1. 世界銀行を中心とする国際協力
(1) 世銀及び第2世銀
(イ) 世銀(国際復興開発銀行,IBRD)及び第2世銀(国際開発協会,IDA)は,開発途上国に対する国際機関を通ずる援助の体系において中心的な役割を果している。
76会計年度(世銀グループの場合,75年7月より76年6月まで)において,世銀は,農業,運輸,開発金融会社,電力等のプロジェクトに対し,49億7,600万ドルの融資承諾を行つた(75年度実績は43億2,000万ドル)。また,緩和された条件による融資を行つているIDAは,76年度において,農業,商品援助,電力,運輸等のプロジェクトまたはプログラムに対し,16億5,500万ドルの融資承諾を行つた(75年度実績は15億7,600万ドル)。この結果,世銀及びIDAの設立以来の融資承諾累計額は,それぞれ,328億5,000万ドル及び100億8,900万ドルとなつた。
世銀の76年6月末現在の授権資本は325億7,100万ドルであり,そのうち308億6,100万ドルが加盟国により応募済みである。わが国は,12億3,400万ドルを出資しており,出資シェアは4.0%で,全加盟国中,米,英,独,仏に次ぎ第5番目の出資国となつている(わが国の投票権比率は3.64%で,世銀の任命理事国である)。世銀はその融資活動に必要な資金を払込済の資本金のほか,加盟国政府,中央銀行または資本市場からの借入れによつて調達しているが,76年度中の世銀の借入実績は38億1,100万ドルで過去最高の年間借入れとなつた。このうち,わが国(日銀)からの借入れとして567億円(1億8,900万ドル相当)がある。
IDAの融資財源は主として加盟国からの出資金からなつているが,76年6月末現在の出資金(及び補足資金)合計は105億6,200万ドルである。このうち,わが国は7億8,600万ドル(シェアは7.4%)を出資しており,これは米,英,独に続き第4番目にあたる(投票権比率は5.15%)。
なお,世銀及びIDAの加盟国数は76年6月末現在それぞれ127カ国及び116カ国である。
(ロ) 世銀及びIDAにおいては,現在増資の手続が進められている。
世銀については,授権資本を84億4,400万ドル増額して合計410億1,600万ドルとし,増資分のうち83億4,000万ドルを加盟国に割り当てることとしている。本件増資は「選択的増資」と呼ばれているが,これは主として石油危機後の国際経済における変化を背景としており,具体的にはIMFにおける加盟国の出資割当額(クォータ)の変更(増加)措置に対応する措置である。本件世銀増資において,わが国の増資割当額は3億9,900万ドルとなつている(増資中のシェアは4.8%)。77年3月末現在,本件増資について各加盟国の総務による投票が行われている。
IDAについては,その第5次の資金補充(増資)に関し,出資国の代表による会合が,75年11月以降76年末までに4回にわたつて開催された。本件資金補充は,IDAの財源が77年度末をもつて融資承諾限度に到達する見込みであるため,77年7月以降3年間についてIDAの融資を可能ならしめるための措置であり,これには主として先進諸国及び石油輸出国からの出資が期待されている。77年3月,出資予定国の間において,本件資金補充の規模を76億3,800万ドルとすることで合意が成立した。わが国の負担額は7億9,200万ドルである。
(ハ) 開発途上国に対し,世銀とIDAとの中間的条件による融資を行うために,75年7月「第3の窓」が設置された。本件融資は世銀の通常融資の枠内で行われるが,融資条件を緩和するために,利子補給が行われる。そのため世銀加盟国の任意拠出よりなる利子補給基金が設置され,76年度末までに1億2,500万ドルの拠出金が払い込まれた(ただし,わが国は本基金に拠出していない)。76年度中の1第3の窓」からの融資実績は4億7,800万ドルである。本件融資の対象国の範囲は,原則としてIDAの融資対象適格国たる基準と同様とすることが定められている。
