第9節 国 連 専 門 機 関

 

 

1. 概   況

 

 国連専門機関は,国連憲章第57条・第63条に基づき国連との間に連携協定を有する国際組織で現在14の専門機関がある。

 昨今国際協力の分野はますます拡大しているが,専門機関はそれぞれの専門分野における情報交換,国際基準の設定のための多数国間条約の作成のほか,国連開発計画(UNDP)資金をも利用しつつ開発途上国の経済社会開発にも力を注いでいる。

 専門機関は,もともと,経済・社会・文化・保健等の分野における加盟各国の共通の利害を背景に設立,運営されてきたが,近年多くの専門機関において,国連におけると同様,PLO等の解放運動団体をオブザーバーとして招請する決議が採択され,また開発途上国グループが,多数を背景に専門機関を途上国側に有利な場として改組,運営しようとする等,専門機関が国際政治のかけひきの場として利用される動きが出てきている。このこととも関連して,75年には,米国がILO脱退意志を通告し,また,米国政府は議会の同意が得られないためユネスコの分担金を支払わない等,同国に関しては国連専門機関の活動から遠ざかる傾向を示したことは顕著な動きであつた。

 以下国連専門機関の中で,金融関係専門機関(国際通貨基金,世銀,国際金融公社,国際開発協会を除く10の専門機関)の最近の活動について述べることとする。

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2. 国際労働機関(ILO)

 

 ILOは1919年に設立され現加盟国数は128,本部はジュネーヴにある。わが国は設立時より加盟し,1938年に脱退した後51年に再加盟した。わが国政府は54年以来10大産業国(常任理事国)の一つとして重要な役割を果たしている。ILOは,政府,労働組合,使用者の代表により組織されるが,75年には,わが国の使用者代表が新たに選出された結果,わが国の政,労,使がそろつて理事になつている。

 75年中に開催された主な会議としては,第60回総会(6月),予備技術海事会議(10月)及び第195~198回各理事会があげられる。

 第60回総会では「農業従事者団体及び経済社会開発におけるその役割」,「人的資源開発における職業指導及び職業訓練」及び「劣悪な条件下における移住並びに移民労働者の機会及び待遇の均等」の3議題に対し条約,勧告各1本ずつ(第141,142,143号条約及び第149,150,151号勧告)が採択され,「国際労働基準の実施を促進するための3者構成機関の設置」について次期総会に向けて第1次討議が行われた。

 予備技術海事会議では海運業における労使関係等の5議題について76年の第62回海事総会のための予備討議が行われた。

 75年中の特筆すべき出来事として,米国政府がILOに対し,本来の理念から逸脱して政治化傾向を強めていることを理由に,11月6日,その現在の状況が改善されぬ限り,2年後に脱退する意図を有する旨の通告を行つたことが上げられる。この通告は,米国の政,労,使の一致した意見であると説明されている。(この2年間に脱退通告の撤回が行われない限り米国の脱退が実現する。)

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3. 国連教育科学文化機関(UNESCO)

 

 わが国は,ユネスコ(46年設立,現加盟国数136,本部パリ)に51年に加盟,52年から現在まで引続き執行委員会のメンバー国として選出されている。ユネスコの75~76年度の加盟国への分担金賦課総額は155,780千ドル,わが国の分担率は7.09%(第3位)である。

 75年度に開催された主な会議としては,アジア平和研究シンポジウム(2月,東京),第2回東南アジア基礎科学地域協力専門家会議(3月,東京),第97,98回執行委員会(それぞれ5月,9月~10月),マスメディア利用基本原則に関する宣言案作成政府専門家会合(12月)等が挙げられる。

 75年度のわが国のユネスコに対する協力としては,アジア地域教育刷新計画に12万ドル,ボロブドゥール遺跡保存に10万ドル,ヌビア遺跡保存に1万ドルを拠出したほか,信託基金として教育,農業研修の分野に対し総額1,880万円余,基礎科学拡充計画に5万ドル及び550万円相当の器材供与を拠出した。

 ユネスコの会議等の場において,中東紛争等の国際政治問題が持ち込まれ,74年の第18回総会で採択されたイスラエル関係諸決議を不満とする米国は分担金(25%)の支払を停止している結果,ユネスコは財政困難に直面している。

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4. 国連食糧農業機関(FAO)

 

 FAO(現加盟国136,本部ローマ)は,世界各国民の栄養と生活水準の向上,食糧・農産物の生産と分配の能率改善等を目的として45年に設立された。

 わが国は,51年に加盟して以来,FAOの主要機関である理事会,計画委員会,水産委員会等のメンバーとして協力してきている。

 75年に開催された会議の主なものには第18回総会,第65回~68回理事会,第3回農業委員会,第10回水産委員会,第50回商品問題委員会,第27~29回計画委員会等がある。

