2. 南北問題解決への努力
(1) 主要な動き
1980年の世界経済の諸困難の中で,特に非産油開発途上国の抱える問題が増大する一方,先進国の対開発途上国協力にも困難が加わってきている。このような背景の下にあって,1980年には,南北問題の解決に向けて,「第3次国連の開発の10年のための国際開発戦略(新IDS)」の採択,「一次産品共通基金設立協定」の採択などの成果があり,また,南北問題を扱ったブラント委員会報告が公表された。また,ブラント委員会報告にある提案を契機に「南北サミット」の構想が実現に向けて一歩を踏み出した。他方,非産油途上国の窮状を背景に提案された国連包括交渉(GN)は手続・議題の準備交渉が難航し,未だに発足し得ない状況にある。
わが国は,南北の相互依存関係がますます深まってきている状況にあって,南北問題は,各国とも協力関係を促進し,長期的視野に立って,世界経済全体の運営をいかに行うかという全体的視点からその解決に努めていく必要があると考えており,これに積極的に取り組んできている。
(2) 国連包括交渉(GN)
非産油開発途上国の窮状の深刻化を契機として,79年末の第34回国連総会で,エネルギー,一次産品,貿易,開発,通貨・金融の5分野における包括的交渉を行うことが提唱された。その後,GNを発足させるべく,国連において鋭意準備作業が行われたが,国連専門機関の権限と交渉機能を重視する西側と中央機関(ニュー・ヨークで国連の下に置かれる。)の権限の強化によるGNの交渉の成果保全を重視する南側との手続上の対立があり,GN発足の任務を負った80年8月から9月の国連経済特別総会においては,わが国を含め西側先進国の大勢と,南側が合意し得る手続案が作成されたが,米,英,西独3カ国の反対があり決着がつかなかった。その後もGNの準備作業は難航している。
わが国は,GNの意義を認め,すべての国にとって受け入れ得る手続・議題を作成し,GN発足を実現するよう公式・非公式協議を通じて重要なメンバーとして討議に参画している。
(3) 第3次国連開発の10年のための国際開発戦略(新IDS)
新IDSは,80年代の国際協力の基本的枠組みを設定するものであり,79年春から開始されていた準備作業で作成された草案に基づき,上記経済特別総会で実質的合意に達し,第35回国連総会で正式採択を見た。
わが国も新IDS準備作業には積極的に取り組み,大平総理大臣が提唱した「人造り」が取り入れられるなどの成果を上げた。
(4) UNCTADにおける動き
80年の南北対話における大きな成果として,国連貿易開発会議(UNCTAD)における「一次産品共通基金設立協定」の採択(6月)が上げられる。同基金は一次産品の価格安定及び研究開発の促進を図り,それによって開発途上国の一次産品の輸出所得を維持することを目的とするものである。わが国は,同基金の早期設立のため,従来から最大の努力を傾注してきており,同基金に対して合計6,067万ドルの資金協力を行う予定である。
UNCTADにおいては,また,国際経済協力会議(CIEC)及び第4回総会(1976年,ナイロビ)以来の懸案であった将来の債務救済の一般的ガイド・ラインが9月の第21回貿易開発理事会(TDB)において採択され,債務国は,今後適当な国際機関に対し,かかるガイド・ラインを踏まえて自国の債務状況の包括的分析を依頼し,これに基づく債務処理作業の検討を開始することができる旨合意された。このほかUNCTADにおいては,80年4月に「制限的商慣行規制のためのルールと原則」,5月には複合運送条約がそれぞれ採択され,開発途上国の利益に配慮した貿易関係のルール作りに進展が見られた。わが国は,80年夏以来,UNCTADにおける先進国グループの議長国として極めて大きな役割を果たしてきている。
(5) プラント委員会報告
80年2月に公表されたブラント委員会報告は,80年代における南北問題の考え方に大きな影響を及ぼすものであると見られる。同報告は,南北問題は西暦2000年までの国際社会の最重要課題であるとの基本的認識に基づき,変革を求める「南」の諸問題を検討した上で,長期的に南北双方が受け入れるべき新しい秩序を勧告している。
(6) 南北サミット
ブラント委員会報告は,また,現下の緊急問題の解決に資するため,南北25人程度の指導者が集まるサミットの開催を提唱しており,これに着想を得て南北主要国の首脳によるサミット(「協力と開発に関する国際会議」)開催がメキシコ及びオーストリアによって推進されるに至った。この南北サミットは,上述の国連包括交渉を促進するという役割も期待されており,80年11月及び81年3月2度にわたり外相級の協議が行われ,81年10月22日,23日の両日メキシコ開催を目途に準備が進められている。
わが国は,南北サミットは,南北の主要国の首脳が一堂に会し,率直な意見交換を行う場として有益であると考えており,これに積極的に参加していく所存である。