2. 国際協調

(1) 主要国首脳会議

(イ) 第6回主要国首脳会議(ヴェニス・サミット)は80年6月22日,23日の両日,ヴェニスのサン・ジョルジョ・マジョーレ島で開催され,日本,米国フランス,西独,英国,イタリア,カナダの首脳及びEC委員会委員長が参加した。

同サミットでは,(a)一般経済政策,(b)エネルギー,(c)貿易,(d)国際通貨・金融,(e)南北問題などの諸問題について討議が行われ,会議最終日にこれらの諸問題の合意を盛った「ヴェニス・サミット宣言」が採択された。

また,これら経済問題に加えて,政治問題も初めて本会議の場で取り上げられ,22日のコッシーが議長(イタリア首相)の記者会見の際,アフガニスタン問題について記者発表を行った。その他難民問題,外交官人質問題,ハイジャックについてそれぞれ声明が発表された。

(ロ) ヴェニス・サミットは主要7カ国の指導者が80年代の関頭に立ち,今後の10年間を展望して経済戦略を打ち出したという意味で,80年代最初のサミットにふさわしいものであった。同サミットにおいては,80年代あるいはそれ以降の中長期の課題であるエネルギー問題と,緊急の最優先課題であるインフレの抑制を中心として実りある議論が行われたが,この二つの問題を始めとするヴェニス宣言の主要合意点は次のとおりである。

(a) 一般経済政策については,インフレ抑制が緊急の最優先課題であることで合意したが,失業の増大と世界的景気後退に対する配慮も必要なこと,また中長期的には生産的投資など構造調整が必要であることで認識が一致した。

(b) エネルギー問題については,経済成長と石油消費の間のリンクを断つとの決意を表明し,そのため石油を節約し代替エネルギーの生産と使用を大幅に増大させる必要性を強調した。また,この目的達成のために価格メカニズムを重視し,財政及び行政措置でこれを補完すべきであるとする一方,石油の節約や代替エネルギーの利用拡大のための具体策を提示した。

そして,こうした総合的エネルギー戦略を進めることによって,90年までにサミット参加国全体のエネルギー消費増加率と,経済成長率との比率を約0.6に下げること,また全エネルギー需要に占める石油の割合を現在の53%から約40%に下げること,また石油消費量については,需給が均衡するように現在のレベルを大幅に下回るようにすることの3点を期待している。

またエネルギー生産者と消費者の政策の調和を図るために,両者で建設的な対話を行うことを歓迎するとも述べている。

(c) 南北問題については,石油価格の上昇が開発途上国に与える影響を憂慮し,GN(国連包括交渉)と新IDS(新国際開発戦略)への積極的取組みを確認した。途上国との協力分野としてエネルギー開発,人造り,食糧,人口問題などがあることを指摘し,また世銀などの国際開発金融機関の増資などへの支持を確認した。

更に援助の責任は,石油輸出国及び共産主義工業国も衡平に負うべきであることを指摘した。

(d) 国際通貨・金融については,石油価格高騰によって生じたりサイクリング問題解決のためには,民間資本市場が主要な役割を果たすべきものであり,これを補完するものとして国際機関,特にIMFの役割の拡大が必要なこと,また,産油国も赤字国への直接融資により貢献すべきことが指摘された。

なお,前回の東京サミットに引続き外国為替市場の安定に対するコミットメントを再確認した。

(e) 貿易については,開放貿易体制の強化及び保護主義防圧への決意が表明された。そして多角的貿易交渉の積極的成果を支持し,関税貿易一般協定(GATT)の体制の強化のために,できるだけ多くの国が完全参加することを求めた。

また,行き過ぎた輸出信用競争を回避するとの決意が再確認された。

(f) 最後に結論として,主要な経済問題解決のカギは許容しうる価格でエネルギー需給をバランスさせることであるという点で認識が一致し,このためサミット参加国は,断固たる態度で今後10年間の経済問題に取り組むことに合意した。また,世界経済の安定はすべての関係国が相互のニーズを認識し,相互の責任を受け入れることにかかっているという点でも認識が一致した。

