第2章 国際経済関係
第1節 総説
1. 世界経済の動向
1980年の世界経済は,79年以降の石油価格の大幅上昇による経済各面への悪影響を吸収し,調整する年であった。
(1) 先進国経済
(イ) 80年の先進国経済を見ると,79年末以降鈍化傾向を示していた米国経済は,80年4~6月期に戦後最大の落込みを記録したあと,緩慢ながら回復に向かったが,日本及び西欧経済は,年後半以降,個人消費や住宅投資などの低迷により鈍化傾向を示したため,全体としての経済の拡大テンポは緩やかなものにとどまった(OECDによれば,80年のOECD加盟国全体の実質経済成長率は1%の見込み)。こうした景気動向を反映し,雇用情勢は,80年中悪化傾向をたどり,特に英国では80年4月以降失業者数が戦後最高水準を更新し続けるなど厳しい状況であった。こうした事情もあって,各国で保護貿易主義的な動きが強まった。
(ロ) 物価は,米国,英国,イタリアでは79年から騰勢を強めていたが,80年に入ると,これまで比較的落ち着いていた日本,西独を始め各国でも上昇率の高まりが見られた。このため,各国はインフレ抑制を最優先課題とし,引締め的な政策スタンスをとった。80年年央になると,石油価格上昇の影響一巡,各国のインフレ対策の効果及び景気後退などの影響により物価の騰勢はやや鈍化したが,引続き高水準で推移した。
(ハ) 国際収支面では,79年初来の石油価格高騰により拡大していた産油国・石油輸入国間の不均衡は,80年には更に著しいものとなった。すなわちOECDによれば,78年まで縮小を続けていた産油国の黒字は,79年の680億ドルのあと,80年には1,160億ドルもの巨額な黒字となり,一方,先進国の赤字は,79年の350億ドルから80年には730億ドルヘと倍増し,非産油開発途上国の赤字も,79年の370億ドルから80年の500億ドルヘと増加したと見込まれている。
先進各国の経常収支を見ると,79年に石油価格上昇の影響により赤字に転じた日本及び西独は,80年には更に赤字幅を拡大し,両国合計で約260億ドルもの大幅な赤字を計上した。また,フランスも前年の黒字から赤字に転じた。他方,米国では,経常収支は小幅ながら4年ぶりに黒字に転じ改善傾向を示し,また,英国でも,石油輸出の増加などにより79年を上回る黒字となった。
(ニ) 80年の国際通貨情勢は,インフレが高進する中で,米国の金利急騰によりその他諸国との金利格差が拡大したため,米ドルは80年4月ころまで急上昇を続けたが,その後は比較的落ち着いた動きを示した。しかしながら,秋以降,米国の金利再騰及び経常収支の改善を背景に米ドルは再び強含みに推移した。一方,西独マルクは,経常収支の悪化などを背景に下落を続けた。
(ホ) このように80年の先進国経済は,石油価格上昇の影響が経済各面に浸透し,物価が高水準で推移する中で,年後半以降総じて景気後退色が強まり,国際収支の赤字幅が拡大するなど困難な状況が続いた。
(2) 開発途上国経済
(イ) 80年の非産油開発途上国の経済は,農業生産の好・不調により各国にかなりの格差が見られるが,総じて各地域とも年後半以降,成長率は鈍化した。特に,韓国を始めとする中進工業国では,先進国の景気後退により輸出が伸び悩み,成長率は大幅に鈍化した。
物価面では,消費者物価は,30%(対前年比)以上の大幅な上昇となった模様である(IMF-IFSによる。80年7~9月では,対前年同期比37.6%)。これは,石油及び工業製品輸入価格の上昇に加え,多くの国で大幅に賃金が上昇したことなどによるものである。
また,経常収支赤字は,石油価格上昇による輸入の増加,先進国の景気後退による輸出の減少により,OECDによれば,79年の370億ドルから80年には500億ドルヘと拡大した見込みである。
(ロ) 80年の産油国経済は,79年の成長率(2.9%,IMF資料による。)を更に下回った模様である。これは,先進国の需要減退による石油生産の減少に加え,国内経済開発を漸進的に進めようとする政策姿勢などに影響されたものである。
物価面では,消費者物価は,79年の10.4%(対前年比)のあと,80年には国内金融の緩和などを背景に上昇率の高まりが見られる(IMF-IFSによる。80年7~9月では,対前年同期比14.7%)。
経常収支黒字は,石油価格上昇による輸出の大幅増加,緩やかな輸入増加により,79年の680億ドルから80年には1,160億ドルヘと大幅に拡大した(OECD資料による)。
(3) 世界経済の課題
こうした中で,世界経済の安定的拡大を図るためには,インフレ抑制が引続き重要であり,また,世界的景気後退を回避することが必要となっている。このため,経済成長と石油消費とのリンクを断ち切り石油依存型経済構造からの脱却を図ることが要請されており,また,同時に,適切な需要管理政策に加え,生産性の向上など供給面の政策を積極的に推進し,更に保護貿易主義を防圧することが必要となっている。