4. その他の重要外交文書等

 

(1)  キッシンジャー国務長官のジャパン・ソサエティ年次晩餐会における演説(仮訳)

 

                 (1975年6月18日 ニューヨークにおいて)

 

 米国と日本との関係は強力かつ緊密であり,希望に満ちたものである。今夜私は,この関係が米国,アジアそして世界に対して持つ重要性について述べたい。

 今夜の会合は歓迎すべき機会である。米国のインドシナ介入が悲劇的な終結をみたことにより,アジアの人々及び米国民の間で米国の外交政策の将来について疑問が提起されている。他方逆説的であるが,これらの出来事は強力でかつ目的意識に満ちた米国というものが,世界の平和と進歩のためいかに必要不可欠であるかを米国民のみならず,アジアの人々の間でも強く認識させることにもなった。

 米国と日本が共に将来を形成していこうとするにあたり,今日の世界は,かつて日米関係が築き上げられてきた時代とは大きく異なっている。1950年代及び60年代の二極構造は消滅し,欧州と日本の再登場,共産主義諸国間の相剋,軍事技術の向上及びいわゆる第三世界の出現とその多様化傾向は新しい国際環境一多くの力の極が存在し,新旧様々なイデオロギーの相違があり,核戦争の危険をはらみ,かつ,相互依存の至上命題がもたらす新しい問題をかかえた世界一を作り出した。

 米国は,優越ではなく均衡を,対決ではなく交渉を,そして諸国の国家目標の究極的達成の基礎としての世界的相互依存関係の意識を基として新しい国際構造の形成を目指してきている。

 このジャパン・ソサエティの会員の方々がかねてより御承知のとおり,日米関係はこの構図にとって極めて重要であり,国際社会の安定と進歩と繁栄の中枢となり,かつ,米国のアジア政策の基礎をなすものである。

 日米の相互協力及び安全保障条約は,アジアの平和について両国が共通の利益を有するとの永続的意識を反映するものである。

 日米の紐帯は,所与の条件や種々の提携関係の幾多の変化を通じ,両国にとって,また世界の安定にとって継続的かつ不可欠な効果を持つものであることを実証してきた。

 米国と日本は相互補完的経済を有する海洋貿易国家として,あわせて非共産工業国の総生産の52%,総貿易高の26%を占め,世界で最も活力に満ちた経済を誇り,経済超大国としての両国それぞれの政策は相互に,また世界全体に対して大きな影響力を持っている。

 ……中米両国は,共に自由社会の政治的価値観を永続的に守り続けるとの決意を有しており,また,人類同胞の福祉についても常に変らぬ思いを共に抱いている。

 過去30年間に日本が世界の舞台における主要な要素へと発展してきた事実は,その間に日米の利益の共通する分野が拡大するとともに,両国の関係のスタイルに変化が生じることを余儀なくした。71年の米国の経済政策の調整と中国に対する新政策は,両国間に一時的ではあるがにがい誤解をもたらしたが,率直にいって,これはわれわれ米国の戦術にもよるものであった。われわれはこうした経験から学んだ。このような緊張した事態は過去のものであり,経済政策,中国政策等の分野でわれわれは調和のとれた政策を遂行してきている。われわれはあらゆる主要問題について緊密,頻繁,かつ率直に協議を行っている。私は日米関係が過去30年間に今ほど良かったことはないと喜びをもって述べたい。

 このことにかんがみても,フォード大統領が国家元首として最初に行った旅行が昨年11月の日本訪問だったことはまことに時宜を得た象徴的なことであった。われわれは天皇陛下の御訪米を心待ちにしている。陛下御訪米は日米関係に一層の威厳と強さを与えるものと思う。また天皇御訪米の前に,三木総理大臣が両国の直面する外交政策及び経済上の問題につき協議するためワシントンを訪れることになっている。

 こうした一連の協議に言及するにつけても,偉大な日本の指導者,日米友好関係のチャンピオン,世界の最も偉大な政治家の1人であった佐藤栄作氏の御逝去を悼まずにはいられない。

 私は過去5回の訪日の際にはいつも,同氏が総理の座を離れられた後も,同氏の助言を求めた。私は同氏を同際として,また,個人的友人として知る光栄を持った。私は同氏がなくなられたことを非常にさびしく思う。

 日米のパートナーシップの基礎

 百余年にわたる日米の交流のなかで日米関係は好奇心から競争,対決,占領,和解を経て,同盟と相互依存の関係へと信じられない程の変遷をとげてきた。われわれはこの長い間,複雑かつ多様な出来事を経験したが,これらの経験を通じてわれわれは,両国の緊密な関係が今迄よりも一層枢要なものであり,両国の国民性や置かれている状況の劇的な相違は克服すべき弱味というよりも,むしろ,心して利用すべき力となっていることを学んできた。

 米国民は種々異質な民族から成るばらばらの国民であり,常に国民相互間の共通点を再発見するべく努力をしているが,日本は世界に稀なほどの同質的な民族から成り,団結力の強い国である。米国民にとって,社会の平和を第1次的に保障するものは契約と法律であるが,日本人は社会の調和を保つにあたって法律的,形式的規範よりも人間関係の質ならびにコンセンサス及び義務についての暗黙のパターンに依存している。

 米国民の言語は,その論ずる対象の範疇を明かにし,論理的区別と価値判断を伴うものである。永年にわたり生活と経験を共にしてきた日本人は直感と間接話法により意思を疎通させることが多く,時には言葉を必要としない場合もある。また日本人は内容のみならず形式や気分を重んじるが,われわれ米国人は何よりも内容を重視し,格好(スタイル)に重きを置くことについてはしばしばいらだちを覚える。

 米国は広大な国土と豊富な資源を有し,豊かさを当然視している。日本は偉大な工業国であるが,その繁栄は米国に比べて最近になってから達成したものであり,また,その産業は食糧,エネルギー及び原材料の輸入ならびに海外市場に依存しているので,米国に比べより脆弱である。

 日米両国は,日本の対米依存の時期に政治的同盟と安全保障関係を形成した。戦争が日本の経済と政治体制を破壊した後の困難な時期に,日本は指導者としての米国の地位を受け入れ,その後しばしの時の経過を経てから徐々に,自主的外交と周辺の世界における積極的な政治的かかわり合いを求めはじめたのであった。日本が主要経済大国として,また,国際的勢力として出現してきたことは,近年,日米関係の実質的変化をもたらした。

 外交面では,米国は世界的安全保障の責任を果たしてきたが,日本は,世界の大国のなかではただひとり,強大な軍事力保有ないし自己主張の強い外交を否定し,経済,通商の発展に力を注いできた。

 異なる文化の間のコミュニケーションは常に困難なものであるが,日米両国は両国の相違を次第に敏感に受けとめ,時にはこれに魅了されるにまで至っている。両国は遠く離れた2つの大陸に位置する2つの異なる文化の間でいかに緊密,かつ,永続きする関係を樹立し得るかを見事に例証しているのである。

 沖縄返還は日米二国間の課題の中から戦争の最後の痕跡をとり除いた。しばしば両国関係の刺激要因のひとつであった貿易収支不均衡の解消についても重要な進展がみられた。日本の懸念にこたえて,米国は重要物資の供給者及び購売者としての具体的な公約を再確認してきた。

 安全保障上の必要により形成された日米の関係は,他の今日の課題一共産主義諸国との関係改善,先進工業民主主義諸国の繁栄の向上,すべての国々の間の協力の新時代の建設等--についても成果を上げてきている。

 日米両国の当面最大の共通の関心は,いうまでもなく,アジアに向けられている。

米国とアジア

 すべての大国の安全保障上の利害関係はアジア,なかでも北東アジアで交錯している。中国は大陸の心臓部を占め,ソ連の極東部分はアジアの最上端に広がり,日本列島はアジア本土沖の海洋に2,000マイルにわたり横たわっている。米国の太平洋におけるプレゼンスは同地域全域にわたるものである。西欧はアジアと重要な経済的つながりを持ち,同地域の均衡がゆらぐ場合にはその影響を間接的に感じる立場にある。

 世界の人口と資源に占めるアジアの割合は極めて大きい。過去20年間に世界の他のどの地域よりも急速な経済成長をとげたアジア,太平洋地域は,米国の対外通商の最大,かつ最も急速な発展を示す市場となっており,アジアの原材料を入手することについての米国の利害は,アジアが米国の市場と技術について有する利害と同様に死活的に重要なものである。

 さらに,アジアと米国の紐帯は,深遠な哲学的かつ人間的側面をも持つものである。米国及び西欧世界の影響は過去100年におけるアジアの変革にとり大きな刺激となった。ニューイングランドの先験論者の時代から近年に至るまでアジアの文化と理念は米国の知識層の生活に重要な影響を与えたが,このことは人類の抱く願望が如何に普遍的なものであるかを示すものであった。

 以上にかんがみて,平和と進歩及び生活の向上という現代世界の課題を解決する上でアジアの役割は潜在的に決定的重要性を持つ。であるが故に,最近の出来事にもかかわらず,米国がアジアに背を向けることも,またアジアを犠牲にして欧州に関心を集中することもあり得ない。米欧関係も日米関係も世界の平和と安全にとって等しく緊要であり,そのどちらも世界の平和と安定にとって不可欠の重要性を持つものである。現代の世界において,アジアと欧州の地域の抱える問題及び機会は他方の地域の抱える問題及び機会と重複し,両者は不可分である。

 コミットメントを守ろうとの米国の決意は,双方に対して同様に強固なものである。

 他方,米国のアジア政策を日本にのみ限定しようとする場合には,必ずや日米関係の支柱自体を損なうことになろう。日本をアジアに結びつける諸利害は,アジアを米国及び他の西側諸国に結びつける諸利害に劣らず緊要なものである。日米両国間の政治・安全保障関係の価値は,アジアの安全の広い均衡にそれがどれだけ寄与するか否かによって決まるものであり,これは米国にとってのみならず日本にとっても決定的な意味をもっている。

 米国の外交政策の基本的な原則は次のようなものであり,これはアジアにおいても反映され,かつ,必要とされている。

 -第1に平和は安定した世界的な均衡に依存しているという点である。

 効果的な外交政策は安全保障の問題を越えて発展するものでなければならないが,他方,安全保障なくして効果的な外交政策はありえない。ある国家が他国のいうがままにならないと国家としての存立を脅やかされるような世界は,従属と不安定かつ専制主義の世界である。であるが故に,米国は,力の優越性や脅迫によってその意思をアジアに押し付けようとのいかなる国家あるいは国家集団による試みにも引続き反対する。

 われわれはインドシナの悲劇から重要な教訓を学んだ。最も重要な教訓は外部からの努力は補完的なものにすぎず,その国自体による抵抗の努力と意志を生みだすことはできないという点である。しかしこれらの教訓を適用するにあたっては,アジアの安定ひいては世界の平和を損なわないように留意しなければならない。

 われわれは,米国の条約上のコミットメントの確固たることについていかなる疑問が投げかけられることも許さない。われわれの支援を求める同盟諸国には常に支援の手を差しのべる。他方,もしわれわれの提携国のうちにコミットメントの修正を求める者があるならば,われわれはその要望に沿う用意がある。

 米国のコミットメントの遂行にあたって,われわれは,同盟諸国が自衛力,特に人的面での兵力を維持するため第1次的責任を果たすことを期待する。また,民衆の意志と社会正義が国内の破壊活動と外的侵略に抵抗するにあたっての不可欠の支柱であることはいうまでもないが,既に米国の支援と援助を約束した所に対しては,これをさしのべる。

 具体的には,われわれは朝鮮半島の平和と安全を維持する決意である。なぜならば朝鮮半島は日本ならびにアジア全体にとって決定的重要性を持っているからである。われわれは韓国がその経済と防衛力を強化するのを援助するであろう。しかし,われわれは緊張と対決を緩和するためのあらゆる名誉ある方法をも探究するであろう。

 われわれはANZUSのパートナーであるオーストラリアおよびニュー・ジーランドとの関係,ならびにフィリピンとの歴史的な関係に最大の価値を置いている。われわれは,アジア及び太平洋の全域を通じて条約上の義務を維持し続ける。またわれわれは,ASEAN諸国(マレイシア,インドネシア,シンガポール,フィリピン及びタイ)が同地域における自立,安定及び進歩を推進する力としてその影響力を増大させていることを歓迎する。

 米国外交政策の第2の基本原則は,平和は究極的に諸国間の和解に依存しているという点である。

 友邦も,中立国も,反対陣営も,われわれはすべて滅亡の危険をはらむ小さなこの地球に生きている。諸国間の分裂と緊張を激化するのでなく緩和することが常にわれわれの諸同盟関係の究極の目的となってきている。われわれは上海コミュニケの精神に沿って中華人民共和国との関係を正常化するため引き続き努力する。同様に,われわれはソ連との関係を秩序立てるとともに改善し,また軍備管理,特に戦略兵器の管理面でさらに前進するための努力を継続する。

 われわれは幻想は抱いておらず,われわれの価値観と社会制度は共産圏諸国のそれと相容れるものでないことを認識している。しかし,人類の生存自体が問題となっている熱核時代においては,緊張緩和以外にまともな選択の道はない。仮にこのような努力が失敗に帰したとしても,少なくともわが国民達は,われわれにとって圧力と脅迫を拒む以外に選択の道はなかったことを知るであろう。力と安全保障がなくして妥協はあり得ないが,われわれがもし妥協の精神を伴わない力は大破壊を招来し得ることを忘れるとしたら,それは向う見ずなことであろう。

 過去数カ月の間にアジアにおいて新しい政権が登場した。われわれは,これらの政権が国際協定を侮辱し,国際的に受諾されて,行動規範を厚かましくも侵犯した事実を黙認することはできない。他方,われわれは将来に対処する準備もできている。これらの政権に対するわれわれの態度は,彼等の近隣諸国に対する行動と米国に対する態度いかんに影響されるであろう。

 最後に,平和はすべての国民の願望を反映する諸国間の経済協力の体制に依存しているという点である。世界経済の諸問題--十分な食糧,エネルギー,原材料を消費者と市場に供給し,生産者には安定した所得を確保すること--は,先進国と発展途上国,消費国と生産国の利害を包摂する全世界的な諸経済措置を必要としている。われわれは,このためにまず必要なのは先進工業国間の緊密な協力関係であるとの立場を一貫してとってきている。他方,団結と相互扶助の基礎に立って開発途上国との間でも同情と現実主義と協力の精神の下に対話が行われることを歓迎する。

