1. 概 況
国連の専門機関において政治問題が持ち込まれ国際政治のかけひきの場として利用される傾向にあることが,各機関の本来の活動を阻害しているとして,一部の加盟国間で大きな問題となつていた。特に米国はかかる政治化傾向を不満としてILOには脱退予告,ユネスコには分担金不払いの措置をとつたが,この影響もあつて,76年においては西欧諸国,アフリカ諸国等において特にアラブ・イスラエル問題等政治的色彩の強い議論を回避せんとする動きがでてきたことは注目すべき変化であつた。
以下国連専門機関の中で金融関係専門機関を除く10の専門機関について述べることとする。
76年中に開催された主な会議としては,第61回総会(6月),第62回(海事)総会(10月),世界雇用会議(6月)及び第199~201回各理事会があげられる。
第61回総会では,「国際労働基準の実施を促進するための3者協議」に関する条約(第144号)及び同勧告(第152号)が採択されるとともに,「労働環境」及び「看護職員の雇用及び労働・生活条件」に関する新基準設定のための第1次討議が行われた。
第62回(海事)総会では,「船員の雇用継続に関する条約」(第145号)及び勧告(第154号),「船員の有給休暇に関する条約」(第146号),「商船の最低基準に関する条約」(第147号),「商船の基準改善に関する勧告」(第155号)並びに「年少船員の保護に関する勧告」(第153号)が採択された。
世界雇用会議(雇用,所得分配及び社会進歩並びに労働の国際分業に関する3者構成世界会議)では,(1)国内雇用戦略及び政策,(2)国際的労働力移動及び雇用,(3)発展途上国における生産的雇用創出のための技術,(4)発展途上国での雇用創出における多国籍企業の役割,(5)先進国における積極的労働力政策及び調整援助の5議題について討議の後,原則宣言及び行動計画がコンセンサスで採択された(ただし,(4)については発展途上国グループ,西側先進国等の各論併記にとどまつた)。
なお,米国政府は,本機関が本来の理念を逸脱し,政治化傾向を強めているとして,75年11月6日,ILOからの脱退意図通告を行つており,77年11月6日脱退発効の予定である。ILO予算の4分の1を分担し,ILOの活動に大きな役割を果たしてきた米国の去就は,引き続き加盟各国の大きな関心の的となつており,西欧諸国を中心に,米国が脱退通告を撤回するための環境作りの努力が行われた。
76年中に開催された主な会議としては,第19回ユネスコ総会(ケニア国ナイロビにおいて開催),第99~101回各執行委員会,国際教育局理事会,地震の危険の評価と軽減に関する政府間会議,体育担当大臣会議等がある。
第19回ユネスコ総会では2年前の総会以来の懸案であるユネスコ地域活動のための地域の定め方,アラブ被占領地域の教育文化問題,エルサレム発掘問題をはじめ,平和・人権問題,マスメディア利用原則宣言案,新国際経済秩序樹立へのユネスコの貢献に関する問題等が検討された。この総会における大きな特色は,これらの政治的問題を含む議題について,前回総会においては主としてアラブ諸国のリードによる米国,西側諸国との激しい対立が見られたのに対し,今回は対立の代わりにできる限り広いコンセンサスを探ろうとする空気が支配的であつたことである。かかる変化があつた理由としてはユネスコ財政危機打開の鍵を握る米国の分担金支払停止の状態をなんとか打開する必要性があつたこと,及び今次会議がユネスコ史上初めて,アフリカ人の議長・事務局長の下にアフリカで開催されたことから,会議を成功させたいとするアフリカ・グループの熱意があげられる。
なお,上記問題のほか,本総会においてはアンゴラ人民共和国の加盟が承認され,また,条約1件(教育的,科学的,文化的資材輸入協定議定書)及び勧告6件(成人教育,文化財交流,歴史的地区保護,文化生活,ラジオ・TV統計,翻訳者・翻訳物保護)が採択された。
76年度のわが国のユネスコに対する協力としては,アジア地域教育刷新計画に12万ドル,ボロブドゥール遺跡保存に10万ドル,ヌビア遺跡保存に1万ドルを拠出したほか,教育工学,基礎科学地域協力事業に協力を行つた。
76年に開催された会議の主なものには第69~70回理事会,第1回世界食糧安全保障委員会,第3回林業委員会,第13回アジア極東地域総会等がある。
