2. わが国が行った重要演説
(1976年5月11日,ナイロビにおいて)
議長,事務局長,代表各位及び御列席の皆様方
2年前,私は,日本国外務大臣としてアフリカ諸国を歴訪し,各国における真剣な建設の努力をまのあたりにいたしました。今般,第4回UNCTADに対する日本政府の首席代表として,再びアフリカの地を訪れることができました。私は,まず,日本国民に代わり,今次会議の開催のために諸般の準備を行われケニア共和国の皆様への敬意の気持をこめて,「ジャンボ」と申し上げ,あわせて全アフリカ諸国の皆様に対する御挨拶といたします。
人口2億8千万のアフリカ大陸は,日本からは1万2千キロの距離にあります。それにもかかわらず,わが国国民とアフリカ諸国民との間の交流は,近年著しく高まってきております。経済協力を例にとれば,わが国からアフリカ諸国への開発資金の流れは1974年には約3億ドルに達しており,これは1970年に比べ7倍になります。また,アフリカ開発基金に対する第2位の拠出国として,今回の増資にあたっても,3千3百万ドルの払込みを行うべく,所要の手続を執っております。
私は,アフリカと日本との間の相互理解及び協力関係の一層の発展を最も強く念願しているものの1人として,今後ともかかる発展の増進のために尽力してまいりたいと存じます。
議長
開発途上にある諸国民が,真の経済的自立を達成するためには,その前提としての政治的自立を達成することが不可欠であります。
わが国は,人種差別反対を世界で最初に主張した国であり,従来より植民地主義及び人種差別の撤廃を全面的に支持して参りました。このアフリカ大陸から植民地主義及び人種差別を一掃し,多数による支配を確立して,もって国連憲章の目的を実現可能とするため,わが国は,関係国,特にアフリカ諸国と十分な協力を行っていくとの決意を表明したいと思います。
議長
南北問題は,今日の世界において,最も緊要かつ重大な課題であります。特に,1970年代の前半においては,通貨変動,世界的インフレ,エネルギー危機,更には最近の世界的景気停滞等の問題が続発いたしました。換言すれば,サンチャゴからナイロビにいたる道は,世界のすべての諸国民にとってきびしい試練とその克服の日々の連続でありました。
かかる試練の克服のための日々の努力を通じてわれわれが学んだことは,いかに世界各国がその生存と繁栄とを相互に深く依存しあっているかということであります。われわれは,また,かかる状況の下においては,いかなる国も勝利者となることはできず,対話と協調の精神に基づく相互協力なくしては,われわれが直面する問題の解決を見出す方途は無いということを学んだのであります。
私自身が日本政府首席代表として参加した昨年の第7回国連特別総会においては,かかる貴重な教訓を踏まえて,「対話の始まり」が厳粛に宣言されました。諸国民の間の信頼関係の維持と公正の確保のために同特別総会において行われた人類の叡知ある決断を不退転のものとすることは,将来の世代に対するわれわれの重大な責務であります。幸いにして,このための真剣な努力は,その後,国際経済協力会議,東京ラウンド又は2国間の協力を通じて,精力的に展開されてきております。現に,本年1月にキングストンで開催された国際通貨基金総務会の暫定委員会においては通貨・金融面での具体的かつ建設的な決定が得られております。かかる決定は,対話の努力は実り多い成果を生む可能性を秘めていることを示す象徴的な出来事であるということができましょう。
議長
私がこの演説の冒頭に強調しておきたいのは,われわれが目指している共通目標が何であるかについては,既に幅広い合意が得られており,したがって,問題はかかる共通の目標に到達するためにはいかなる方法をとるべきかということであります。われわれが当地ナイロビに参集しているのは,まさにかかる方法の問題について大いに討議をたたかわすためなのであります。私は,われわれが今次会合において,かかる問題につき建設的な一歩を印すことに成功することを疑いません。
議長
わが国の存立の基盤は,世界の平和と繁栄に存します。「世界と手を携えて歩むこと」,これこそわが国の外交政策の基本原理であります。特に,開発途上国との貿易・経済関係の自国の経済に占める比重が他の先進国と比較して抜きんでているわが国にとっては,かかる開発途上国との友好・協力関係を増進することは,わが国の外交政策の重要な一環であります。例えば,1974年におけるわが国の開発途上国からの輸入は,1970年に比し4.7倍に伸びています。また,わが国の総輸入に占める開発途上国のシェアも,1970年の37%から着実に増大し,1974年には遂に50%を突破いたしました。世界経済の停滞の下で昨今ささやかれている保護主義の声にもかかわらず,わが国に関する限りは,開放経済維持の基本姿勢は不動のものであり,このための各種国際協力に参加しております。私は,加えて,順調な国内経済の回復とともに開発途上国からの輸入も拡大しており,今後更に一層の拡大を望みうるものと考えております。
また,開発のための公的資金の流れも,1971年の11.6億ドルから,1974年には19億ドルにと,飛躍的に増大いたしました。特に1974年はわが国経済の成長の停止のやむなきに至った年であるのにもかかわらず,開発のための公的資金の流れの増大については,不退転の決意で続行した次第であります。
議長
私は,この機会に,持てる国,持たざる国,経済社会制度の異なった国々が,それぞれの能力に応じ,それぞれの特徴を活かしつつ,南北問題の解決のために国際協力をとり進めることを強く呼びかけたいと思います。
右国際協力の推進に当っては,開発が相対的に遅れている後発開発途上国の当面している諸困難に格別の配慮を払っていくことが必要と考えております。
議長
かかる国際協力が最も求められている主要分野の1つに一次産品問題があります。1973年における開発途上国の総輸出の実に74%が一次産品輸出で占められていることから見ても,この問題の開発途上国にとって死活的重要性は明らかであります。さらに,一次産品問題の帰趨いかんによっては,単に一次産品輸入開発途上国を含む消費国のみならず,世界経済全体に対しても大きな影響を及ぼしうることも,過去数年の体験を通じて明らかであります。
議長
わが国は,世界の一次産品市場の長期的な安定と繁栄とを最も強く願っている国であります。このための国際協力の重要性を熟知しているわが国としては,現に,既存の6つの商品協定のうち5つの協定に積極的に参加してきております。また,昨年行われた錫,コーヒー,ココアの協定改訂交渉の円満な妥結のためにもわが国は積極的な寄与を行い,わが国がこれらの協定に参加するために必要な国内手続を目下鋭意とり進めております。また,砂糖協定の如く経済条項のない協定の見直しにあたっても,わが国としては,従前同様,積極的に協力していく用意があります。
わが国は,また,茶,ジュ一ト,天然ゴム,バナナ等については既存の協議グループ等の場での検討作業に引き続き積極的に参加していく方針であり,銅に関しても,UNCTAD事務局の提唱によって最近開催された生産国・消費国協議に参加しており,また,その下に設置された作業部会にも参加することとしております。
議長
本日,私が特に指摘しておきたいのは,一次産品問題への取組みにあたっては,それぞれの品目別ないし問題毎に,きめ細かい対策が探求されなければならないという点であります。例えば,価格の問題だけをとってみても,過度の価格変動にさらされている品目と価格が長期的に低迷傾向にある品目とがあり,それらの品目についてそれぞれとるべき対応策は異ならざるをえません。価格の乱高下を防止するためには,緩衝在庫方式を含め種々の措置の実行可能性と有用性を検討する必要があります。また,価格の長期的低迷については,基本的には,品質管理,加工度向上等を通ずる輸出促進ないし多様化等の長期的対策を検討する必要があると考えております。わが国は,特に,一次産品輸出にあたっての開発途上国の輸出力強化のための中・長期的対策を重要視してきております。わが国が積極的に支援してきている国連天然資源回転基金等を利用した探査努力の強化,開発のための国際投資の健全な発展,より需要の増大の見込み得る品目への転作のための技術開発等の中・長期対策が,一次産品問題解決にあたっての重要な要素ではないかと考える次第であります。わが国としては,引き続き,多国間ないし2国間協力を通じ,一次産品の開発輸入,品質管理,加工度向上,輸出促進等のための資金・技術協力等を積極的に行ってまいりたいと考えます。
また,本分野での特定プロジェクトに対し,開発途上国の自助努力を補完することを世銀等が検討することが大切だと考えます。
また,これらの諸対策と平行して,開発途上国の一次産品等の輸出所得安定のための措置を執ることも必要であります。この関連においては,昨年12月から本年1月にかけて国際通貨基金において一次産品輸出所得補償スキームを含め諸般の融資ファシリティに大幅な改善が加えられ,非産油開発途上国が利用しうる資金が,本年のみでも新規に大幅に追加されることとなったことは注目すべきであると考えます。
議長
私は,一次産品問題については,右に述べたとおりの国際的努力が現に進行中であることを指摘するとともに,問題の重要性と緊急性にかんがみ,今後とも一層かかる努力を強化していくべきものと考えます。ただし,私は,一次産品問題が極めて多様かつ複雑であること及びこの問題へのアプローチ如何によっては,世界経済及び開発途上国の開発に与えうる影響が少なからざることにかんがみ,われわれは,本問題解決にあたってのアプロ一チの選択には十分慎重であるべきことを強調したいと存じます。
議長
わが国は,開発途上国が提案している共通基金構想をその中核とする一次産品総合計画の要素の必ずしも全てについて,その妥当性につき確信を有するに至っておりませんが,今後とも真剣な考慮のもとに,諸要素につきあらゆる角度から検討を加えてまいりたいと思います。わが国としては総合計画が取り組もうとしている諸問題の解決の必要については十分理解しておりますが,その手法については,更に忌憚のない意見交換を今次会合で行うことを希望しております。
米代表が6日,一次産品の長期的な供給と価格の安定を目標とする国際資源銀行構想を提案したことについて,一言コメント致したいと思います。同構想の具体的内容については,なお明らかでない点が少なくありませんが,わが国としては,基本的には,同構想に極めて興味深いものがあると考えており,今後同構想が検討されることを期待するものであります。
議長
私は,5年前の1971年秋のガット第27回締約国団会議に出席し,日本政府を代表してケネディ・ラウンドに次ぐ新たな多角的貿易交渉の開始を提唱いたしました。幸いにして,私の提案はその後各国の賛同を得,1973年秋の東京閣僚会議において東京宣言が採択され,現在行われている東京ラウンドが開始されるにいたりました。
現在東京ラウンドにおいては1977年末の交渉終了を目途として熱心な作業が進められております。東京ラウンドの参加国約90ヶ国の大半が開発途上国であることは,わが国としても歓迎するところであり,わが国は東京宣言にあるとおり,開発途上国に対する追加的利益の確保のため今後とも積極的な努力を払っていく所存であります。
また,可能かつ適当な交渉分野における開発途上国に対する特別かつより有利な取扱い,異なった措置,後発開発途上国の問題に対する特別な配慮,更には先進国と開発途上国との間の交渉のための特別手続については今後交渉の過程で検討が一層進められましょうが,わが国はこの検討に引き続き積極的に参画していく方針であります。
なお,東京宣言において特別かつ優先的な分野と規定されている熱帯産品については,わが国は,既に3月1日に対日リクエストを行った開発途上国に対しオファーを提示いたしました。現下の困難な国内経済状勢の下で我々は最善のオファーをしたと考えており,これが開発途上国の追加的利益の確保に資することを願うものであります。わが国は,右オファーについて既に交渉を開始しており,今後の交渉の進捗状況にもよりますが,本オフォーについては,可能な範囲で,できるだけ早期に実施することを検討しております。
次に一般特恵制度については,わが国は,1970年の第25回国連総会決議に従い,いち早く,1971年に一般特恵制度を導入し,かつ,この制度が開発に有する意義を十分認識しつつ,爾来諸般にわたり同制度の改善をはかってまいりました。この間,一般特恵の下での開発途上国からの輸入は大幅に増加を記録しており,例えば,1975年度の特恵適用輸入額は,1972年実績の実に3.6倍の伸びを示しております。かくのごとく,わが国の一般特恵制度は,開発途上国からの製品・半製品に対する市場アクセス改善の重要な方途としての役割を果しており,ひいてはこれら諸国の工業化に大きく寄与しているものと信ずる次第であります。