 以上の3原則は,世界およびアジアにおける米国の行動を規定する原則である。

 その中で日本の役割と日米関係は決定的に重要である。

米国と日本

 平和と安全の挑戦

 日本の世界平和への貢献はユニークなものである。日本はその卓越した工業力にもかかわらず,大国としての地位に伴う軍事的属性を持つことを放棄し,通常兵器による控え目な自衛力しか持たず,安全保障については米国の支持と諸外国の善意に頼ってきた。

 この枠組みの中で日本は繁栄してきた。日本の安全は確保され,その民主的諸制度は栄え,経済は比類なき発展を遂げた。この経済発展はこの時期の大部分を通じて日本が妥当な価格で輸入原材料,食糧を確保できたことにも一因があった。日本は近隣諸国との建設的な経済,政治関係を発展させることができ,それによってこの地域の安定と成長に寄与してきた。

 近年の事態は,こうした比較的単純な世界を変えてしまった。大国間の相互関係は50年代や60年代の初めよりもはるかに複雑化した。1973年の石油危機により日本はその経済的脆弱性に直面することとなった。今日原材料供給国は既存の世界貿易,通貨機構の枠内では容易に包摂しえないさまざまな新しい要求を提起している。

 こうした状況下にあって,日米両国は旧来の前提を再考し,新しい創造的なアプローチを生み出す必要に迫られている。また,これらの諸問題は,その性格上,日米両国がばらばらにではなく,相協力して対応することを必要としている。日米両国は自国の安全保障を国際的な和解と,また自国の発展を国際的な協力とそれぞれ関連づけるべきである。

和解の挑戦

 日米両国は世界を勢力均衡をこえてさらに和解へと前進させる努力を行っている。米国はソ連及び中華人民共和国との関係を正常化し,改善することを試み,日本も同様の努力を行ってきた。また日本政府は,アジアにおける対決を緩和することを目指す外交--自ら「平和外交」と呼んでいる--を追求してきた。

 日本は1956年にソ連との関係を正常化し,最近では同国との経済関係を強化している。日本は数十年間にわたり中華人民共和国の貿易相手であったが,1972年ぐこは,北京を全面的に承認し,以来,中国との二国間関係を広げてきており,われわれはこうした事態の発展を歓迎してきている。

 われわれは,従来より複雑化した大国間の相互関係に対処するにあたり,われわれの諸々の国際関係においていかにして優先度を維持するかという共通の問題に直面している。私はここで米国政府が既に多くの機会に明らかにしている立場を再び明言したい。それはすなわち,米国は同盟国と敵対国とは明確に区別するということである。「等距離外交」は神話である。われわれにとって,日本はかりそめの話し相手ではなく,永遠の友人であり進歩する世界を築く上でのパートナーである。

 もちろん,われわれは対中国,対ソ連,あるいはアジアのすべての問題について,両国が全く同一の政策をとることを期待するものではない。しかし,両国は,互いに両立しうるアプローチを維持すべく努力すべきである。日米の二国間関係においては,通常の二国間関係においてよりも相互の関心度が高いものであることを認識し,お互いに相手の利害にかかわりあいのある国内政策及び対外政策について,協議し,通報し,さらには調和を図るという一層大きな義務を受け入れるべきである。

 われわれは,両国がこうしたアプローチについて意見を同じくするものであると信じる。かかるアプローチを実行すべく,われわれはこれまでより緊密な協議のための道をつくり,ますます頻繁,かつ,率直な協議を行ってきつつある。

 米国は,半年毎にワシントンと東京で交互に日米両国外務大臣レベルの政策検討を行い,現状を評価するとともに将来の方向づけを行うことを提案する所存である。

経済協力の挑戦

 日本と米国が過去30年間に達成した繁栄は戦後世界の偉大な成功の一つである。その結果両国が保有するに至った経済力は,世界経済の健康ならびに世界経済が人類の願望を充足する能力について両国に特別の責任を課しているが,今出よかかる責任は厳しい挑戦に直面している。すなわち,大きな景気後退,エネルギー危機,全世界的な食糧不足,未曽有のインフレーション並びに経済問題を政治化する傾向等がそれであり,今や世界経済は重大な緊張下にある。

 われわれは経済面で3つの主要な目標を持っている。それは自分達自身の経済の安定成長を促進すること,先進工業諸国間の協力を強化すること,及び発展途上国の願望に応えることである。われわれのめざすものはすべて--国内的安寧にしろ,安全保障にしろ,団結にしろ,共産主義世界及び発展途上国との関係にしろ--経済的力と成長を要求するものである。これらの目標のうち経済が停滞したままで実現されるものはほとんどない。われわれの諸制度の安定をはかり,われわれの社会につき自信を抱くためには持続的で,インフレを伴わない経済成長の可及的すみやかな回復の利益を得ることが必要なのである。

 今日の世界経済においていかなる国も1国だけの努力で持続的成長を達成することはできない。相互依存の世界において過去30年の経験は,先進工業諸国はともに繁栄するか,あるいはともに苦しむものであることを示している。成長,エネルギー,食糧,原材料等如何なる分野における経済的目標を達成するにあたっても,また,われわれの政治的及び安全保障上の団結を支える安寧の条件を維持するにあたっても,相互の努力を調整していくことが緊要なのである。

 昨年来米国とその主要なパートナーが,景気後退と戦い,景気拡大を促進するために,各々の国家政策の調和をはかりはじめたことはわれわれを勇気づけるものである。これは昨年11月東京でのフォード大統領と日本側の話合いの中心的議題でもあった。これらの協議は系統立ったものとして継続されるべきであり,特に,世界的経済成長を達成するに必要な条件についての共通の分析を対象とすべきである。

 われわれが戦後築き上げた経済秩序につぎ,言い訳がましい態度をとるべき理由はない。この秩序は,先進工業世界のみならず広く世界の他の地域に進歩をもたらした。実は,この秩序が政治的発展と経済力の分散に寄与した結果として,今や,この秩序自体に問題が投げかけられるに至ったといえるのである。しかしながら,いかなる経済関係であっても,その利益が広く享有され,公正なものとして認識されるのでなければ成果を上げることはできないということを認識することは重要である。

 世界的な経済取り決めが人類の大多数の願望を包摂するものであることは先進工業諸国自体の利益となることである。現実は,われわれを世界に広がる単一社会の構成員としており,もし世界の秩序が経済対立で破壊されるようなことがあれば,われわれは,世界社会の内戦という恐ろしい可能性に直面することとなろう。

 この問題を鋭く認識している日本政府は,OECDに対し,発展途上国の進歩をもたらすべく先進社会の進歩を追求していくにはいかにすべきかについて,先進工業民主主義諸国が長期的共同検討作業を行うべきであるとの想像力に富んだ提案を行っている。われわれは大きな重要性を持つこの問題についての,日本政府のイニシアティヴを歓迎し,支持するとともに,研究の進展に応じ日本政府と緊密に作業を行っていく。

 次に多くの重大な経済諸問題をまず日米関係の観点から,次にその世界秩序への影響の観点から簡単に論じよう。

 日米両国は貿易面に特別の関心と責任を持っている。三国間の貿易問題の大半を解決した両国は,今や,一世代にわたり世界の繁栄をもたらした世界的な貿易制度を改善すべく両国が共同して何を行い得るかに注意を向けなければならない。現在行われている多国間通商交渉は,通商への依存度が特に高い日本にとってその結果が特別の意味を持つこともあり,いみじくも東京ラウンドと呼ばれている。この交渉に臨むわれわれの目的は関税の低減,非関税障壁の除去,安定した市場と供給先の確保,制限的通商措置の放棄等の諸点に関して合意に達することでなければならない。両国はまた,貿易の機会を改善したいとの発展途上国の要望にも特別の注意を払わなければならない。これらすべての問題につきわれわれは日本との緊密な協議に基づいて対処していくであろう。

 世界的相互依存の構造においてその中心をなすものはエネルギーである。先進工業国には,産油国の恣意的価格引上げと政治的圧力に対する脆弱性が増大するのを容認するか,消費を節約し,代替供給源を開発するか,の2つの選択しか残されていない。しかし,個

個の国が1国のみで努力してもその効果が期待できないことはほとんど必至である。一方的依存を減少させるためには主要消費諸国がその力を合わせることが必要であり,であるが故に,日米両国は他の先進工業国と共にIEAを通じてエネルギー市場を変革するための共通の計画に参加しているのである。われわれは力を合わせて新たな石油禁輸に対する予防,金融面での団結維持,エネルギー保存,新しいエネルギー源の開発につき努力している。日本のエネルギーの輸入依存度が高いことは,日本が節約によってのみではそのエネルギー面での脆弱性から脱却できないことを意味し,従って,日本は新エネルギー源の研究開発に主要な利害を有している。

 今後10年間核エネルギーの重要性は一層増大するであろう。米国はウラン濃縮技術の開発では先駆者であり,日本はその最大の市場となっている。日本の核エネルギー利用度及び核エネルギーへの依存度が増大するにつれ,信頼しうる燃料供給者としての米国の義務も増大する。従って米国は,適当なセーフガードを付した核燃料の供給を長期契約の下に行い続けることを約束する。米国は,国内及び外国の需要を満たすために十分な供給を確保すべく近く濃縮能力を拡大する。

 長期的には,より新奇なエネルギー源を重視していく必要がある。日米両国は,これら新エネルギー源の開発に資本と技術と最新のテクノロジーを集中し得るユニークな立場にある。われわれは日本と協力して大規模なエネルギーの研究開発努力を始める用意がある。これに日本の資本が参加することを歓迎するものであり,その代償として,日本はわれわれの在来及び合成燃料の生産増加分のうち資本参加度に相応した部分の供給を受けることになろう。

 しかしながらエネルギーは単に技術的な問題にとどまらず,われわれの発展途上国との政治関係の核心に触れる問題である。日本は,対決ではなく協力を進めるべきであると主張してきており,米国も考えを同じくする。日米両国は他のIEA加盟国とともに,エネルギー生産国との対話を再開し,相互に利益となる解決策を求める用意がある。

 日米両国とも,原材料生産国がエネルギー問題を越えた対話を望んでいることを認識している。われわれは,IEAの他の加盟国とともに,原材料生産国のこれらの関心についても話し合う用意のあることを表明している。日米及び他の原材料輸入諸国は安定的な供給に関心を有している。生産国はその発展計画のため,収入が長期的に安定することを必要としている。従って,急激な価格変動をいかに緩和させて,新規供給の発展のために時宜に合った投資を奨励するとともに,生産国の開発計画を現実化することを図るかを話し合うことは生産国,消費国の双方にとって利益となる。日米両国は生産国,消費国双方の利益となる健全な商品貿易を促進することに政治的利害を有するのである。

 経済問題においては食糧ほど重大なものはない。食糧問題は,二国間の問題と世界的問題がいかに結びついているか,また,われわれの同盟国との関係と開発途上国との関係がいかに結びついているかの劇的な例である。

 日本は米国の農産物輸出の最大の市場であり,米国は日本に対する食糧の主要供給国である。世界が食糧供給国としての米国に依存していることは,米国に信頼に足る供給者たるべき義務を課している。従って,米国は,市場が逼迫している時において日本のような旧来の顧客の需要を考慮に入れることを約束する。われわれは73年に日本その他の諸国への大豆の輸出を突如制限することを余儀なくされた不幸な経験を繰り返さぬよう努力する。

 より広範な観点に立つと,米国と日本はそれぞれ世界最大の農産物生産国ないし消費国の一員として特別の責任を負っている。両国とも発展途上国における食糧生産の拡大のために技術革新や熟練労働を応用していくべき立場にある。そして,世界の収穫が豊作と飢饉のサイクルを繰り返す状態に備えるべく,日米両国は今年末までに各国が穀物を備蓄する国際的制度を創設することを助ける努力なすべきである。

 日米共通の課題は決して以上に限られるものではない。われわれは科学技術の交流も非常に重視している。今秋すべての日米科学技術交流についての総合的な共同審査作業を完了する予定であり,これをふまえて,われわれの努力をより能率的に計画し,かつ,新しい協力分野を見出すことができよう。

 先進工業国の最先端を行く日米両国は,進歩が環境にとって何をもたらしたかの問題を特に意識している。従って,環境保護のため両国が締結しようとしている二国間協定は日米だけでなく工業化を進めている諸国にとっても大きな潜在的重要性を持つものとなろう。

 優秀な日米両国民の才能と共同努力は,必ずや広く国際社会にとってユニークな貢献を成すであろう。この結びつきを強めるために,米国は日本との文化関係を増進する所存である。日米文化関係の増進にあたってこのジャパン・ソサエティとジャパン・ソサエティを通じて日米文化会議が果たしてきた役割は決定的に重要なものである。米国行政府は,日米友好基金を設立するために現在米国議会に提出されている種々の提案を統合し,これにつき承認を得るように努める。この基金は,日米両国間の文化交流計画のために相当な額の新しい資金を提供しようというものである。

結論

 かつて,旧来の秩序が崩壊しつつあり,未だ新しい事態がいかなる形をとるかが判然としなかった時代に生きた日本の偉大な作家,西鶴は「善悪の中に立て,すぐなる今の御代をゆたかにわたるは,人の人たるがゆえに,常の人にはあらず」と述べている(注「日本永代蔵」冒頭部分)。

 現代に生きるわれわれにも同様のことが要求されている。われわれが「常の人にあらず」とは言えないとしても,われわれは偉大な資産を有している。すなわち,日米両国ほどに相異なっていながら,緊密な関係を有している2国はないし,また,両国ほどに現代の最良と最悪の事態を直接,かつ,広く体験してきた例も見られない。さらに,両国ほどに協議と協力の緊密かつ効果的な関係を築き上げた例もない。両国の共通の利益が両国を近づけたのであるが,両国の相互理解は,20年前には想像もできなかった程度に両国の友情を栄えさせるに至っている。

 米国民も日本国民も,われわれが今までに達成したことに誇りを持ち,これをさらに大いなる努力への出発点とすることができる。われわれは,創造的で,公正で,生産的な国際社会を築くにあたっての最大の希望の基となる多様性と共通目的とのバランスを達成することを求めている。今までのわれわれの道程を特徴づけてきた善意と良識と高い希望と勤勉をもって,われわれは,われわれ自身のために,そして人類のために日米両国の関係を強化し続けていこうとしているのである。