(ニ) 世銀は,WHOとともに,その他の国際機関及び先進諸国の協力を得て,西アフリカ地域における風土病(オンコセルカ症)の撲滅計画を74年より当初6カ年の予定で開始しているが,わが国もこれに対し,75年に50万ドル,76年に75万ドルを拠出しており,77年は100万ドルを拠出する予定である。
また,開発途上国における公共土木事業に関して,資本集約的技術と労働集約的技術の中間的技術を探求する世銀の研究プロジェクトに対しても,わが国は74年以降各年5万ドルの資金協力を行つている。
(イ) 世銀の姉妹機関であるIFC(国際金融公社)は,開発途上国における生産的民間企業の育成を図り,もつて世銀の活動を補足することを目的としているが,76世銀会計年度におけるIFCの投融資承諾額は2億4,500万ドル(75年度実績2億1,200万ドル)であつた。
設立以来の承諾累計額は76年度末までで15億500万ドルである。76年度の対象分野別内訳は鉄鋼業が最も多く,次いで開発金融,繊維,雑貨製造等となつている。
(ロ) 76年6月末現在,IFCの加盟国は105カ国で,授権資本は1億1,000万ドル,うち応募済資本は1億800万ドルである。わが国は280万ドルを出資している(出資シェア72.56%で9番目,投票権比率2.24%)。
(ハ) IFCにおいても増資の手続が進められている。増資の規模は授権資本を5億4,000万ドル増額し,増資後の授権資本を6億5,000万ドルとし,増資額のうち4億8,000万ドルを加盟国に割り当てることとしている。このうちわが国の割当額は,2,300万ドル(シェア4.8%)となつている。
(1) 米州開発銀行(Inter-American Development Bank)は中南米地域の経済開発の促進を目的として59年に設立され,地域開発金融機関としては最大の規模を誇つている。
IDBの加盟資格は,72年まで地域性維持の観点よりOAS(米州機構)加盟国に限定されていたが,同年域外国へも加盟資格が解放され,わが国は76年7月に他の域外8カ国(ベルギー,デンマーク,西独,イスラエル,スペイン,スイス,英国,ユーゴースラヴィア)とともにIDBに加盟した。わが国は加盟に際し,IDBの地域間資本及び特別基金に対して,それぞれ約6,900万ドルずつ(域外国の中で最大額)を出資,及び拠出した。
なお,IDB加盟により,わが国は主要な地域開発銀行にすべて加盟したことになる。
(2) IDBにはその融資業務に対応して,通常資本及び地域間資本財源と特別業務基金の財源とがあり,さらにIDBが受け入れているいくつかの基金が存在する。76年12月末現在,通常資本及び地域間資本の応募資本金はそれぞれ,69億1,000万ドル,1億400万ドルであり,特別業務基金の拠出金累計は57億4,300万ドルである。
一方,IDBの融資承諾累計額は76年12月末現在970件102億2,190万ドルに達する(内訳は通常資本44億8,900万ドル,地域間資本2億3,600万ドル,特別業務基金42億7,000万ドル,その他基金7億7,700万ドルである)。
これを国別にみると通常資本では,ブラジル(13億3,960万ドル,シェア29.8%),メキシコ(8億1,790万ドル,18.2%),アルゼンティン(7億9,210万ドル,17.6%)等,主として比較的1人当り所得の高い国に対し,より多くの融資が行われており,地域間資本も同様の傾向にある。しかしながら特別業務基金では,ブラジル,メキシコ等のほか,低所得の開発途上国に対して,緩和された条件で融資が行われている。
また,融資全体を分野別でみると,農業24%,電力20%,運輸・通信18%,鉱工業15%となつている。
(1) アフリカ開発基金は,アフリカ開発銀行加盟諸国(76年12月末現在の加盟国は,アフリカ地域独立国48カ国中の46カ国)の経済・社会開発に寄与すべく,これら諸国に対して緩和された条件による融資を行うため,73年6月に設立された。アフリカ地域には既にアフリカ開発銀行が設立されていたが,同銀行は,いわゆるソフトローンを融資する資金を有しなかつたので,これを補完する目的で設立されたのがアフリカ開発基金である。