また先に述べましたガッド東京ラウンド熱帯産品グループにおけるわが国オファーは一般特恵分野における重要な貢献を含んでおります。
わが政府としては,開発途上国の要望をも勘案して,その特恵制度の改善に今後とも引き続き努力することとしており,その重要な一環として,工業品の特恵枠算定規準年次をより最近年に移行することを積極的に検討することをここに明らかにしたいと存じます。このことは,わが国が特恵受益国の要望に一層沿うべく制度の改善に鋭意努力していることのあらわれと言えます。
また,政府は,特恵輸入における累積原産制度につき,所要の諸条件が満たされることを前提として,特定開発途上国間協力体につき,これを実施する可能性を検討する意向であります。
さらに政府としては,1980年以降においても更に一定期間特恵制度を引き続き実施する必要性を認識しており,その実施を確保すべく最善の努力を行う所存であることをここに改めて表明いたします。
議長
国際貿易の安定的拡大が開発途上国の経済発展のための1つの重要な活力源であることは,万人の認めるところであります。しかしながら,もし国内の食糧をはじめとする生産基盤や生活基盤が不備である場合には,開発計画の推進が遅れ,輸出産業の近代化も遅れざるを得なくなるわけであります。この場合には,東京ラウンドあるいは一般特恵等によりもたらされる折角の輸出機会も十分活用されないままみすみす放置されることとなります。したがって,かかる貿易面における輸出機会の増大を十分活用しつつ開発途上国の経済発展と福祉の向上をはかつていくためには,国によって程度の差こそあれ,農業と工業とがバランスを保ちつつ近代化されていく必要があります。
かかる開発途上国経済の近代化のための自助努力を直接的に支援するところに開発協力の重要性があるものと考えます。
議長
わが国は,開発途上国間に近年一層の開発較差が拡がってきていること,能力のある一部諸国を除いた大多数の開発途上国には依然として大きな開発資金需要ギャップがある現在,開発協力の一層の拡充に努める必要があることを認識しております。
わが国の政府開発援助は,1971年以来,年間約30%の割合で増強されており,最近におけるわが国の経済成長の停滞にも拘わらず1974年には19億ドルをコミットいたしました。わが国としては,開発途上国との真剣な協力のために引き続き政府開発援助の対GNP比0.7%目標の早期達成を目指して,確固たる決意のもとに,その相当かつ着実な増大をはかっていく方針であります。同時に,政府開発援助の条件についても,DAC72年勧告等の国際的要請を勘案しつつ,その改善に一層の努力を行う所存であります。
わが国は,また,開発のための国際機関の努力をも引き続き支援していくこととしており,世銀グループ,地域開発銀行の増資については原則的に賛成であります。特に,譲許的な援助資金源であるアジア開発基金,アフリカ開発基金及び今般,加盟することとなっている米州開発銀行の増資等にはわが国は積極的に応じております。また,国際開発協会の第5次増資についても,前向きに検討中であります。
議長
最近開発途上国の債務累積は極めて憂慮すべき事態になっております。わが国としてもこれまでこの問題の解決に真剣に取り組んできており,1965年以来10ヶ国について34回にわたりそれぞれの国の事情に応じた現実的な債務救済措置を執ってきており,それぞれのケースにおいて所期の成果を上げたものと確信しております。
債務累積は,国ごとに異なる内生的・外生的な諸要因が複雑にからまって生ずるものであり,その対応に当ってもそれぞれの事情に応じた措置が執られるべきものと考えます。したがって,自動的かつ一般的なアプロ-チは問題の基本的な解決にはつながらないものと考えます。わが国としては,今後とも他の関係国と協調して債務救済の必要の生じた場合は各国の状況に応じつつ,もつとも適切な措置を執るべく一層の努力を図っていく所存であります。
議長
開発途上国の開発をさまたげている基本的な要因の1つとして国際収支の問題があります。わが国は,従来より2国間及び多数国間の努力を通じ,開発途上国の国際収支改善を目的とする措置を積極的に支援してまいりました。しかしながら,従来の支援措置は現在の国際収支の窮状と債務累積の現実からみると必ずしも十分とは言えないのも事実であります。先進国及び能力のある国が一致して,被援助国の自助努力と合わせ,その解決に努力する必要があると考えます。
議長
最近のエネルギー危機で最も影響を受けた諸国,後発開発途上国を含む貧困国に対し,当面の緊急措置として2国間及び多数国間のチャンネルを通じ,商品援助を含む国際収支援助を10億ドル増加することを先進国・産油国が共同して行おうではありませんか。わが国は,他の能力を有する諸国が協調してこれを行うことを前提に積極的に参加する用意があります。
議長
この一環として,わが国は「豊作のための商品援助」(Goods For Good Harvests)のもとに,見返り現地通貨が,例えば農業開発等のために充当されるべく,商品援助を供与する用意があり,他の能力のある国も同様の協力を行うことを呼びかけます。
議長
私は,さらに,開発途上国における農業開発に対する要請の重要性にかんがみ,農業開発国際基金について先進国及び産油国がそれぞれ応分の拠出を行い,基金規模10億ドルの目標が達成されることを期待しつつわが政府としては同基金に5千万ドルを上限とする拠出を行う方針を固めたことをここに表明いたします。
議長
私は,今まで,貿易と援助という開発途上国の開発にとって重要な2つの側面について述べてまいりましたが,わが国の発展の歴史をふりかえる時,人造りの重要性を如何に強調しても,しすぎることはないと考えております。工業化及び農業開発への努力に対し,わが国は,人造りと技術協力の面でもできる限り積極的な支援を与えていきたいと考えます。例えば,1974年には6千名以上の研修員を受け入れ,4千名以上の専門家を派遣しました。各種技術の訓練センターも,わが国の協力の下に多くの開発途上国において数多く設立され,ここケニアにも小規模工業訓練センターが1964年以来運営されております。なお,1昨年国際協力事業団を発足させ,開発途上国の必要に応じた協力をも推進しております。
なお,開発途上国の農業及び工業の発展のためには技術移転が重要な役割を果しますが,技術移転問題の核心は,開発途上国の技術の受入れ能力と受け入れた技術の定着及び発展をはかる能力との向上に存すると思います。わが国自身その工業化の過程において,受け入れるべき技術の選択及びその消化・応用能力向上の必要を極めて重要視してきました。従ってわが国としては,開発途上国の技術能力向上のための諸提案に対して理解ある態度で臨むとともに,この分野における協力を今後とも強化していきたいと考えております。わが国としてはこの機会に各国の技術の開発に関する経験・知識の交換並びに技術協力の協調を目的とした意見交換をUNCTAD技術移転委員会ないし国連開発計画の主催下で行うことを提案したいと思います。
議長
最後にUNCTADの機構問題について一言述べたいと思います。
この問題については,まず,現在の機構面のどこに問題があるかをできる限り客観的に分析し,その結果に基づいて他の機関,例えば,GATT,IMF等との不必要な重複を回避し,調和のとれた漸進的な改革を行うことがまず重要であると考える次第であります。
いずれにせよ,現在国連において,経済社会分野における全般的な機構改革の作業が進捗しており,UNCTADの機構問題も,右作業状況を踏えつつ,全体的なバランスのとれたものとして把える必要がある点を強調いたしたいと思います。
議長
UNCTADは,発足以来既に12年を経過いたしました。この間事務局長をつとめられたラウル・プレビッシュ博士及びマヌエル・ペレス・ゲレロ博士,そしてガマニ・コレア現事務局長等々,識見高き人々の並々ならぬ努力により,南北問題解決のための戦略が練られ,努力が積み上げられてまいりました。
議長
私は演説を終わるにあたり,これら諸賢に敬意を表明すると共に南北問題とわれわれ人類が,かつて体験したことがない程の大きな挑戦に対してわれわれは,その解決がいかに困難であっても全人類が南北の区別なく,一致団結して着実な前進をはかることが必要であると信じます。
1975年が対話と協調の精神が再確認された年として我々の記憶に残されるのであれば,1976年はかかる精神に基づく具体的な協力関係の探究開始の年として歴史に記録されるべきであると考えます。ここナイロビに参集しているわれわれは,相互依存と共栄をめざして,変化していく経済の実態に弾力的かつ実際的に対応しつつ,諸般の解決策をみいだすベく努力を結集していこうではありませんか。そして,このための不退転の決意を「ナイロビ精神」として,ここに高らかに宣明しようではありませんか。
(2) 第15回OECD閣僚理事会における宮澤外務大臣発言要旨
(1976年6月21日,22日,パリにおいて)
I | 第1日目(6月21日)における発言要旨 |
議題[「開発途上国に特に関連した国際経済関係」「国際投資及び多国籍企業」] |
1 | この1年間における南北関係の推移をふりかえると,一言でいえば対決から対話への移行の年であったとの認識を有している。 | |
ナイロビ総会の結果については,これが極く最近の出来事であったこと及びその内容が多岐にわたることからいって,最終的な評価を下すことはまだ尚早であるかもしれない。 | ||
しかし,少なくとも次の3つの点は指摘できるのではないかと思う。 | ||
第1は,南北間の調和ある発展を共通の目的として対話と協調の努力を続けることが何よりも大切であるとの強い政治的信念が先進国,LDCの双方の側にみられ,かつ,これにより,対話の糸を断ち切るような事態が避けられたということである。 | ||
第2は,かように政治的に覆し難い選択がなされた現在,選択された目的にそっていかに具体化していくかが今後の課題であるということである。 | ||
第3に,その具体化のための措置の探求と実行には諸種の困難も予想されるが,われわれは時代の趨勢を考え,これらの困難をのりこえて,ぜひ実行していかねばならず,わが国も先進国の一員としてかかる努力を惜しむむものではないということである。 | ||
2 | (1) | 南北問題は,政治・経済・社会・文化にまたがる複雑な問題であり,かかる意味において私は南北問題を人類の英知に対する歴史的挑戦であると呼ぶことをはばからない。 |
しかし同時に人類の歴史は,我々の先人の努力により,当時としては新しい問題を解決してきた数多くの記録を残している。 | ||
従って今後予定されている一連の国際会議において,本問題の検討を続けるにあたり,われわれ先進国の国民は,途上国の国民が抱えている困難に対して深い理解を示しつつ世界経済の発展に主導的役割を果してきたものとして今後における解決方法の探求,実施について重大な責任と役割を担っていることを認識せねばならない。 | ||
一般的にいって,先進国は先進国経済のもっているダイナミズムを南北問題解決のための有効な手段として使っていくことが重要である。 | ||
同時に先進各国は,開発途上国に対して出来る限りの自助努力を要望していく必要があるが,これとともに,開発途上国の開発資金需給ギャップが依然として大きいことにかんがみ,開発援助の緊要性があることも指摘されねばならない。この点について一言すればわが国としても国際開発戦略に盛られた諸目標の達成を目指して,開発援助の拡充のために努力する所存であり,特により脆弱な開発途上国(LLDC,MSAC等)が当面している諸困難には格別の配慮を払っていく考えである。 | ||
(2) | 今後予定される一連の会議においては,対処ぶりにつきOECD加盟国間でも意見が分かれている提案が討議の対象となることが予想されている。例えば一次産品貿易のメカニズムの中に南北協力の観点をいかなる形で,いかなる程度まで持ち込むことが可能か,また望ましいかという基本的問題が改めて提起されることとなろう。この問題の解決のためには,一方においては経済の法則を過小評価した人為的な措置は長期的には効果を確保しがたく他方では今や一次産品問題は南北間における大きな国際的政治問題となっているという事実を抜きにしてはこの問題に対処しえないとの両側面をわれわれはつねに考慮せねばならない。 | |
(3) | 本問題の解決にあたり二者択一的なアプローチは有効なものであるとは思えない。われわれに求められているのは,可能な限り経済原則を歪めることなくいかにして国際社会における南北間の格差を是正しうるかという極めて入りくんだ問題の解決であり,これに対処するにあたっては国際経済の仕組に対する深い理解と,歴史的洞察をともなった高度の総合的判断が要請されると思われる。 | |