 

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(2) 欧州安全保障・協力会議(CSCE)最終文書(抄出)(仮訳)

 

                  (1975年8月1日 ヘルシンキにて署名)

 

最 終 文 書

 1973年7月3日ヘルシンキで開始され,1973年9月18日から1975年7月21日までジュネーヴで続けられた欧州安全保障・協力会議は,ドイツ連邦共和国,ドイツ民主共和国,アメリカ合衆国,オーストリア,ベルギー,ブルガリア,カナダ,サイプラス,デンマーク,スペイン,フィンランド,フランス,英国,ギリシャ,ハンガリー,アイルランド,アイスランド,イタリア,リヒテンシュタイン,ルクセンブルグ,マルタ,モナコ,ノールウェー,オランダ,ポーランド,ポルトガル,ルーマニア,サンマリノ,ヴァチカン,スウェーデン,スイス,チエッコスロヴァキア,トルコ,ソ連及びユーゴスラヴィアの代表によって,1975年8月1日ヘルシンキにおいて終結された。

 国連事務総長は,名誉賓客として会議の開会式及び閉会式において参加者に演説した。ユネスコ事務局長と国連欧州経済委員会事務局長は会議の第2段階において,貢献を行った。

 会議の第2段階の討議の過程において,議題の諸点について,アルジェリア,エジプト,イスラエル,モロッコ,シリア,チュニジアといった会議非参加地中海諸国の代表による貢献も行われた。

 諸国民の利益のために,参加国の関係を改善強化し,欧州における平和,安全,正義,協力ならびに参加国間及び世界の他の国との接近に貢献しようとする政治的意志に鼓舞され,従って会議の成果に十分な効果を与え,かつ参加国間及び欧州全域においてこのような成果から生ずる利益を確保し,これによって緊張緩和の進行を拡大及び深化させ,並びにこれを継続的かつ永続的なものにすることを決意し,

 参加国の代表は次の事項を厳粛に採択した。

A.欧州における安全に関する諸問題

 欧州安全保障・協力会議参加国は,参加国の目的が参加国間の相互関係の改善に貢献し,参加国の国民が,彼等の安全に対する脅威または侵害なしに,真正かつ永続的な平和の中で生活できる条件を確保することにある旨再確認し,

 全世界的な意味における緊張緩和を持続的であるとともにより活力に富みかつより包括的なプロセスとするために努力する必要性を確信し,欧州安全保障・協力会議の成果の実施が,このプロセスに対する主要な貢献を構成するものであることを確信し,

 参加国の国民の間の連帯ならびに欧州安全保障・協力会議の掲げる目的を達成しようとの参加国の共通の関心が,あらゆる分野における参加国間のより良好かつ緊密な関係を発展させ,そしてそれにより参加国の過去の関係の性格から生ずる対決の克服とより良き相互理解が達成されると考え,

 参加国の共通の歴史を想起し,また参加国の伝統と価値に共通する要素の存在が参加国をしてその相互関係を発展せしめる上で助けとなり得ることを認め,その立場と見解の独創性と多様性を十分に糾酌して,不信感を克服し,信頼感を増大させ,参加国を離反させている諸問題を解決し,かつ人類の利益に協力できるよう,参加国の努力を結集する可能性を探ることを希望し,

 欧州における安全が不可分であること,並びに参加国間及び欧州全土での協力の発展に対する参加国の共通の利益を認めるとともに,その努力を継続する意向を表明し,

 欧州及び世界全域での平和と安全の間に存する緊密な絆を認め,参加国の各々が世界平和と安全の強化,すべての国民の基本的権利,経済・社会的進歩及び福祉の増進に貢献する必要性を認識し,

 次のような事項を採択した。

1.

(a) 参加国の相互関係を律する諸原則に関する宣言

 参加国は,

 平和,安全,正義並びに友好関係と協力の継続的な発展に対する責務を再確認し,諸国民の関心と努力を反映するこの責務が各参加国にとって過去の経験によって一層高められた現在と未来における責任となることを認め,

 参加国が国連の加盟国として義務付けられている限りにおいて,かつ,国連の目的と原則に従い,国連に対する,そして国際平和と安全及び正義の強化,国際的な問題の解決の促進,国家間の友好関係と協力の発展に当っての国連の役割と機能の強化に対する全面的かつ積極的な支持を再確認し,

 国連憲章に合致する下記の諸原則に対する参加国の共通の同意,並びこれら諸原則の適用に当っては,国連憲章の目的と原則に従って行動する旨の共通の意志を表明し,

 参加国は,その各々が他のすべての参加国との関係において,政治,経済,社会体制ならびにその国の規模,地理的位置,または経済発展の水準のいかんにかかわらず,相互の関係を律する,いずれも第一義的な重要性を有する次の諸原則を尊重し,これを実施する決意であることを宣言する。

I 主権平等,主権に固有の諸権利の尊重

 参加国は相互の主権平等と個別性,とりわけ法律上の平等,領土保全,自由と政治的独立を含む主権に固有の,かつこれに包含されるすべての権利を相互に尊重する。参加国はまた参加国の各々が自らの政治,社会,経済,文化の制度を自由に選び,発展させる権利,ならびにその法律,規則を制定する権利を尊重する。

 国際法の範囲内で,すべての参加国は平等な権利と義務を有する。参加国はその各々が国際法に従い,かつ本宣言の精神に則り,自らの希望どおりに他の国との関係を定め,形成する権利を尊重する。参加国は国際法に従い平和的手段と合意によって,国境が変更され得ると考える。参加国はまた,国際機関に加盟するか否か,同盟条約の当事国となるか否かを含む二国間または多国間条約の当事国となるか否かの権利を有する。参加国はまた中立な保つ権利を有する。

II 武力による威嚇ないし武力行使の放棄

 参加国は相互間の関係および国際関係一般において,国家の領土保全または政治的独立に向けられ,もしくは,他の何らかの形で国連の目的および本宣言と両立しない武力による威嚇またはその行使を控える。この原則に違反して武力による威嚇ないし武力の行使に訴えることを正当化するためのいかなる考慮も援用することはできない。

 従って,参加国は他の参加国に対する武力行使の威嚇または武力に直接もしくは間接に訴えるようなすべての行動を控える。同様に参加国は,他の参加国に主権の全面的行使を放棄させる目的で,武力を誇示することを控える。同様に参加国はその相互関係においても,武力によるあらゆる報復行為を控える。

 紛争あるいは参加国間で紛争に到るおそれがある問題を解決する手段としては,この種の武力によるいかなる威嚇または武力のいかなる行使も使用されない。

III 国境の不可侵

 参加国は相互に,すべての参加国の国境ならびにすべての欧州国家の国境が侵すことができないものであるとみなし,従って現在及び将来にわたって,これらの国境に対するあらゆる攻撃(assaulting, Anschlag, attentat)を控える。

 従って参加国はまた,他の参加国の領土の一部もしくは全部の併合もしくは侵害のための要求を行ったり,あるいは行動をとることを控える。

IV 国家の領土保全

 参加国は他の参加国の各々の領土保全を尊重する。

 従って参加国は,すべての参加国の領土保全,政治的独立または統一に反する国連憲章の目的と原則に一致しないあらゆる行動,とりわけ武力による威嚇または武力の行使となるあらゆる行動を控える。

 同様に参加各国は,他の参加国の領土を軍事的占領またはその他の国際法に違反する直接,間接武力措置の対象とし,もしくはこのような措置またはこのような措置による威嚇によって獲得する対象とすることを控える。このような占領または獲得は合法的なものと認められない。

V 紛争の平和的解決

 参加国は参加国間の紛争を国際平和と安全および正義を危険に陥れないような平和的手段で解決する。

 参加国は信義と誠実にもとづきかつ協力の精神をもって,国際法を基礎として迅速,公平な解決に達するよう努力する。

 この目的のため参加国は,交渉,調査,調停,和解,仲裁,司法的解決,または参加国が当事国となる紛争に対して予め定められている解決手続を含め,各国が選択するその他の平和的手段の如き手段を利用する。

 上記のような平和的手段によっても解決に達しない場合には,紛争当事国は紛争を平和的に解決するために相互に合意さるべき手段を引続き探求する。

 参加国間の紛争の当事国である参加国ならびに他の参加国は国際平和と安全の維持を危険に陥れ,紛争の平和的解決を一層困難にする程事態を悪化させ得るあらゆる行動を控える。

VI 内政不干渉

 参加国は,その相互関係のいかんにかかわらず,他の参加国の国内的権限に属する内政,外交問題に直接,間接,単独,集団を問わず干渉することを控える。

 参加国は従って,他の参加国に対するあらゆる形態の武力干渉,またはこのような干渉による威嚇を控える。

 参加国は同様に,いかなる事情の下でも,自国の利益に他の参加国の主権に固有な権利の行使を従属せしめ,これにより何らかの利益を得ることを目的とするいかなる他の軍事的,政治的,経済的またはその他の強制行動をも控える。

 参加国は従ってとりわけ,テロ活動,破壊活動または他の参加国の政体を暴力で転覆させることを狙いとするその他の活動を直接,間接に援助することを控える。

VII 思想,良心,宗教,信条の自由を含む,人権と基本的自由の尊重

 参加国は人種,性別,言語,宗教の差別なく,思想,良心,宗教,信条の自由を含む,すべての者に対する人権と基本的自由を尊重する。

 参加国は人間に固有の尊厳に由来し,人間の自由かつ完全な発展(こ不可欠である市民的,政治的,経済的,社会的,文化的及びその他の諸権利並びに自由の効果的な行使を促進し,これを奨励する。

 この枠内で参加国は,個人の良心の命ずるところに従って行動し,単独たると共同たるとを問わず,宗教または信条を奉じ,かつ実行する個人の自由を認め,尊重する。

 その領域に少数民族が存在する参加国は,これら少数民族に属する人間の法の前の平等に対する権利を尊重し,人権と基本的自由を実際に享受する完全な可能性を彼等に与え,このようにしてこの分野での彼等の正当な利益を守る。

 参加国は人権と基本的自由の普遍的重要性を認める。この尊重は,参加国間ならびにすべての国家の間の友好的関係と協力の発展を確保するために必要な平和,正義,福祉にとって不可欠な1要素である。

 参加国はその相互関係において,これらの権利と自由を絶えず尊重し,国連との協力を含め,共同でまたは個別に,これらの権利と自由の普遍的かつ効果的な尊重を奨励するよう努力する。

 参加国はこの分野での個人の権利,義務を承知し,これに従って行動する個人の権利を確認する。

 人権と基本的自由の分野では,参加国は国連憲章の目的と原則および世界人権宣言に従って行動する。参加国はまた人権(こ関する国際規約を含め,この分野での国際的宣言及び取極に拘束される限りにおいて,そこに定められている義務を果たす。

VIII 諸民族の平等な権利と自決権

 参加国は常に国連憲章の目的と原則および国家の領土保全に関するものを含め国際法の関連規範に従って行動することにより,諸民族の平等な権利と自決権を尊重する。

 諸民族の平等な権利と自決権の原則にもとづき,すべての民族はいかなる時にも,全く自由にかつ,外部からの干渉なしに,自らの欲する時及び自らの欲する方法でその国内的および対外的な政治的地位を決定し,かつ自らの政治,経済,社会,文化的な発展を追求する権利を有する。

 参加国は参加国間ならびにすべての国家間の友好関係発展のために,諸民族の平等な権利と自決権の尊重とその効果的な行使の普遍的重要性を再確認する。参加国はまた,いかなる形態であれ,この原則に対するあらゆる違反を排除することの重要性を想起する。

IX 国家間の協力

 参加国は相互にまたすべての国とすべての分野で,国連憲章の目的と原則に従って協力を発展させる。かかる協力を発展させるに当って参加国は,欧州安全保障・協力会議の枠内で定められている分野に特別の重要性を付与するが,参加国の各々は完全な平等という条件の下で,その貢献を行うものとする。

 参加国はその平等性に立脚し,かかる協力を発展させるに当っては,参加国間の相互理解と信頼,友好,善隣関係,国際平和,安全および正義を促進させるよう努力する。参加国はまた,協力を発展させるに当って,諸国民の福祉を改善し,またなかんずく相互理解の増進,経済,科学,技術,社会,文化および人道の分野での進歩と実績から生じる諸利益を通じて国民の願望の充足に貢献すべく努力する。参加国はこれらの利益をすべての人が享受しうる条件をつくりあげるための適切な措置をとる。参加国は経済発展段階の格差を縮小させる上ですべての国,とりわけ,世界の開発途上国の利害関係を考慮に入れる。

 参加国は,協力のこのような目的の達成に貢献する上で,政府,機関,組織及び個人が然るべき積極的な役割を果たすべきことを確認する。

 参加国は上述の方向で協力を強化するに当り,相互のより緊密な関係が改善され,かつ,より永続的な基礎の上に諸国民の利益となるように発展させるよう努力する。

X 国際法の義務の誠実な履行

 参加国は国際法の一般に認められた原則,規則から生ずる義務であると,自国が当事国となっており,かつ国際法に合致する条約及びその他の協定から生ずる義務であるとを問わず,国際法に従って負う義務を誠実に履行せねばならない。

 自国の法律,規則を決める権利を含め,主権の行使に際し,参加国は国際法上の法的義務に従う。更に参加国は欧州安全保障・協力会議の最終文書の規定を正当に考慮し,実施する。

 参加国は国連憲章による国連加盟国の義務と条約またはその他の国際的な協定との間に抵触が生じる場合には,国連憲章第103条に従って国連憲章による義務が優先することを確認する。

 上記に謳われている原則はすべて第一義的な重要性を有するものであり,従ってこれら原則は平等にかつ一切の留保なしに適用され,その各々は他の原則を考慮に入れて解釈される。

 参加国は,これらの原則が全ての参加国により尊重され,適用されることにより生ずる利益をあらゆる参加国に対して確保するため,その相互の関係および協力において,これらの本宣言に表明されているとおりの諸原則をあらゆる側面において完全に尊重し,かつ適用する決意を表明する。

 参加国は,上記の諸原則,とりわけ第10原則「信義と誠実にもとづく国際法上の義務の履行」の第1節に妥当な考慮を払うことにより,本宣言が参加国の権利,義務,もしくはこれらの権利,義務に関する条約,協定及び取極に影響するものではないことを確認する。

 参加国は,これら諸原則の尊重は,あらゆる分野における参加国間の正常かつ友好的な関係の発展ならびに協力の進展を助長するとの確信を表明する。参加国はまた,これら諸原則の尊重は参加国間の政治的接触の発展を促進し,その結果,参加国の立場と見解についてのより良い相互理解に貢献するであろうとの確信を表明する。

 参加国は本宣言にもられている諸原則の精神に則ってすべての他の国との関係を形成する意図を有することを宣言する。

(b) 上記諸原則の幾つかを実行することに関連する事項(略)

2.

