第1節 政 治 問 題
1. 第31回国連総会
国際連合第31回総会は,9月21日から12月22日までニューヨークにおいてスリ・ランカのアメラシンゲ国連常駐代表の議長の下に開催された。一般討論に参加した国計134カ国,本会議及び各委員会で審議された議題124,採択された決議(ないし決定)は256にのぼつた(ただし,第31回総会は経済問題の一部が審議未了のため休会となつており,77年に再開される予定である)。
また,新たに3カ国が加盟し,総加盟国数は147となつた。
第31回総会の特色を一言で表現すれば波乱の少ない,比較的平穏な総会であつたといえる。これには,(イ)前年の第30回総会で競い合い,相反する2つの決議採択をもたらした朝鮮問題が総会議題から外されたこと,(ロ)米国が大統領選挙のため一時的な模様眺めの状態を余儀なくされ,また,各国も新政権待ちの状態にあつたこと,(ハ)中東問題については,レバノン情勢等のためアラブ諸国が比較的穏健な態度をとつたこと等が挙げられよう。なお比較的平穏な第31回総会の中で国際的関心の高まりが浮き彫りにされたのが南部アフリカ問題であり,同議題の下だけでも例年の倍近い決議が採択された。
総会における勢力パターンについてみると,非同盟グループの地位の相対的向上と,従来より指摘されていた同グループ主導の傾向が一層顕著になつたといえよう。ただし,従前の総会に比較すると,非同盟グループが他のグループと激しくぶつかる場面は少なく,これも前述のように比較的平穏な総会になつた1つの理由といえよう。
第31回総会においては事務総長選挙が行われ,現職のワルトハイム氏が再選された。同氏は77年1月1日より5カ年間,その職を再び勤めることとなつた。
前年の第30回総会においては,アルジェリア,ソ連,中国等共同提案の決議案と,わが国,米国,カナダ,ニュー・ジーランド等共同提案の決議案が競い合い,結局,内容的に相反する両決議が採択された。
76年においては,各々の側より決議案を付した議題要請がなされていたが,総会直前に双方の側より議題要請が撤回され,審議されないこととなつた。北朝鮮側の撤回の理由としては,コロンボにおける非同盟首脳会議の結果が必ずしも思わしくなかつたこと,板門店事件の影響,北朝鮮の経済的困難等が推測されているが,わが方は,当初より,総会では「不毛の対決」を回避し,直接関係者間の「話合い」による解決が望ましいと考えていたので,北朝鮮側の議題要請撤回に鑑み,議題要請決議案を撤回した。
76年中,本件国連討議はパレスチナ人の国連憲章に基づく固有の権利実現が議論の焦点となつた。安全保障理事会は頻繁に開催されたが,国連平和維持活動の任期延長を除いて,他の問題については,いずれも米国の拒否権行使により決議を採択することができなかつた。
国連第31回総会は,安保理のこのような審議状況を背景に,パレスチナ問題についてはパレスチナ委員会の報告書の再審議を安保理に要請する決議が,また,中東問題全般についてはPLOの参加する中東和平会議開催を要請する決議がそれぞれ採択された。
安保理及び国連第31回総会の主要討議を項目別に概観すると次のとおりである。
(イ) パレスチナ問題を含む中東問題(1月)
1月26日,(i)独立国家樹立権を含む,パレスチナ人の固有の民族自決権行使,(ii)67年占領地からのイスラエルの撤退,(iii)域内諸国の主権,領土保全,政治的独立,生存権の保障等を骨子とする決議案を表決に付し,賛成9(日本を含む),反対1(米国),棄権3,投票不参加2でこれを否決した。わが国は右が安保理決議242の枠組を変えたものでなく,パレスチナ人の自決権に関し,決議242を補足するものであるとの観点からこれに賛成した。
6月29日,(i)パレスチナ委員会の報告書を了知し,(ii)国連憲章に基づくパレスチナ人の固有の自決権を確認する趣旨の決議案を表決に付し,賛成10(日本を含む),反対1(米国),棄権4でこれを否決した。
わが国は同報告書の勧告は域内諸国の領土保全,安全保障措置が含まれていない点,バランスを欠き不十分であるが,決議案は単に報告書を了知するのみで内容の評価を含まないこと,また,パレスチナ人の自決権自体については上記(イ)と同じ理由からこれに賛成した。
ちなみに,上記報告書は国連第30回総会決議により創設されたパレスチナ委員会より5月末事務総長に提出されたもので,(i)67年占領地よりのイスラエル完全撤退のため安保理が時間表を設定すべきこと(撤退は77年6月までに完了),(ii)撤退後の地域は国連が引き継ぎ,ついでパレスチナ人の代表たるPLOに引き渡すこと,(iii)撤退終了までの間占領地においては戦時文民保護に関するジュネーヴ条約が遵守さるべきこと等の勧告を含んでいる。
(ニ) 国連緊急軍(UNEF)の任期延長(10月),及び国連兵力引き離し監視軍(UNDOF)の任期延長(5月及び11月)
(イ) パレスチナ問題
11月29日,(i)パレスチナ問題解決の基礎として,パレスチナ委員会の報告書の勧告を承認する,(ii)安保理に対し同報告書勧告の再検討を要請する等を骨子とする決議案を賛成90,反対16,棄権30(日本を含む)で採択した。
本決議はパレスチナ委員会の報告書の勧告を承認するものであるが,わが国は同勧告がパレスチナ人の権利の実現のみを切り離して取り扱つている点非現実的であるという観点からこれを棄権した。
12月9日,次の2決議案を採択した。
(a)イスラエルの占領継続を弾劾し,(b)イスラエルに対する軍事,その他の援助を差し控えることを各国に要請すること等を骨子とする決議案を賛成91,反対11,棄権29(日本を含む)で採択した。わが国は決議案の内容が一方に片寄りすぎているので棄権した。
