国際連合は婦人,児童,人権,社会福祉,災害救済など社会分野において次のような重要な活動を行つた。
(1) 婦 人 問 題
国連婦人の地位委員会は第26回会期(76年9~10月)及び同再開会期(同年12月)において婦人に対する差別撤廃条約案を採択した。同条約案は第24回婦人の地位委員会の決議に基づき,同委員会において条約案文の起草作業が進められていたものである。今後同条約案は国連経済社会理事会での審議を経て国連総会に上程される予定である。
国際婦人年世界会議(75年6月メキシコにおいて開催)の決定に従い,第32回ESCAP総会(76年春)及び第31回国連総会(同年秋)は,それぞれESCAP婦人センター及び国際婦人調査訓練研修所をイランに設立することを決定した。ESCAP婦人センターはESCAP域内(アジア太平洋地域)の婦人のための各種調査研究,研修訓練活動を行うことを目的としており,77年2月テヘランに開設された。同センターの建物はホスト国イランが提供し活動経費はESCAP加盟国からの任意拠出金によつて賄われることになつており,わが国も5万ドルの拠出を行う予定である。また世界全域の婦人を対象とする国際婦人調査訓練研修所は未だ開設に至つていないが,近い将来発足すべく準備が進められている。
第31回国連総会は1979年を国際児童年と宣言し,国連児童基金(ユニセフ)を国際児童年に関する諸活動の中心機関に指定する旨決議した。同決議は,児童の福祉向上を経済社会開発計画の中に組み入れるよう各国,関係諸機関に要請している。
インドシナ政変を契機とする難民の発生に際し,国連は国連難民高等弁務官(UNHCR),国連児童基金(ユニセフ)を中心として総額約2,200万ドルにのぼる救済援助活動を実施した。わが国は1975年に9億円の拠出を行つたが,更に77年3月,UNHCRに対し1億5,000万円の特別拠出を行つた。
過去2,3年,国連は個別の人権侵害問題として,南部アフリカ,イスラエル占領地及びチリの人権問題のみを審議してきた感があつたが,76年には特にこの傾向が強かつた。
まず南部アフリカの人権問題に関しては,第31回総会は,南部アフリカの人種差別政権と経済,軍事,核の分野において協力している諸国を特に名指しで非難する決議を採択した。また第31回総会では,イスラエル占領地の人権問題に関し,イスラエルによるクネイトラの意図的破壊を非難し,シリアがその損害賠償請求権を有することを承認する決議を採択し,チリの人権問題に関しては,チリの人権侵害を非難し,人権委員会に対し,被拘禁者等に対する財政的援助等の勧告を作成し,チリに対する各種援助の及ぼす影響を検討するよう要請する趣旨の決議を採択した。
上記動きに対しては,国連は特定国の人権侵害のみを対象とすべきでなく加盟国すべての人権侵害を取り扱うべきであるとの観点から,政治犯の保護に関する決議案が準備されたが,途中で撤回され採択されるに至らなかつた。
なお,人権問題一般としては,人種差別撤廃世界会議が78年までにガーナで開催されることが決定されたほか,76年に発効した国際人権規約実施のための手続きが決定された。
1949年の「戦争犠牲者の保護に関するジュネーヴ諸条約」に対する追加議定書を採択するための外交会議は,74年,75年に引き続き,4月21日から6月11日までスイス政府の主催によりりジュネーヴにおいて開催された。第3会期において審議された主な条項は,重大な違反の抑止,軍隊の組織及び規律,背信行為の禁止,並びに上官責任などであつた。なお,第4会期は,同じくジュネーヴにおいて77年3月17日から6月10日まで開催の予定である。
国連大学は,74年末,東京に本部を開設して以来本格的な活動を開始しつつあり,現在,渋谷の東邦生命ビルにおいてへスター学長以下約50名の職員が活動している。
75年1月の第4回国連大学理事会は,(1)世界における飢餓,(2)天然資源の管理使用及び配分,(3)人間,社会開発を3優先研究領域と決定していたところ,76年1月の第6回国連大学理事会は,前記(1)については,収穫後の食糧保存等,(2)については,新エネルギー源等,(3)については開発途上国への技術移転等の問題を大学の優先研究事項として決定した。このうち飢餓の分野についてはグァテマラ,インド及びフィリピンの研究機関と提携することにより研究を行つている。
また,76年5月,日本国政府と大学本部の諸関係を定めた国連大学本部協定の署名が行われ,同協定は,同年6月発効した。更に財政面ではわが国をはじめ,各国から約6,347万ドル(77年3月現在)の拠出が行われている(このうち6,000万ドルはわが国の3回分の拠出である)。