信頼醸成措置と安全保障および軍縮の若干の側面

 参加国は,

 参加国間に存在し得る緊張の原因を除去し,かつこのようにして世界の平和と安全の強化に貢献することを希望し,

 参加国間の信頼を強化し,このようにして欧州における安定と安全の増大に貢献することを決意し,

 更に参加国相互の関係および国際関係一般で,いかなる国の領土保全または政治的独立に向けられ,もしくは,他の何らかの形で,国連の目的と本最終文書で採択された参加国間の関係を律する原則に関する宣言と両立しない武力による威嚇または武力の行使を控えることを決意し,

 特に参加国にこのような活動の種類についての明確で時宜にかなった情報が不足している事態において,懸念を生じさせ得るような武力紛争の危険,軍事活動についての誤解または誤認の危険を減少させることに貢献する必要を認め,

 緊張を減少させ,軍縮を進展せしめることを狙いとする努力に適切な考慮を払い,軍事演習での招待によるオブザーバーの交換が接触と相互理解を増進させることを助けるであろうことを認め,

 信頼醸成のコンテキストにおいて重要な軍隊移動の事前通告の問題を検討し,

 各参加国がその共通の目標に更に貢献し得る他の方法があることを認め,

 相互理解の増進,信頼,安定および安全の強化のため重要な軍事演習の事前通告の政治的重要性を確信し,

 これらの目的を推進すること及び,その実現に不可欠である受諾された規準と方法に従って,この措置を実行することについての参加各国の責任を認め,

 政治的決意から生ずるこの措置は自発的な基礎に頼るものであることを認め,

 次のような事項を採択した。

I 主要な軍事演習の事前通告

 参加国は次の規定に従い,通常の外交経路を通じて,他のすべての参加国に自国の重要な軍事演習を通告する。

 通告は地上軍単独であるか,または空軍もしくは海軍の兵力と合同であるかを問わず(このコンテキストでは「地上軍」という言葉は水陸両用部隊と空挺部隊を含む),総計2万5千名を超える重要な軍事演習について行われる。水陸両用部隊または空挺部隊の独自の演習,もしくはこれらを含む合同演習の場合には,これらの部隊はこの総計に含まれるものとする。更に,上記の計には達しないが,水陸両用部隊か空挺部隊のいずれかの相当数を含む地上軍の合同演習,または水陸両用部隊と空挺部隊の両者を含む地上軍の合同演習の場合にも,通告を行うことができる。

 通告は参加国の欧州での領域ならびに--適用できれば--隣接する海域と空中で行われる重要な軍事演習について行われる。

 その領土が欧州以外に伸びている参加国の場合には,他の欧州参加国と対向し,もしくはこれと接する国境から250キロ以内の地域で行われる演習についてのみ事前通告を行う必要があるが,演習地域が欧州以外の非参加国と対向し,もしくはこれと接する国境にも隣接する場合,通告する必要はない。

 通告は演習開始の218前またはそれ以前に,もしくはより短い予告で準備された演習の場合には,演習開始に先立つできる限り早い機会に行う。

 通告は,演習の名称があればその名称,一般目的,演習に関与する国家,使用兵力数とその種類,演習地域および推定される所要期間についての情報を含む。参加国はまたできれば,補足的な適切な情報,特に使用兵力の構成とこれら兵力の介入期間に関する情報を提供する。

他の軍事演習の事前通告

 参加国は信頼の強化と安全と安定の増大に一層貢献し得ることを認め,この目的のためより小規模の軍事演習も,このような演習地域に隣接する参加国に特別の考慮を払って,他の参加国に通告できる。

 同じ目的のため,参加国はまた参加国の行う他の軍事演習を通告し得ることを認める。

オブザーバーの交換

 参加国は自発的かつ二国間ベースで,すべての参加国に対する相互主義と善意の精神に則り,軍事演習出席のためオブザーバーを送るよう他の参加国を招請する。

 招請国は各々の場合において,オブザーバーの数,参加の手続の条件を決め,有用と考える他の情報を提供する。招請国は適当な施設と良好な待遇を与える。

 招請は通常の外交経路を通じ都合のつく限り早目に行われる。

主要な軍隊移動の事前通告

 ヘルシンキ準備会議の最終勧告に従って参加国は,信頼強化措置としての重要な軍隊移動の事前通告問題を検討した。

 それに応じて参加国は,参加国自身の判断で,かつ信頼醸成に貢献する目的で,重要な軍隊移動を通告できることを認める。

 同様な精神で,欧州安保・協力会議参加国は,とりわけ本文書に述べる措置の実行により得られる経験に留意して,重要な軍隊移動の事前通告問題に対して一層の考慮を払う。

他の信頼醸成措置

 参加国はその共通の目的が促進され得る他の手段があることを認める。

 特に参加国は相互主義を十分に尊重し,かつより良い相互理解のために,軍の代表団による訪問を含む軍人間の招待による交流を奨励する。

 信頼醸成の共通目的により十分な貢献を行うため参加国は,重要な軍事演習の事前通告に関する規定がカバーする地域における軍事活動を行うに当っては,この目的を十分に考慮に入れ尊重する。

 参加国はまた,前記に掲げる規定の実施により得られる経験は,一層の努力がこれに伴えば,信頼強化を狙いとする措置の発展と拡大に導びきうることを認める。

II  軍縮に関する問題(略)

III 一般的な考慮(略)

       B. 経済,科学,技術及び環境の分野における協力(略)

1. 貿易

2. 産業協力及び共通の関心を有するプロジェクト

3. 貿易及び産業協力に関する条項

4. 科学・技術

5. 環境

6. 他の分野における協力

       C. 地中海地域の安全と協力なこ関する問題(略)

       D. 人道及びその他の分野における協力

参加国は,

 人種,性別,言語,宗教による差別なしに,諸国民の間の平和の強化,理解の増進及び人間個性の精神的向上に資することを希望し,

 文化及び教育の分野での交流の増大,情報のより広汎な伝播,人間の接触の拡大及び人道上の諸問題の解決がこれらの目的の達成に資することを認識し,

 それ故に,上記の分野におけるよりよい条件を作り出し,現存の協力フォーラムを発展強化し,並びに本目的に沿った新たな,手段・方法を生み出すため,それぞれの政治,経済,社会体制にかかわりなく,相互に協力し合う旨決意し,

 かかる協力が,参加国の関係を規律しかつ該当文書に言及されている如き,諸原則に対する完全な尊重の中で,実施されるであろう旨の確信を表明し,

 次の諸点を採択した。

1.

 人間の接触

参加国は,

 人間の接触の発展を諸国民間の友好信頼関係の強化の重要な要素とみなし,

 本小分野での事態改善のため現在払われている努力との関連において人道上の配慮の重要性を確認し,

 緊張緩和の追求とともに,かかる精神により,本分野での継続的な進歩,達成をめざす新たな努力が強化されることを希望し,これらの関連問題が,利害を有する諸国家の間で,かつ相互に受け入れられる条件のもとで,解決されるべき旨認識し,

 個人及び集団,私的及び公的のレベルを問わず,参加国の国民,機関及び団体の間のより自由な移動と接触を容易にすること並びにこの点に関し,提起される人道上の利益にかかわる問題の解決に資することを目標として定め,

 かかる目的のため参加国が適当と判断する措置をとり,また必要に応じて参加国の間で協定あるいは取極を締結する用意がある旨宣言し,

 次の諸点を実施する旨の意向を表明する。

a) 家族の絆を基礎とする接触及び定期的会合

 参加国は,家族の絆を基礎とする接触を促進するため,家族の訪問を望む人々に対し,一時的あるいは希望する場合には定期的な参加国の出入国の申請を好意的に審査する。

 家族との会合のための一時的な移動についての申請は,出生国や行き先国とは無関係に処理される。

 旅行関係書類及びビザの発給のため必要な手続も同様な精神に従い運用される。

 かかる関係書類とビザは,合理的な期間内に作成及び発給され,重病もしくは死亡などの緊急な場合には優先的に処理される。

 加盟国は旅行関係書類とビザの取得のための手数料が適切な水準であるとみなされるよう必要な措置をとる。

b) 家族の再結合

 参加国は,病人,老齢者よりの提出の如く緊急を要する申請に対し,特別の注意を払いつつ,家族との再結合のため提出された申請を積極的かつ好意的に取扱う。また本件に関する申請をできるだけ迅速に処理する。

 参加国は,必要な場合にはかかる申請に関連する手数料を合理的な水準まで引下げる。

 家族の再結合のための申請が不許可になった場合には,適当なレベルで再申請を行うことができる。その際再申請は,当該滞在国あるいは受け入れ国の当局により,相当程度短い期間内に審査される。かかる場合には手数料は申請が認められる限り徴収されない。

 家族との再結合のための申請が認められた者は,家具,家財などの動産及び身の回りの所持品を携行もしくは発送することができる。このため参加国は現行規則で認められるあらゆる可能性を利用する。

 家族との再結合に先立ち,家族構成員は,「家族の絆を基礎とする接触及び会合」の項で認められた条項に従い,相互に会合及び接触を行うことができる。

 参加国は,家族の再結合問題に関し赤十字により払われている努力を支持する。

 参加国は,家族の再結合についての申請の提出が申請者及びその家族構成員の権利義務に対しいかなる変更をも生じさせない旨再確認する。

 受け入れ参加国は,自国民たる家庭と再結合し,かつ自国内で恒常的に生活の拠を構えようとする他の参加国よりの来訪者に対しその雇用を確保するための適切な措置をとる。

 また参加国は上記の者が教育,医療,社会保障の分野で自国民と同様の機会が与えられるよう努力する。

c) 異なる国の国民同士の結婚

 参加国は,他の参加国の国民との結婚を決意した者より提出された出国あるいは入国の許可申請を好意的,かつ人道的配慮に基づき検討する。

 緊急目的及び結婚式のため必要な書類審査及びその発給については,「家族の再結合」の項で認められた条項に従い取扱う。

 参加国は異なった参加国の国民である夫婦より,婚姻の一方の当事者及び同人の未成年の子供が婚姻の他の当事者の住居へ移転するため,提出された申請については,「家族の再結合」の項で認められた条項を適用する。

d) 私的あるいは職業上の目的の旅行

 参加国は,自国民の私的あるいは職業上の目的による旅行がより広範囲に存されるよう希望し,このため,特に次の2点を実施する意向を有する。

-出入国手続き,漸進的に簡素化し,かつ柔軟に運用すること

-安全保障上の要請に十分考慮を払いつつ,自国領域内での他の参加国民の旅行に関する規則を緩和すること。

 参加国は必要な場合,漸進的に旅行のためのビザ及び公的書類の収得に必要な手数料は引下げるよう努力する。

 参加国は,司法及び領事共助を含めた領事事務に関する取極を改善するため,適当と認められる範囲内で,多数国間ないし二国間の領事条約あるいは,協定の締結ないし適当とみられる文書の採択を含めた措置を必要な場合には検討する意向を有する。

 参加国は,礼拝,宗教上の機関及び団体の活動は参加国憲法で認められる範囲内で実施され,これら諸団体の代表者が,その活動の範囲内で,相互に接触し,会合を行いまた情報を交換しうる旨再確認する。

e) 個人及び団体による観光旅行の条件の改善

 参加国は,観光旅行が他国の生活,文化,歴史に対する一層の理解,諸国民間の理解の増進及び接触の改善,レジャー利用の増大に資すると考える。

 よって参加国は,個人あるいは団体による観光旅行の発展を促進すべく,特に次の2点を実施する意向を有する。

-観光旅行に対する適切な便宜供与及び旅行のために必要な手続の簡素化を奨励しつつ,相互に自国内の観光旅行の促進を図ること。

-適当な協定及び取極に基づき,特に他国への旅行に関する情報の増大及び観光旅行者の接遇,サービスの改善の可能性及び相互の利益となるその他の関連問題につき検討しつつ,観光旅行の発展のための協力を促進すること。

f) 青年の会合

 参加国は,次の諸点を奨励しつつ青年の間の接触及び交流の発展を促進する意向を有する二国間あるいは,多数国間の協定あるいは,定期的プログラムに基づき,あらゆる機会を通じて,仕事,職業教育,学業にたずさわる青年の間の短期あるいは長期の交換及び接触の増大を図ること。

 青年諸団体により,青年の間の多数国間の協力の具体的内容を定める協定締結につき,研究を行うこと。

 学生交換,青年のための国際的セミナー,職業教育の講座,外国語学習の組織づくりについての協定あるいは定期的プログラム。

 青年による観光旅行を発展させるため適切な便宜供与を行うこと。

 仕事,職業教育及び学業に携わる青年を広範囲に包括する代表的団体の間の二国間あるいは多数国間の交流,接触,協力を可能な限り発展させること。

 青年が相互理解の増進,及び諸国民間の友好及び信頼の強化の重要性につき自覚すること。

g) スポーツ

 スポーツの分野での既存の協力関係を強化するため,参加国は国際的な取決め,規則,慣行に従い,あらゆる種類のスポーツについての会合,競技会を含めた接触及び交流を奨励する。

h) 接触の発展

 参加国は,婦人団体をも含めた政府及び非政府の機関,団体の間での接触を一層発展させるため,これら諸団体の代表者グループ及び個人の間の会合及び移動を容易にする。

2.

