第1節 総 説
1. は じ め に
わが国の経済協力は,政府ベース協力,民間ベース協力ともに,近年その規模を拡大しつつあるが,ここ数年は石油ショック等の影響もあり,主として民間ベース協力の減少,政府開発援助の伸び悩みにより停滞気味となつている。76年実績では,政府開発援助については依然伸び悩んでいるが,民間ベース協力を中心に立ち直りの兆しをみせている。
経済協力の目的は,開発途上諸国の自助努力を支援することにより,その経済,社会の発展と国民の福祉の向上及び民生の安定に寄与せんとするところにある。国際社会の枢要な一員たるわが国が,このような目的に沿つてその国力にふさわしい協力を行うことは,わが国の国際的責務である。
特にエネルギー,食糧,資源等の面で他の先進国に比し海外,とりわけ開発途上地域に対する依存度の高いわが国が,経済の発展と国民生活の安定を確保していくためには,国際社会との調和,特に開発途上国との間の真の友好信頼と互恵の基礎に立つた関係を維持強化していかなければならない。
このように,わが国にとつて経済協力は,国際的責務であると同時に,開発途上国との間の真の友好信頼と互恵の基礎に立つた関係を維持強化するという長期的,総合的国益を推進していくための重要な政策である。
したがつて,わが国としては,現在のような難しい国際環境と国内経済情勢の中にあつても,長期的な視野に立つて,経済協力の拡充とその効果的実施のための努力を一層強化しなければならない。
わが国は従来より,以上のような基本的考え方に立つて経済協力の推進に努めてきている。そのわが国の経済協力実績内容を76年について見れば次のとおりである。
わが国の76年における政府開発援助(Official Development Assistance),すなわち政府資金による贈与ないしソフトな資金の貸付から成る真の意味での援助は,実額でもその対GNP比においても減少を示した。特にODAの対GNP比は,前年の0.23%から0.20%に低下したが,これは64年以来の低い記録であつた。
他方,わが国民間部門の開発途上国に対する協力ぶりをも含む「資金の流れ総量」は,75年の28.9億ドル(支出総額ベース,以下同様)から40.0億ドルへと大幅な増加を示した。これを対GNP比でみると,75年の0.59%から76年には0.72%へと上昇した。このような増加がみられたのは,一方でODAが減少したにもかかわらず,その他の諸項目,特に輸出信用及び直接投資等がそれぞれ対前年比87.3%,52.1%の大幅増加を示したためである。なお,これらの項目は,資金ソースの別によつて,「その他の政府資金」(Other Official Flows)及び「民間資金」(Private Flows)に分類される。前者すなわちOOFは若干の減少を示したが,後者すなわちPFは大幅増加を示し,この結果,両者の合計額は66.3%の大幅増加を示した(第1表及び第1図参照)。
(1) 76年のわが国の政府開発援助(ODA)は11億500万ドルとなり,75年実績の11億4,800万ドルに比し3.7%の減少を示している。また,対GNP比も前年の0.23%から0.20%へと更に低下した。
なお,わが国の実績を先進諸国(DAC加盟17カ国)の実績と比較すれば,実額では75年に引き続き米国,フランス,西独に次いで第4位(第2表参照)であつたが,対GNP比ではDAC平均の0.33%をはるかに下回つており,75年同様第13位にとどまつた。また,DAC17カ国中に占めるODAのわが国のシェアは,前年の8.5%から8.0%に低下した(GNPのシェアは約13%と推計される)。
(2) わが国政府開発援助を項目別に見ると次のとおりである。2国間贈与については,75年の2億200万ドルから1億8,500万ドルと8.3%減少した。2国間贈与を技術協力と無償資金協力に分類すると,技術協力は順調に拡大しており,24.0%増加しているのに対し,無償資金協力は75年に引き続き低下し33.0%減となつている点が注目される。この無償資金協力については,賠償が76年7月に終了したこと及び対韓準賠償が75年12月に終了したことが減少の大きな要因となつているが,今後無償資金協力の拡充努力の必要性が指摘される。
国際機関に対する出資,拠出等は,前年の2億9,700万ドルに比し18.4%の増加を示し,3億5,200万ドルとなつた。この結果,政府開発援助に占める国際機関への出資,拠出等の割合は前年の25.9%から31.9%へと更にその比率を高め,ピアソン報告の目標20%をはるかに凌駕している。このうち,国連関係機関及びその他の国際機関に対する贈与は前年の7,100万ドルから7,800万ドルへと9.9%増加,国際開発協会(IDA)等の国際開発金融機関に対する出資,拠出も2億7,900万ドルと前年の2億3,200万ドルに比し20.5%増加している。