 なお,75年11月の第18回総会では,エドワード・サウマ(レバノン人)新事務局長が選出されたほか,74年の世界食糧会議の決議に基づき,理事会の下に世界食糧安全保障委員会が設置された。

 わが国は,75~76年度のFAO通常予算額106.7百万ドルに対し,分担金9.11%(第2位)を拠出した。また,FAO,国連の共同計画として開発途上国への多数国間食糧援助機関たる世界食糧計画(WFP)に対し,75~76年の2年間に計600万ドル拠出誓約を行い,実行している。

 更にわが国は第63回理事会で設置された「国際肥料供給スキーム」に対し,75年4月650万ドルを拠出(ただし,国連緊急事業に対する協力の一環としての人道的緊急食糧援助用拠出をも含む)し,また世界食糧会議でのわが国の主唱により,FAOに設置された世界食糧農業情報システムに対して15万ドルを拠出(8月)するとともにFAO事業活動として近年重視されつつある総合農村開発関連事業に対する支出を行つた。

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5. 世界保健機関(WHO)

 

 わが国は,51年にWHO(48年設立,現加盟国数149,本部ジュネーヴ)に加盟して以来,各種会議等への積極的参加をはじめ,WHOの派遣する研修生の受入れ(75年53名),開発途上国への専門家の派遣(同9名)を行つている。75年に開催された会議の主なものは,第28回WHO総会,第26回WHO西太平洋地域委員会等がある。

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6. 国際民間航空機関(ICAO)

 

 わが国は53年にICAO(47年発足,現加盟国数134,本部モントリオール)に加盟し,56年以降引続き理事国に選出されている。

 ICAOの懸案としては,ハイジャック等の民間航空に対する不法妨害行為の防止のほか,航空機騒音防止問題がある。

 ハイジャック等の防止については,既に「民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約」などのICAOが中心となつて作成した一連の条約が発効しており,民間航空の不法妨害行為防止のための国際標準も定められている。

 航空機騒音問題については,航空機の騒音証明制度が既に設けられているが,75年においても航空機騒音損害の責任及び賠償問題等が法律委員会作業の一環として検討され,わが国も積極的に参加している。

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7. 政府間海事協議機関(IMCO)

 

 わが国は,58年IMCO(58年設立,現加盟国数94,本部ロンドン)に加盟して以来理事会及び海上安全委員会の有力なメンバーとなつている。世界の海運及び造船界でわが国が占める地位からIMCOの活動はわが国にとり極めて重要であるといえる。

 75年には,船主責任制限条約(57年)の改正草案作成作業,海洋汚染防止のための技術基準作成検討が行われ,また,第9回総会がロンドンで開催された。

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8. 世界気象機関(WMO)

 

 わが国は,WMO(現構成員145,本部ジュネーヴ)に53年に加盟し,気象に関する国際協力に努めてきた。75年には第7回世界気象会議,第27回執行委員会,アジア地区協会第6回会議等が開催された。

 WMOは,全地球的規模で気象観測を行う「世界気象監視計画(WWW)」を展開しているが,わが国はこの計画に沿つて,静止気象衛星を打ち上げる準備を進めている。

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9. 万国郵便連合(UPU)

 

 わが国は,1877年,国際的郵便連絡の増進を目的とする万国郵便連合(現構成員154,本部所在地ベルヌ)に加盟,郵便物の相互交換の円滑化,郵便業務の組織化等のための国際協力の増進に寄与している。

 75年度は,執行理事会(5月)及び郵便研究諮問理事会(11月)がベルヌで開催され,わが国は理事国として,その審議に積極的に参加し,特に執行理事会では,財政委員会議長国として議事を主宰した。

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10. 国際電気通信連合(ITU)

 

 わが国は,1879年,国際電気通信連合(ITU)の前身である万国電信連合に加盟し,1932年にITU(現構成員148,本部ジュネーヴ)が創設された後も,国際電気通信の改善及び合理的利用のための同連合の活動に参加し,特に59年以降現在に至るまで継続して管理理事国に選出されている。75年度は,第30回管理理事会(6月)及びラジオ周波数を国際的に再編成することを目的とする長・中波放送に関する地域主管庁会議(10~11月)がジュネーヴで開催され,わが国はそのいずれにも積極的に参加した。

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11. 世界知的所有権機関(WIPO)

 

 わが国は,75年にWIPO(設立70年,専門機関への昇格74年,現加盟国数65,本部ジュネーヴ)に加盟し,現在調整委員会の委員国として選出されている。

 WIPOは,知的所有権保護のための国際協定の作成,開発途上国に対する知的所有権関連法令整備のための技術援助,関連情報の収集等の活動を行つているが,最近「工業所有権の保護に関するパリ条約」改正問題をめぐつて,開発途上国への技術移転問題を検討している。

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