6. インドシナ難民問題

(1) 概況

1975年のインドシナ3国の政変に端を発するインドシナ難民問題に対する各国の対策は,79年7月のジュネーヴ会議を契機として本格化し,80年を通じて活発な救済援助及び第三国定住が行われた。

特に,第三国定住は順調に進み,80年を通じ,ボート・ピープル(ベトナムからの海路難民)約15万人を含む約23万人の難民が米国などに定住した。その結果,ASEAN諸国などに滞留しているインドシナ難民の数は相当数減少し,81年2月末現在,ボート・ピープル及びラオス難民など約164,000人,新カンボディア難民(79年秋以降タイに流入したカンボディア難民)約137,000人の合計約30万人となった。

また,救済援助の面でも国連難民高等弁務官事務所(United Nations High Commissioner for Refugees;UNHCR)が,新カンボディア難民を含めたインドシナ難民の救済援助のために約2億7,000万ドルの計画を掲げ,各国の協力を得ておおむね当初の計画を実施したものと見込まれる。

(2) 問題点

このようにインドシナ難民の第三国定住は,全体で見ると一応順調に進んでいるが,国別,難民別に次のような問題がある。

まず,タイを除くASEAN諸国及び香港については,ボート・ピープルの第三国定住が順調に進んだ結果,81年2月末現在これらの諸国に滞留しているボート・ピープルの数は約43,000人となり,問題解決に一歩近付いたと言える。

他方,タイについては,81年2月末現在,ラオス難民,新カンボディア難民を中心に約258,000人の難民が滞留しており,負担が集中している。特にラオス難民については,半数弱が第三国定住の難しい山岳民族であることもあり定住の見通しは明るくない。また,新カンボディア難民についても,カンボディア情勢が混沌としているため,本国帰還の見通しが立たず,タイに対する大きな負担になっている。

更に,タイに限らずASEAN諸国及び香港に流入する難民の数は,80年を通じ依然として年間約12万人に上っており,本件難民問題の根の深さを物語っている。

(3) 国際会議など

79年秋以降大量のカンボディア難民が流入したことにかんがみ,80年5月ジュネーヴにおいて国連事務総長の下でカンボディア民衆救済国際会議が開催された。その結果,参加国から合計1億ドルを超える拠出の誓約があり,新カソボディア難民の救済が進んだことは高く評価される。

(4) わが国の協力

わが国は,インドシナ難民問題は人道上の問題であるばかりでなく,アジア・太平洋地域の平和と安定にかかわる重要な問題であるとの基本認識に立って,救済援助,定住受入れ,一時庇護の提供などの協力を行っている。なかんずく,わが国は最大の負担を担っているタイに対する援助を重視しており,80年8月には,伊東外務大臣が外国の外相としては初めてタイの難民キャンプ及び被災民の「新村」を訪問し実情を視察した。

(イ) 救済援助

資金協力面では,79年度に約9千万ドルの援助を実施したのに引続き,80年度には前記カンボディア民衆救済会議において,インドシナ難民に対する総額約1億ドルに上る援助を誓約し,実施した。内訳はUNHCRへの拠出6,000万ドル,世界食糧計画(UN/FAO World Food Program;WFP)を通ずる米の供与約2,000万ドル,タイ政府に対する難民・被災民関連援助など約2,000万ドルである。特に,難民関連の二国間援助としては,タイ被災民のための新村計画に対する協力,カンボディア難民及び周辺タイ住民に対する医療協力など,難民・タイ被災民双方を念頭に置いたキメの細かい協力を行っており,高く評価されている。

(ロ) 難民の本邦受入れ

わが国は80年6月定住枠を1,000人に倍増するとともに,定住条件も漸次緩和し定住促進に努めてきた結果,81年3月末現在616人がわが国に定住した。また,1,000人の枠とは別にインドシナ3国出身の元留学生など742人に対し定住を認めている。これらの難民に対しては,当初定住センターで日本語教育を行った後,就職斡旋を行うなどキメの細かい施策を行っている。

他方,海上で救助され本邦に来航した難民に対しては,ほぼ無条件で上陸を認めており,80年1年間に上陸した者は1,278人に上っている。75年以来の累計は81年3月末現在4,526人に達するが,米国など第三国に定住した者も多いので,81年3月末現在の滞留者数は1,712人となっている。

また,わが国はUNHCRとヴィエトナム政府との合意(いわゆる「合法出国」)に基づき,80年6月の閣議了解により在日ヴィエトナム人の家族呼寄せを許可することとし,目下その実現に努めている。

(ハ) その他

インドシナ難民救済に関し,わが国民間団体なども政府と協力しつつ重要な救済活動を行っている。特にタイにおいては,80年2月バンコクに設立された「日本奉仕センター」(Japanese Volunteer Centre;JVC)を窓口として,医療,教育,衛生分野などでの奉仕,救援物資の寄贈など多岐にわたる救済活動を行っており,関係者から高い評価を受けている。

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