(ハ) 以上の経済問題を扱ったヴェニス宣言とは別に,アフガニスタン問題についてコッシーが議長が記者発表を行った。これは79年12月に起こったソ連のアフガニスタン軍事介入に対する西側の対応の仕方を巡って,当時アフガニスタン問題が主要国の重大関心事であったことを背景としている。

この発表文においては,ソ連のアフガニスタン占領は容認できないとし,ソ連軍の即時撤退,アフガニスタンの主権・領土保全,政治的独立,非同盟の性格の回復を訴えている。また問題解決のためのイスラム諸国会議などのイニシアティヴヘの支持を表明している。

(ニ) このほかに,難民,ハイジャック,外交官人質問題に関する声明が発表された。

難民に関する声明においては,難民の増加への懸念を表明するとともに難民問題に責任を有する諸政府に対し,問題の原因を除去するよう呼びかけている。

ハイジャックに関する声明においては,ボン宣言に沿ってその防止のために引続き努力するとの決意が表明された。

外交官人質に関する声明は,イランにおける米大使館人質問題などを念頭に置いて出されたものであるが,すべての国に国際法の遵守を要請している。

(ホ) なお,ヴェニス・サミットでの以上のような諸合意の実施状況を検討するために,各国首脳の個人代表などが出席して,9月25日,26日ワシントンにおいてレヴュー会合が開かれた。

(2) 経済協力開発機構(OECD)

第19回OECD閣僚理事会は,80年6月上旬開催され,OECD諸国経済が第2次石油危機の影響をいかに克服していくか,またその中で開放貿易体制の維持強化,あるいは南北関係における進展をいかに図っていくかを中心に討議した。同理事会は,3週間後に控えたヴェニス・サミットに対して政策面でいかなるインプットを与えるかという意味で広い関心を集めたが,(i)経済政策運営に関しては,価格安定を回復し,生産及び雇用面で投資主導による供給指向の成長を図ることを基本的目標として,短期及び中期の諸条件の整備を促進することに合意したが,具体的には,各国とも,まず第2次石油危機の悪影響を吸収するため引締め的な財政金融政策を採用すること(第I段階),次にインフレ率が満足すべき状況にある国で自律的回復が不十分な場合には,政策スタンスの転換を遅らせるべきではないこと(第II段階)を合意した。(ii)更に貿易問題については,従来からの「貿易プレッジ」の単純延長に代えて,より積極的に開放貿易体制を維持し強化すること,積極的な調整政策を進めていくことなどをうたった「貿易政策に関する宣言」を採択した。(iii)また開発途上国との関係については,第2次石油危機が途上国に及ぼす悪影響を吸収するには,途上国自身によるインフレ抑制・生産的投資増加の努力が重要であると指摘する一方,政府開発援助(ODA),リサイクリングの重要性を確認したほか,新国際開発戦略の策定,GN(国連包括交渉)及びブラント委員会報告に関心を表明した。

(イ) 経済政策

80年5月の経済政策委員会(EPC)では,既に第2次石油危機のデフレ効果によるOECD経済の景気後退入りが予想されていたにもかかわらず,インフレ抑制を最優先課題として当面は引締め的(non-accommodating)な財政金融政策が必要との点につき合意がなされた。ただし今後,一部に石油危機の悪影響が吸収され物価が鎮静した国が見られる段階に至った場合,これらの国がどのような政策運営を行うべきかについて必ずしも明確な合意が得られず,結局6月の閣僚理事会において前述のような結論に達した。

