第5節 国際投資問題

 

1.わが国の海外投資

 

(1) わが国の海外投資の概況

(イ) 76年度のわが国の海外直接投資は,許可ベースで34億6,200万ドルと,75年度の32億8,000万ドルに比べて5.5%増加し,ピークであつた73年度の34億9,000万ドルへあと一歩と迫つた。その結果76年度末における許可累計額は194億500万ドルとなつた。

(ロ) 76年度の許可実績を業種別に見ると,製造業,鉱業,商業が大宗を占め,それぞれのシェアは29.6%,28.7%,11.7%であつた。製造業は,75年度の9億2,500万ドルに比べて10.8%増加したものの,シェアは74年度の36.7%より7.1%低下した。同部門では,化学,電機がそれぞれ前年度比79%,71%増となつた反面,食糧,木材・パルプ及び輸送機械は減少し,これら3つの業種の合計シェアは75年度の7.6%から,5.3%へと低下した。鉱業は,9億9,500万ドルで前年度比41%増となり,総投資額に占めるシェアは,75年度に比べて大幅に増加し28.7%となつた。商業は,4億600万ドルで前年度比約30%減となり,そのシェアも75年度の20.5%から11.7%へと大幅に減少した。

 地域別にみると,北米及び大洋州を除く地域が増加し,アジア,中近東,アフリカの3地域向けは順調に増加した。開発途上国向け投資は,半分以上を占め,各地域とも順調に増加したため,総投資額に占めるシェアは,75年度の57%から64%へと再び伸びた。アジア向け投資は,件数では減少したものの,金額ベースでは着実に増え,前年度比13%増となつた。主要地域への投資額及び構成比は次のとおりである。アジア12億4,500万ドル(構成比36%),北米7億4,900万ドル(同22%),中南米4億2,000万ドル(同12%)であり,主要投資先国は,インドネシア,アメリカ,ブラジルである。

(ハ) 76年度末の許可累計額を業種別に見ると,製造業60億8,700万ドル(構成比31.4%),鉱業52億2,800万ドル(同26.9%),商業26億2,900万ドル(同13.5%)が主要なものである。地域別に見ると,アジア54億6,400万ドル(構成比28%),北米46億6,600万ドル(同24%),中南米33億100万ドル(同17%),欧州28億5,400万ドル(同15%),中近東12億5,400万ドル(同6%),大洋州10億9,200万ドル(同6%),アフリカ7億7,300万ドル(同4%)となつている。

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(2) 日・エジプト投資保護協定

(イ) わが国の海外民間投資は,72年以来毎年20億ドル以上の増加を記録しており,今後も増加するものと予想されるところ,他方,開発途上国においては外資の流入を制限したり,国有化あるいは民族化の動きがみられる状況において,投資財産保護の必要性は高まり,その保護措置として海外投資保険制度以外に政府間の取極を作り,投資環境を改善することの必要が認識されている。このような状況を背景として,わが国は,まずエジプトとの間で投資保護協定を締結する方針を定め,74年11月,木村外相(当時)のエジプト訪問の際,先方との間で協定締結の話合いを始める旨の合意を得,75年11月以来締結のための交渉を行つた結果,77年1月28日東京において,わが方佐藤外務事務次官(当時)とエジプト側ナーゼル経済・経済協力省次官との間でこの協定の署名が行われた。

(ロ) 投資保護協定は,締約国間における海外投資の相互交流を促進し,民間海外投資財産の保護,補償措置及び海外事業活動並びに紛争解決手続等について規定するものであり,米国,英国,西独等の主要先進国は,すでに多くの開発途上国との間でこの種の協定を締結している。

 わが国とエジプトとの間で署名されたこの協定は,投資の許可について最恵国待遇を相互に保障しているほか,事業活動,出訴権,送金等に関する内国民待遇及び最恵国待遇,収用,国有化された場合及び戦争等により被害を受けた場合の補償措置,投資保証に基づく政府代位,投資紛争解決条約への付託,仲裁委員会等について規定している。また,この協定は,批准書の交換後1カ月で効力を生じ,有効期間は10年間である。

(ハ) 現在のわが国の対エジプト投資はいまだ低水準にあるものの,この協定の締結により,両国間の投資,経済関係は,一層安定した基礎の上に促進されるものと期待される。また,このような包括的な投資保護協定を締結することは,わが国にとつて最初のケースであり,今後同種の協定を締結する際の良き先例となるものと思われる。

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2. OECD多国籍企業ガイドライン

 