3 | 最後に,国際投資及び多国籍企業に関する宣言等の採択に言及すればこれらはOECD諸国及び事務局の長期にわたる努力の成果であり,全体として十分均衡がとれており,実行可能なものとなっていると評価される。 | |
4 | 我が国としても,これら1宣言3決定は時宜をえたものであると考えており,本閣僚理で一括採択されることに積極的な支持を与えるものである。 |
(3) 第31回国際連合総会一般討論における小坂外務大臣演説
(1976年9月27日,ニューヨークにおいて)
議長
私は,日本政府代表団の名において,貴下が国際連合第31回総会議長に選出されたことに対し,お祝いを申し述べます。国際政治に対する卓越した見識と,豊富な体験を有する貴下が,第3次国連海洋法会議の議長として画期的な海洋新秩序の確立のため示されている手腕を以って,この第31回総会を実り多きものとすることを確信いたします。
私は,前議長ガストン・トルン閣下が優れた国際的政治家として,多難であった第30回総会を成功に導かれたことを高く評価いたします。
私は,クルト・ワルトハイム事務総長閣下が世界平和の維持及び経済,社会,文化等各般の分野における国際協力推進のため,多様化した国際環境に国際連合が対応しうるよう,リーダーシップを以って活躍されていることに深甚な敬意を表するものであります。
わが国は,今総会において新たに加盟したセイシェル共和国に対し歓迎の意を表したいと思います。わが国は同国と友好関係を維持しておりますが,同国が国際連合の活動に積極的に貢献することを期待いたします。
議長
国際連合創設以来,世界は大きな変動を続けてまいりました。嘗て厳しい冷戦が続いていた東西関係においても,米ソ,米中間に開始された対話により緊張の緩和がもたらされ,また,西欧諸国やわが国の国際政治経済面における役割の増大や,新興独立国数の急激な増加を見ており,これによって世界政治の様相は大きな変化を遂げ,国際関係は益々多様化してまいりました。確かに,今日の世界においても,今なお朝鮮半島の問題が未解決であり,また,中東,サイプラス,南部アフリカ地域等のように依然として複雑な不安定要因を抱える地域が存在することは事実であります。しかしながら,例えば,アジアにおいては,長い戦火を被ったインドシナ諸国が今や復興と建設を進めており,ASEAN諸国は連帯と自主性の強化を図る努力を行っており,インド亜大陸においても,域内諸国相互関係の改善に向けて新たな進展が見られ,新情勢への適応の努力と安定化への動きが看取されます。
また,経済,社会面においても,今日の世界では国際的相互依存関係が嘗てない程に深まって来ております。各国間には政治体制,経済発展段階あるいは歴史的背景等に基づく立場の相違はありますが,経済,貿易,資源,エネルギー,食糧,環境,人間居住,人権,婦人,学術等どの分野をとっても,いかなる国も独力でその直面する諸問題を解決し難いことは多言を要しません。
議長
加盟国が前述の如き複雑困難な諸問題を克服し,真に平和と繁栄を等しく享受しようとするならば,加盟各国は,先進工業国も開発途上国も,大小いずれを問わず,国連憲章の規定と精神に則り,世界的規模において共存共栄を図って行く必要があります。即ち,あらゆる分野において,加盟各国が相互の立場の尊重と互譲の精神に基づき,対決を回避し,調和と協調を推し進め,責任ある行動をして行くことが不可欠でありましょう。
このようにすることによって,今日の世界における唯一にして最高の平和の砦である国際連合の機能が発揮されるのであります。力の強い国が実力をもって他の国を征服したり侵略し掠奪を行ったり,政府の転覆をはかったり,その内政に干渉したりすることが嘗ては行われ,それが悲惨な歴史をつくっていた時代がありました。今日世界が平和であることを望まない国はないと思いますが,そのためには,不法な力の行使は絶対にしてはならないのであります。わが国はそのようなことを決していたしません。わが国は,1946年に公布した憲法に,国際紛争を解決する手段としての戦争を永遠に放棄することを明記しており,「専制と隷従,圧迫と偏狭を地上から永遠に除去したい」としていますが,これはその決意の表明であります。わが国の平和主義は,国連憲章の規定と精神の希求しているところと全く軌をーにしているのであります。
明治におけるわが国の民主主義の先覚者である福沢論吉は「天は人の上に人を造らず,人の下に人を造らす」といいましたがこの言葉は広くわが国の人口に膾炙しております。私はこの言葉はそのまま国家の場合にも当てはまると思います。即ち「天は国の上に国を造らず,国の下に国を造らず」であり,一国は他国の上に君臨してはならず,民族と民族の関係は支配と隷属の関係であってはならないのであります。
今日,国際連合に加盟する145の国が,互いに力を背景として争うことを止め,互いに自国の長所を他国のために役立たせることを心がけるならば,国際連合の崇高な理想である平和の達成は可能と信じます。私は平和外交を標傍する日本の立場として,心から世界の平和を願い,その平和を阻害せんとするあらゆる試みに反対であることを表明するものであります。
かかる観点から,大国,特に国際の平和と安全の確保について憲章上特別の地位を有する大国の果たすべき責任が極めて重大であると考えます。国際連合の活動が全ての加盟国の発意と協力に支えられるべきことはいうまでもありませんが,他方,国際連合の活動の多くの分野において大国が大きな責任と義務を果たすように期待されていることを強調したいと思います。このような分野としては,軍縮,武器輸出の自制,平和維持活動の制度化,この機構の行財政面等があり,私は大国がこのような責任と義務を自覚して,より積極的かつ建設的な貢献を行うことにより,国際連合の存在価値を一層大きなものとするよう期待いたします。
議長
わが国は,加盟以来,「言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救う」ため国際の平和と安全を維持し,一層大きな自由の中で社会的進歩と生活水準の向上を図るための国際協力を謳った憲章の目的と精神を忠実に遵守し,国際連合の活動に積極的に参加協力してまいりました。
このように,わが国は,自ら軍事大国への途を排し,世界の諸国民の公正と信義に信頼し,国際紛争の解決に当ってはもっぱら平和的手段によることとし,軍事的手段に訴えることを断乎として排除して参りました。最少限度の自衛力しか持たず,国際の平和と繁栄に寄与せんとするわが国の平和外交は,わが民族の重大な決意を示すものであります。
本年6月,わが国が核兵器不拡散条約を批准いたしたのもわが国のかかる平和外交の一環に他なりません。この条約は,「核兵器国」に対してのみ核兵器の保有という特別の地位を認める一方,潜在的核保有能力を有する国を含む他の全ての国による核兵器保有を禁止しております。わが国は,このような不平等は,固定永続化されてはならないと考えます。而して,かかる不平等は,人類の絶滅の危険をもたらす核兵器の拡散によって是正されるべきではなく,将来核兵器国が核兵器を廃絶することによって是正されなければならないものであります。この条約を批准する可否につき,無論国内に種々の議論がありましたがわが国は,核兵器国が誠意をもって核軍縮の努力を行うことを期待し,且つ,同条約の批准により世界の平和と安定により一層の寄与を行わんことを祈念しつつ,この一大決定を行ったのであります。
このような立場から,唯一の被爆国であり,その惨害を身をもって体験したわが国が核軍縮の促進と核兵器拡散防止に関する国際協力の必要性を最も重視していることは当然でありましょう。
すなわち,核軍縮について特別の責任を有する核兵器国が核軍備の削減,包括的核実験禁止等の具体的な核軍縮に真剣な努力を怠るときは,核兵器不拡散条約が有名無実のものとなることは必至でありましょう。他方,原子力平和利用の名のもとに,核兵器保有の能力が拡散しつづけて行くことは問題であります。特に核兵器製造に重大な関連のあるような核物質の濃縮・再処理施設が平和利用のための妥当性と有効な保障なく取得,建設されることの危険性は憂慮すべきことであり,関係諸国による自制と,原子力平和利用確保のための国際協力が今日もっとも緊急な課題の一つとなっております。
わが国は核兵器不拡散条約の締約国として核軍縮及び核兵器拡散防止のための国際協力に今後一層積極的な貢献を行って参る決意であります。
議長
他方,核の均衡が保たれている今日の世界においても,国際の平和と安全を維持するための国際環境造りを更に進める必要があります。この観点からすれば通常兵器に関する軍縮も核軍縮に劣らず重要であると言わねばなりません。最近一部の地域においては,実際上の必要性があろうとは思いますが,通常兵器の輸入急増による軍拡が行われているのであります。このようなことは既に存在している紛争を更に激化させ,あるいは、新たな紛争を惹起する危険をはらむものであります。
わが国は,紛争地域への武器輸出禁止の政策をとっておりますが,国際紛争を助長することを回避するため,武器移転について何らかの世界的合意の可能性とその方法を探求すべき時期に至っていると信じます。私は関係各国が,それぞれ相互に自粛措置を早急にとることを要請するとともに,全ての加盟国が,この問題を真剣に考慮するよう希望するものであります。
議長
国際連合は,発足以来幾多の困難に直面しながらも,国際の平和と安全を維持,並びに経済,社会,人権等の分野における国際協力の推進を任務とする普遍的な国際機構として成長してまいりました。
国際連合が,今後とも世界的な諸問題解決に建設的な貢献を行うためには,「対話」と「協調」に根ざした国際連合の意思形成が重要であります。
国際連合は最も普遍的な国際フォーラムとして加盟諸国に話し合いの場を提供するものであり,国際連合総会は加盟各国が,共通の問題について意見交換をする最適な場であります。しかし,相互の立場の尊重と互譲の精神に基づく対話と協調の推進がなくしてはたとえ決議が採択されてもその履行は確保され得ず,そのような事態は国際連合の威信を傷つけ,その存在意義をも失わせ兼ねません。
その「対話と協調」が最も期待されている重要分野の1つはいわゆる「南北問題」であります。それは,この南北問題が今日の世界において真剣に取り組むことを要する重要問題であると同時に,今後,われわれが解決への努力を中断することのできない長期的な課題の1つでもあるからです。
日本国政府は,第7回国連特別総会から第4回国連貿易開発会議を経て,「対話と協調」が一歩推し進められたことを評価するものであります。わが国としても,一次産品総合計画,政府開発援助の拡充・改善を含む各種の課題に取り組むに際し,現実的なアプロ-チを通じて実効的な解決方途を探求すべく,国連貿易開発会議を含む国際連合の各種フォーラムのみならず,東京ラウンドの多角的貿易交渉,国際経済協力会議等を通じても真剣な努力を払ってゆく考えであります。
また近年,開発途上諸国間における発展の格差の拡大も無視し得なくなっており,先進工業国と開発途上国との問題という従来の画一的概念から脱却し,総合的な開発戦略として現実的かつ有機的に問題を捉え直す必要があります。
わが国としても,かかる認識に沿い,今後,後発開発途上国に対する一層の配慮を含め,貿易・援助等多くの分野で開発途上国の経済社会発展に係る自助努力に対し多角的な協力を拡充していきたいと思います。
更に多国間協力については,わが国は国際復興開発銀行,アジア開発銀行等に対する協力のほか,国連開発計画等多くの国際連合の基金に多額の拠出をしており,国際農業開発基金設立に際しても,応分の貢献をすることを明らかにしております。又,以上の通り開発途上国の自助努力に対する協力を考えるに当って,今後,産油国等の能力のある開発途上国並びに社会主義国も各々の特性に応じて協力分担をするよう強く要請されるべきであると考えます。
議長
国際間の努力が必要な分野として,海洋に関する新法秩序の問題がありますが,第3次国連海洋法会議においても,複雑多岐にわたる海洋の諸問題を利害の対立する国家間の「対話と協調」の精神に基づき,各国の幅広いコンセンサスによって解決し,長期的に安定する国際法秩序を形成することが肝要と考えております。
わが国としても,国際社会全体の調和のとれた利益を反映した新条約が1日も早く実現するよう努力する決意であります。この会議に参加している各国が早期妥結のために,更に格段の努力を結集するよう呼びかけたいと思います。
議長
開発途上国の経済社会問題を考えるに当り,各国がそれぞれ自国の開発に携わる人材を養成することの重要性は,わが国の今日までの経験にかんがみても多言を要しないと思います。
わが国としては開発途上国における人材の養成に積極的に貢献すべく,開発途上国の技術水準,教育水準の向上のため各般の協力を拡充していく考えであります。