 情報

 参加国は,他の参加国内の生活の多様な側面につき,絶えずより広い知識と理解を有する必要性を認識し,

 本分野での進展が諸国民間の信頼の発展に寄与することを認め,

 参加国間の相互理解の増進及び関係の漸進的な改善とともに,本分野での進展をめざす新たな努力が継続されることを希望し,

 他の参加国よりの情報の伝播及び当該情報についてのよりよき理解の重要性を認め,

 それ故,出版物,ラジオ,テレビ映画,通信社及び本分野に携わるジャーナリストの主要な役割及びその影響力を強調し,あらゆる種類の情報のより自由で広範囲な普及を容易にすること,情報分野での協力,他の国との情報交換を奨励すること及び参加国のジャーナリストの他の参加国での職業活動を行う条件を改善することを目標として設定し,

次の諸点を実施する意向を表明する。

a) 情報の普及,入手及び情報交換について

(i) 口頭による情報

 他の参加国の著名人,専門家による講演,講演旅行及び円卓討論,セミナー,討論会,夏期講座,並びに二国間及び多数国間で行われるその他の会合における意見交換を奨励し,話される情報の普及を容易にすること。

(ii) 印刷された情報

-他の参加国の,定期及び不定期の新聞,及びその他出版物の自国領土内での配布の改善を助長すること。

 かかる目的のため,参加国は,関係企業及び機関に対し,他の参加国より輸入される新聞及び印刷物の購入,数量を漸次増大させることをめざした協定及び契約の締結を奨励する。

 本協定及び契約は,特により迅速な出版物の引渡しに関する条件,自国内の印刷物及び新聞の配付のための現存する流通チャネルの利用のほか,協定及び契約についての関係者間で合意されるべき支払い手段・方法についても言及する。

 参加国は,必要とみられる場合には,上記目的の実現及び協定,契約に含まれる条項の実施のため適切な措置をとる。

--上記に言及された定期,不定期の印刷物の入手,改善に貢献すること。

 参加国は,これら出版物の販売場所が増加するよう奨励する。

 参加国は国際会議,講演会,公式旅行,その他の国際的催し物の開催,時期及び観光シーズンには,定期的刊行物の供給増大を容易にする。

 参加国は各国の固有の手続きに従い,定期講読を行いうる可能性を拡大する。

 参加国は,これら出版物が公共図書館,閲覧室,及び大学図書館で広く読まれかつ借用しうる可能性を増大する。

 参加国は,関係者が受け入れうる取決めに従い,外交機関により作成され,かつ配布される公的な情報刊行物の存在を周知せしめる可能性を増大する意向を有する。

(iii) 映像,ラジオ,テレビによる情報

-映画,ラジオ,テレビによる情報の普及を改善するため,

 参加国は他の参加国からのすでに収録ないしフィルム化した生活の多様な側面についての種々の情報及び関係機関,企業の間で必要とみられる協定あるいは取決めに基づき直接入手した情報をより広範囲に映写し,またラジオ,テレビで放送することを奨励する。

 参加国は関係機関及び企業が他の参加国より既に収録された視聴覚教育のための資材の輸入を容易にする。

 参加国は,ラジオによる情報の普及の拡大に留意し,また本普及の拡大が諸国民間の相互理解及び本会議で提起された目的にかなう形で実施される旨の希望を表明する。

b) 情報分野での協力

-短期あるいは長期の協定ないし取決めに基づき,情報分野での協力を奨励するため,

 参加国は通信社,出版機関を含めた大衆情報機関の間の協力が増大するよう助長する。また参加国は,私的ないしは公的,国家的ないしは,国際的なラジオ,テレビ機関の協力,なかんずく,生放送及び収録されたラジオ,テレビ番組の交換,同番組の共同製作及び放送に関する協力を助長する。

 参加国は,参加国のジャーナリスト及びジャーナリズム関係機関の会合及び接触を奨励する。

 参加国は,記事の交換及び公表を目的とする定期出版機関及び新聞社の間の取決め,締結の可能性につき,好意的に検討する。

 参加国は新聞,ラジオ,テレビの分野での技術的情報の交換,共同研究,専門家の間の実験,報告及び意見の交換を目的とする会合の開催を奨励する。

c) ジャーナリストの職業活動条件の改善

 参加国は,自国のジャーナリストが他の参加国で職業活動を行う際の条件改善を希望しつつ,次の諸点を実施する旨の意向を表明する。

 ジャーナリストより提出されたビザの申請を適当かつ合理的な期間内に好意的に審査すること。

 参加国の常駐ジャーナリストに対しては,取決めに基づき,恒常的な出入国数次ビザの発給を認める。

 参加国の正式に認められたジャーナリストが暫定的に居住する場合には滞在許可証並びに必要な際には適当とみとめられるその他の正式書類の発給を容易にする。

 参加国のジャーナリストの職業活動のため移動に関する手続を相互主義に基づき,緩和し,また安全保障上の理由より移動禁止とされている地方に関する規則を遵守する旨の留保を付けた上で,この種の移動ができうる可能性を拡大する。

 申請の際,言及されている期日を考慮しつつ,かかる移動のために,ジャーナリストより提出された申請をできるだけすみやかに実現するよう努力する。

 参加国のジャーナリストに対し,公的組織及び機関をも含めたニュース・ソースとともに情報を個人的に伝達しうる可能性を増大すること。

 参加国のジャーナリストが,職務上必要な機材(写真機,映写機,テープレコーダー,ラジオ,テレビ)を輸入する権利を,再輸出を唯一の条件として付した上で認める。

 常駐あるいは一時的滞在を認められたジャーナリストが,所属する本部と,参加国により認められた手段をつかって出版,ラジオ,テレビに使用する目的で録音テープ,フィルム,ネガフィルムを含めた取材の報告を完全,正常かつ迅速に送達しうる可能性を与える。

 参加国は,ジャーナリストが正当な職業活動を行っている場合には追放ないし懲罰を受けない旨を再確認する。

 正式に認められたジャーナリストが追放された場合には,本ジャーナリストはその理由の通報を受け,かつ再審査を要求することができる。

 

3.  文化分野における協力と交流(略)
4.

 教育の分野における協力と交流(略)

E 会議のフォローアップ

参加国は,

 欧州安保・協力会議で達成された進展を考慮,評価し,

 さらに,世界のより広いコンテキストの中で,会議が欧州における安全の改善と協力の発展の過程の重要な一部分であり,その成果は有意義にこの過程に貢献するであろうことを考慮し,

 その成果を完全に実行し,このようにして欧州における安全の改善と協力の発展過程を促進することができるように,会議の最終文書の規定を履行する意図を有し,

 会議の求める目的を達成し得るよう,参加国は単独,二国聞及び多国間の新たな努力を行ない,かつ,下記に述べるような適当な形で,会議により始められた多国間過程を継続しなければならないことを確信し,

1.

 会議後の期間に,会議の最終文書の規定を正しく考慮に入れ,これら規定を適用する決意を宣言する。

a) 単独では,このような行動に適するあらゆる場合に

b) 二国間では,他の参加国との交渉によって

c) 多国間では,参加国の専門家会合ならびに国連欧州経済委員会及び教育,科学,文化の分野での協力に関してはユネスコというような既存の国際機関の枠内で,

2.

 さらに,会議によって始められた多数国間過程を追求する決意を宣言する。

a) 最終文書の規定の履行と会議の定める努力の実行,会議の取り上げる問題のコンテキストにおいて相互関係の強化拡大,欧州における安全の改善と協力の発展及び将来の緊張緩和過程の発展に関して掘り下げた意見の交換を行って,

b) この目的のため外務大臣の任命する代表レベルでの会合から始めて,代表者間の会合を組織して,代表レベルの合会は新しい同様な会合と新たな会議の可能性を含み得る他の会合の開催のための適当な態様を定めるものとする。

3.  上記に示した会合の第1回目はベルグラードで1977年に開催される。この会合を組織することを委任される準備会合は1977年6月15日にベルグラードで開催される。準備会合は外務大臣の任命する代表者会合の日,期間,議事日程及びその他の様式を定める。
4.  会議の手続規定,作業方法ならびに費用,分担規準は上記第1項(c),2項,3項で考慮されている会合に対しても必要な変更を加えて適用される。前記の会合はすべて参加国の間の輪番で開催される。事務部門はホスト国によって提供される。

 

 ドイツ語,英語,スペイン語,フランス語,イタリア語,ロシア語で作成される本最終文書の原文は,フィンランド共和国政府に託され,同政府はこれをその文書保管所に保管する。各参加国は本最終文書に合致する写しを1部フィンランド共和国政府から受け取る。

 本最終文書のテキストは各参加国において発表され,各参加国はこれをできる限り広く配布し,周知させる。

 フィンランド共和国政府は,国連の公式文書として国連の全加盟国に配布するため本最終文書のテキストを国連事務総長に送達するよう要請される。ただし,本最終文書のテキストは国連憲章102条にいう登録のため受理されるものではない。

 フィンランド共和国政府はまた本最終文書のテキストをユネスコ事務局長及び国連欧州経済委員会事務局長に送達するよう要請される。

 その証拠として下記に署名する参加国の代表は,参加国が会議の成果に対し付与する高度の政治的意義を認識し,上記テキストに含まれる規定に従って行動する決意を宣言して,本最終文書の下に署名した。

ヘルシンキで    1975年8月1日署名

  署名:

 

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(3)  エジプト・イヌラエル間第2次兵力引離し協定仮調印に関しての宮澤外務大臣談話

 

                            (1975年9月2日)

 

 今般エジプトとイスラエルとの間でシナイ半島における第2次兵力引離し協定について合意を見るに至ったことは誠に欣快の限りである。

 同協定のための交渉がこれまで幾多の困難に直面しながらもよくこれを克服し,円満妥結に至ったことは今後の中東和平の一層の前進に大きな希望を抱かせるものであるが,これはすべて関係当事国の和平実現への熱意及び仲介に当った米国のねばり強い努力のたまものに他ならない。

 わが国としてはこれら各国の態度及び努力を高く評価するとともに,関係諸国が今回の合意を基礎として,パレスチナ問題を含む中東問題の解決のために更に努力を続け,中東の地に一日も早く公正かつ永続的な平和が到来することを念願してやまない。

 

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(4) エジプト・イスラエル間第2次兵力引離し協定(仮訳)

 

                (1975年9月4日 ジュネーヴにて正式署名)

 

 エジプト・アラブ共和国政府とイスラエル政府は,次の点に合意した。

第1条  両国間及び中東における紛争は軍事力によってではなく平和的手段によって解決されなければならない。1974年1月18日ジュネーヴ和平会議の枠内で双方により締結された協定は,1973年10月22日の安保理決議第338号の条項に沿った公正かつ永続的な平和への第一歩となった。双方は安保理決議第338号によって求められている交渉による最終的かつ公正な和平の解決を達成することを決意した。この協定はその目的に向っての重要な一歩である。
第2条  締約国は本協定によって互いに威嚇,力の行使,及び軍事的封鎖に訴えないことを誓約する。
第3条
(1)  締約国は引き続き,厳密に陸,海,空における停戦を遵守し,かつ相互に全ての軍事的又は準軍事的な行動を抑制する。
(2)  締約国は又,付属文書及び締結後のプロトコールに含まれている義務は,この協定の不可欠の一部をなすことを確認する。

第4条

A.  締約国の軍隊は以下の原則に従って展開される。
(1)  全イスラエル軍は,付属地図上,Jライン,Mラインとして示されたラインの東側に展開される。
(2)  全エジプト軍は,付属地図上,Eラインとして示されたラインの西側に展開される。
(3)  付属地図上,Eライン,Fラインとして示されたラインの間の地域及び付属地図上Jライン,Kラインとして示されたラインの間の地域は,軍備及び兵力が制限される。
(4)  上記(3)で述べられた地域における軍備及び兵力の制限は別添の付属書の示されるとおりに合意される。
(5)  付属地図上,Eライン,Jラインとして示されるラインの間の地帯は兵力緩衝地帯となる。同地帯において国連緊急軍(UNEF)は引き続き,1974年1月18日のエジプト・イスラエル協定の下の機能を遂行する。
(6)  付属地図上において示されたEラインより南,かつMラインから西の地域においては,付属文書に記されているとおり,軍隊は存在しない。
B.  新しいラインの設定,軍隊の再配置と時期,軍備と兵力の制限,空中偵察,早期警報,監視施設の運営,道路の使用,国連の機能,その他の措置の詳細は,すべてこの協定の不可分の一体をなす付属書と地図及び同付属書に基づいて行われる交渉により締結され,その締結後はこの協定の不可分の一体となるプロトコールの規定に従う。
第5条  国連緊急軍(UNEF)は必要欠くべからざるもので,その機能を引き続き果たしその,駐留期間は毎年更新される。
第6条  締約国は,この協定の期間中,合同委員会を設置する。同委員会はこの協定から生ずるすべての問題を検討し,かつ国連緊急軍(UNEF)の任務遂行を支援するため中東における国連平和維持ミッション首席調整官のもとで活動する合同委員会はプロトコールに定められる手続きに従って活動する。
第7条  イスラエル向けあるいはイスラエルからの非軍事貨物はスエズ運河の通過を許される。
第8条
(1)  この協定は,締約国によって,公正かつ永続的な平和への重大な一歩とみなされる。本協定は最終的な和平協定ではない。
(2)  締約国は安保理決議第338号に従って,ジュネーヴ平和会議の枠内で,最終的和平協定の交渉のための努力を続ける。
第9条  この協定はプロトコールの調印により発効し,新たな協定に取って代わられるまで効力を有する。

 

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(5) 第45回OPEC総会コミュニケ(仮訳)

 

                   (1975年9月27日 ウィーンにおいて)

 

 第45回OPEC(臨時)総会は1975年9月24日から27日までウィーンにて開催された。

 総会はガボン鉱山・エネルギー・水資源相・同国代表団長エドワード・アレクセイ・ム

ブイ・ブチット閣下を満場一致で議長に再選した。クウェイト石油相・同国代表団長アブデル・ムッタリブ・アル・カズミ閣下が議長代理に選出された。

 総会は経済委員会報告を検討し,原油師格に関して標準原油アラビアン・ライトの現行価格を10%のみ引上げバレル当たり11ドル51セントとすることを決定した。この新価格は1975年10月1日より適用され1976年6月30日まで据置かれその時点で再検討される。

 総会はヴェネズエラ政府の石油産業国有化を祝福し,同国の石油産業の完全管理の獲得を効果的に達成するためにヴェネズエラ政府がとる措置を全面的に支持する。

 