わが国政府開発援助において大きな割合を占めている2国間政府直接借款等は,5億6,800万ドルと前年の6億4,900万ドルに比べ12.4%の減少を示した。このうち,海外経済協力基金の貸付は前年の4億2,400万ドルから4億1,500万ドルに減少し,日本輸出入銀行の貸付も前年の2億600万ドルから1億3,700万ドルに減少している。そのほか国際協力事業団の融資は800万ドルから700万ドルへ減少,海外漁業協力財団の融資は700万ドルから800万ドルへ増加,海外貿易開発協会の融資は130万ドルから90万ドルへ若干の減少を示している。
(3) わが国援助の条件面について見れば,76年にわが国が約束した政府開発援助のグラント・エレメント(注)は74.9%で,前年の70.2%から大幅な改善を示した。
これは贈与コミットメントが22.9%伸び,また借款のコミットメントが27.7%減少したことと相まつて贈与の政府開発援助全体に占める比率が前年の35.4%から48.2%に増大したことに主として起因するものである。なお,借款の平均条件はほぼ前年並みで金利3.41%,償還期間24.2年,うち据置期間7.5年であつた。また,借款の平均グラント・エレメントは前年の49.9%から51.5%と前年とほゞ同水準であつた。
このように,わが国実績は,改善はしたものの国際目標とされている84%には遠く及ばず,DAC17カ国の中では前年同様最下位にとどまつた。
(4) わが国の2国間政府開発援助の地域配分については,従来地理的,歴史的,経済的に密接な関連を有するアジアが重点となつている。ただ,ここ数年アジア地域のシェアが低下する傾向を示していた。しかしながら76年にはこの傾向に若干のブレーキがかかり,アジア地域のシェアは前年の75.1%から77.4%に上昇した。アフリカは13.0%から10.7%に,中近東も3.9%から1.3%にそれぞれシェアを低下させたのに対し,ラテン・アメリカは5.6%から6.6%に増大している。
(5) 政府開発援助を予算ベース(一般会計以外のものを含む)で見れば,52年度は5,417億円と前年の4,508億円に比し20.2%の大幅な伸びを示した。この結果予算ベースでの対GNP比は前年の0.27%より0.28%へと向上した。このうち贈与は2,217億円で前年の1,705億円に比し30.0%の伸びを示した。この贈与の内訳をみると,2国間贈与は前年の645億円から745億円へと15.5%の伸びを示した。この中には食糧増産特別援助の新設(60億円),水産関係援助の大幅な伸び(3倍増の30億円)が含まれている。また,国際機関への出資,拠出等については,前年の1,060億円から1,472億円へと38.9%の大幅な伸びを示している。
技術協力についても,前年の367億円から433億円へと18.1%の伸びを示した。
76年の「その他政府資金の流れ」は13億3,300万ドルとなり,前年の13億7,000万ドルに比し2.7%減少した。このうち輸出信用については前年の3億3,900万ドルから4億7,100万ドルへと38.9%の増加,国際機関に対する融資等についても前年の1,500万ドルから8,600ドルへと5.7倍の増加をみている。しかし,直接投資等については,前年の10億1,600万ドルから7億7,700万ドルへと23.6%の減少を示した。
民間資金の流れについては,前年の3億7,300万ドルから15億6,400万ドルへと約4倍に増加した。
その内訳としては,輸出信用が8,300万ドルから3億1,900万ドルへと約4倍増,直接投資等も2億7,300万ドルから11億8,400万ドルと約4倍の増加を示している。また,国際機関に対する融資等も前年の700万ドルから4,500万ドルと大幅な増加を示している。
最近わが国の経済協力の拡大に伴い,政策面及び実施面の双方において経済協力に関する行政の円滑な推進のための努力が払われている。
わが国の経済協力は,対外関係事務の総括の衝に当たる外務省の実質的な調整のもとに,大蔵省,通産省,経済企画庁等関係各省庁との間で連絡協議を図りつつ進められている。
また,経済協力の実施体制の強化を図る努力の一環として,74年8月に設立された国際協力事業団(JICA)は,わが国の政府ベース技術協力に係る業務を積極的に推進している。
なお,75年7月に設置され,経済協力の効果的な実施を図るための基本問題を協議してきた対外経済協力閣僚協議会は,76年1月に廃止され,今後は必要に応じ機動的に開催し,効果的な運用を図ることとなつた。
また,61年6月に政令に基づき総理大臣の諮問機関として設置された対外経済協力審議会は,引き続き積極的な活動を続けており,76年8月には,「政府開発援助の抜本的改善について」と題する意見書を提出し,(1)政府開発援助の対GNP比率を遅くとも80年までにDAC平均にまで高めるよう目標を立てること,(2)政府開発援助のディスバースの促進に努めること等を内容とする提言を行つた。
第1表 76年中における開発途上国に対する資金の流れについて
ODAの条件の緩和度を示す指標。個別の援助のグラント・エレメントを加重平均して算出する。個別の援助のグラント・エレメントは,金利が低くなり,据置期間及び償還期間が長くなるほどパーセントが高くなり,贈与は100%と定義され,逆に商業条件(金利10%)の借款は0%とされている。 |