わが国は国連大学の創設を推進し,その本部を東京に誘致いたしました。国連大学は,多数の加盟国の支持を得て発足し,人類全体の福祉のための活動を開始しております。わが国は,この大学のために,他の加盟国も同様な貢献を行うことを期待して,五カ年間に1億ドルの拠出をする意向を表明し,現在までに既に4千万ドルの拠出をしておりますが,未だ拠出を行っていない他の加盟国が国連大学の意義と重要性を理解して,積極的に拠出を行うよう強く要望するものであります。
議長
わが国は,朝鮮半島に隣接し,歴史的,文化的にも深い関係を有する国として,この地域の平和と安定の維持に多大の関心を有しております。わが国は,朝鮮半島の平和維持及び朝鮮人民の自由に表明された意思に基づく平和的再統一のためには,南北両朝鮮の速やかな対話再開が先ず必要であると考えております。
また,在韓国連軍司令部の解体及び休戦協定の取り扱いの問題については,直接関係当事者間での「話し合い」を通ずる解決を求めるものであります。わが国は本件に関し,従来より一貫して不毛な「対決」を回避し,「対話」を促進するような国際環境の醸成のため努力してまいりました。この観点から,今次総会において不毛な対決が避けられることとなったことは歓迎するところであります。わが国としては,これを契機として南北両朝鮮の対話及び直接関係当事者間の話し合いが可及的速やかに実現するよう衷心より希望するものであります。
なお,南北両朝鮮がそれぞれ希望するならば,平和的再統一が実現するまでの間,ともに国際連合に加盟することをわが国として歓迎する立場に変りありません。
議長
わが国は,最近の中東地域における事態の進展,特にレバノン情勢の悪化が,複雑な中東問題の解決を更に遅らせるのではないかと深い憂慮の念を有しております。
わが国は,安保理決議338に従い,安保理決議242が早期かつ完全に履行され,かつ国連憲章の諸原則に基づきパレスチナ人の正当な権利が実現されることにより,中東紛争が平和裡に解決されるよう強く求めるものであります。換言すれば次の諸原則が遵守されるべきであると考えます。
一 | 武力による領土の獲得及び占領は許されず,従って1967年戦争の全占領地からイスラエル兵力の撤退が行われること, |
二 | 域内のすべての国の領土の保全が尊重されねばならず,このための保障措置が執られるべきこと, |
三 | 中東における公正かつ永続的な平和実現にあたってパレスチナ人の国連憲章に基づく正当な権利が承認され,尊重されること, |
の三点であります。
私は,中東紛争の解決が1日も早く達成され,同地域の人々が公正かつ恒久的平和を享受しうることを祈念するものであり,そのためには国連憲章及び関連決議に基づいてイスラエル,アラブ直接当事国及びPLO,その他の関係者が早急に話し合いに入ることを強く望むものであります。
また,パレスチナ難民問題については,わが国は国連難民救済事業機関を通ずる人道的援助の努力に対し,他の諸国と協力して財政的支援を継続してゆく所存でありますが,特に本機関に従来財政的貢献をしてきていない社会主義諸国の拠出を慂いたします。
議長
国際連合は長年にわたり南部アフリカ問題を取り扱い,重要な役割を果してまいりましたが,南ロ-デシア問題,ナミビア問題及びアパルトヘイト問題等について未だ解決がみられないのは誠に残念であります。
本年に入り南部アフリカ問題を巡って安全保障理事会において度重なる審議が行われる一方,関係諸国間の会談等も行われ,本問題の平和的話し合いによる解決のための努力が払われていることをわが国は評価します。しかしながら現実においては,南ロ-デシアにおいては武力紛争がみられ,南アフリカにおいては流血の惨事が相次いで発生しており,又,ナミビアにおいては国際連合の意向が反映されない状態が続いていることは憂慮に耐えないことであります。
かかる情勢がこれ以上放置されてはなりません。
これに関連し,私はキッシンジャー米国務長官並びに関係諸国の首脳が南部アフリカ問題の解決を目指して積極的に努力しておられることを多とし,これらの努力が実り多い成果をもたらすことを希望しております。
わが国は,従来より一貫してとっている人種差別反対の立場に立ち,今後も南部アフリカ問題の平和的且つ速やかな解決のため出来る限りの努力を行って行く所存であります。
議長
国際の平和と安全の維持を第一義的目的とする国際連合が公正な第三者としての役割を果してきた好例としていわゆる「平和維持活動」があります。今日,中東地域に駐留している国連緊急軍及び国連兵力引離し監視軍,サイプラスにおける平和維持軍が,それらの平和維持のために多大の貢献をしていることは改めて指摘するまでもありません。「平和維持活動」は紛争の拡大と再発の防止を通じて国際連合が現在,実際に果しうる最も有効な平和維持機能であることを考え併せるならば「平和維持活動」の強化が国際連合の将来にとって肝要であることは明らかであります。このように重要な「平和維持活動」を更に有効,円滑,確実に遂行し得るように,平和維持活動特別委員会の作業の進捗が期待されますが,わが国としても一層この分野における国際連合の活動強化に協力してゆきたいと思います。
議長
ひるがえって私は,国際連合が今後とも国際的諸問題解決のため建設的役割を果たしてゆくことを念願しつつ,国際連合の役割強化の観点から国際連合システムの機構と財政の問題に言及したいと思います。この面において,既に経済社会分野における機構改革の作業が手掛けられていることを評価するものでありますが,その作業を通じて,国際連合の活動の合理化,機構の簡素化,業務の能率化に一層の努力を払うことにより,国際連合の機能強化をめざすべきであると考えます。かかる観点から,国際連合諸機関,専門機関の活動内容に認められる重複問題,これら諸機関間の有機的総合的調整問題等も機構改革作業において十分に検討さるべきであります。
先ず私は,既存の機構の活用を考慮し,機構の新増設が不可避な場合にも「スクラップ・アンド・ビルド」の原則を適用すべきことを示唆します。
また,職員については,限られた国の職員によって枢要なポストが占められている事態は改善されるべきであります。かかる見地から,職員全体の規模を現在以上に拡大することを極力抑制しつつも,その適正な地理的配分の確保,なかんずく,採用職員数が不当に少い国からの採用にこの際特別の配慮を払うことが重要であります。
議長
国際連合は,時代の要請に応じ,その活動の分野を拡大してきましたが,これに伴いその為の経費も年々増大してきました。その通常予算は過去10年間に約3倍に増加し,過去5年間の増加率は年率約15%でありました。
しかしながら,この予算拡大のテンポが加盟国の国家財政の実状とはほとんど関係なく決められてきたことは問題であり,事実多くの国にとって増大する国際連合の経費を負担する事は相当の重荷となりつつあります。たとえばわが国の場合は分担率が増大した事も加わって分担金額は過去10年間に約8倍となっております。
国際連合は,予算策定にあたっては先に述べた機構の合理化と併せ極力予算の節減に努め,限られた財源を最も有効に使用するよう努力すべきであると考えます。特に,財源に充分な考慮を払う事なく,当面の資金需要を優先させる事により,著しく資金不足が生じるなどという事態が起らないよう,事務局も加盟国も現状を正しく認識し,協力して適切な措置をとる事が必要と考えます。
わが国は国際連合がかかえる財政赤字により,その有効かつ円滑な活動が阻害されることを危惧して1千万ドルの特別拠出を行い,もって問題解決への第一歩となる事を期待しました。しかし,わが国の自主的拠出に続く国も少なく今もって問題解決の見通しが得られないのは甚だ残念であります。又,政治的理由により分担金の支払いの停止もしくは遅延はすべきでない事を強く訴えます。国際連合が今後も国際的な諸問題解決に一層効果的に貢献しうるためには機構・財政を確固とした基盤に置くべきであります。
本年は3年毎に行う分担率改定を審議する時期にあたりますが,その決定方式についても,国民所得指標等に基づいて判定される支払能力の他に,国連憲章上の特別の地位の如き要素をも配慮に加えて再検討すべきではないかと考えます。
議長
最後に,私は,現行国連憲章の枠内での改善及び国連憲章の再検討を通じての国際連合の機能強化の重要性を強調しておきたいと思います。もとより,如何なる組織も機構もそれを構成し運営する構成員の努力と決意なしには有効に機能しません。現在国際連合に向けられている批判の多くも,機構もしくは憲章上の欠点に帰すべき点だけではなく,加盟国の憲章遵守意志の欠如に由来している場合が多いことも事実です。その意味では,加盟国が国連憲章を誠実に遵守する決意を再確認し,それを実行をもって示すことが先ず重要であることは申すまでもありません。
しかしながら,創設後30年以上を経過した現在,国連憲章起草当時に想定した機構・機能と,その後大きく変化してきた国際政治経済環境の中で国際連合が実際に果たすことが期待されている役割との間には多くのギャップが生ずるに至っていることも否定し得ません。また,憲章の特定の条項が既に時代遅れとなり意味を失っていることも事実であります。
憲章再検討問題との関連では,従来よりわが国は,「平和維持活動」の強化,事実調査機能の強化,安全保障理事会構成の再検討,経済社会理事会を中心とした経済社会開発分野の調整機能の強化,信託統治制度の再検討,旧敵国条項の削除等について再検討の必要がある旨述べてきたことを想起したいと思います。
いずれにしても私は,「憲章及び国際連合の役割強化に関する特別委員会」ならびに経済・社会分野における機構改革に関する「機構改革アド・ホック委員会」の作業が憲章再検討を含む国際連合の在り方について建設的な成果を生み出すことを希望します。
議長
私は,この演説を終えるにあたり全加盟国が,人類の理想をになった世界的規模の機関であるこの国際連合を強化育成して,世界に平和と繁栄を築いていくため今後益々協力し,努力することが肝要であると信じ,そして,加盟20周年を迎えたわが国国民及び政府が,この目的達成のため冫こ最善の努力を尽す決意であることを再確認するものであります。
(4) 第31回国連総会第1委員会における軍縮問題一般に関する小木曽代表発言
(1976年11月2日,ニューヨークにおいて)
委員長
1. | 本年も私は軍縮の分野における最上かつ最も緊要な解決を要する問題が核軍縮であることを繰返し本委員会で強調しなければならない。核軍備管理及び核軍縮問題は戦後国連その他軍縮交渉の場において一貫して我々の枢要(vital)の関心事として討議されて来たが,にも拘わらず核兵器の脅威は一向に減じないのみならず核兵器国の所有する核兵器は質的,量的に非常に増加している。われわれとしては,この矛盾がいかなる理由から生ずるのかあらためて深刻に反省して見る必要がある。即ち,これは(1)そもそも核兵器国に核軍縮を行う政治的意志があるのかどうか,(2)核軍縮交渉に幾つかの核大国が参加していないことによるのか,更にまた(3)核軍縮交渉の進め方に問題があるのか,といった基礎的な問題に立返って検討する必要がある。 |
2. | まず第(1)の核兵器国特に超大国に,果して核軍縮を行う政治的意志があるのかどうか,の問題はかねてより各種の場で指摘されて来たところであり,核兵器国に,全くそのような意志がないのであれば,われわれの行っている努力は無意味ということになる。特に最近の軍縮委員会討議で,最も重要な核軍縮問題よりもむしろ新型大量破壊兵器禁止問題の如き迂遠な問題な優先討議しようとする傾向があることを我々は憂慮するものである。このような傾向は政治的意思の欠如についてわれわれに疑問を生ぜしめ,ひいては後述するようにこれまでの国連を中心とする核軍縮努力の基礎をゆるがす恐れがあることを認識すべきである。 |
第(2)の問題について私はこの機会に,現在核軍縮交渉に参加していない中仏両国に対し,先ず核兵器不拡散条約に加盟して同条約第6条に基く「誠実に軍縮交渉を行う」義務を他の核兵器国と同様に負い,更に軍縮委員会に参加するよう再び強く要請したい。軍縮に関する国連特別総会開催に向っての動きが軍縮,なかんずく核軍縮促進にとり,全ての核兵器国の参加を確保することが好ましいとの認識から発していることは十分理解し得るところである。従ってわが国としては,全ての核兵器国が参加することを期待して国連特別総会開催を支持する用意があるが,ただしかかる特別総会の開催にあたっては軍縮委員会の加盟国の知識と経験を活用しつつ十分な準備がなされねばならないことを強調致したい。更に私は,かかる特別総会の開催が軍縮委員会等既存の軍縮交渉の場で行われている具体的な検討を損ってはならないと考える。 | |