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(6) 南北ヴィエトナム政治協議会共同コミュニケ(仮訳)

 

                (1975年11月21日 ホーチミン市において)

 

 1975年11月15日から11月21日までホーチミン市で,北の代表団と南の代表団は国家水準でのヴィエトナムの再統一を討議するため政治協議会を開いた。

 北ヴィエトナム代表団はチュオン・チン・ヴイエトナム労働党中央委政治局員・ヴィエトナム民主共和国国会常任委議長を団長とし,ホアン・バン・ホアン・ヴィエトナム労働党中央委政治局員・ヴィエトナム民主共和国国会常任委副議長とチャン・フー・ドク・ヴィエトナム労働党中央委員・ヴィエトナム民主共和国政府副首相を副団長とする25名の団員から成り,南ヴィエトナム代表団はファン・フン・ヴィエトナム労働党中央委政治局員・ヴィエトナム労働党南ヴィエトナム委書記・南ヴィエトナム解放民族戦線内党代表を団長とする25名の団員から成った。副団長は南ヴィエトナム解放民族戦線中央委幹部会議長・南ヴィエトナム共和国臨時革命政府詰問評議会議長グェン・フー・ト弁護士と南ヴィエトナム共和国臨時革命政府首相・南ヴィエトナム解放民族戦線中央委幹部会副議長兼書記長フィン・タン・ファト建築技師,ヴィエトナム民族民主平和勢力連合議長・南ヴィエトナム共和国臨時革命政府詰問評議会副議長チン・デイン・タオ弁護士である。

 会議は高度の熱意の雰囲気の中で,北と南の血で結ばれた兄弟愛の精神で進行した。

 解放民族戦線議長・南ヴィエトナム共和国臨時革命政府諮問評議会議長グエン・フー・ト弁護士が会議を厳粛に開会した。

 チュオン・チン北ヴィエトナム代表団団長とファン・フン南ヴィエトナム代表団団長が2つの重要な政治報告を行った。

 深い感動をもって,会議は祖国の独立と再統一並びに人民の自由と幸福のための闘争に全生涯を奉げたホー・チ・ミン主席の無限の奉仕を回顧した。

 会議は民族の強固な不屈の闘争の伝統を堅持して母国のために生命を奉げた戦士と人民に深い感謝を表明した。

 会議は熱気にあふれた,活発な,民主的討議を行い,議事日程の諸問題について深い分析を行った。

 会議は国家水準での民族再統一を達成するためにとられるべき政策,方法,措置に関するあらゆる問題について完全な意見の一致に到達し,こうしてわが人民の鉄の意志と最大の熱望を例証した。

 会議はヴィエトナム並びにヴィエトナム民族がもともと1つであったことを確認した。

国の創設者フン王の時代から光栄あるホー・チ・ミン時代に至るまで,ヴィエトナム民族は母国の独立,自由,統一を守るため輝かしい闘争の時期を通過してきた。

 ホー・チ・ミン時代に,わが人民は前のインドシナ共産党一現在のヴィエトナム労働党--の指導の下で,8月革命を成功裡に実行し,帝国主義的封建的奴隷状態を粉砕した。1945年9月28,ホー・チ・ミン主席は全ヴィエトナム人民と世界人民全体の前で歴史的な独立宣言を読み上げ,ヴィエトナム民主共和国の誕生を宣言した。これは全国にとっての1つの国会,1つの中央政府,北から南までの種々の水準での各地方政権を持つ,東南アジアで最初の人民民主国家である。

 8月革命に続いて,フランス植民地主義者はいま一度ヴィエトナムを侵略するためにまいもどってきた。全ヴィエトナム民族はホー・チ・ミン主席の神聖なアピールにこたえて,ほぼ9年続いた抵抗戦争を行うために立ち上がり,ついにディエンビエンフーで偉大な勝利を記録し,フランス植民地主義者に対して1954年ジュネーヴ協定に調印し,ヴィエトナムの独立,主権,統一,領土保全を承認することをよぎなくさせた。

 しかしながら,米帝国主義者はインドシナでの干渉の陰謀を放棄することを頑固に拒否してフランス植民地主義者にとってかわり,わが国の分割を永続化し,南ヴィイエトナムを米国の新型植民地と軍事基地にかえ,ヴィエトナム民主共和国を攻撃するための飛び込み台として南ヴィエトナムを使用し,社会主義が東南アジアに発展するのを阻止し,当時インドシナでわきあがっていた民族解放運動を破壊しようとする企てをもって,侵略の道に深く踏み込んだ。

 全国のわが同胞は米国のこの邪悪な陰謀に対して勇敢に戦った。解放後,北は社会主義革命を遂行し,社会主義を建設するため前進し,全国における革命の確固たる強力な基地になった。ヴィエトナム労働党の明敏な指導の下で,またラオスとカンボディア両人民と固く団結して,わが人民は過去20年にわたり抗米救国の抵抗戦争を行った。兄弟の社会主義諸国の献身的な援助と米国の進歩的人民を含む全世界の人民の全面的支持を享受して,われわれは次々に勝利をかち取り,米帝国主義者に対して,1973年のパリ協定に調印し,ヴィエトナム人民の基本的な諸権利を尊重することを公約し,南ヴィエトナムから米国とその衛星国の軍隊を引き上げることを余儀なくさせた。

 しかしながら,協定が調印されるや否や,米帝国主義者とその従僕はヴィエトナムに関するパリ協定を著しく破り始めた。この理由のため,わが人民はたたかいを継続し,敵をますます弱くさせ一層敗北する立場に追い込んだ。歴史的なホーチミン戦役をもって終了した1975年春のわが人民と戦士の総攻撃と蜂起は敵に致命的な打撃を与え,輝かしい勝利をかち取り,こうして南ヴィエトナムにおける米国の新植民地主義体制を粉々に粉砕した。1975年4月30日以来,わが国は完全に独立し,事実上,北と南は多くの面で再統一された。現在民族再統一を完了する問題はわが民族の運命とわが母国の将来ににとってさし迫った,極度に重要なものになった。

 政治協議会はヴィエトナム革命が新しい段階,すなわち全国が社会主義革命と社会主義建設に従事する段階に移ったと一致して主張する。民族独立と社会主義を基礎として民族再統一を完了することが必要である。これは最も完全な最も確固たる再統一である。

 独立,統一,社会主義は緊密に関連している。社会主義はヴィエトナム社会の前進方向,必然的な傾向であり,民族独立と統一を永遠に守り,現代的工業と農業,強力な国防,先進的な文化と科学を持つ強力な繁栄した国を建設し,今日のわれわれと今後の数千の世代に幸せな生活を保証するための唯一の道である。

 会議は民族再統一完成の全過程で,現在重要な点は国家水準での民族再統一を実現することであると一致して主張する。

 これはわが人民の主人公の権利を絶えず高め,わが国の両地帯の現実に合致したわれわれの経済と文化の計画的発展を約束し,全国で新しい社会と新しいタイプの人間を建設する目的で,わが国を早く,力強く,確固として社会主義に導くための基本的な条件である。

 会議は全国に共通の国会を選出するため,ヴィエトナム全領土で早期に総選挙を実施することが必要であると一致して確認する。完全な独立と社会主義ヴィエトナムの最高の権力機関として,この国会は国家の政治的制度を定め,国家指導機関を選出し,統一ヴィエ

トナムの新憲法を作成するだろう。

 総選挙は普通,平等,直接,秘密の投票の民主的諸原則の厳格な順守の下で,1976年前半に実施される。

 国会の議員数は人口に比例して決定される。約10万の,住民につき1人の議員が存在する。

 全国での選挙を担当するのは両地帯からの同数の代表をもつ全国選挙評議会である。全国選挙評議会は全国での投票を監督し,選挙作業を集計し,選挙の結果を発表し,当選者に証明書を発行し,国会に選挙の結果を報告する任務をもつ。選挙担当の機関はそれぞれの地帯に設立される。北で選挙を主宰する機関はヴィエトナム民主共和国国会常任委員会であり,南においてはそれは臨時革命政府諮問評議会である。

 会期の議長団選出前の共通の国会の召集と国会第一会期の議長はヴィエトナム民主共和国国会常任委員会議長と南ヴィエトナム共和国臨時革命政府諮問評議会議長によって引き受けられる。

 政治協議会によってすでに決定された主要な問題とは別に,それぞれの地帯における選挙についての具体的問題はそれぞれの地帯の責任ある機関によって決定される。

 1週間にわたる会議の後,民族再統一に関する政治協議会はすばらしい成功を収めた。これはわが全人民の重要な政治的成功である。会議は「ヴィエトナムはーつであり,ヴィイエトナム民族は一つである。川は干上がり,山は崩れるかもしれないが,この真理は決して変わらないだろう」という偉大なホー・チ・ミン主席の教えを実行する決意を固めた。

 政治協議会が開会していた時,北と南ヴィエトナムの人民ならびに海外のヴィエトナム人は会議を歓呼するためメッセージを送り,あるいは集会と熱烈なデモを組織し,会議を記念して全面的な成果を記録するため最善をつくすことを誓った。

 民族再統一に関する政治協議会の結果を全面的に発揮するため,ランソンからカマウに至るすべてのわが幹部と人民は愛国主義と社会主義の旗を高く掲げ,1人の人間のように団結し,会議の成功を全面的に発展させ,労働生産の競争を促進し,節約を守り,仕事を改善し,厳格に現実を守り,大衆の利益に気を配り,人民の集団的主人公の権利を尊重し,全国の人民にとって実際に偉大な祭日となるに違いない来るべき総選挙にとって最良の成功を保証するためあらゆる努力を払おう。

 フランス帝国主義者の旧植民地主義と米帝国主義者の新植民地主義を打ち破ったわが人民は平和,独立,統一,社会主義のヴィエトナムを建設する事業で必ず成功し,こうして平和,民族独立,民主主義,社会主義のための世界人民の闘争に積極的に貢献するだろう。

 1975年11月21日 ホーチミン市で

           北ヴィエトナム代表団首席代表

                     チュオン・チン

           南ヴィエトナム代表団首席代表

                     ファン・フン

 

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(7) ホノルル市東西センターにおけるフォード大統領演説(仮訳)

 

                   (1975年12月7日 ホノルルにおいて)

 

 米国に帰って来て嬉しい。アラスカ州,中華人民共和国及びわが国の友邦であるインドネシア並びにフィリピンへの7日間にわたる旅行を終了し,今ここにわが国50番目の州であるハワイを訪問することは私の喜びとするところである。

 今朝私は,34年前の日曜日の朝戦死した米国民をまつる場所で過去を回想した。私は,真珠湾と第2次世界大戦から生れた理念,力を通じて平和を追求するとの米国の超党派的政策,及び太平洋地域のすべての人々との相互依存関係と協力の未来に身を捧げようとの想いを新たにした。

 私はすべての者と平和を保ち,何人にも敵対しない太平洋ドクトリンを支持する。真珠湾についても,過去の力を保持し,これを活かして未来を築こうとの観点から想い起したいと思う。

 われわれは,太平洋の新旧諸国とともに力を合せてこの世界最大の大洋の周辺に最高の文明を築こうではないか。

 私が,この東西センターを訪れたのには,もう1つの意味がある。本センターは,アジア及びアジアの人々並びに同地域の多様な文化に対する米国の積極的関心の触媒としての機能を果たすとともに,アジアの米国に対する理解を一層深めたいとのわれわれの希望を担っている。昨年は,数千人の米国人学生がアジア諸国を訪問する一方,5万4,000人に及ぶアジアの人々を米国に迎えたことを嬉しく思う。

 私は教育の分野での国際的パートナーシップに対する貴センターの貢献を賞賛したい。貴センターの努力は,相互理解と自由と平和を旨とする開かれた世界への米国のヴィジョンを代表するものである。太平洋の交叉点ともいうべきハワイにおいてわれわれの過去と未来は連結している。

 昨年私は日本を訪問し,また最近天皇・皇后両陛下を米国にお迎えして感銘を受けた。日本で私が受けた丁重な歓迎及び両陛下に対する米国民の暖かい歓迎は,日米両国間に友好とパートナーシップが一層増進しつつあることを立証するものである。これは,人間がもつ最高の能力,すなわち恐怖を信頼に,また悲しむべき過去を希望にあふれた未来へと発展せしめる能力の賜である。それは,人類の進歩の過程で我々が何を達成し得るかを示す一例であり,アジアにおいて諸般の関係を改善していくというわれわれの新たな努力を鼓舞するものである。

 米国は太平洋地域の国家であり,アジアに死活的利害関係を有し,緊張の緩和,敵対行為の防止及び平和の維持に主要な役割を果たす責務を負っている。世界の安定と米国自身の安全は,米国のアジアに対するコミットメントにかかつている。

 1941年,すなわち34年前の今日,われわれは軍事的に十分な準備ができておらず,また太平洋地域における米国の貿易も限られていた。われわれはフィリピンを統治下においていた。われわれは西欧との関係で忙殺されていた。

 また,われわれの本能は孤立主義的であった。だが,今やわれわれはそのような時代を

脱却した。

 現在,われわれは世界最強の国である。アジアにおけるわれわれの通商関係は拡大しつつある。われわれはフィリピンに独立を付与するという先駆的役割を果たした。現在,われわれは,太平洋信託統治地域との新たな関係の取極な作ろうとしている。

 米国における政治力の中心は西へ移動し,われわれの太平洋に対する利益と関心は増大してきている。われわれは孤立主義国家としての行動の自由を世界国家としての諸責任に置き代えた。アジア主要3カ国への訪問を終え,私は世界のこの地域に対するわが国の利害について一層認識を深めた。

 世界の大国の安全保障上の関心はアジアで交錯している。米国,ソ連,中国,日本は太平洋国家であり,西欧もアジアと歴史的,経済的つながりを持っている。太平洋における均衡は米国及びその他の太平洋諸国にとって緊要である。

 新太平洋ドクトリンの第1の前提は米国の力が,太平洋における安定した勢力均衡の基礎であるということである。

 われわれは安全保障に対する関心以外のことについても配慮していかなければならないが,他方安全保障なくしては平和も進歩もあり得ない。アジアの友邦及び同盟諸国の主権と独立を保持することは,引続き米国の政策の至上大の目的となっている。