(2) 同基金のメンバーは,76年末現在,アフリカ開発銀行のほか,わが国をはじめとする域外17カ国であり,今後さらに域外からの参加国の増加が見込まれている(米国は76年11月,17番目の域外参加国となつた)。
(3) 本基金の財源は,各参加国による出資金であり,76年12月末現在の出資総額は,3億590万U.A.(1U.A.は1スミソニアン・ドル)である。わが国は,4,500万U.A.(シェア14.7%)を出資しており,カナダに次ぐ2番目の大口出資国である。
本基金の融資条件は,無利息,手数料年0.75%,期間10年据置後40年(ただし,技術援助案件は3年据置後10年)である。76年12月末現在の融資承諾累計額は,58件,1億9,763万U.A.であり,これを分野別にみると,農業6,633万U.A.(33.6%),公共事業5,401万U.A.(27.3%),運輸4,220万U.A.(21.4%),社会福祉3,509万U.A.(17.8%)となつている。当初農業部門の比重が著しく高かつたが,76年度はこれが大幅に減少し,代つて公共事業への融資が高くなつてきている。また,主たる借入国は,チャド,マリ,ルワンダ,ブルンディ,マラウィ等のLLDC(後発開発途上国)である。
(1) DACは,先進諸国間の共通の援助問題の討議と政策の調整を主要目的として,59年に設立された開発援助グループ(DAG)が,61年OECDの発足と同時に,その機構の一部に取り込まれてDACと改称されたものであり,わが国はDAG時代より原加盟国として参加してきている。
加盟国は,わが国のほか,米,西独,仏等17カ国及びEC委員会である。議長は,米国国際援助庁(U.S.AID)の副長官を勤めたこともあるM・ウィリアムス氏が74年2月より勤めている。
DACの主要な仕事は,毎年1回加盟各国の援助政策及び援助実績の審査を行うこと(下記(2)(イ)参照),右審査等に資する基礎資料として各加盟国の経済協力実績の統計を収集・分析すること(毎年7月にその概要をDAC議長名で発表)等である。また,最近のDACの主な業績としては,72年に加盟国の援助条件に関し,旧勧告を改定して72年(現行)勧告を策定したこと,73年に国際機関への拠出についてアンタイ了解を成立させたこと,更に,74年に開発途上国に対し政府開発援助借款調達の道を開くいわゆる開発途上国(LDC)アンタイイング取極を策定したこと等が特筆される。
(2) 76年のDACの活動のうち,わが国との関係で注目すべき点は次のとおりであつた。
(イ) 対日年次審査
75年の開発援助実績についてのわが国に対する年次審査は9月22日に行われた。審査は75年の日本の援助実績,援助政策に関する1間1答の形式で進められ,審査国はフランス及びオーストラリアであつた。
まず,わが国より75年の援助実績の特徴点を次のとおり紹介した。
(a) 量の面については,75年の政府開発援助は,11億4,770万ドルで前年実績11億2,620万ドルと比べ1.9%の伸びにとどまり,対GNP比は前年の0.25%より0.24%に低下した。また,政府開発援助のほか,民間資金等をも含む資金の流れ総量は,28億9,010万ドルで対GNP比は前年の0.65%より0.59%に低下した。
(b) 質(条件)については,政府開発援助の平均グラント・エレメント(条件緩和の指数-100%に近づくほど条件はソフトになる)は69.9%で前年の61.5%より改善を示した。
(c) わが国の2国間政府開発援助の対象国は従来アジアに集中してきたが,ここ数年低下傾向にあり,75年もこの傾向がみられた。
審査は援助の量,質,地理的配分等につきDAC事務局が用意した質問事項に沿つて詳細な審査が行われた。審査国のいずれからも日本の実績に対し失望の念が表明され,日本の今後の努力に期待するとしつつも,現状は,その実力に相応していないとして改善のための具体的政策の策定が必要であるとの指摘がなされた。
(ロ) 上級会議
第15回上級会議は,10月27,28の両日パリにおいて,加盟各国閣僚等の参加を得て開催された。
