4. 東南アジア諸国連合(ASEAN)

(1) 域内協力の状況

ASEANは,1967年の設立以来,東南アジアの地域協力機構として着実に発展し,今やこの地域の平和と安定に欠くべからざる重要な存在となるに至った。80年においてもASEANの域内協力は政治,経済の両分野において着実な進展を見た。

(イ) 政治面での協力

ASEANは,前年までのインドシナの諸問題に対する協調と結束の成果を踏まえ,80年においても政治面での協力を強化し,特にカンボディア問題の解決のため全力を傾注した。

具体的には,1月にASEAN常任委員会議長であるマレイシア外相がヴィエトナムを訪問,またヴィエトナム外相も5~6月にマレイシア,タイ,インドネシアを訪問するなど,ヴィエトナムとの対話を推進する動きを示した。他方,中国も,3月及び5月に黄華外相がインドネシアを除くASEAN各国を訪問した。

しかしながら,6月にはヴィエトナム軍のタイ領越境攻撃が発生し,ASEANは「タイ・カンボディァ国境情勢に関する共同声明」とともに「第13回外相会議共同声明」を発出するなど一体となってタイの立場を支持した。

更にASEANは,第35回国連総会において域内の連帯と志を同じくする域外諸国との協調を一段と強め,その働きかけの成果により前年に引続き民主カンボディアの国連代表権が維持されるとともに,カンボディア問題国際会議の開催のための指針などを骨子とする「カンボディア情勢に関する決議案」が圧倒的多数の支持を得て採択された。

(ロ) 域内経済協力

ASEANの域内経済協力は,80年においてもASEAN工業プロジェクト,域内特恵関税制度(PreferentialTradingArrangements;PTA),産業補完計画などの面で着実な進展を見た。また,エネルギー,工業,科学技術の各分野においてASEAN発足以来初めての閣僚会議が開催され注目された。

4月,シンガポールで開催された第9回経済閣僚会議では,フィリピンの工業プロジェクトを従来のリン酸肥料から紙パルプに変更することを承認(ただし,フィリピンは,81年1月に至り,紙パルプを銅精錬プラントに再度変更することを示唆)したほか,PTA対象品目を4,325品目(1,498品目追加)とし,また78年統計で輸入額5万ドル以下の品目に対しては特恵マージンを20%(通常10%)へ拡大することで合意を見た。

また9月には初の工業大臣会議及びエネルギー大臣会議が開催された。工業大臣会議では,ASEANジョイント・ベンチャー計画を推進することを決定し,エネルギー大臣会議では原油輸入の域外依存度低減と域内エネルギー資源開発のための協力を促進することで合意を見た。

10月の第10回経済閣僚会議ではPTA対象品目を更に5,825品目まで拡大(81年1月から実施)すること,また新たな産業補完計画として自動車部品に関する分業生産を実施することとし,その第1次及び第2次パッケージの分配計画を決定した。同じ10月には,第1回科学技術大臣会議が開催され,ASEANベースでの科学技術協力の在り方につきガイド・ラインを作成していくことで合意を見ている。

(2) 域外諸国との関係

域外先進国との協力関係は,79年に引続き80年も着実に進展してきたところ,ASEANと域外諸国との主要会議は次のとおり。

 

(3) わが国との関係

(イ) 鈴木総理大臣のASEAN諸国歴訪

(a) 80年代に入り,日・ASEAN関係発展のためわが国が行った外交努力のうち特筆されるのは,81年1月に鈴木総理大臣が総理大臣就任後初の外国訪問としてASEAN諸国を歴訪したことである。鈴木総理大臣には,伊東外務大臣,亀岡農水大臣,瓦官房副長官ほかが随行した。わが国総理大臣のASEAN諸国への訪問は,77年8月の福田総理大臣以来3年半ぶりであり,日・ASEAN友好協力関係の一層の増進,また広くわが国アジア外交の基盤強化に大きく貢献した。

(b) 各国における首脳会談では,アジア情勢(なかんずくカンボディア問題)を中心とする国際情勢並びに二国間及び日・ASEAN間の経済,経済協力,文化など広範な分野における協力関係の発展について率直な話合いが行われた。総理は各国において二国間の経済関係や経済協力などの分野において種々の協力を実施していく意向を表明したほか,具体的な対ASEAN協力事項として次のような諸提案・コミットメントを行った。

○経済協力……ASEAN「人造り」プロジェクト(総額約1億ドル)の実施……ASEAN工業プロジェクトヘの資金協力(インドネシア尿素プロジェクトに189億円の追加資金協力,マレイシア尿素プロジェクトに480億円の資金協力)

○経済…………一般特恵関税制度の10年間延長など

○文化協力……ASEAN地域研究振興計画への協力

(c) 総理は歴訪の最後の訪問地バンコクで,わが国の基本的対外姿勢及び日・ASEAN関係を柱とする対東南アジア外交の進め方を総括した政策演説を行い,わが国平和外交の基本理念とASEAN重視の外交姿勢を明らかにした。特に総理は対ASEAN関係について,ASEAN諸国と「ともに考え,ともに努力する」との精神に立って成熟した関係の構築を目指すことを宣明し,80年代以降の日・ASEAN関係の基本的な方向付けを行った。

(ロ) 80年における協力関係の進展

総理のASEAN諸国歴訪に先立ち,80年を通じて,わが国とASEANとの間には一段と多角的な協調・交流関係の発展が見られた。

政治面においては,6月の第3回目・ASEAN外相会議,8月の伊東外務大臣の訪タイ,第35回国連総会などの機会に,わが国は,カンボディア問題やインドシナ難民問題の解決のためASEAN諸国の立場を支持し緊密に協力することを明確にした。

経済面では,わが国の対ASEAN貿易は80年も79年に引続き対世界貿易を上回る拡大を示し,貿易バランスは,前年と同様,原油輸入分を除いてもわが国の入超となった。また12月には,ASEAN貿易投資観光促進センターの設立協定が署名された。

一次産品問題に関しては,ASEAN諸国の要望に配慮し,6月の共通基金協定採択に大きく貢献し,資金面でも6,000万ドルを超える拠出意図を表明した。また同じ6月に,わが国はいち早く天然ゴム協定を受諾した。

経済協力の分野でも,わが国はASEAN諸国を最重点地域として積極的な資金・技術協力を実施したほか,ASEAN工業プロジェクトについても,各プロジェクトの進捗状況に応じ予備調査団の派遣から資金供与まで各種の協力を行った。

文化面でも,ASEAN文化基金(50億円)が運用段階に入り,奨学金制度へも初年度分100万ドルの拠出が行われた。

また,5月には日・ASEANフォーラムの第4回会合が開催され,経済協力,経済・貿易,文化の諸分野における日・ASEAN協力状況のレヴュー,将来の協力の在り方につき意見交換が行われた。

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