 われわれは安全を確保するのに力だけでは不十分であることは認識している。国民の支持に基づく(政権の)正統性及び社会正義は,政府転覆や侵略に対抗するための重大な前提条件である。

 しかしながら,われわれは,われわれ自身,及び独立維持のため引続きわが国の支援を必要とする諸国のために,太平洋全域で柔軟かつ均衡のとれた力のバランスを維持する責任を負っている。

 新太平洋ドクトリンの第2の基本的前提は,日本とのパートナーシップが米国の戦略の一つの柱となっている事実である。日本との関係に自分は最大の関心を払ってきたし,遠く離れた文化と国民同士の関係として日米関係ほど成功したものはない。日米関係は,すべての日本人にとって誇りとし得るものといえよう。日米二国間の関係が今ほど良好だった時はなく,また,最近の相互訪問は基本的な政治協力関係を象徴するものである。

 われわれは,日本国民及びその他の先進民主主義工業諸国と共に,経済政策を調和させるためのより良い手段を編み出すことに着手した。さらにわれわれは今月,日本及び西欧の友邦並びに開発途上国の代表と一堂に会して,より有効かつ公正な南北間の経済関係を形成すべく検討を開始しようとしている。

 新太平洋憲章の第3の前提は中華人民共和国との関係の正常化であり,人類の4分の1近くの人口を持つ同国との新たな絆を強化することである。これは最近の米国の外交政策の成果の1つであり,過去25年にわたる敵対関係を超越するものである。

 私は米中両国の間で4年前に開始された対話を増進するために中国を訪問した。私と毛沢東主席や部小平副首相等中国指導者達との広範な意見交換を通じてわれわれは両国の見解や政策についての理解を深めた。予想どおり両者の間にものの見方の相違はあった。両国の社会体制,哲学及び世界における立場の相違は,それぞれの国益に関する考え方を異なったものにしている。

 しかし,われわれは共通の基盤を見出した。われわれは,両者が関心を有し合意に達し得る非常に重要な領域を分ち合っていることを再確認した。中国側も,また,われわれも,すべての国の主権と領土保全を相互に尊重し,外国からの侵略の脅威がなく,他国に対する内政干渉がなく,平等,互恵及び共存の原則が平和な国際秩序の発展を形成する世界の中でアジア諸国が自由に発展すべきであるといっている。両国とも,アジア及びその他世界のいかなる地域においても,いかなる形の覇権にも反対している。

 私は上海コミュニケに基づき中国との国交正常化を達成するとの米国の決意を再確認した。双方とも今次会談を有意義で,有益かつ建設的であったと考えている。米中関係は今や国際政治の舞台における恒久的一要素となっており,これは両国国民のみならず,この地域,また全世界のすべての人々に利益となるものである。

 米国の太平洋政策の第4の原則は,米国が東南アジアの安定と安全保障に引き続き利害関係をもつことである。

 訪中後私は,インドネシア及びフィリピンを訪問した。1億4,000万の人口を持つインドネシアはわが国の新たな重要な友邦の一つであり,かつ同地域の主要国の一つである。フィリピンは,最も古くからの同盟国の一つであり,同国との友好関係は,アジアに米国が長期にわたり関心を有してきていることの証左である。

 私は,ジャカルタとマニラで3日間を過ごしたが,できればタイ,シンガポール及びマレイシアの友人達を訪問する時間も欲しかった。われわれは,ASEANを構成しているこれら5カ国と重要な政治的及び経済的関心を分かちあっている。今後ASEAN機構は米国民にとってもなじみの深いものとなろう。同機構の加盟国はすべて米国の友邦である。これらの国々の総人口は,米国の人口に等しく,また,これら諸国は,開発途上国ではあるが,活力にあふれた国民,豊かな天然資源及び良く経営された農業といった多くの財産を有している。また,彼らは,秀れた指導者を持つとともに,自己の発展をはかり,自分達の問題は自分で解決していくとの決意を有している。

 ASEAN各国はそれぞれ国家的抵抗力(national resi1ience)及び外交によって自国の独立を守っており,米国は引続きこれら諸国を支援しなげればならない。私は,今回の訪問を通じ,これらの友邦が,米国が同地域の問題に積極的に取組むよう望んでいることを学んだし,米国としてもそうしていくつもりである。

 われわれは,昔からの友好国,同盟国であるオーストラリア及びニュー・ジーランドとの緊密かつ貴重な関係も維持していく。

 米国の新太平洋政策の第5の基調は,アジアの平和は,未解決の政治紛争の解決にかかっているとのわれわれの信条である。

 朝鮮では緊張が継続している。米国は韓国と緊密な関係を持っており,米軍駐留に示されているように,朝鮮半島の平和と安全に依然関与している。昨年春緊張が高まった時も,われわれは韓国に対する支持を再確認した。

 今日,米国は同半島の緊張緩和のための建設的方策を考慮する用意があるが,韓国自身の将来を協議する場から同国を排除しようとするいかなる試みにも引き続き反対するであろう。

 インドシナにおいては時が傷をいやすことが必要である。インドシナ半島の新政権に対する政策は米国に対する彼らの行動によって決められよう。米国としては,好意のジェスチャー,特に戦死した米人の遺体または行方不明米人の返還,または彼らに関する情報の提供等に応じる用意がある。これら政権が近隣諸国に対して抑制された態度を示し,国際問題について建設的アプローチを示すならば,われわれは過去よりもむしろ将来に目を向けていく。

 米国の新太平洋政策の第6点は,アジアの平和のためには,域内のすべての国民の願望を反映した経済力の構造が必要であるということである。

 アジア・太平洋地域の経済は,近年,世界のどの地域よりも急速な成長を遂げている。米国の東アジアとの貿易は,今やECとの取り引きを上回っている。米国の雇用,通貨及び原材料は,太平洋地域との経済面での結びつきに依るところが多い。米国と同地域との貿易は年々30%以上の割合で増大しており,昨年は総額460億ドルに達した。米国との同地域の経済は,先進国と開発途上国の協力が拡大するにつれ,相互依存の度合いを増している。

 米国とASEAN5カ国との関係は成熟度を増しつつあり,お互いに,より控え目で現実的な期待感を抱くものとなってきている。米国はこれら諸国に対してもはや援助供与国が被保護国に対してとるような態度をとることはしない。誇り高きこれら諸国民は,米国に対し,直接の援助よりは新たな貿易の機会や,科学技術移転の取極を行うことに期待を寄せている。

 私が訪問したアジア各国の首脳は一様に,安定し,かつ責任のある米国のリーダーシップの継続を主張するとともに,自国の将来及び米国との関係において自立(self-reliance)を求めている。同盟国及び友好国に対する軍事援助は,われわれのささやかな責任であるが,その政治的意義はそれに必要な少額の費用をはるかに上回るものである。米国が彼らの自立と,彼らの米国との関係と彼らの間の団結と,彼らの地域的安全を強化することは,米国にとって最高の国益に資することとなる。

 私は今回会ったすべての指導者に対し,米国が太平洋国家であることを強調するとともに,大統領として,今後とも米国がアジアに対し積極的な関心をもち,アジア太平洋地域に引続きプレゼンスを維持することを誓った。

 アジアは新時代に入ろうとしている。われわれは大国間の均衡,同盟国との緊密な結びつき,互いに敵対する諸国間の緊張緩和,小規模国家の自立と域内団結,及び経済,文化交流の拡大を基礎とした新しい安定の構造を生み出すことに貢献しうるのである。これら平和を構成する諸要素は既に看取されるようになっており,近年及び極く最近のわが国の外交政策は,これらの要素がさらに発展することを助けるものである。

 もし,われわれが堅固な立場を維持するならば歴史家は1970年代を,平和的協力と進歩の時代,太平洋に位置するすべての諸国の共同体の発展の時期としてみるであろう。

 太平洋の交差点であるここハワイにおいてわれわれは,より広範な人類の共同体への願望を心に描いている。われわれは,世界中のあらゆる人種からなるユニークな共和国である米国の明るい未来を前にしている。これ程までに自由で,多数の人種を包含する社会はなく,ハワイはこうした米国の姿を立派に示し,太平洋国家としての米国の運命を示す存在である。

 太平洋における米国の伝統はこの素晴しい州から芽ばえた。私は,米国という大空にあってアロハという魔法の光を放つ星,ハワイを訪問したことを誇りとしている。

 ハワイ及び合衆国のすべての州から,人類の兄弟愛を打ちたてる交流という新しい精神を東西の人々にふり注いでいこう。

 

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(8) ASEAN首脳会議あて三木総理メッセージ

 

                            (1976年2月23日)

 

 私は,初めてのASEAN首脳会議が開かれますことに対し,心から御祝い申し上げるとともに,ASEANがアジアにおける平和と安定の促進に果たしている極めて意義深い役割を認識し,会議がこの上なき成功となることを希望致します。

 われわれは,平和と繁栄に対する共通の願望を分かち合うアジアの一国として,この画期的な会議の意義を十分に認識し,会議が東南アジアにおける成長と安定という共通の目標の達成への歴史的な一歩となることを希望致します。

 私はこの機会に併せて,ASEANの今後の発展を祈願し,ASEANとの協力関係をさらに強化するとのわれわれの意図を表明致します。

 

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(9) ASEAN首脳会議共同プレヌ・コミュニケ(仮訳)

 

                      (1976年2月24日 パリにおいて)

 

1.  インドネシア共和国大統領スハルト将軍閣下,マレイシア首相ダタク・フセイン・オン閣下,フィリピン共和国大統領フェルディナンド・E. マルコス閣下,シンガポール共和国首相リー・クァン・ユー閣下,タイ王国首相ククリット・プラモート閣下は,1976年2月23,24日パリ・デンパサールで会合した。
2.  会議は,ASEANの伝統的な友情と誠意の精神に包まれて開催された。
3.  首脳は,1967年の創設以来のASEANの活動を再検討し,その進展,特に加盟国間の協力及び連帯の精神の進展に満足の意を表明した。
4.  首脳は,ASEAN地域に影響ある情勢の発展を討議した。首脳は,東南アジアにおける平和,安定及び進歩の促進のための活動を継続し,もって世界平和及び国際調和に寄与するとの各国政府の決意を再確認した。このため首脳は,この地域の他の諸国との間に実りある関係及び互恵的協力を発展させる用意があると表明した。首脳は,他の諸国が東南アジアにおける平和,安定及び進歩の達成に寄与する政策を遂行することを希望すると表明した。
5.  会議は,加盟国間の協力を強化する方法及び手段について討議した。首脳は,加盟国にとって,特に政治,経済,社会,文化,科学及び技術の分野において,よりハイレベルの協力へ移行することが重要であると確信した。
6.  平和,自由及び中立地帯については,首脳は,同地帯の承認及び尊重を確保するために先ず必要な措置を策定する努力の進捗に満足の意を表明した。首脳は,同地帯の早期設立の実現のため引続き努力するよう指示した。
7.  首脳は,東南アジア友好協力条約に署名した。
8.  首脳は,またASEAN協和宣言に署名した。
9.  加盟国間のより緊密な経済協力を策定するとの首脳の決意の遂行にあたり,首脳は,経済協力問題についてのASEAN首脳会議の諸決定の実施にあたってとられるべき措置を検討するために,経済閣僚会議を1976年3月8,9日クアラルンプールで開催することに合意した。
10.  首脳は,また,経済閣僚会議が特に次の諸問題を討議することに合意した。
(I)  加盟国が,例えば自然災害,重大な災難及び人為的又は自然的原因に基づく供給不足のような危機的事態において,個々の国の食糧及びエネルギー需要に対し優先的な供給を行い,また,加盟国からの輸出を優先的に受ける制度。
(II)  基礎的産品,特に食糧及びエネルギーの生産における協力を強化するためにとられるべき措置。
(III)

 ASEAN大規模産業プロジェクト設立を目指す協力を開始するための適当な施策の策定。ASEAN経済閣僚会議において検討されるASEAN産業プロジェクトの例としては,尿素肥料,過燐酸肥料,カリ肥料,石油化学,鉄鋼,ソーダ灰,新聞用紙及びゴム製品があげられる。

 経済閣僚会議は,その他のプロジェクトをも検討する。

(IV)

 基礎的産品,特に食糧及びエネルギー並びにASEAN産業プロジェクト製品のASEAN加盟国間貿易拡大を促進するための特恵的貿易制度において採られる施策。

 これらの施策は次のものを含むが,これには限定されない。

A  長期数量契約
B  特別金利による買入れ融資支援
C  政府関係機関による調達に際しての優先的取扱い
D  特恵関税の拡大,及び
E  その他合意される措置
(V)  バッファーストック・スキーム及びその他の手段を含む商品協定を通じて,ASEAN商品の輸出所得の安定及び増加を主たる目的とした,国際商品問題及びその他の経済問題に対する共同アプローチの策定。
11.  外務大臣は,ASEAN事務局設立協定に署名した。首脳は,ハルトノ・レクソ・ダルソノ氏のASEAN事務局事務総長任命をテーク・ノートした。
12.  マレイシア,フィリピン,シンガポール,タイの首脳は,インドネシア共和国大統領による首脳会議の模範的な議長職務遂行に対し暖かい感謝の意を表し,かつ,首脳に対するインドネシアの伝統的な厚遇及び卓越した会議運営に対し,感謝の意を表明した。

 

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(10) ASEAN協和宣言(仮訳)

 

                     (1976年2月24日 パリにおいて)

 

 「ASEAN加盟諸国間に存在する共通のきずな」インドネシア共和国大統領,マレイシア首相,フィリピン共和国大統領,シンガポール共和国首相及びタイ王国首相は,

バンドン,バンコック及びクアラルンプール各宣言並びに国連憲章に対するコミットメントを再確認し,

 加盟国国民の平和,進歩,繁栄及び福祉の促進に努力し,

 経済,社会,文化及び政治の分野におけるASEANの成果の定着化とASEAN協力の拡大を目指して

 ここに宣言する。

 ASEAN協力は,政治的安定の追求において特に次の目標と原則を考慮に入れることとする。

1.  加盟国及びASEAN地域の安定は,国際的な平和と安全保障に対する重要な貢献である。各加盟国は,破壊活動が各国の安定にもたらす脅威を除去し,国としてのまたASEANとしての強靭性を強化する。
2.  加盟国は,個別的及び集団的に,平和,自由及び中立地帯の早期創設のために積極的な施策をとる。
3.  貧困,飢餓,疾病及び文盲の除去は,加盟国の第一の関心事である。このため加盟国は,特に社会正義の推進及び国民の生活水準の改善に重点を置いて,経済的社会的発展のための協力を緊密にする。
4.  自然災害及びその他の災害は,加盟国の発展歩調を遅らせるものである。加盟国は,可能な範囲で,窮迫にあえぐ加盟国の救済のため援助を与える。
5.  加盟国は,それぞれの国民経済の相互補完性を拡大するため,ASEAN地域で入手可能な資源をできるだけ利用しつつ,その国家及び地域発展計画の遂行にあたって協力行動をとる。
6.  加盟国は,ASEAN連帯の精神に則り,域内不和の解決において専ら平和的手段を採る。
7.  加盟国は,相互尊重及び互恵を基礎として,東南アジア諸国間の平和的協力の推進に資する条件を作るため個別的及び集団的な努力を行う。
8.