次に,第(3)の核軍縮交渉の進め方の問題は,今述べた第(2)の問題とも関連するが,縦の拡散と横の拡散の両者の側面があるということである。これまで核軍縮につき進められてきた国際的努力の行動原理は横の拡散防止,つまり核兵器不拡散条約等による核兵器の拡散防止の努力を進めつつ,これと平行して縦の拡散防止及び核兵器の削減を精力的に進めようということであった。横の拡散防止については,潜在的核兵器能力を有する多くの国が近年核兵器不拡散条約に参加し,国際原子力機関等の場において行われている他の努力と相まってその効果を上げつつある。本年6月にわが国が同条約を批准したのも横の拡散と平行して縦の拡散を防止し,究極的に核兵器を地上から除去するという国際社会の行動原理をわが国が全面的に支持,信頼しているからにほかならない。しかしながら横の拡散防止は縦の拡散防止の進展を前提とするものであり,縦の拡散防止が進展しないか,進展の見込みがないとなれば,横の拡散防止はこれを進める正当性を大幅に失うこととなる。わが国の小坂外務大臣は今次総会一般討論演説でわが国の核兵器不拡散条約批准に触れつつこの点を指摘し次のとおり述べた。 |
「この条約は,「核兵器国」に対してのみ核兵器の保有という特別の地位を認める一方,潜在的核保有能力を有する国を含む他の全ての国による核兵器保有を禁止しております。わが国は,このような不平等は固定永続化されてはならないと考えます。しかして,かかる不平等は人類の絶滅の危険をもたらす核兵器の拡散によって是正されるべきではなく,将来核兵器国が核兵器を廃絶することによって是正されなければならないものであります。」「すなわち,核軍縮について特別の責任を有する核兵器国が核軍備の削減,包括的核実験禁止等の具体的核軍縮に真剣な努力を怠るときは,核兵器不拡散条約が有名無実のものとなることは必至でありましょう。」 | |
従って,核軍縮に関して主として横の拡散防止の面でこれまで行って来たわれわれの努力が正しい道の上を歩んで来た(on the right track)ことにつき我々自身が確信を持つためには,縦の拡散の防止のための措置つまり核兵器国の核軍備制限,削減,包括的核実験禁止につき具体的成果(tangible results)が早急に得られなければならない。 | |
3. | 具体的には,私は,(1)第1次SALT交渉の結果合意された暫定協定の終了期限が1977年10月に差し迫っていることを考慮し,米ソ両国が第2次SALT交渉を1日も早く成立せしめ,更に進んで核兵器及びミサイルの削減に向って努力するよう要望したい。 |
(2)次に,包括的核兵器実験禁止の問題をとりあげたい。本件については本年の軍縮委員会で専門家の参加を得て集中的に討議が行われ地震波の探知,識別のための国際協力のためアドホック専門家グループが設置され,地震探知網の実験的作動がとりあげられる等の進展がみられたことは同問題の技術的困難の解決に展望が開けたものとして歓迎する。われわれは出来るだけ広い地域から出来るだけ多くの専門家がこのグループに参加することによりこの努力がやがて,包括的核兵器実験禁止の実現に貢献することを希望する。他方,これと平行して包括的核兵器実験禁止の実現に一歩でも近づくための段階的努力も怠るべきではなかろう。1974年の米ソ地下核兵器実験制限条約及びこれに付随する米ソ平和目的地下核爆発条約が本年5月末に署名されたことはかかる段階的努力の1つの例として評価するものである。しかし,これを一歩進めて,多角的なものとし,平行して150キロトンの爆発制限規模を引き下げてゆくことにより,究極的に包括的核実験禁止を実現することができる訳であり,本年春の軍縮委員会でわが代表団はかかるアプローチを具体的に示唆した次第である。 | |
特に爆発制限規模の引下げについては,米ソ条約の150キロトンをかなり大幅に引き下げることが可能であることを強調したい。即ち,これまでの地震学的方法による地下核実験の探知及び識別をめぐる地震専門家の討議を通じ,検証の限界として英,スウェーデン,カナダの専門家から各種の数字が示された。 | |
これらの数字には若干のひらきがあり,今後識別可能な爆発制限規模につき更に討議して合意を得る必要があるが,いずれにせよ150キロトンの爆発制限規模を大幅に下げることが可能であろう。勿論これらの爆発威力はそれ以上の実験が全て探知,識別し得るということではなく,ある程度の確率をもって行い得るということを意味する。 | |
しかしながら実験がある確率をもって探知識別される場合,この確率が相当高いものであるならばこのような探知網は違反を発見するのにかなり有効な識別能力と考え得るのではないであろうか。 | |
これに関連して,今次総会にソ連が提出した軍縮に関する覚書が「ソ連としては適切な環境における現地確認に関連して,諸々の決定を行うための何らかの任意の機構を確保するような互譲にもとずく協定を案出するのにさしたる困難はないと確信している。」と述べていることが注目される。この点で本年5月に成立した米ソ平和目的地下核爆発条約が相互に現地査察を認めたことが現地査察をめぐる永年の基本的対立の突破口を意味するのであれば歓迎する。もし現地査察がたとえ限定的にせよ可能となれば,150キロトンを大幅に下げることが可能となろう。しかも現地査察に関する合意の内容如何によっては爆発制限規模を設けることなく,一挙に包括的核兵器実験禁止を実現することも可能となろう。 | |
われわれは以上述べたアプロ-チが包括的核兵器実験禁止に関するアドホック専門家グループで目下行われている作業と矛盾するものとは考えておらず,むしろ作業の過程で得られる成果をわれわれの示唆するアプロ-チに織り込み,これを活用してゆくことが出来ると信じている。 | |
包括的核兵器実験禁止への努力がこのように行われている傍らにあって各種の核兵器実験が行われていることはわれわれとしても焦燥感を禁じ得ない。本年だけについてみてもソ米英仏が地下核実験を続行し中国が最近大気圏実験を行ったことを深く遺憾と考える。わが国は全ての国によるあらゆる核実験に反対するとの立場から,全ての核実験を直ちに中止するようあらためて強く訴える次第である。 |
4. | 以上私は核軍縮問題を中心にわが代表団の見解を述べたが,勿論他の非核軍縮措置の重要性も過少評価されてはならない。非核措置の中では,特に昨年の総会決議3465(XXX)が優先議題として採択した化学兵器禁止問題に先ず触れたい。 |
(1) | 化学兵器禁止問題は国連総会が長年にわたり優先議題として軍縮委員会に討議促進を要請してきた案件である。 | |
この問題については,わが国は1974年春の軍縮委員会に討議の基礎となるべき,段階的アプローチを趣旨とする化学兵器禁止条約案を提出しており,また,これまでに多くの作業文書を提出して,条約案作成のための国際的努力に積極的に参加してきた。本年の軍縮委員会では,非公式専門家会議が開催され,会期末には英国が条約案を提出した他,公式,非公式な会合における討議の結果,既に問題点は相当明確になってきており,条約のあるべき内容も徐々にではあるが浮び上りつつある。即ち,禁止されるべき化学剤の範囲の具体的決定には一般的目的基準を主とし,これに加え,毒性基準を併用すべしとの考え方が支配的であった。他方,検証についても貯蔵の破壊等特定の目的のためには現地査察を行うことが必要であることは論を待たないが,そのためには不当に介入しないやり方(in a not unreasonably obtrusive manner)で国内的手段を補完できることが認識されつつある。 |
本問題については,1974年以来米ソ共同イニシアティヴが待たれていたところであるが,本年8月米ソ間にジュネーヴで協議が行われたことに注目し,この共同イニシアティヴが速やかにとられるよう希望致したい。明年の軍縮委員会では本年の成果を基礎として本件審議に実質的進展がみられるよう強く希望する。 | ||
(2) | 次に環境変更技術の軍事利用禁止条約(ENMOD条約)については,これが軍縮委員会での集中的討議を経て今次総会に送付されたことを満足の意をもって注目致したい。条約審議の次第は軍縮委報告書中の本条約に関する特別報告に示されるとおりであり,わが代表団の主張をここにあらためて繰返し述べることは差控えるが,主要な点についてみれば,誤解の発生を回避し,条約の厳正な適用を確保する上で,第2条の例示は条約の一部を構成する附属書の中に設けるべきであったし,又,そのリストは更に詳細なものであるべきであったと考える。他方,わが国を含むいくつかの国の主張により,条約義務履行確保のための協議,協力に関し,第5条に専門家協議委員会に関する規定が設けられ,更に附属書で同委員会の細目に関する規定が設けられ,又,再検討会議についても規定が設けられたが,これは条約実施の上での困難を相当程度減ずるものである。従って条約案のすべての細目についてもわが代表団の見解がとり入れられたという訳ではないが,本条約案は各国の主張を最大限に取り入れつつ妥協の産物として成立した点は理解する。以上の観点からわが代表団としては条約案を今次総会が推奨することを希望する。 | |
次に(3)新型大量破壊兵器禁止条約締結問題に触れたい。本件については本年の軍縮委員会で二度にわたり非公式専門家会議が開催され討議が行われた。しかしながら既に示唆された定義は極めて広汎,多岐にわたるものであり,又,既存の軍縮関係条約の禁止対象と重複する惧れがあることが明らかとなった。従ってわが代表団としては本条約の趣旨は理解するが,本条約は極めて仮定的(hypothetical)な兵器を対象とするものであり,緊要な度合において核軍縮問題や化学兵器禁止問題をおいて優先討議されなければならない理由は極めて乏しいといわなければならない。従って本件討議が軍縮委員会における包括的核実験禁止問題,化学兵器禁止問題等今後の重要な軍縮問題討議をいささかも妨げることがないよう強く訴えたい。 |
5. | 最後に非核措置の中では,私は通常兵器に関する軍備管理乃至は軍縮の重要性に触れたい。この点についてもわが国の小坂外務大臣は今次総会一般討論演説で一部の地域で最近通常兵器の輸入急増による軍拡が行われていることを指摘し,これが紛争激化乃至新たな紛争につながる危険があることを指摘の上更に次のように述べた。 |
「わが国は,紛争地域への武器輸出禁止の政策をとっておりますが,国際紛争を助長することを回避するため,武器移転について何らかの世界的合意の可能性とその方法を探求すべき時期に至っていると信じます。私は関係各国が,それぞれ相互に自粛措置を早急にとることを要請するとともに,全ての加盟国が,この問題を真剣に考慮するよう希望するものであります。」 | |
この方向に向っての第一歩として,私は本委員会が,地域的又は世界的ベースでの兵器の輸出及び取得の自粛を可能ならしめる目的で,兵器移転の実態を調査する何らかの措置を検討することを示唆したい。なお,わが代表団は本問題に関する他の如何なる建設的提案をも慎重に検討し関係国と協議する用意があることを申し述べたい。 | |
以上私はこれから本委員会において討議されるべき軍縮の諸問題についてのわが代表団の見解を明らかにした。 |
私はこの演説をおえるに際して,我々の討議が有意義な成果をもたらすようここに列席する全ての国の代表と共に可能な限りの協力を惜しむものではないことを改めて強調するとともに,全ての核兵器国が大局的見地に立って具体的軍縮措置を早急に採るよう改めて要請するものである。 |
(1976年11月8日,東京において)
Address by
Foreign Minister Zentaro Kosaka
at the Luncheon given by
the America-Japan Society
Vice-President Tashiro,
ladies and gentlemen:
Thank you very much,Mr.Vice-President,for your most cordial welcome. It is indeed a great pleasure for Mrs. Kosaka and myself to be invited to this delightful luncheon by your distinguished Society. I have long admired the valuable activities of the America-Japan Society to promote the friendship between the Japanese and American peoples, and am very proud of being a member of such a reputable body.