(a)中東和平会議開催準備のため事務総長に対し,紛争全当事者及び中東和平会議の共同議長と接触し,その結果を77年3月1日までに安保理に報告すること,(b)77年3月末までに中東和平会議を開催することを要請すること等を骨子とする決議案を賛成122(日本を含む),反対2,棄権8で採択した。
(1) 概 説
アフリカ諸国は,南アフリカ共和国のアパルトヘイト政策及びナミビア不法統治に対する非難,また南ロ-デシアの白人違法政権に対する圧力を強める一方,対南ア協力を行つているとして西側諸国に対し非難を強めた。かかる動向は,76年において安保理が8度開催され,総会において21の決議が採択されたことに反映されている。
他方,非自治地域に関しては,主として東チモール,西サハラ等に関する審議が行われた。
第31回総会では11の決議((あ)トランスカイ不承認,(い)南ア信託基金への拠出要請,(う)南ア政治犯との連帯,(え)対南ア武器禁輸,(お)イスラエル・南ア関係の非難,(か)スポーツにおけるアパルトヘイト非難,(き)アパルトヘイト特別委作業計画,(く)南アとの経済協力非難,(け)南ア情勢,(こ)反アパルトヘイト行動計画,(さ)南アに対する投資規制)が採択された。
わが国は,南アのアパルトヘイト政策に反対であるとの基本的立場で対処したが,上記(け)に関し,本問題の解決のための手段として武力闘争を容認していること,更には南ア現政権は違法であり,南ア国民を真に代表しないとする条項等問題点が多く棄権した。また,(え)についても,わが国は南アに対し厳格な武器禁輸を行つているが,本決議案が南アの情勢を憲章第7章の適用を正当化する「国際の平和と安全に対する脅威」と認定していることは時期尚早であると考え棄権した。その他,わが国は問題のある(あ),(く),(こ),(さ)に棄権し,他の決議案に賛成した。
第31回総会では,独立達成前の多数支配の確立,本件に関するジュネーヴ会議が独立のための条件を確立することを要望する条項等を含む包括的決議が全会一致で採択され,対南ローデシア制裁措置の拡大・強化の要請等を含む制裁決議が採択された。
わが国は,対南ローデシア経済制裁を誠実に履行しており,両決議ともその基本的趣旨は十分支持できるので,武力行使の是認に通じるような項目等に留保したうえで賛成した。
また,76年4月,安保理は対南ローデシア経済制裁を一層強化するため,制裁の内容を保険並びに商号使用権及びフランチャイズ契約の分野に拡大することを決定する決議388を採択し,わが国もこれを支持した。
第31回総会では,本件に関し8つの決議((あ)ナミビア情勢,(い)ナミビア理事会作業計画,(う)ナミビア支持の国連活動の強化・調整,(え)政府間機構及び非政府団体による行動,(お)ナミビアに関する広報活動,(か)ナミビア基金,(き)SWAPOのオブザーヴァー招請,(く)ナミビアの国家独立計画)が採択された。
わが国は上記(あ)を除く諸決議に賛成した。(あ)については,武力闘争の容認,南アによる戦争の挑発行為は国際の平和と安全に対する脅威である等の条項を含み,問題点が多いため棄権した。
また,76年10月,安保理は本件を審議し,対南ア強制的武器禁輸措置を要請する決議案を検討したが,米,英,仏の拒否権により採択されなかつた。
第31回総会における主たる係争問題としては,東チモール問題があり,インドネシアが同地域より撤退することを要請する決議が採択されたが,同地域住民の民族自決権行使の態様につき意見が分かれた。
同じく総会で,西サハラ問題の解決をひとまずOAU首脳会議に預ける決議が採択された。
第30回総会により設置された「憲章及び国連の役割強化に関する特別委員会」は2月中旬より4週間開催され,メンバー国であるわが国も参加した。同委員会においては,従来より加盟諸国が表明してきた憲章再検討及び役割強化に関する見解,提案をとりまとめた分析研究の検討が行われた。審議においては,従来同様憲章再検討積極派と反対派の主張が対立したが秩序だつた方法で本件問題の検討が始まつたことは画期的なことであつた。
こうした特別委員会の経験に照らし,わが国は他の憲章再検討積極派諸国とともに,第31回総会において同特別委員会の作業継続を求める決議案を推進し,その採択に尽力した。本特別委との関連で経済・社会分野における国連の役割強化については「機構改革アド・ホック委員会」においても作業を行つてきており,わが国もこれに参画してきている。
第31回総会においては,西独の提案に基づき,人質をとる行為を防止するための国際条約起草を目的とするアド・ホック委員会の設立が決議された。わが国は,理由のいかんを問わず,あらゆる暴力行為に反対するとの立場より,共同提案国に加わり,コンセンサスによる決議採択に尽力した。
(1) 新 加 盟 国
第31回総会は安全保障理事会の勧告に基づき,セイシエル共和国(9月21日),アンゴラ人民共和国(12月1日),西サモア共和国(12月15日)の3カ国の加盟を承認し,これにより国連の加盟国は147カ国となつた。わが国は,安全保障理事会及び総会の審議を通じて,これら諸国の加盟は国連の普遍性を高める等の見地より加盟歓迎の立場をとり,加盟を支持した。
ヴィエトナム加盟問題は11月の安保理において審議されたが,米国の拒否権行使により否決された(わが国は賛成)。右を受けた第31回総会は,本会議において,安保理に対しヴィエトナム加盟再検討を勧告する決議案を採択した。