3. 北米地域
(1) 米国
(イ) わが国は従来から米国との関係を外交の機軸とし,同様に米国もわが国との関係をアジア政策の中核に位置づけつつ,両国は,双方の不断の努力によって,今日見られるような極めて緊密な友好協力関係を築き上げてきた。これは,日米両国が,自由と民主主義という共通の基盤に立脚し,政治,経済,安全保障を始め,多岐にわたる分野において重大な利害関係を共有しているからにほかならない。更に,それは,両国の平和と繁栄は世界の平和と繁栄があって初めて可能であるが,その世界の平和と繁栄のために,両国は緊密に協力しつつ,それぞれの責任と役割を積極的に果たしていかなければならないとの共通の使命感によって固く結ばれているがためでもある。
以上のような共通の認識に基づいて,日米両国は,80年においても,両国間の友好協力関係の一層の緊密化に努めると同時に,二国間で懸案となる問題や,国際社会が直面する政治・経済問題への対処に当たっても,そのような友好協力関係の増進という枠組みを拡大・強化する方向でこれを行うよう努力した。
(ロ) そのような観点から,5月の大平総理大臣の訪米,特にカーター大統領との首脳会談は大きな意義を持つものであった。両首脳は,友好的かつ率直な雰囲気の下で,日米両国が当面する国際問題及び二国間問題について意見交換を行い,それを通じて,個人的な相互信頼感を深めるとともに,79年,両首脳の初めての会談でうたわれた日米間の「実り豊かなパートナーシップ」を再確認することができた。
イランにおける米国大使館員人質問題,アフガニスタンに対するソ連の軍事介入事件に関し,カーター大統領は,日本が他の同盟諸国に先がけて米国の立場を強く支持していることに感謝の意を表明した。これに対し,大平総理大臣は,イラン問題についての米国の忍耐と自制を賞賛するとともに,あくまでも平和的解決が図られることを望む旨強調した。大統領はこれに完全に同意した。両首脳は,79年の東京サミットによる石油輸入シーリングの設定を有益であったと評価するとともに,来るべきヴェニス・サミットにおいては,石油消費,代替エネルギー開発が重要問題になるであろうとの観点から,自国における石油消費節約状況につき説明した。そのほか,南北問題,第2パナマ運河問題,朝鮮問題,難民問題などについても協議が行われた。
二国間問題としては,わが国の防衛問題,日米経済関係(特に自動車問題)などが取り上げられた。防衛問題に関し,カーター大統領が,日本が国内的制約の中で自衛力増強,駐留米軍経費負担増加に努力していることを多としつつ,日本の一層の努力がアジアの平和と安定のために有益であると考えると述べたのに対し,大平総理大臣は,わが国としては今後とも自主的にその努力を続けていく旨,また,同盟国として何をしていくべきかを真剣に検討していく旨答えた。
会談終了後の発言の中で,大平総理大臣は,「われわれが貴重なものとして共有している自由,民主主義,正義そして平和は,われわれが今日力を合わせて立ち上がらなければ,今後永年にわたり大きく損なわれることになろう。」と述べ,カーター大統領は,「日米両国民を結ぶ絆は,米国の世界政策の中核をなしている」と述べたが,これは,イラン,アフガニスタン問題を始めとする厳しい国際情勢の下で,日米友好協力関係を一層推進していくとの両首脳の固い決意を示すものであった。
(2) カナダ
80年における日加関係の進展ぶりには,特に政治分野で顕著なものがあった。
同年5月,日加関係の重要性にかんがみ,訪加した大平総理大臣は,トルドー首相と会談し,国際間及び二国間の主要な問題について広範かつ率直な意見交換を行った。この会談で,両首脳は日加関係の多様性と豊かさが増大してきていることに歓迎の意を表するとともに,両国が共通の関心を有する国際問題について緊密な協議と協力を行っていくことで合意し,国際情勢の一層の安定のため,共に努力する決意を確認し合った。
この大平総理大臣訪加の具体的な成果として特筆さるべきことは,政治レベルにおける日加間の,より定期的で深みのある協議を行うことの重要性が指摘され,両国外相間の定期協議設置が合意されたことである。これに基づき,当時,大平総理大臣と共に訪加した大来外務大臣は,マクギガン外相との間で第1回定期協議を行った。
更に,鈴木内閣の下にあっては,80年9月及び12月に伊東外務大臣とマクギガン外相との間で不定期の会談が行われるなど両国外交首脳レベル間の接触はとみに緊密さを増した。
80年における日加関係増進の上で今一つ注目すべきことは,両国議員交流の活発化である。従来,わが国国会議員による組織として,日加議員連盟があるが,同年に入り,カナダ議会で上下両院議員による加日友好議員連盟結成の動きが具体化し(81年3月結成),これにより両国議員交流は名実共に本格化の時代を迎えた。
日加関係は,近年,特に貿易経済分野を中心に発展を遂げてきたものであるが,上述の政治分野における関係緊密化は,文化・科学技術など諸種の分野での交流をも促進する効果を果たし,真に均衡のとれた日加関係を総合的に増進させる土台を築くものと言えよう。