11月のEPCではこうした各国の物価抑制最優先の引締め政策が奏功し,インフレは最悪期を脱し次第に収束しつつあることが確認された。

同時に物価面で改善の見られた国が,この段階でリフレ政策に移行すべきか否かについても論議されたが,インフレ圧力が根絶されたとは楽観できない状況にかんがみ,インフレ抑制姿勢堅持の必要性が再確認された。なおこの点と関連して,米国の新金融調節方式導入に伴う世界的高金利傾向を背景として,低インフレ国が自国通貨の軟化を恐れて緩和政策に移行しにくいという手詰り状況の打開策についても論議された。

他方,こうした短期の政策問題の検討と並んで,新たにマクロ経済と構造問題に焦点を当てて政策面での分析を行う作業が開始された。

(ロ) 積極的調整政策(PAP)

PAPは,OECD諸国が,内外の経済構造の変化に対応して中長期的にインフレ・低成長から脱却するため,構造調整と生産性の向上を図り,経済体質を供給面から改善するものとして,近年その重要性が一段と増している。80年においては,PAP特別グループが一部の国の経験,PAPと他の主要な政策との関連性などについて本格的な検討を行った。すなわち,3月には米国のPAP,地域政策,7月にはフランス及びオランダのPAP,税政策,造船業,11月には日本のPAP,有望産業育成策を討議した。

(ハ) 貿易

第19回閣僚理事会(80年6月)で新たに「貿易宣言」が採択されたほか,貿易委員会では,サービス分野の貿易問題などが引続き検討された。また,輸出信用アレンジメントの改定問題については,当初予定していた12月1日までには解決が見られず,その後も合意に向けての努力が続けられている(詳細は,以下の第2節2.「ガット及びOECD」の項参照)。

(ニ) 南北問題

南北問題を総合的に検討する場として79年に設立された南北経済問題グループは,80年中頻繁に開催され,UNIDOIIIやGN(国連包括交渉)の準備のために意見交換を行った。また一次産品ハイレベル・グループは一次産品共通基金(CF)協定の策定(6月)までは主としてその準備を行ってきたが,その後は個別産品,投資問題などに重点が置かれてきている。

(ホ) 主要セクター問題

(a) 造船部会は一般ガイドラインの実施状況を中心として検討を行ったが,欧州側は不況からの回復が遅れていることから,80年上半期のわが国の受注増に厳しい批判の目を向け,受注量の50対50シェア分割を再度提案するとともに,何らかの措置を講ずるようわが国に要求した。わが国は自由貿易の原則を強調するとともに,これまでにわが国が講じたドラスチックな不況対策を説明し欧州側の理解を求めたが,欧州側は,わが国の造船不況対策の進展にセンシティブな態度をとっており,今後とも慎重な対応が必要となっている。

(b) 鉄鋼委員会は,80年2月に一部非加盟国や業界・労組も交えシンポジウムを開催したほか,本委員会では日本・ECその他の国の鉄鋼政策レビュー,米国による鉄鋼輸入に関するトリガー・プライス制度の一時停止と改定復活,ECの鉄鋼生産に関する強制割当などについて意見を交換したほか,政府の措置が貿易の流れに及ぼすインパクトにつき一般的討議を行った。

(ヘ) その他

(a) 農業大臣会議

第9回農業大臣会議は,80年3月開催され,農業・食糧政策の方向,農業市場の改善,開発途上国の農業問題について,幅広く意見の交換を行った。その結果,農業部門における効率性と衡平性の確保,エネルギー節約の推進,柔軟な生産政策の重要性,開発途上国の食糧増産支援,食糧援助の継続などについてコミュニケを採択した。

(b) その他のハイレベル会合

婦人雇用,社会政策及び情報・電算機・通信政策に関するハイレベルの会合が各々開催された。

(c) 以上の分野のほかにもOECDでは環境委員会,労働力社会問題委員会,国際投資多国籍企業委員会,制限的商慣行委員会,海運委員会など幅広い分野で活動を行ったが,特に科学技術政策委員会の下の情報・電算機・通信政策作業部会では,78年から個人データのプライバシー保護に関するガイドライン策定作業を行った結果,理事会は80年9月に同ガイドラインをOECD勧告として採択した。

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