 加盟国は,地域同一性の意識を発展させると共に,互恵的関係を基礎とし,かつ,民族自決主権平等及び内政不干渉の原則に従ってすべての国から尊重されかつすべての国を尊重する,強力なASEAN共同体を創設するため,あらゆる努力を行う。

 ASEAN協力のための枠組として次の行動計画をここに採択する。

A.  政治
1.  必要に応じ加盟国首脳が会合すること。
2.  東南アジア友好協力条約を調印すること。
3.  域内紛争を平和的手段により可及的速やかに解決すること。
4.  平和,自由及び中立地帯の承詔と尊重への第一歩を可能なものからすみやかに検討すること。
5.  政治的協力を強化するため,ASEAN組織を改善すること。
6.  ASEAN犯罪人引渡し条約の可能性を含め,司法的協力をいかに発展させるかの検討を行うこと。
7.  見解の調和を促進し,立場の調整を行い,また,可能かつ望ましい場合には,共同行動をとることにより,政治的連帯を強化すること。
B.  経済面
1.  基礎的産品,特に食糧及びエネルギーに関する協力
(i)  加盟国は,基礎的産品,特に食糧及びエネルギーに関し,危機的状況の場合,個々の国家の必要に応じ優先的に供給を受け,かつ加盟国から優先的に輸出を受けることにより,相互に助け合う。
(ii)  加盟国は,また,域内加盟国における基礎的産品,特に食糧及びエネルギーの生産において協力を強化する。
2.  産業協力
(i)  加盟国は,特に基本的産品に対する域内の必要性を満たすため,大規模なASEAN産業プラント設立について協力する。
(ii)  優先順位は,加盟国で入手可能な資源を利用し,食糧生産の増大に貢献し,外貨収入を増加し,又は外貨を節約し,雇用の創設に貢献するプロジェクトに与えられる。
3.  貿易における協力
(i)  加盟国は,新しい生産と貿易の開発及び成長を促進し,今後の発展のためASEAN加盟各国内及び加盟国間の貿易構造を改善し,外貨収入及び準備を維持かつ増大させるため,貿易の分野で協力する。
(ii)  加盟国は,長期的目標として今後一連の交渉を通じて,全会一致によっていずれかの時点において適当と見なされる基礎の上に立っての特恵的貿易制度の確立に向かって前進する。
(iii)  加盟国間貿易の拡大は,基礎的産品,特に食糧及びエネルギーにおける協力,及びASEAN産業プロジェクトにおける協力を通じて促進される。
(iv)  加盟国は,一次産品及び完成品に対する域外市場におけるあらゆる貿易障害の除去を追求し,これらの産品の新たな利用方途を開発し,また地域的集団及び個々の経済大国との関係において共同のアプローチ及び行動を採択することにより,これらの産品のASEAN域外市場へのアクセスを改善するための共同の努力を一層促進する。
(v)  かかる努力は,生産を増大し,輸出産品の品質を改善し,また,輸出を多様化するため新しい輸出産品を開発するための技術及び生産方法における協力にも及ぶものとする。
4.  国際商品問題及びその他世界経済問題に対する共同アプローチ
(i)  貿易に関するASEAN協力の原則は,国連及びその龍関係多数国間フォーラムにおいて新国際経済秩序の確立に貢献する目的で行われている国際貿易制度の改革,国際金融制度の改革及び実物資源移転等の国際商品問題及びその他世界経済問題に対する共同アプローチにおいても優先的に反映されるものとする。
(ii)  加盟国は,バッファーストック・スキーム及びその他の方法を含む商品協定を通じ,加盟国により生産輸出される商品の輸出所得の安定化及び増加に優先的考慮を与える。
5.

経済協力の機構

次の目的のために経済問題に関する閣僚会議を定期的に又は必要に応じて開催する。

(i)  ASEAN経済協力の強化のため,加盟国政府の検討に付する勧告を作成するため。
(ii)  経済協力に関し合意されたASEAN計画及びプロジェクトの調整及び実施を検討するため。
(iii)  地域発展調和へのステップとして国家的開発計画及び政策に関し,意見を交換及び協議を行うため。
(iv)  加盟国政府の合意に基づき,その他の関係機能を果たす場合。
C.  社会
1.  公正な報酬を与えられる生産的雇用の機会の拡大を通じ,特に低所得層及び地方住民の福利に重点を置き,社会開発分野において協力すること。
2.  ASEAN共同体の全ての分野及び階層,特に婦人及び青少年の開発努力への積極的参加を支持すること。
3.  ASEAN地域の人口増加問題に対処するため現行協力を強化し,かつ拡大し並びに可能な場合には適当な国際諸機関との協力による新戦略を作成すること。
4.  麻酔剤の乱用及び麻薬取引の防止及び撲滅のため,加盟国間及び適当な国際団体との間の協力を強化すること。
D.  文化及び情報
1.  加盟国の学校及びその他研究機関におけるカリキュラムの一部として,ASEAN及び同加盟国並びに同国語についての修学を導入すること。
2.  ASEANの学者,作家,芸術家及びマス・メディア代表者が地域的同一性及び友情の感覚を助長するために積極的な役割を演じることを可能にするため,彼等を支持すること。
3.  国立研究所間の緊密な協力を通じ,東南アジア研究を促進すること。
E.

 安全保障

 相互の必要性及び利益に従い,安全保障問題においてノンASEANベースで加盟国間の協力を継続すること。

E.  ASEAN機構の改善
1.  ASEAN事務局設置に関する合意に署名すること。
2.  効率向上のため,ASEANの組織的構造を定期的に見直すこと。
3.  ASEAN新しい基本的枠組みが望ましいか否かを研究すること。

 

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(11) 東南アジア友好協力条約(仮訳)

 

                  (1976年2月24日 パリにおいて署名)

 

前文

 締約国は,締約国国民を相互に結びつけてきた歴史的,地理的及び文化的結合の現実のきずなを認識し,

 公正及び法の支配に対する尊重を保持し,及び相互関係における地域的レジリアンスを強化することを通じて地域平和と安定を促進することを切望し,

 国連憲章,1955年4月258のバンドンにおけるアジア・アフリカ会議で採択された10原則,1967年8月8日バンコックで調印された東南アジア諸国連合宣言,及び1971年11月27日クアラルンプールで署名された宣言の精神と原則に従い,平和,友好及び東南アジアに影響ある事項に関する相互協力を強化することを希望し,

 締約国間の不和や紛争の解決は,協力を破壊し又は減退させることがごとき否定的態度を避け,理性的,効果的かつ高度に融通性のある方法によって規制さるべきことを確信し,

 世界平和,安定及び協調の促進には,東南アジア内外の全ての平和愛好国との協力が必要であることを信じ,

 次のとおり友好協力条約を締結することに厳粛に同意する。

      第(I)章 目的及び原則

第1条  この条約は,締結国国民間の不断の平和,永遠の友好及び協力を促進することをもって目的とし,締約国の強化,連帯及び緊密な相互関係に寄与する。
第2条

 締約国相互関係は,次の基本的原則により行われる。

(a)  全ての国家の独立,主権,平等,領土保全及び国家的同一性の相互尊重
(b)  全ての国家が外部から干渉,転覆又は強制されずに存在する権利
(c)  相互内政不干渉
(d)  平和的手段による不和又は紛争の解決
(e)  力による威圧又は力の使用の放棄
(f)  締約国間の効果的協力

       第(II)章 友好

第3条  この条約の目的を遂行するため,締約国は,相互を連結している伝統的,文化的,かつ歴史的な友好関係,良き隣人関係及び協力関係の発展強化に努め,及び善意をもってこの条約上の義務を履行する。加盟国間の深い相互理解を促進するため,締約国は,締約国国民間の接触及び交流を勧奨しかつ助長する。

       第(III)章 協力

第4条  締約国は経済,社会,文化,技術,科学及び行政の各分野並びに共通の理想と願望,地域の国際平和と安定及びその他の共通関心事項に関し,積極的協力を促進する。
第5条  第4条の実施にあたり,締約国は平等,無差別及び互恵の原則に基づき,多国間及び二国間で最大の努力を行う。
第6条  締約国は,東南アジア諸国の繁栄した平和な共同体の基礎を強化すべく,地域の経済発展の一層の促進化のため協力する。このため,締約国は,国民の相互利益のために農業及び産業の一層の活用,貿易の拡大及び経済的インフラストラクチャーの改善を促進する。これに関連し,締約国は地域外の諸国並びに国際機関及び地域機構との緊密かつ有益な協力の方途を探究する。
第7条  締約国は,地域の社会的公正の達成及び国民の生活水準の向上のため,経済協力を強化する。この目的のため,締約国は,経済発展及び相互援助に関する適当な地域的戦略を採用する。
第8条  締約国は,最も広範な領域での最も緊密な協力の達成に努め,かつ,社会,文化,技術,科学及び行政の分野において訓練及び研究の便宜の形で相互に援助することに努める。
第9条  締約国は,域内の平和,調和及び安定の推進のため協力を促進することに努める。このために,締約国は,加盟国の見解,行動及び政策を調整するため,国際的及び地域的問題に関して相互に定期的に接触し及び協議することを継続する。
第10章  各締約国は,他の締約国の政治的及び経済的安定,主権又は領土の保全に脅威を与えるような行動には,いかなる方法又は形態であっても参加しない。
第11条  締約国は,各加盟国の一体性を保持するため外部干渉及び内部転覆活動なしに,各国の理想及び願望に従い政治,経済,社会文化及び安全保障の分野での加盟国の国家レジリアンスの強化に努める。
第12条  締約国は,地域的繁栄及び安全保障の達成への努力にあたり,東南アジア諸国の強固かつ存立可能な共同体のための基礎となる自信,自助,相互尊重,協力及び連帯の原則に基づき,地域レジリアンスの促進のため全ての分野において協力することに努める。

       第(IV)章 紛争の平和的解決

第13条  締約国は,紛争の発生を防止する決意及び誠意を保持する。締約国に直接影響する問題に関する紛争,特に地域の平和及び調和を害するような紛争が生じた場合には,締約国は,武力による脅威又は武力の行使を差控え,かつ,常に締約国間で友好的交渉を通じてかかる紛争を解決する。
第14条  域内の処置による紛争の解決のため,締約国は,地域の平和及び調和を害するような紛争又は状況の存在を認定することを目的とし,常設機関として,各締約国の閣僚レベルの代表によって構成される理事会を設ける。
第15条  直接交渉により解決に至らない場合には,理事会は,紛争又は状況を認定し,かつ,紛争の当事国に対し,周旋,仲介,審査又は調停のような適当な解決方法を勧告する。ただし,理事会は,周旋を行い,又は紛争の当事国の合意に基づき自ら仲介,審査又は調停の委員会を構成することができる。必要と認められる場合には,理事会は,紛争又は状況の悪化を防止するために適当な措置を勧告する。
第16条  本章の前記の条項は,紛争の全当事国が当該紛争への適用につき合意しない場合には,適用しない。ただし,これは,紛争の当事国でない他の締約国が当該紛争の解決のためあらゆる可能な援助を与えることを排除しない。紛争当事国は,かかる援助供与を好意をもって受入れなければならない。
第17条  この条約のいかなる規定も,国際連合憲章第33条(1)の平和的解決の方式によることを排除しない。紛争当事国である締約国は,国際連合憲章に規定されている他の手続に訴える前に,当該紛争を友好的交渉により解決するためイニシアチブをとることを勧奨される。

       第(V)章 一般規定

第18条

 この条約は,インドネシア共和国,マレイシア,フィリピン共和国,シンガポール共和国及びタイ王国により署名される。この条約は各署名国の憲法上の規定に基づいて批准される。

 この条約は,他の東南アジア諸国の加入のために開放される。

第19条  この条約は,この条約及び批准書又は加入書の寄託先として指定される署名国政府に第5番目の批准書の寄託が行われる日に発効する。
第20条  この条約は,等しく正本である各締約国の公用語で作成される。テキストの合意された共通の英語訳が作成される。共通テキストの解釈が異なるときは,交渉により解決される。

 

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(12) ASEAN首脳会議についての宮澤外務大臣談話

 

                           (1976年2月25日)

 

ASEAN首脳会議について

1.

 ASEANが,創設以来初の首脳会議を開催し,地域的連帯と協力の強化への意志をあらためて確認したことは,今後のアジアの繁栄と安定に寄与するものとしてわが国政府としてもこれを歓迎する。今回の首脳会議において「友好協力条約」が調印されたことは,この地域における安定の促進に果たすASEANの役割を今後一層高めるものとして注目したい。

 また,首脳会議が東南アジアのあらゆる国との平和的協力関係推進のため個別的及び集団的に努力するとの意図を表明したことは,インドシナ諸国との協調へのASEAN諸国の熱意を示すものと考えられ,東南アジア全域の繁栄と安定にとって極めて好ましいこととして,特に高く評価致したい。

2.

 さらに首脳会議が,域内経済協力推進への決意を確認し,ASEAN大規模産業プロジェクト等今後の検討の課題につき合意したことは,今回会議の大きな成果と考える。わが国としては,ASEANの自主性を尊重しつつ協力の可能性を検討していきたい。

 なお,わが国としては新たに設置が決定された中央事務局を通じてASEANとの対話を今後共一層促進し,ASEANとの協力関係に万全を期したい考えである。

 

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