Before I go into my speech,let me express my heartfelt congratulations on the election of Mr.Jimmy Carter as the next President of the United States of America. Mr. Carter is known to be a man of outstanding ability with great courage suited to meet the challenges of the world of today. I know he has been interested in Japan, and is an ardent advocate of close consultations among industrialized democracies. I feel confident that the close ties of friendship and cooperation between Japan and the United States, which have been greatly advanced by President Ford and his administration, will be further strengthened.
The subject you have given me to speak on today before my fellow members of the America-Japan Society is Japan- United States relations in today's interdependent world.
Fifteen years ago, I, as the then Foreign Minister, was given a similar opportunity to address this Society. I recall that at that time I emphasized the interdependent aspect of the Japan-United States economic relations, and during those fifteen years since then we have witnessed many significant developments manifesting the various stages of our expanding relations.
The first of these developments can be observed in the political field. Contrary to the apprehension voiced in some quarters in the early 1960s, the security arrangements under the Treaty of Mutual Cooperation and Security has insured peace for Japan, and greatly contributed to the maintenance of peace and security in the Far East. This Treaty now constitutes an essential element of the international political structure in East Asia.
Another important development in our political relations was the reversion of Okinawa in 1972. In the pre-reversion days, Okinawa was a thorny question for our two countries. Through the noteworthy efforts on both sides, however, a mutually satisfactory solution was reached, strengthening yet further the friendship and trust between our peoples.
Let me next turn to some economic developments in our relations. In 1961, the Joint Japan-United States Committee on Trade and Economic Affairs, a forum of consultations at the ministerial level, was established, thus providing a fundamental inter-governmental framework for our economic collaboration. During the subsequent years, we certainly have not been free of economic problems. Issues such as Japan's import and capital liberalization, the United States import surcharge, the textile controversy, and the bilateral trade imbalance have posed difficulties for both the government and business sectors of our two countries. Yet every one of these issues has also been resolved to our mutual satisfaction or brought under reasonable control. Thus, we have managed to maintain a steady growth in the interflow between our economies. The total volume of our bilateral trade has increased eightfold from 2.6 billion dollars in 1960 to nearly 21 billion dollars in 1975, thereby constituting the largest and most diversified overseas trade between any two nations in history.
While these major political and economic developments were taking place, the interflow between Japan and the United States has expanded into almost every facet of human activities-culture, education, science and technology, and many others.
Recognizing the importance of the promotion of mutual understanding through cultural and educational exchanges, both Japan and the United States have endeavored to implement numerous projects for advancing cultural exchanges. The Japan-United States Conference on Cultural and Educational Interchange was inaugurated in 1962 and has been held every two years since then, activating significant programs such as joint researches, exchanges of journalists, Japanese studies in the United States and American studies in Japan. The Japan Foundation was established in 1972 to conduct a wide variety of international cultural exchange activities. In 1975 a total of more than three million dollars, accounting for about forty per cent of the budget for the Foundation's overseas activities, was appropriated for the cultural exchange programs with the United States. The United States has also sponsored many similar programs for promoting direct contacts between our peoples. Around five thousand Japanese students have already benefited from the Fulbright Educational Exchange Program. With the recent establishment of the Japan-United States Friendship Trust Fund, many more Japanese are expected to enjoy the cultural and academic opportunities which the United States has to offer.
Noteworthy developments in this connection are the increased contacts and friendship at the regional level. Presently 113 Japanese cities, including six in my home prefecture of Nagano, maintain a cordial relationship of sister cities with their American counterparts and they actively conduct a wide-range of exchange programs full of local color. Furthermore, fifteen American states are represented here in Tokyo, and an increasing number of governors and mayors of both countries have crossed the Pacific, spreading the message of good will of the people whom they represent.
These remarkable facts and figures, which I could not have quoted fifteen years ago, truly reflect the widened scope of our bilateral relations.
What then was the driving force behind these dynamic developments? What was instrumental in bringing our two peoples so closely together? There is, of course, no one single factor which can account for all of these developments. The very fact that we are facing each other across the Pacific Ocean offers a natural geographical linkage. The fact that our two peoples are full of vitality, adapt to change and are eager to seek progress provides another. The interdependent and complementary nature of our economies can also be identified as another linkage. Our mutual security interests certainly form a strong bond. But the reason why Japan and the United States have been able to develop their relations in such a friendly and cooperative manner is because all of these linkages are based upon one common foundation-our shared commitment to democracy and free market economies.
Today, Japan and the United States, sharing these basic values, are not only interdependent in all aspects of our relations, but are now indispensable to each other. For Japan, the relations with the United States have been the cornerstone of its foreign policy during the past, is now presently and will be for the future. For the united States, Japan, with its emergence as an advanced industrialized democracy in Asia, is considered an indispensable friend and ally, along with Western Europe. This indispensable aspect of our bilateral relations does not mean that we are void of problems. Rather, as our relations become deeper and broader, occasions for various frictions also increase. Fisheries, civil aviation and problems related to certain trade items are some of the issues that come to my mind. Whenever we can identify signs of trouble, we must consult quickly and try to preempt the problem before it reaches magnitude beyond control. At the same time we must deal with the problems within the context of our overall relations and we must not take each other for granted.
A recent event that tested the solidity of our common democratic values was the unfortunate Lockheed affair. Japanese politics was profoundly shaken by this affair, and many people voiced concern about the unfavorable impacts it could have on our relations. However, by treating it in accordance with our democratic procedures, we have demonstrated that our democratic institutions are basically healthy and functioning effectively. I can confidently say that this affair has not harmed our relations.