第69回理事会では,75年11月の第18回総会で選出されたエドワード・サウマ事務局長(レバノン人)による76~77年度のFAO通常予算の大幅な一部修正提案が承認され,この結果,FAOの会議数,印刷物が削減される一方,開発途上国への直接的な技術協力を目的とした予算項目が創設される等,FAOの活動は従来より一層技術協力的色彩が濃いものとなつた。
わが国は76~77年度のFAO通常予算額(1億6,700万ドル)に対し,分担金9.11%(米国に次ぎ第2位)を拠出した。
また,わが国は,FAOと国連の共同計画として開発途上国への多数国間食糧援助を行う世界食糧計画(WFP)に対し,75~76年の2年間に計600万ドルを拠出しており,76年2月,ニューヨークで開催された拠出誓約会議で,77~78年に計750万ドルを拠出する旨誓約した。
76年においては第29回総会,第58回執行委員会が開催されたほか,6地域における地域委員会が開催されたが,各会議共通の主要テーマは喫煙と健康との関係であり,各国政府に対し喫煙に関する保健教育強化を勧告することとなつた。
また第29回総会においては前回に引き続き中東難民に対する保健援助問題が取り上げられ,本件に関する調査団の報告の処理,アラブ被占領地域の保健状態改善の問題をめぐつて紛糾したが,結局イスラエルに不利な決議が採択された。
現在ICAOの懸案としては,ハイジャック等の民間航空に対する不法妨害行為の防止のほか,航空機騒音防止問題,航空運送人の損害賠償責任に関する条約の整備問題がある。
76年においては,ハイジャック等の防止については,すでに関連の3条約及び国際標準が発効しているが,理事会の下にある不法妨害委員会においては引き続き防止のための対応策の研究が進められた。
航空機騒音問題については,航空機の騒音証明制度がすでに設けられているが,76年には航空機騒音委員会において同制度の改訂作業が行われ,また,航空運送人の賠償責任に関する条約については,これまでに行われた種々の改正を統合する作業が76年春の法律小委員会及び秋の第22回法律委員会で行われた。
76年には,11月に海事債権責任制限条約採択会議がロンドンで開催されて新条約が採択されるとともに,同時に69年油濁民事責任条約,71年油濁国際基金条約及び74年旅客手荷物運送条約の金額表示単位を金フランからIMFのSDRに変える改正議定書も採択された。
また,海洋環境保護委員会では,引き続き海洋汚染防止のための技術基準の作成作業が行われた。
76年においては,同機関の基礎組織委員会,測器観測法委員会,大気科学委員会,航空気象委員会,海洋気象委員会,水文委員会,気象気候特殊応用委員会の8つの専門委員会及び執行委員会が開催された。わが国は53年にWMOに加盟以来WMO活動に協力を行つているが,特に台風研究におけるわが国の貢献は大であり,76年WMO/ESCAP台風委員会で77年打ち上げる静止気象衛星のセミナーをわが方にて開催することを表明した。
76年度は,執行理事会(5月)及び郵便研究諮問理事会(11月)がベルヌで開催され,わが国は理事国としてその審議に積極的に参加し,特に執行理事会では財政委員会議長国として議事を主宰した。執行理事会においては第17回大会議により付託された諸案件に関する過去1年間の研究結果(小包郵便物の料金及び取扱い業務に関する研究,航空郵便物の料金及び輸送路に関する研究,繰越料及び到着料に関する研究等),及び次期大会議に向けての今後の研究作業の方向付け,並びに連合の財政予算に関する問題等わが国にとり重要な問題が審議され,また財政委員会においては次年度に係る連合の予算案の予備審査が行われた。
76年度は,第31回管理理事会(6月)及び電信電話に関する技術・運用及び料金の問題を研究し意見を表明することを目的とするCCITT第6回総会(国際電信電話諮問委員会,11月)がいずれもジュネーヴで開催された。管理理事会においては,1977年予算案,技術協力問題,及びITUの各種会議会合計画等ITUの管理運営上重要な問題が審議され,またCCITTにおいては,研究委員会の勧告案の承認,CCITTの作業方法の改善及び組織の再編成,次回総会までの予算に関する見積り等が審議された。
76年には第3回総会がジュネーヴで開催され,特許に関し発展途上国における利用を促進するため工業所有権の保護に関するパリ条約の改正を検討した。同問題は引き続き11月の政府間準備会合で検討されたが結論が出なかつたため77年6月に開催される第2回会合において引き続き討議されることになつた。