(7)第19回OECD閣僚理事会における大来外務大臣発言
(1980年6月3日,パリ)
(議題2)「1980年代初頭における国際経済関係―特に開発途上国との関連で」
(議題3)「貿易政策」
議長
幾多の困難に直面している現在の世界経済の運営について,その方向付けを打ち出すことが,この閣僚理事会に集まった我々OECD諸国に与えられた重要な課題であります。
私は,70年代の科学政策に関する高級専門家グループの一員となった他,インターフユーチャーズ運営委議長を務める等,以前からOECDの活動に関与する機会がありました。本日この場で先ず南北問題続いて貿易政策について所見を述べることは,私の喜びとするところであります。
議長
近年・南北双方にとって「相互利益」という理念が重要な意味をもってきております。それは,南北関係における前進が,南側のみならず北側にも経済的利益をもたらすからであり,また,世界経済のみならず,世界の政治的安定にも大きく寄与するからであります。かかる政治的側面が有する意味あいは,最近一部の開発途上国にみられる政治的な不安定の増大に照らし,その重要性を増していると言えます。
こうした南北間の相互利益という考え方は,このほど公表されたブラント委員会報告の中でも,開発に対する共同責任という考え方とともに打ち出されております。もちろん相互利益を通じての南北問題の解決というものは,時間のかかるプロセスではありますが,かかる認識が広く南北双方に浸透することを期待してやみません。
議長
世界経済は,70年代を通じ2度の石油危機をはじめとする諸困難に直面しましたが,第2次国連開発の10年の諸目標のうちかなりのものが達成され,またGSPの導入及び拡充,UNCTADの一次産品総合計画,就中その中核となる共通基金の設立についての基本的合意等,南北間で幾つかの重要な成果をあげることができました。
しかしながら,昨年の閣僚理以降UNCSTD,UNIDOIIIといった主要な南北対話の場を経たにもかかわらず,我々は依然として双方が満足しうる関係を模索している状況にあるといわざるを得ません。こうした中で,我々は,新IDSやグローバル・ネゴシエーションという新しい対話へのイニシアチブを迎えようとしております。このうち,特にグローバル・ネゴシエーションの帰趨は,80年代の南北関係に大きな影響を持ち得るという意味において,OECD諸国にとって一つの試練であります。我々としては,対話を歓迎するとの基本的スタンスの下に,現実的な相互利益の観点に立って,望ましい成果が得られるよう努力すべきものと考えます。
ところで,南北問題をとりまく厳しい環境の中でも,特に最近のエネルギー情勢をめぐる不安定な状況は,南北双方に重くのしかかっております。先進国としては,一方で協調的なエネルギー政策を進めるとともに,他方では非産油開発途上国における在来型及び新・再生可能エネルギーの開発促進を積極的に支援していくことが重要と考えます。
また,開発途上国における食糧問題の解決も重要な課題であります。この点に関しては,私の持論でもありますが,開発途上国の食糧自給力の向上こそが根本的な方策であり,そのために国際的な協力を行うことが有意義であろうと考えます。
議長
ここで私は,南北間の諸問題の解決の鍵となる三つのダイメンションと,それに対するわが国の対応ぶりについて述べてみたいと思います。それは,「人造り」,「資金の流れ」,「物の流れ」であります。
第1の「人造り」について申し上げますと,一国の開発を担うのは究極的には他ならぬ当該開発途上国の国民自身であり,この意味で「人造り」は,途上国の国造りの礎とも呼べるでしょう。
この点については,開発途上国自身が十分理解し,認識することが強く望まれるところであります。このような問題意識から,わが国は「人造り」に対する協力を重視していく考えであり,この分野における有効な協力を確保するため,DAC諸国と協調していきたいと考えております。
第2は「資金の流れ」であります。
先進国としてはODAについて最大限に努力する必要があります。わが国としては,本年ODAの3年間倍増を確実に達成する見込みであり,今後ともODAの質量両面にわたる拡充に向けてたゆまず努める所存であります。また,ODAを特に必要としているのは貧困が著しい諸国であり,我々は今後ともこれらの諸国のニーズに配慮していく必要があると考えます。
さらに,非産油開発途上国へのりサイクリングの問題については,民間市場の役割が中心となるべきであると考えますが,これと並んで国際金融機関等,公的部門の補完的役割の強化も必要であり,わが国としては,この問題についての関連フォーラムにおける検討にも積極的に参加していく所存であります。
第3のダイメンションは「物の流れ」であります。すなわち開発途上国が「人」と「資金」を活用し,さらには,技術の導入を通じて,生産活動を拡大していくに従い,これら諸国と先進諸国との間の貿易も拡大してきております。南北間の貿易は,第1次石油危機以降の先進国における経済困難の中で,OECD域内貿易より高い伸びを示しました。なかでもより開発の進んだ途上国から先進国への製品輸出は,世界貿易の中で最もダイナミックな要素となっており,わが国について見ても75年から78年までの3年間にNICSからの製品輸入は2倍になりました。この貿易の拡大が開発途上国の発展に果たす役割の大きさは,OECD事務局のNICSレポートがよく示しているところであります。
従って,我々先進国としては,開発途上国との貿易関係の重要性を認識し,これを強化していく必要があると考えます。特に開発途上国が最近の石油危機によって国際収支困難に陥っている現状に鑑み,わが国としても開発途上国産品の国内市場へのアクセス改善に努めており,LLDCに対しては特恵特別措置を導入いたしました。また,NICSについては,動態的国際分業を進める見地からその発展を歓迎するものであります。
議長
次に貿易問題一般について言及したいと思います。世界貿易は,第1次石油危機以降,国際収支困難やセクター上の困難に帰因する保護主義の台頭という大きな脅威に直面してきましたが,その中で我々加盟国の貿易政策の支えとなったものは,GATTの枠内における東京ラウンドという史上最大の多角的な貿易交渉であり,また,新たな保護主義的措置の導入を回避するという加盟国の強い決意を1974年以降表明してきたOECDの貿易プレッジでありました。
議長
80年代の初頭において,世界経済の見通しは不透明であり,保護主義の圧力も当分続くものと懸念されます。従って,我々は,まず今後の世界貿易のルールを確立する東京ラウンドの諸成果を誠実に実施していかねばなりません。また,この閣僚理事会において,OECD加盟国が,従来の貿易プレッジの単純延長に代えて,新たに貿易政策に関する宣言を採択し,もって開放的かつ多角的な貿易体制を維持・強化していく決意を明らかにすることは,我々の共通の目標である世界貿易の拡大にとって大きな意義を有するものであります。
我が国は当初より,貿易宣言及びそのフォローアップのためのレビューを考えておりました。従って我が国は,この貿易宣言を強く支持するものであり,また他の加盟国とともに,その実施を確実なものにしていきたいと考えております。
また,現在進められている積極的調整政策に関する特別計画の作業を通じて,各国の政策責任者が調整と開放貿易との関連につき認識を深め,もって各国の調整政策の促進に貢献することが期待されます。
議長
現在我々に求められているのは,困難な経済情勢に加えて非常に不安定な国際政治情勢の中で,南北対話や開放貿易体制の有する意義についての認識を深めるとともに,これらの推進へむけての決意を新たにすることであります。しかも,そのような認識や決意を単なるレトリックに終らせてしまってはなりません。即ち,我々政策責任者としては,国際的なコンセンサスの形成を図ると同時に,現在のように各国が国内的な困難を抱えている時にこそ,問題の本質について国民の理解と支持を得るように一層努め,もって具体的な政策の実施へと結びつけていくことが肝要であることを最後に強調したいと思います。