This year, Americans are celebrating the Bicentennial and reaffirming the aspirations of their Founding Fathers. Japan in her second century as a modern nation is also proud to be able to share these democratic values.
This common commitment to democracy and free market economies gives another vital dimension to our relations, that is, our shared interests and purposes on multilateral issues. Global interdependence has presently reached a degree where we have to be prepared for repercussions from every corner of the earth.
Japan and the United States, as two leading industrialized democracies, have both the capability and the responsibility to render their efforts for the betterment of the international community at large.
One of the areas where our close cooperation would prove fruitful is that of disarmament and prevention of nuclear proliferation. In this nuclear age, all nations have a common stake in curbing the global arms race and finding peaceful solutions to disputes which could lead to war. Japan and the United States must exert their joint efforts for constructing an effective framework which would ease tensions and free resources for more peaceful purposes.
In Asia, our basic objectives are also in harmony, and our close cooperation in order. Japan and the United States have common interests in creating an international environment which would promote easing of tensions on the Korean Peninsula. What we both seek in Southeast Asia is dynamism and self-reliance of the nations concerned with which they assume their own constructive roles in bringing about stability and development in the region. Our two countries, as Pacific Ocean states, should dedicate their energies to assist those nations to that effect.
Today, the world economy has reached its most significant turning point since the war. We are now faced with such challenges as overcoming worldwide inflation and international monetary instability, insuring fair access by all nations to each other's raw materials and markets, improving environmental conditions, and narrowing the gap between the developed and the developing nations. These challenges can be met only through global cooperation, particularly through the close collaboration of the industrialized democracies including our two countries. We must continue our joint endeavors to realize a more stable, expanding and integrated world economy through various international forums.
Japan and the United States, despite differences in historical and cultural backgrounds, have thus succeeded in building the foundations for a true partnership of creative cooperation. Such a close and firm relationship of indispensability between two nations so powerful and influential in the world economy, yet so different in backgrounds, is, I believe, quite unique. This is a success story without precedent in the annals of world history.
As I described to you earlier, we have reached this stage in our relations through hard work on both sides of the Pacific. These achievements were not mere coincidents. We must redouble our effort if we are to develop this unique relationship of indispensability.
Let us work together for the fulfillment of our global responsibilities, and let us further enhance our mutual trust through our joint undertakings for the peace and prosperity of the entire world.
(6) 日米欧委員会東京総会出席者歓迎午餐会(ブッフェ)における鳩山外務大臣スピーチ
(1977年1月11日,東京において)
本日この午餐会に,日米欧委員会東京総会御参加各位の御来駕を得ましたことは,私の大きな喜びであります。特に,欧州及び北米から遠路はるばる来日された各位には,心からの歓迎の意を表する次第であります。
既に各位は,2日半にわたり,今日我々が直面している主要な問題について深く掘り下げた討議を持たれたことと存じます。
日米欧3地域とその相互関係が国際社会において如何に重要な地位を占めているかは,今更申すまでもありません。3者の間に親密かつ確固たる協力関係が確立されてこそ,当面の最大共通課題である世界経済の回復も,主要な南北問題の解決も,また,安定的な東西関係の確保も可能となるのであります。3者の協調関係が一層促進されることは,単に3者共通の利益であるのみならず,国際社会全般の福祉と発展にとり不可欠であると信ずるものであります。かかる意味において,日米欧各国の責務は重大であります。
アジア・太平洋地域に位置するわが国にとって,この地域の平和と安定の確保が,基本的に最も重要な外交政策目標であることは申すまでもありません。
この関連で特に次の諸点を太平洋彼岸の北米からのお客様は勿論の事,大西洋の彼岸のヨーロッパからのお客様に対しても御理解頂きたいと思います。第1は,わが国が,他国に脅威を与えるような軍事大国への道を排し,所謂平和外交を展開していることが,今やこの地域における国際情勢の恒常的要素となっており,かつ,わが国が,この地域の平和と安定に不可欠の要素となっているという点であります。勿論,このようなわが国の姿勢は日米安保体制を含む米国との緊密な協力関係を抜きにしては考えられません。わが国を含むアジア・太平洋地域の平和と安定の確保にとり,米国及び日米関係の有する重要性もここにあるのであります。
また,この地域には,依然流動的様相が根強く残存しており,従って事態の急激な変化は出来る限り回避する必要もあります。更に,この地域の開発途上諸国とわが国とは,わが国の経済が悪化すれば,これら諸国は,おそらくわが国以上に大きな打撃を蒙るであろうという相関関係が存在することについても十分留意さるべきでありましょう。また,わが国が,依然緊張をはらむ朝鮮半島に隣接し,かつ,2大社会主義国である中国及びソ連と近接しており,同じ先進民主主義諸国は,太平洋及び大西洋の彼岸にあることも,わが国の対外関係を欧州の場合以上に複雑にしている点であります。
日米欧委員会は,発足以来3年有余の間,日米欧関係の強化に積極的に貢献し,関係各国政府に建設的かつ現実的な提言を行ってこられました。私は,この実績に対し,心からの敬意を払いますとともに,同委員会が,3者間の相互理解と相互協力の促進に今後とも重要な役割を担い続けられるであろうことを確信し,今回の東京総会及び将来の御活動の御成功を祈って御挨拶にかえさせて頂きます。
有難うございました。
(1977年1月17日,東京において)
日豪閣僚委員会を開催するにあたり,遠路わが国においでいただいた豪州政府の閣僚,随員の皆様に対し,心より歓迎の意を表したいと思う。
本委員会は今回で第4回目を数えるわけであるが,わが方としては,昨年末組閣された新内閣の最初の外交行事であり,又,昨年6月日豪間に友好協力基本条約が署名されて以来はじめての会議である。この会議は日豪協力という基本的枠組みの中で,その時々の問題を常に新鮮な態度と心構えで討議する場であり,その意味でいわば日豪間の進化しつつあるパートナーシップを象徴するものともいえよう。今回のこの会議を通じて両国がより一層相互理解を深め,協調の精神をもって両国の直面する諸問題に対処するならば,日豪両国関係のみならず,アジア・太平洋地域全体の平和と繁栄にも寄与しうるものであり,すこぶる意義深い会合となるものと確信する。
1. 国際政治情勢
(1) | 1970年代前半は,激動の時代であったが,その後徐々に動揺からの脱却が図られつつあるやにうかがわれる。昨年は国際政治上比較的波乱の少ない年であったが,米国始め幾つかの主要国において政権の交代が行われ,今後世界が新しい指導層の下に安定と協調に向って前進することが期待される。 |
(2) | アジア・太平洋地域においては安定と自立への模索が特に顕著である。指導者の交代を経た中国,戦後の復興に専念しつつあるインドシナ諸国,地域的連帯性の強化を通じて自助努力を推進しつつあるASEAN諸国等の動向とこれら諸国間相互の関係は,特に注目に値しよう。 |
この間南太平洋ではパプア・ニューギニアの独立があり,ANZUS諸国とこれら新興独立国との間に域内協力の積極化の動きも見られる。 | |
(3) | これら最近の国際政治の変化を通じて指摘しうる特徴は,第一に国際政治の多元化,複雑化である。いまや2大陣営対立の時代と異り,各国は,対外関係において多方面に目を配りキメの細かい施策を講じていかなければならない。第2の特徴は,経済問題の比重が高まりいわゆる経済問題の政治化の傾向が高まってきていることである。このような趨勢の中において日豪両国は,アジア・太平洋地域における安定勢力かつ経済的先進国として大きな責任を有するものであり,この自覚の上に立って相互の協力を進めると共に,この地域における開発途上国に対する援助と協力の面でも今後一層協調していかなければならないと考える。 |
2. 内外経済問題
世界経済は,1973年の石油危機を契機として大きく変容し,嘗て経験したことのない高率のインフレ,深刻な不況と国際収支難という三重苦に直面するようになった。 | |
この背景には各国間の相互依存性の深まりや石油価格の大幅上昇による産油国への購買力の移転とこれに伴う世界的な国際収支の不均衡等の問題を指摘できよう。 | |
世界経済は,このように大きな問題に直面したが,1975年央前後より回復を始め,インフレ率の低下・生産の回復と世界貿易の拡大が見られた。しかしながらこの回復過程においても失業率は,依然として高い上に先進国の間にも物価の鎮静化や国際収支の動向には国によって跛行性がみられ一部西欧諸通貨に動揺がみられた。また76年夏以降は景気回復のペースも鈍ってきている。このほか南北問題も世界経済の中で引続き大きな問題となっており,今日世界経済は,これら諸問題に対して新たな対応を迫られている。 | |
このように問題は,世界的規模のものであり,かつ構造的側面を有するため,国際的な協力の必要性は,従来にも増して増大してきている。このための努力は,各種の国際機構,国際会議を通じて鋭意進められてきており,かかる認識と努力があってこそ世界経済はその直面した問題の大きさにもかかわらず縮小均衡を避け,回復を続けてくることができたものと考える。ところで,1976年央から先進国経済の回復ペースが鈍化してきている上に,非産油開発途上国及び多くの先進国が未だ大きな国際収支赤字やインフレに悩まされている状況下にあって,今回原油価格が引上げられたことは,これらの国に一層大きな負担を加えるものであり,諸問題解決のため各国間の協議や協力の必要性は一層増大していると考える。 | |
次に,以上のような国際経済情勢の中で,わが国経済がいかなる状況にあるかについては,第2議題の討議の場で詳細に説明することと致したい。 |
3. 日豪経済関係
(1) 貿易関係
(イ) 現 状 | |
続いて日豪貿易関係につき申し述べたい。日豪関係の中核は貿易関係にある。日豪貿易は,1960年から1975年の15年間に往復5億米ドルから,59億米ドルへと実に12倍の急速な拡大を示し,豪州にとってわが国は,第1位の貿易相手国,また,わが国にとって豪州は,米国に次ぐ主要貿易相手国の1つとなっており,かかる日豪貿易は,両国の経済的相互補完性を背景として今後も一層の拡大が期待される。 | |
このように深くかつ広い日豪間の相互依存関係にあっては,局部的あるいは短期的な摩擦は避け得ないことであるし,むしろ両国関係が緊密化しているからこそこういった摩擦が生ずるのだともいえよう。これらの摩擦や問題に対して,日豪双方の執るべき姿勢は,第1に相互理解を深めることであり,第2に長期的見地に立ちつつ互譲を図ることであり,第3に局部的,短期的な問題によって基本的・長期的な日豪間の全般関係を悪化せしめぬよう配慮することであろう。政府としてはかかる姿勢に立ちつつ問題の解決を図るため,その性質に応じ冷静に対処するに留まらず,日豪両国の民間関係者においても,同様の姿勢をもってその時々に起り得べき問題を解決して行くようエンカレッジしたいと考える。 | |
(ロ) 豪州による輸入制限措置 | |
豪州政府は,国内産業保護の観点より工業製品の輸入に対し制限措置を採っているが,昨年11月の豪ドル切下げに伴って一部の産品について関税引下げ及び数量制限の撤発を公表した。わが国としてはかかる貿易障壁撤廃の措置を高く評価するものであるが,しかし,わが国工業製品の中には今なお貴国の輸入制限措置の対象となっているものが多く,またかかる制限がかなり長期に及んでいるものもある。日豪貿易は,わが国の大幅入超であり,昨年は入超幅は,30億ドルに及んでいる。わが国は,必ずしも2国間貿易のバランスを求めるものではないが,かかる日豪貿易の不均衡にもかんがみ,貴国のイニシアティブによって輸入制限措置が早期に撤廃されることを強く希望するものである。 | |
(ハ) 砂糖長期契約 | |
次に局部的な問題の一例として砂糖に関する民間長期契約の問題についてふれたい。1974年12月の契約締結後,国際砂糖価格が暴落したため,契約価格は極めて割高なものとなっており,このため,現在,わが国の砂糖業界は危機的状況に直面している。 | |
本問題は,基本的には,民間ベースで解決すべきものであるが,わが国政府としては,事態の重要性にかんがみ,豪側においても政府を含む関係者が,事情を十分理解され,長期的かつ安定的な日豪砂糖取引きの確保という観点から,双方の当事者が均衡のとれた利益を享受できるよう本問題に対処されることを希望する。 | |
(ニ) 牛肉 | |
わが国の牛肉の輸入割当について,貴国が関心を有しておられることは,わが国としても十分承知しているところである。 |
わが国は,牛肉については,今後とも需要の増加が見込まれるのに対し,生産の急速な増加は,困難であり,不足分は輸入に依存せざるをえない事情にある。従って,今後とも国内の牛肉生産に悪影響を及ぼさないよう十分注意し,主要供給国たる貴国側の事情にも配慮しつつ,できる限り安定的な輸入を行うよう努めていく所存である。 |
(2) 漁業関係 | |
従来から本邦漁船は,豪州近海で操業実績を有し,豪州諸港に補給目的のため入港してきていると同時に,日本側関係業界は,豪州漁業の発達のため漁業協力を行っている。 | |
