第4節 国際連合の諸活動に対する協力

 

1. 今日の国際連合

 

 国際連合は,147の加盟国を擁する最も普遍的な国際機構であり,その主要目的は,国際の平和と安全の維持,諸国民の福祉向上及びそのための国際協力の促進である。51の原加盟国で発足した国連は,多くの非自治地域の独立を促し,それら新興独立国の相次ぐ加盟により今日の一大国際機構に発展したが,同時に国連は,その過程を通じて,発足当初意図されたものとは異なるかたちで発展してきている。このことは,例えば,憲章で予定された5大国中心の強制的紛争解決機能が一度も発動されず,むしろ紛争の再発・拡大防止を目指すいわゆる「平和維持活動」が発達を見たことや,経済・社会分野においては南北問題の占める比重が圧倒的なものとなり,国連の果すべき役割も飛躍的に高まつたこと等にみられる。これは,国連が世界の政治,経済,社会の現実を端的に反映し,発展し,そして行動しうる生きた機関であるということにほかならない。

 今日の国連は,その関連諸機関とともに国連システムと称される有機体を形成している。この国連システムは,その構成国数の飛躍的増加と諸国間の相互依存関係の深化,扱う問題の複雑多様化等により,平和と安全の維持,軍縮,貿易,援助,社会・人権,労働,婦人の地位向上,人口,文化,教育,環境,科学・技術,原子力,新海洋秩序の模索,運輸・通信その他各種行財政面における協力等広範な分野で国際協力のための極めて有益な枠組を提供するに至つている。

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2. わが国と国際連合

 

(1) わが国の基本的態度

 平和主義と国際協調主義を国是とするわが国は,1956年の加盟以来一貫して国連の目的と活動に積極的支持を与えてきている。他方,わが国に対し,国連内においても国力に見合つたより大きな貢献を要望する声が高まつてきている。かかる要望を十分認識しつつ,前述の諸分野における国際協力の推進を目的とする国連の諸活動に積極的に参加・協力することは,わが外交の基本政策の1つである。

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(2) 国連外交の意義と役割

 わが国は,国連のもつ次のような重要な特性を認識しつつ,国連外交を推進している。

 第1は,多数国間外交において国連が占める重要性である。諸国間の相互依存関係の深化に伴い,例えば南北問題のように各国の協力なしには実効的解決が期待できない諸問題が増加する傾向にある今日,普遍的国際機構たる国連は,そのための重要な場と枠組を提供している。

 第2は,今日の国際社会において諸国との友好関係を増進し,わが国の安全と発展を確保するためには,伝統的な2国間外交とともに,これを強化・補完する意味で国連を通じての積極的な多数国間外交の展開が重要である。

 第3には,国連は,今後の国際情勢の動向を示す先行指標的役割を果している。国連での審議が,後年に至り具体的な一般特恵供与や新海洋法秩序の模索に繋がつてきたのはその好例である。したがつて,かかる動向を的確に捉え,可能な限りわが国に有利に誘導する場を提供している意味でも,国連の役割は大きい。

 第4には,情報収集の場として,また自国の立場を表明し,広く国際世論の理解を求める場としての国連の重要性が挙げられよう。

 第5は,首脳外交展開の場としての国連の重要性である。特に総会冒頭の一般討論演説の時期には,各国の外交最高責任者が一堂に会する結果,ハイ・レベルの接触の機会も多く,諸国間の意見交換,理解促進に貴重な場を提供している。

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3. 1976年におけるわが国の国連活動

 

 わが国の国連外交は,わが国の国連加盟20周年に当つた76年においても活発に展開された。その主要なものは,次のとおりである。

(1)

 わが国は,安全保障理事会,経済社会理事会,貿易開発理事会,開発計画理事会,工業開発理事会,環境計画管理理事会,世界食糧理事会等の理事国として建設的な貢献を行つた。わが国が参画した主要理事会及び委員会は,総数35のうち26にのぼり,わが国は,国連で最も活発に活動している加盟国の1つである。

(2)

 わが国は,安全保障理事会の非常任理事国(任期75~76年)を務めた。関係国が対話と協調の精神に基づき問題の実効的かつ相互に受諾可能な解決のために真撃な努力を払うべしとの基本的態度をもつて臨んだわが国の努力は,関係諸国により高く評価された。

(3)

 わが国は,5月24日,核兵器不拡散条約の批准につき国会の承認を得,6月8日同条約の締約国となり,核軍縮促進に訴えるためのより強固な立場を固めた。

(4)

 わが国は,第31回総会で通常兵器移転の問題を取り上げ,加盟国の関心を喚起した。

(5)

 わが国は,「憲章及び国連の役割強化特別委員会」,及び国連の経済社会分野における機構改革問題を扱う「機構改革委員会」に参画し,国連機能強化の観点より各々の作業に積極的に参加した。

(6)

 わが国は,第4回国連貿易開発会議では,「対話と協調」の精神に基づき,全ての国に受諾可能な決議が採択されるよう尽力した。特に,開発途上国が最大の関心を寄せた共通基金を中核とする一次産品総合計画決議採択に際し,わが国は,何らの留保も付さなかつた。

(7)

 わが国は,「国達人間居住会議」では,土地問題の分野での豊富な知識と経験を活かし,重要な役割を演じた。

(8)

 国連通常予算は,総会で決定される分担率による加盟各国分担金で賄われるが,第31回総会は,この分担率改訂の時期に当つた。米・ソに次ぐ第3位の負担国であるわが国の分担率は,今回の改訂により従来の7.15%から77年には8.66%へと大幅に増加した。わが国は,この新分担率決定の審議過程で,分担率決定の基準再検討と安保理常任理事国は分担金でもその地位にふさわしい責任を担うべきであると主張し,諸国の注目を集めた。

(9)

 わが国は,国際金融,援助,食糧,農業,教育・文化,労働,保健・衛生,運輸・通信等の分野で活動を行つている14の国連専門機関の諸活動にも積極的に参加した。

(10)

 第3次国連海洋法会議の第4会期及び第5会期で,わが国は,安定しかつ,衡平な新海洋法秩序の確立を目指して,審議に参加した。

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