第7節 原子力の平和利用

 

1. NPTの批准

 

 76年6月8日,わが国は,長年懸案であつたNPTを批准した。これにより,わが国の原子力平和利用についての意図が明確に表明され,わが国の核燃料等の確保のための一般的な立場はより安定化することとなつた。政府は,NPT批准の際の声明において,原子力平和利用につき,特に,「日本国政府は,この条約によつて,締約国である非核兵器国の原子力平和利用活動がいかなる意味においても妨げられてはならず,また,日本国がかかる活動のいかなる面においても他の締約国と差別されてはならないと考える」旨強調した。政府は,NPTの批准に伴い,76年6月4日以来NPT保障措置協定の交渉をIAEAとの間で行つていたが,77年3月4日署名を行い,第80国会において同協定の締結の承認を求めている。

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2. 米国の原子力政策とわが国の対応

 

 74年のインドの核実験は,いかなる条約にも違反することなく,平和目的で利用している原子炉から,核爆発の材料が製造されることを実証したが,これ以降,核拡散防止のために,原子力平和利用面においても規制を強めようとする気運が国際的に急速に高まつた。特に,核爆発製造能力につながる再処理,濃縮技術については,緊急に規制を強化することが必要であるとの意見が強まつた。かかる動きを受けて,フォード前米国大統領は,76年10月再処理につき核拡散防止の観点から厳しい政策を発表し,またカーター大統領も,選挙期間中厳しい再処理規制の考えを打ち出し,現在(77年3月現在)新原子力政策を策定中である。わが国は核拡散防止に基本的に賛成であり,これまでこのための国際協力に積極的に参加してきたが,米国の新政策の実施の仕方によつては,核燃料サイクルの確立を目指すわが国の原子力平和利用計画に多大の影響を与える可能性がある。このため政府はあらゆる機会をとらえて,わが国の立場を米国側に申し入れることに努めた。76年12月には文書により,また77年2月に政府使節団を派米したほか同年3月に行われた日米首脳会談においても本件に関する米国側の理解を得ることに努めた。

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3. 日加原子力協力協定改訂問題

 

 カナダは,74年のインドの核爆発の材料が,同国が平和目的のために供与した原子炉により製造されたことに強い責任を感じ,カナダの原子力輸出に係る保障措置の強化等厳しい原子力輸出政策を打ち出し,原子力協力協定の改訂を各国に求めた。75年8月,カナダは,わが国に対しても原子力協力協定改訂を要請してきたが,主として,その後のたび重なるカナダ側の方針変更のため,交渉は遅延し,77年1月には,カナダは,改訂交渉を予定しているEC諸国,スイス及びわが国に対し,改訂交渉で満足のゆく結果が得られるまで,天然ウラン輸出ライセンスの発給を停止する旨の措置をとつた。わが国としては,カナダによるウラン禁輸措置により,わが国の原子力利用に支障が出ないよう,カナダと77年1月末第1回協定改訂交渉を東京で開催し,新協定に盛り込むべき事項につき,若干の点を除き,合意を得た。合意に至らなかつた事項については,その後の外交ルートを通じての交渉で合意に達したが,対日ウラン禁輸は未だ解除されていない(77年3月末現在)。

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4. IAEAの活動

 

(1) わが国は1957年のIAEA創設以来,原加盟国として,また指定理事国として原子力の平和利用に係る諸問題の解決に積極的な貢献を行つている。また財政面でも分担金,任意拠出金とも米,ソに次ぐ寄与を行つている。

(2) 核をめぐる国際関係は,これまで圧倒的な核戦力を保有する米,ソ両国の関係を背景としたいわゆる東西関係の枠組の中で処理されてきた感が強い。かかる体制は基本的には現在も生きているといえるが,石油危機以来,原子力開発に対する開発途上国の関心が急速に高まり,いわゆる核をめぐる南北問題がクローズ・アップされてきた。IAEAにおいても昨年の第20回総会以来,技術の移転問題を中心に南北の対立が深まりつつあり,今後IAEAの議事が従来のごとき円滑な運営を期待しえないような事態に至つている。

(3) 現在世界は,IAEA保障措置の充実,再処理・廃棄物処理等核燃料サイクルのダウンストリーム(核燃料サイクルのうち再処理,廃棄物処理等)の整備,平和核爆発,PP(フィジカル・プロテクション,核物質防護)等今後原子力の平和利用を促進していくうえで解決しなければならない多くの問題を抱えている。

 かかる重要な時期にあたりIAEAに南北問題のごとき新たな要素が持ち込まれてきたことは,20周年を迎えるIAEAもいま大きな転換期を迎えたといえよう。

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