15. 閣僚は,各国エネルギー経済の中期の構造変化が長期的に引継がれることを確保するための重要な要素として,新しい技術の商業化とともに,エネルギーの研究,開発及び実証に対しより大きな政治的重要性を付与することとなろう。閣僚は国際エネルギー技術グループの報告及び同報告中の新エネルギー技術の商業化を促進する勧告を承認した。

16. 閣僚は,IEARD&Dグループ戦略が開発されたことに留意した。閣僚は,IEA諸国全体の石油輸入を最小化する上記戦略の加速化されたシナリオを事務レベル理事会が追求すべきであるとの結論に達した。閣僚はIEA加盟国がIEARD&Dグループ戦略を各国のプライオリティ及び資金レベル並びにIEAの共同計画プライオリティを決定するための指標として利用することに合意した。エネルギー研究及び開発委員会は,各国のRD&D努力の全体がグループ戦略と一致する程度につき密接にモニターし,定期的に検討を行うこととする。

石炭産業諮問委員会には,石炭の生産,利用の拡大を促進するためにいずれの新規テクノロジーが探究されるべきであるかについて,勧告を行うよう要請する。

17. エネルギーRD&D問題の政治的側面,特に国際エネルギー技術グループの報告及びIEARD&D戦略リポートのフォローアップに対し高いプライオリティが付与されなければならない。この目的のために,IEA加盟国のエネルギー技術に責任を有する閣僚及び最高レベルの官吏による会合も考慮されるべきであろう。

国際協力

18. 閣僚は短期的に安定的な石油市場条件を確保しつつ,中期的に石油をペースとする経済からスムーズに移行することがすべての国による経済成長及び開発の探究を可能にする世界経済の繁栄の前提条件であることに留意した。閣僚は,上記の線にそった行動はかかる結果をもたらすのに寄与すると考える。また,閣僚は石油輸出国がより良い世界経済状況への貢献につき同様の見解をとることについての希望を明らかにし,IEA加盟国がこれらの問題につき産油国と話し合いを行う希望をもっている旨再度表明した。

閣僚は開発途上国が固有のエネルギー資源の開発によってそのエネルギー需要をみたすよう国際社会が一層の支援行動をとる必要性があることにつき合意した。これは,工業国及び石油輸出国双方が貢献し得る努力であることが認識された。閣僚は,国際連合システム内における来たるグローバル・ネゴシエーションズの中のエネルギー問題に関する話し合いの重要性を認識し,その成功に寄与するためあらゆる努力を行うこととする。また,閣僚は,きたる新・再生エネルギーに関する国連会議の開催を引き続き強く支持する。

付属

個々のIEA加盟国においてエネルギー政策を強化しうる分野に関する事務局分析。

(i)  一般に石油価格は,国際石油価格を反映すべきである。米国は石油及び天然ガスの価格のコントロールを解除する方向にむけての前進を継続すべきである。カナダは,一層のエネルギー節約,石油以外の他の燃料への代替及び代替エネルギー源の開発を促進するようなレベルに国内石油価格を引きあげるための措置をできる限り速やかにとるべきである。ガス埋蔵量の豊富な国(オーストラリア,カナダ,ニュー・ジーランド)及び石油を利用しない火力発電の選択を有する国(オーストラリア,カナダ,ニュー・ジーランド及びスウェーデン)においては,これら燃料の価格政策は,適当な使用目的について石油からこれら燃料への代替を促進することが望ましいことを考慮に入れるべきである。

(ii)  全ての国(特にイタリア,日本,オランダ及び米国)において,石油以外の燃料に代替すること及び石油利用をミドル・ロード及びピーク・ロードに限定することにより,できる限り速やかに石油利用火力発電を減らすよう努力すべきである。他に実際的な選択肢がないという特定の場合を除き,いかなる新規の火力発電所も認められるべきではない。既存の施設は石油以外の燃料を最大限に利用して移動されるべきである。

(iii)  すべての国において,産業における石油の非原料としての利用を削減することにつき強い行動が必要である。石油使用が急速に増加することが見込まれているギリシャ,アイルランド,日本,オランダ及び米国並びに期待されている成果を達成するために一層強化された行動が必要な,ドイツ,イタリア及び英国においては,状況についての慎重なレビューを行うことが妥当である。