(1) 検討の経緯

 OECDにおいては多国籍企業問題に関し,72年8月のいわゆる「レイ・レポート」を端緒として,既存の各種専門委員会がそれぞれの立場から検討を進めてきたが,75年1月,この問題を一括して検討するため「国際投資及び多国籍企業委員会(IME)」が設立された。

 同委員会は多国籍企業の行動指針を作成すべく累次討議を重ねてきたが,76年6月,第15回OECD閣僚理事会においてトルコを除くOECD加盟国は「国際投資及び多国籍企業に関する宣言」(付属書として多国籍企業の行動指針が付されている)及びこれに関する理事会決定を全会一致で採択した。

 同「宣言」は,多国籍企業に対し,付属書に定める行動指針の遵守を勧告するほか,外資系企業に対し法令等の下で国内企業よりも不利でない待遇が与えられるべきこと(内国民待遇),各国が国際直接投資の促進要因又は抑制要因となる公的措置をとる際に,それにより影響を受ける他国の利益を十分考慮すべきこと(国際投資の促進要因及び抑制要因)をあわせ主要な内容としているが,さらにこれらの問題に関連する政府間協議の開催及び一定期間後の再検討についても言及している。

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(2) 「多国籍企業の行動指針」の概要

 「行動指針」はまず序文で本行動指針採択に対するOECD加盟国政府の基本的態度を明らかにした後,本文として一般方針,情報公開,競争,財務,課税,雇用及び労使関係,科学及び技術の諸節を設け,多国籍企業の行動指針を具体的に示すという構造になつている。

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(イ) 序  文

 序文ではまず,多国籍企業が国際経済において重要な役割を果していることを評価しつつ,他方その複雑性,不透明性,国家の枠組を越えた活動等が懸念を生じさせる点を指摘し,本行動指針の目的は多国籍企業の有用性を増進せしめながら各種の困難ないし懸念を最小限にすることである旨述べている。

 また,この分野における国際協力はすべての国家に及ぶべきであるとし,更に非加盟国,特に開発途上国との協力はすべての国民の福祉及び生活水準を向上させるという観点から行われるべきであるとしている。

 本行動指針の法的性格に関しては,この指針は加盟国の領域内で事業活動を行つている多国籍企業に対して加盟国が共同して行う勧告であり,法的に強制し得るものでない旨明示されている。なお本行動指針は多国籍企業の定義をおくことはせずに,適用上の目安として,多国籍企業は複数の国で設立された会社又は構成体から成り立つた企業(国有のものも含む)であつて,しかもその会社又は構成体のいずれかが他の構成体の活動に対して重要な影響力を及ぼし,知識や資源を共有しあう程に結びついているものとしている。

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(ロ) 一 般 方 針

 本節では企業が受入れ国の政策や社会との調和を図つていくべきことが詳述されているが,特に賄賂,法律上認められない政治献金,現地の政治活動に対する不正な関与を差し控えるべきである点にも言及されている。

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(ハ) 情 報 公 開

 企業機密維持の要請等を考慮しつつ,企業全体に関する財務諸表等公衆の理解に資する情報を公開すべき旨定めている。

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(ニ) 競  争

 企業は受入れ国の競争法規及び政策に従うべき旨記し,反競争的企業取得その他差し控えるべき具体的な方法を例示している。

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(ホ) 財  務

 財務等の管理において,受入れ国の国際収支政策及び信用政策に関する目標を十分考慮すべき旨定めている。

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(ヘ) 課  税

 税務当局の要請に応じ,必要な情報を提供するとともに,移転価格による課税標準の操作等の手段を利用することを自制する旨の指針が設けられている。

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(ト) 雇用及び労使関係

 団結権の尊重,現地労働力の活用及び差別の自粛,重大な業務活動変更の予告,労使交渉中事業単位を移転するとの威嚇を行わないこと,権限ある経営者側の代表との交渉を可能にすること等,具体的な指針を設け,労使関係の円滑化を図つている。

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(チ) 科学及び技術

 受入れ国の科学技術政策への適合,開発への貢献,技術の普及等の指針を設けている。

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(3) 採択後の活動

 OECD・IME委員会は行動指針採択後,多国籍企業の活動から生ずる諸問題に関する協議(BIAC,TUACとの意見交換も含む)を通じ加盟国間の協力を一層促進することを主たる任務としているが,他方国連においては現在多国籍企業のコード・オブ・コンタクトが検討されており,OECDは同コードに関する先進諸国の意見調整の場としての役割をも期待されている。

 なお行動指針に関する政府間協議については,同指針の今後の履行状況等を踏まえ,論議が展開されていくとみられる。

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