わが国漁船の入港期間について,貴国は,昨年11月わが国からの漁業協力をも考慮の上これを約2カ月間暫定延長するとの意向を示され,このラインに沿って取りあえず延長が行われているが,わが方としては,日本側業界が誠実に漁業協力を行ってきていることにかんがみ,今月中に入港期間を更に2カ年間延長する取極が成立することを強く希望する。 | |
また将来新海洋秩序が導入された後も,日豪両国が相互理解,相互利益の観点より漁業分野での協力を継続していくことを期待している。 |
(3) 資源・産業・投資関係 | |
次に資源,産業及び投資の分野における日豪関係につき申し述べたい。 | |
(イ) 鉱物・エネルギー資源 | |
わが国は,鉄鉱石・原料炭を始め,ボーキサイト,塩,亜鉛,液化石油ガス等の重要資源の供給を貴国に仰いでおり,また,ウランの供給についても貴国に大きな期待を抱いている。かかる意味で貴国政府が外資の必要性を基本的に認識され現実的外資政策,及び,前向きの資源開発政策を採っておられることを歓迎するものである。 | |
わが国としては,今後ともわが国経済と密接に結びついている貴国の資源開発を側面から促進し,ひいては貴国からの資源供給を将来にわたって安定的かつ経済的に得たいと希望している。就中わが国にとって大きな関心品目である鉄鉱石,原料炭についてはその開発が遅滞なく推進され,将来にわたってその安定的供給が行われるよう貴国政府の格段の御配慮を得たいと考える。 | |
ウランについては,フォックス委員会第2次報告書の発表が俟たれるが,貴国政府がウランの開発・輸出政策を早急に決定されることを希望する。また日豪両国間にはウラン濃縮工場の建設可能性に関する共同研究が進められているが,わが国としては,これが相互の利益となる形で結実することを期待する。 | |
(口) 豪州産業政策 | |
資源政策,輸入政策と密接な関係を有するものとして,わが国としては貴国の産業政策に対しても大きな関心を抱いている。特に最近は自動車産業,造船業等のあり方をめぐって貴国内でも種々の議論が行われていると承知しているが,貴国政府としては1975年10月に発表されたジャクソン委員会報告をふまえ産業政策に関する白書を近く発表される予定の由であり,わが国としては,両国経済関係の一層の拡大のためにも現実的かつ合理的考慮に基づいた政策が早急に発表されることを期待している。 | |
(ハ) 豪州労使関係 | |
わが国経済に種々の影響を与えている例として貴国の労使関係がある。例えば羊毛等豪州輸出産業におけるストライキは,わが国の繊維業界を初め諸産業に大きな不安と損失をもたらした。更にはANL船の対日発注に関連し豪造船業関係労働組合が直接関係のないわが国の船舶に対して運航を妨害する等の事件が続発している。わが国関係業界は,安定した取引関係の維持を強く希望しており,貴国におけるこのような労使関係より生ずる問題に懸念を抱いている。貴国政府当局の事情は十分理解しているが,わが国としては安定した日豪経済関係を維持するとの観点より適切な配慮が払われることを希求している。 | |
4. 結 び | |
日豪関係は,両国の経済的相互補完性を基礎として,経済的分野において極めて緊密化しており,今後は,可能な分野においていわゆる水平分業も図られることとなろう。両国の関係は,かかる経済面の緊密化に伴ない,政治,社会,文化等幅広い分野においても密接化の方向に向かっている。特に文化面については,日豪両国間の相互理解を促進し,両国関係を一層強化するための手段として,各種の交流がすすめられてきているが,就中昨年の文化協定の批准,貴国における豪日財団の発足等は,今後文化交流をすすめる上で重要な基礎となるものであり,わが国としても一層の力を傾けてゆきたいと考えている。 | |
この日豪関係を更に太い絆によって発展させていくためには両国官民がその時々に起る摩擦を乗り越え,力を合わせて努力する必要がある。昨年6月に署名された日豪友好協力基本条約は,将来の日豪関係を築くための礎石となるものであり,わが方は,本条約について今次国会の承認を求めることとしている。 | |
また今後の日豪関係は,これまでの単なる2国間関係の枠に止まらず,アジア・太平洋地域というより広汎なコンテクストにおける日豪関係との観点から眺める必要があろうかと思う。即ちこれからの両国関係は,単に日豪両国の利益と繁栄を目ざすものでなく,アジア・太平洋地域諸国の繁栄と福祉のために責任ある役割を果すものとなるべきであり,わが国としては,貴国との友好協力関係を核として,域内諸国を含めた多数国間の友好協力関係樹立のために努力してまいりたいと考える。 |
(8) ナショナル・プレス・クラブにおける福田内閣総理大臣のスピーチ
(1977年3月22日,ワシントンにおいて)
ファーレル会長,御列席の皆様
本日,カーター大統領との実り多い会談を了えた直後,この権威あるナショナル・プレス・クラブの皆様にお話しする機会をえたことは,私の深く喜びとするところであります。
大統領と私が,いまだ就任直後のときにあって,世界の中で日米両国が当面している新たな試練に対していかに対応すべきかについて新たな思いをめぐらしている,この時期に会談したことは,誠に意義深いことであります。
私と大統領との会談における中心のテーマは,「世界の中の日米協力」ということでありました。いいかえれば,世界をより良いものにするために,日米両国が協力してなにをなしうるかということであったのであります。私は今回の会談において達成された成果に心から満足しております。
私は,新内閣の発足直後行った国会演説の中で,今日の日本国民に求められているものは何かということについて述べました。人間は1人で生きていくわけにはまいりません。1人1人の人間が,生まれながらのそれぞれの才能を伸ばし,その伸ばした才能を互いに分かち合い,補い合う,その仕組みとしての社会があります。そして社会がよくなるその中で,1人1人の人間は完成されていくのであります。
このことは,国際社会についても同じであると思います。相互依存の度をますます強めている今日の世界においては,もはや,いずれの国も一国の力だけで生存することは不可能になっております。すべての国は,国際社会の中で,互いに譲り合い,補い合い,責任を分かち合い,世界全体がよくなるその中で自国の繁栄をはからなければなりません。
私は,世界の現状を考えるとき,1930年代の悲劇的な世界情勢の推移を想い起さずにはいられません。御列常の皆様の大部分の方にとっては,それは自らの体験ではなく歴史上の事実にすぎないかもしれません。しかし,当時ロンドンにあった青年時代の私には,この出来事はいまだに脳裏に焼きついている強い印象を与えたのであります。
当時世界の上に垂れこめていた不況の暗雲から脱出せんとするあまり,主要国が,次々と自由貿易という開かれた経済体制を捨て,保護主義という閉ざされた経済体制へと転換していきました。
この結果,世界の経済情勢はみるみる悪化しました。1929年から1933年までの間に,世界貿易は実に4割,主要工業国全体としての工業総生産は3割も減少しました。この経済混乱が社会不安と極端な国家主義を招き,ひいては第2次大戦への素地をつくったのであります。
もちろん,私は,現在の状態が再び世界大戦への道につながると申しているわけではありません。しかしながら,諸国が再び保護主義に転じたり,あるいは,世界経済が対立する貿易ブロックに分れたりすることがあれば,世界全体にとって深刻な社会的,政治的結果をもたらすこととなることを真剣に憂えるものであります。このような保護主義への道が世界経済を一層悪化させるだけであることは,過去の経験に照らして明らかでありましょう。
歴史の教訓に学び,主要貿易国が自由貿易を守り抜いて,自らの破局にもつながる保護主義には2度と再び走らぬことを誓いあうことが必要だと思うのであります。
世界経済は,未だに石油危機の打撃から完全には回復しておりません。中でも,多くの非産油開発途上国の困窮には,想像を絶するものがあります。これら諸国の困難に対し,先進工業国は協力すべき立場にありますが,その先進工業国もまた,今なお,十分な立直りを示しているとは申せません。
先進諸国の中で,力のある国がすみやかに自国の景気を正常な姿にもどし,これをもとにして,世界経済に活力を回復することによって世界全体の繁栄につないでいくことが現実的な手だてであります。いわゆる世界経済の牽引車となるべき国々の責任は,重大なのであります。
この認識に基づいて,カーター大統領と私とは,日米協力してそれぞれの国の経済活動を活発化し,世界経済全体の活発化に寄与すべきだという点で完全に意見の一致をみました。
今日,日米両国の総生産は,世界全体の総生産の実に35パーセントを占めております。さらに21パーセントにのぼる欧州共同体の総生産を加えると,これらの自由世界の3大経済圏の総生産は,全体として世界総生産の56パーセントを占めることになります。われわれは,協調して努力することによって,相互依存関係にある今日の世界経済を安定成長の軌道に乗せる能力と責任とを有しております。
これら先進工業諸国は,相携えて,お互いの経済回復のために協力することができます。さらには,開発途上国にとって利益になる貿易,開発の可能性をつくり出し,南北関係の改善に貢献しうるわけであります。長期的には,世界経済全体の調和ある発展を促進することができるのであります。主要な先進工業国間の協力なくしては,これらのいずれの目標も,実現不可能であります。
日本は,これらの問題に対処するために自国が果さなければならない重要な役割と責任を認識しております。我が国としては国力の及ぶ限り米国及び西欧諸国と力をあわせて努力し,この歴史的課題に応える決意であります。
このために,政府は,来たる4月1日から始まる1977会計年度において,公共事業の拡大を中心とする景気刺激型予算を編成し,実質成長率6.7パーセントの目標を設定いたしました。この目標が他のいずれの主要先進工業国が目指しているところよりも高い水準であることは,皆様御承知のことと思います。
この目標達成により生れる効果の1つは,今年の我が国の輸入に着実な増大が見込まれることであります。昨年度においては,我が国の輸出の方が輸入より高い伸び率を示しました。しかし,1977年度には,輸入の伸びが輸出の伸びを上回る見通しであり,これによって我が国の貿易相手国の景気回復に刺激を与え,ひいては世界経済の回復に寄与することが期待されるのであります。
この政策には困難がともなわないわけではありません。特にインフレ再燃を回避するため,細心の注意を払う必要があります。また,日本経済は,石油危機による大きな打撃からようやく回復したところであります。原油価格が4倍に高騰した結果,我が国の対産油国支払いは200億ドルの巨額に達し,日本経済を破局から救うためには,これを国民の努力と緊急財政措置によって吸収することが必要でありました。その後遺症として国家財政は,その3割に近い部分を赤字公債に頼っており,財政赤字の完全解消は未だ容易なことではありません。
このような諸困難にもかかわらず,政府は,景気刺激政策をとる決意であります。それは,このような政策が国内の経済活動に活力を与えると同時に,日本経済の回復を通じて,その力を世界経済の回復のために役立てるという目的を達成しうるからにほかなりません。
第2次大戦後30年の間,我が国民は充実した生活環境の確保,基本的人権の尊重,及び国際協調と平和への決意を基本とする自由と民主主義に立脚した社会の建設のため,営々と努力して参りました。この間に,我が国は,この開かれた社会体制の下で1億1,000万人の国民と約5,000億ドルの国民総生産を擁する国にまで成長し,世界経済の成長と発展に積極的に協力する意思と能力を併せもつに至ったのであります。
過去の歴史をみれば,経済的な大国は,常に同時に軍事的な大国でもありました。しかしながら,我が国は,諸国民の公正と信義に信頼してその安全と生存を保持しようという歴史上かつて例をみない理想を掲げ,軍事大国への道は選ばないことを決意したのであります。核兵器をつくる経済的,技術的能力を持ちながらも,かかる兵器を持つことを敢えて拒否しているのであります。
このような日本の選択は,日米安保体制の存続を前提としてのみ可能となったものであります。同時に,この同盟関係は,日米の双方にとって,その基本的な利益に資するものであると信じます。我が国がこのように経済的にはともかく,軍事的大国ではないこと,近隣諸国のいずれの国に対しても軍事的脅威たりうる存在ではなく,その力を専ら国の内外における建設と繁栄のために向けようと志す国柄であること-これこそ我が国を世界における安定勢力としている重要な要因であることが十分に認識されなければなりません。われわれは,このような日本の在り方こそが世界の平和,安定及び発展に貢献しうる道であると確信いたします。
我が国は,平和に対する深い関心から,一貫して軍縮,特に核軍縮を呼びかけてまいりました。従って,私は,カーター大統領が就任演説において「本年,われわれは,地球上からすべての核兵器の廃絶というわれわれの究極的目標に向って一歩踏み出す」旨を誓われたことに強く勇気づけられたのであります。
核の廃絶に向っての道は決して平担ではありません。しかし,努力は始めなければなりません。この意味で,私は,カーター大統領が一定期間の核実験全面停止を提案されたことを,この目標に向っての具体的な第一歩として,歓迎するのであります。私は,日米両国が核実験全面停止のため,実効性のある取り決めの実現に向って緊密に協力することに深い意義があると信じます。
通常兵器の管理も,核軍縮に劣らず重要であります。殊に,既に政治的緊張をはらんでおり,武器輸入が増大すればさらに緊張が激化するおそれのある地域において,軍備増強の動きがみられることを,私は,深く憂慮するものであります。昨年の国連総会において,我が国が進んで通常兵器の移転の問題に世界各国の注意を喚起する提案を行ったのも,この危険を認識してのことでありました。我が国は,米国もこの問題に共通の関心を有しておられることに意を強くするものであります。
我が国は,武器を紛争地域に輸出しないことを国策として堅持してまいりました。私は,通常兵器の移転の問題には複雑な要因が絡んでいることを理解するものであります。しかし,日米両国が,関係諸国との協議と相互信頼とに基づき,この問題の規制のための自粛措置あるいは国際的合意の可能性を相携えて探求することは,価値あるものと信じます。
日米両政府は,また,アジアの平和と繁栄の促進のために日本と米国とが寄与することの重要性を一貫して認識してまいりました。
我が国は,アジアにおける自主的な国づくりの努力,わけても東南アジア諸国連合(ASEAN)の進めているような域内協力のための自主的な計画に対しては,積極的な支援をして来ております。今般,日本とASEANとの間に,日本・ASEAN協議フォーラムが設立され,明日ジャカルタにおいてその第1回目の会合が開催されます。日本は,ASEAN域内の経済発展を目的とする種々の計画に対する協力要請について,協力の手をさし伸べる用意があります。
2国間援助の面では,東南アジア諸国に対して現在我が国の政府開発援助の実に50パーセントがふり向けられており,今後ともこれを量,質両面で拡充していくこととなっております。
域内外を通じて平和な,そして,域内の多様な民族の物質的・社会的な需要を充足しうるようなアジアを実現することこそ,我が国と近隣諸国との共通の目標なのであります。
同時に,アジアの平和な発展のためには,グローバル・パワーとして国際政治において指導的役割を果す米国が,引き続きアジアに対して積極的な関心を示すとともに,アジア諸国民の国づくりの努力に対し,積極的かつ建設的に寄与し続けることが不可欠であると考えます。
ヴィエトナムでの苦い経験から,米国がアジアに対し背を向けるのではないかという危惧の声を聞くことがあります。しかし,私は,そのような心配はしておりません。私は,米国が日本と同様,歴史的に太平洋国家であることをよく知っているからであります。日米両国の将来は,広大で多くの人口を擁し,かつ,潜在的に豊かな太平洋地域の今後の発展と切り離せない関係を有しているのであります。
皆さん,日米両国は,かつてないほどに近く,かつ,親密な関係にあります。しかし,お互いを当然視することがあってはなりません。われわれは,お互いの考えを十分に知らせあい,両国の協力関係をより完全なものとする努力を続けなければなりません。とりわけ,これだけ広範な日米両国関係に必然的に伴う小さな問題の1つ1つについて,冷静かつ賢明に処理し,それが決して大きな問題とならないようにすることが必要であります。
世界における日米の協力関係が増大するのに対応して,相互の意思疎通も更に拡大し,深められなければなりません。現在,両国の国民を結ぶ各種の立派な交流計画が,日米双方における学術機関,企業,財団,協会等を通じて,有識者や団体の努力によって進められており,両国政府もこのような活動に協力しております。私は,この種の努力を更に促進し,拡大していくことが重要だと考えるのであります。
私は,5年前,外務大臣として日本と世界各国との文化交流を進めるために国際交流基金を創設しました。これに対応するものとして,米国の側においても日米友好信託基金が設立され,その活動を開始しようとしていることは,きわめて喜ばしいことであります。この基金によって,学者,芸術家,各種専門家等による日米文化交流が大幅に拡大されることでありましょう。
私は,日米関係の将来については極めて楽観的な見通しを有しております。両国における善意に満ちた惜しみない努力によって,日米間には成熟した,責任ある協力関係がつくりあげられました。この協力関係を基礎として,われわれ日米両国民の力を世界的な場において結集し,両国民共通の理想である安定した平和で繁栄する世界を築きあげることこそ,日米両国が今後協力して立ち向かわなければならない最も大きい,かつ,究極的には最も実り多い,課題であると考えるのであります。
私は,この両国民の協力が立派な実を結び,次代の人々がその成果を享受できることを確信いたします。