(iv)  インフラストラクチャーが存在し,あるいはこれを供給することが可能なあらゆる住宅部門においては直接利用(地域暖房を含む)あるいは電力転換して利用される場合とを問わず,非石油燃料が石油に代替するべきである。地域暖房を利用し,あるいは計画中の国においては,石油利用の火力施設の転換の可能性を含め,石炭をこの目的のために一層利用することを考慮すべきである。オーストラリア,カナダ,ドイツ,イタリア及び日本は,天然ガスにより石油を代替するよう努めるべきであり,ドイツ,イタリア,及び日本は天然ガスの輸入の増加を通じ,これを行う必要がある。スゥェーデンは,住宅部門において電力による石油の代替を促進すべきである。英国は1980年代を通じて石油を天然ガスにより代替していくとの現行の計画が実現するよう確保すべきである。

(v)  すべての国は,エネルギー一般特に石油の合理的かつ有効な利用を促進するような包括的かつ強力な節約計画に一層の重点を置くべきである。

すべての国においては,国民一般に対し,エネルギーを何のために,またいかに節約するかにつき,効果的に広報すべきであり,また,その成果があげられなければならない。特に,住宅の断熱効率に関する基準はレビューされるべきであり,必要な場合には基準が高められるべきである。既存住宅の断熱推進計画を有していない国は,気象条件よりみて妥当なあらゆる地域に関し,かかる計画の導入につき真剣かつ迅速な考慮を払うべきである。他の部門,特に産業及び交通部門においても節約により大幅な利益をあげることが可能であり,また,かかる節約の結果を確保するための適当な措置がとられなければならない。

(vi)  交通部門においては,燃費効率を引き続き高めることによって,石油節約が大幅に達成されうる。現在燃費向上計画のある国(豪,加,西独,日,ニュー・ジーランド,スウェーデン,英,米)は,1980年代を通じて引き続き効率化を確実に図られるよう計画を拡充し,また現行計画が強化出来るか見通しを行うべきである。必要であれば,その結果は,計画を義務的なものとすることによって保証されるべきである。

また,現在燃費向上計画を持っていない国は,その導入を考慮すべきである。

商業車及びリクリエーション用車輌のための基準設定が考慮されるべきであり,全ての国は燃費効率の悪い自動車及びガソリンに対する課税水準及び課税制度の見直しを行うべきである。

速度制限の引き下げを行っていない全ての国は運転者に燃料節約の必要を訴えるため,速度制限の設定及びその強化を考慮すべきである。

(vii)  石炭生産(オーストラリア,カナダ,アメリカ合衆国一これらの国は,相当量の石炭の輸出を可能とするように備えるべきである)利用(ドイツ,イタリア,日本,スペイン,英)及び貿易の拡大の為,より強力な行動が要求されており,そのためには,新たな鉱山及び輸送設備開発に安定と自信を与える為,長期の契約上の取決めへのより大きな関心が必要である。デモンストレーション・プロジェクト及び他の環境への影響を縮小させ得る技術に対する援助を含む環境への考慮を処理する為,積極的行動が要求される。

(viii) 国内生産(ノールウェー,英,アメリカ合衆国)及び輸入(オーストリア,ベルギー,ドイツ,イタリア,日本,スウェーデン,アメリカ合衆国)の増大を通じて,天然ガス供給を増大させる努力がなされるべきである。

すべての国におけるガス利用の戦略は,石油に代替する他の燃料が存在する場合,電力及び産業部門に於いてガス利用が最小化される様,確保すべきである。カナダは,輸入石油に取って替わる天然ガスの国内利用の増大を促進する努力を加速させるべきである。

(ix)  計画された原子力プログラムを達成し安全及び核拡散面(独,伊,日及び米)と同様に経済及びエネルギー面の考慮も払って,原子力問題の討議が客観的かつバランスのとれた形で行われるような環境を作り,また,原子力発電所の認可手続及び他の加盟国における核燃料サイクルに関係した認可手続を簡素化するため,より多くの努力が払われなければならない。

(x)  炭化水素の探査及び開発活動はその長期の生産を極大にするため,強化されなければならない(デンマーク,ニュー・ジーランド,オランダ,ノールウェー,スペイン,英国及び米国)。2次回収によって生産を増大する機会は活発に追求されなければならない。

(xi)  特に省エネルギー及び液体及び気体燃料の分野において,新エネルギー技術の開発及び商業化を加速するために早期の行動が必要とされている。

(xii)  上記の特定の行動に関し,個別に言及されていない国は,自国に適用されうる分野の全てについて,新たな,又はより強化された政策措置のための同様の機会を活発に追求すべきである。

 目次へ