主要議題は,「開発協力に対する基本的アプローチ」及び「国際的援助調整」という援助の根幹にかかわる2つの問題であつた。
前者の問題は,援助の基本目標は何か,対象は何か等援助理念にかかわる問題であり,この点について,DAC事務局は,近年世銀,米国,北欧諸国等が強調してきている理念,すなわち貧困層に直接役立つような援助や貧困国に対する援助を重視していこうという考え方を支持するとともに,特に社会開発援助(農業,食糧,医療,教育,住宅等)を増大すること,並びに近年特に低いレベルにある政府開発援助(ODA)の配分を是正する意味でLLDC及び1人当りGNP200ドル以下のMSAC(石油危機で最も影響を受けた諸国)に対するODAの重点配分を提言した。
このような事務局の提言,特に前者の問題の趣旨そのものについては,わが国をはじめ各国とも賛意を表明したが,後者の点については,援助配分は歴史的関係,インフラストラクチャーの整備度等をも勘案すべきであるとの異論も多く,今後の検討課題ということになつた。
「国際的援助調整」の問題については,各国,各国際機関がそれぞれ独自の立場から行つている援助を調整し,全体的効率を高めていくべきであるとの見地から,いかなる方策をとるべきかとの点に議論が集中した。特に多数の諸国はUNDP(国連開発計画)の役割強化,OPEC諸国等の援助国との協力等を強調した。
本センターは,DACと密接に協力しつつ開発問題に関する先進国の知識,経験を集積するとともに,開発途上国における主要開発問題に関する調査,研究を行い,OECD加盟先進国がより効率的な援助政策を採用するための一助となり,もつて開発途上国の開発に協力することを目的としている。この目的達成のため,(1)技術的知識の普及を目的としたフィールド・セミナーの開催,(2)経済開発問題,経済援助問題の調査・研究,(3)各国の経済開発研究機関との連絡に努めている。また,開発途上国への知識,情報の通報・普及もセンターの重要な活動分野である。
本センターは,従来の経済開発及び統計,科学技術及び工業化の分野に加え,近年社会開発及び人口の分野にも重点を置いてきている。
(1) 国際農業研究協議グループは,71年1月にワシントンにおいて,世銀,FAO,UNDPの共催により先進16カ国,3つの地域開発銀行及びロックフェラー,フォード両財団の参加を得て設立が決定された国際農業研究の長期的かつ組織的支援のための国際フォーラムである(事務局はワシントン世銀本部内)。現在国際農業研究協議グループ傘下には「緑の革命」で有名となつた国際稲研究所(IRRI)等12の農業研究機関があり,(イ)国際及び地域的農業研究につき開発途上国のニーズの把握及びそのニーズを充たす方途の検討,(ロ)各国の農業研究と国際的及び地域的な農業研究との情報交換,相互交流,(ハ)国際的・地域的農業研究活動に必要な所要資金等のレビュー及びそれら資金の調達についての検討等の具体的活動目標の下で,これら12の国際農業研究機関に対する資金援助等を行つている。
(2) 現在,本協議グループの加盟国,機関等は合計40に達しており,その内訳は,援助国政府18(米国,英国,西独,わが国等主要先進国及びイラン,サウディ・アラビアの産油国),世銀,アジア開銀等の国際機関9,マレイシア,タイ,ブラジル等の地域代表開発途上国9,ロックフェラー財団等の民間団体4である。本件グループの財政規模は72年に約1,500万ドルであつたものが76年には約6,500万ドルと4倍以上増大している。
(3) わが国は71年の本協議グループ設立の年に加盟しており,毎年資金援助を行つている。76年度には本協議グループ傘下の国際稲研究所(IRRI)に100万ドル及び新たに国際半乾燥熱帯地作物研究所(ICRISAT)に20万ドル,合計120万ドルの拠出を行つた。77年度には,拠出金を250万ドルに増加するのみならず,拠出対象に新たに国際とうもろこし・小麦改良センター(CIMMYT),国際熱帯農業センター(CIAT),西アフリカ稲開発協会(WARDA)の3機関を加えることとしている。