第2節 軍 縮 問 題

 

 76年の軍縮討議では,環境変更技術の軍事利用禁止条約案が軍縮委員会で作成され国連総会で勧奨されたこと,78年に軍縮特別総会の開催が決まつたこと及び国連総会で通常兵器の国際移転問題が取り上げられたことが特筆される。各案件中特に注目されるものは,次のとおりである。

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1. 核実験禁止問題

 

 包括的禁止の障害となつていた検証問題と平和目的核爆発の取扱いに進展がみられた。

(1) 5月,米・ソ間に平和目的核爆発条約が締結され,現地査察を含む詳細な手続きが合意された。

(2) この条約に加え,ソ連は第31回国連総会に提出した軍縮覚書で現地査察を受け入れる態度を示し,従来の姿勢に変化が現われた。

(3) 検証について軍縮委員会は8月に地震学的探知専門家グループを設立した。同グループは,わが国専門家が中心となつて地下核実験探知のための世界ネットワークの設置と試験的作動を検討している。

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2. 化学兵器禁止問題

 

 化学兵器禁止問題とは,神経剤,びらん剤,窒息剤などの戦用目的化学剤の開発,生産及び貯蔵を禁止し,並びにこれらの廃棄を目的とするもので,69年以来重要な軍縮問題の1つとして討議されている。本問題については,化学剤の種類が多く,かつ,その大部分が平和目的にも使用されているため,禁止対象剤の範囲及び条約義務遵守の検証が問題の鍵となつている。この問題については72年ソ連等東側諸国が検証をぬきにした条約案を,また74年にはわが国が,包括的禁止を最終目標とし,現状において禁止が適当でないか困難であるものを禁止対象より暫定的に除外し,検証可能なところから禁止する条約案を提出している。76年の軍縮委員会では,西独の提案により非公式専門家会議が開催され,わが国を含む13カ国より21名の専門家が出席し,活発な討議が行われた。8月12日には英国が条約案を提出し,また米・ソ間で74年の首脳会談に基づく事務レベル協議がもたれ今後の進展が期待される。

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3. 通常兵器の国際移転問題

 

 第31回国連総会で小坂外相がこの問題を一般演説で取り上げたところ,多数の国がこれに呼応して発言した。わが国はこうした諸国から16カ国を募り,この問題について各国の見解を徴し,武器移転の実態調査を事務総長に要請するとの穏健な決議案を共同提案した。決議案は最終段階でインドの延期動議により投票に付されなかつたが,従来極めて重要であるにもかかわらず問題が微妙かつ困難であるため,国連で触れられなかつたこの問題をわが国が取り上げた意義は大きく,わが国のイニシアティブを今後とも生かすべきとの声が多かつた。

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 4. 非核地帯及びインド洋平和地帯問題

 

(1) 現在成立している非核兵器地帯としては,1968年に発効し,現在ラ米地域20カ国の間で効力を有している「ラテン・アメリカにおける核兵器の禁止に関する条約」があり,毎年の国連総会において同条約の付属議定書の署名,批准問題が取り上げられているが,第31回総会においても同議定書II(核兵器国は,同条約の締約国に対し核の使用または使用の威嚇を行わない旨約束する。核兵器国のうち,ソ連のみがこの議定書に署名,批准していない)の署名,批准を要請する決議が採択された。また,その他の地域についても国連の場において,「中東」,「南アジア」,「アフリカ」等の地域における非核兵器地帯設置の提案がなされており,第31回総会においても各々関連決議が採択されたが,実現のための具体的措置は何らとられていない。わが国は非核兵器地帯の設置については,核拡散防止の目的に資するとの考えから原則的に賛成の立場をとつている。

(2) 71年の総会においてスリ・ランカは,「インド洋を平和地帯と宣言し,その実現のために関係国が協議を行うよう要請する」との決議案を提出し,採択されたが,それ以後も本件は毎年継続的に審議されてきている。72年にはインド洋平和地帯構想実現の一歩としてアド・ホック委が設置され(わが国は中国,オーストラリア等とともに構成国),また74年の総会ではインド洋会議開催を促進する目的のために沿岸国,後背国の協議を行うこととなつた。76年の総会では,アド・ホック委及び沿岸国,後背国が引き続き協議を続行するよう要請する旨の決議が採択された。

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5. 環境変更技術軍事利用禁止問題

 

 環境変更技術の軍事利用禁止とは,現在あるいは将来開発される技術により自然界の諸現象を故意に変更し(例えば地震や津波を人工的に起したり台風やハリケーンの方向を変える),これを軍事的敵対的に利用することを禁止しようとするものである。禁止の対象が必ずしも現在の技術のみでないため具体的な技術の使用を禁止できず,そのため技術の使用の結果が「広範,長期,重大」なものを禁止しようとするもので,その意味であくまでも予防的軍備管理措置である。本件は,74年7月の米ソ共同声明において初めて取り上げられ,その後75年8月,米・ソ両国が同一内容の条約案を軍縮委員会に提出し,同年の国連決議に基づいて76年の軍縮委員会が条約案テキスト作成を行つた。軍縮委員会における討議で最も問題となつたのは,第1条の禁止の範囲,第3条の平和利用,第5条の苦情処理の3点であつたが,特に禁止の範囲については,メキシコ等ラ米諸国は技術の効果の大小を問わずすべてを禁止すべきことを最後まで主張した。第3条の平和利用については,開発途上国の要求により平和利用の国際協力の条項が追加され,また第5条の苦情処理については,わが国等西側諸国の主張がとり入れられ専門家協議委員会が設置されることとなつた。同テキストは第31回国連総会に送付され,同条約の署名,批准及び検討を推奨するとの決議が採択されたので,77年中に事務総長より署名・批准のため開放されることになつている。

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6. 軍縮特別総会

 

(1) 第31回国連総会では「全面完全軍縮」の議題の下に,ユーゴースラヴィア等非同盟主要国が提唱し,わが国を含む75カ国が共同提案した軍縮特別総会の開催に関する決議が採択された。これにより78年5月ないし6月に国連創設以来初めて専ら軍縮問題の審議にあてられる特別総会が開催されることとなつた。

(2) 軍縮特別総会開催の構想そのものは,1946年12月の第1回国連総会再開会合で採択された決議に始まるが,一方,非同盟諸国は,1961年の第1回首脳会議において世界軍縮会議もしくは軍縮特別総会の開催を呼びかけて以来,特別総会の開催を度々提唱してきた。76年,スリ・ランカで開催された第5回非同盟首脳会議で採択された政治宣言においても,1978年までに軍縮特別総会の開催を要求する趣旨が謳われており,第31回総会に提出された決議案もこれを受けたものである。

(3) 採択された決議に基づき,総会議長により指名された54カ国から構成される準備委員会が設立され(わが国もアジア・グループの一員としてメンバーとなり,副議長国となつた),今後特別総会開催までに77年3月,5月,9月の3回にわたり同委員会の会合が開催され,特別総会の議題及び手続規則を決定する予定である。

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7. 核兵器不拡散条約の批准

 

 わが国は70年の同条約署名以来,批准のための国内的検討を行つてきた。同条約の批准承認案件は,第75国会に上程され,76年5月24日第77国会で約70時間にわたる詳細な審議の結果承認を得た。政府は6月8日に米英ソ3国政府に批准書を寄託し,同条約の97番目の締約国となつた。わが国は批准に際して政府声明を発表し,核軍縮の促進に特段の努力を払うとともに原子力平和利用及び核兵器の拡散防止に関する国際協力に貢献するとの決意を表明した。

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