第30回国連総会における第6委員会は,国際法委員会報告書,国際商取引法委員会報告書,条約に関する国家承継,外交的庇護,国連憲章再検討問題等の議題を審議した。また,安全保障理事会及び総会において,国際司法裁判所(ICJ)裁判官の選挙が行われ,わが国から立候補した小田滋氏が当選した。また,2月には,国連主催の外交会議において「普遍的性格を有する国際機関との関係における国家代表条約」(略称-国家代表条約)が採択された。以下においては,ICJ裁判官選挙の概要及び国家代表条約採択会議について概述する。
(1) 国際司法裁判所裁判官(15名)の任期は9年であり,3年毎に3分の1の5名が改選されるが,今回の選挙は,1976年2月5日に任期の満了する5名の裁判官の後任を選出するためのものであつた。わが国からは小田滋東北大学教授が,裁判所規定に従い,わが国の常設仲裁裁判所国別裁判官団(横田喜三郎,西村熊雄,田岡良一,下田武三の4氏)により指名を受けて立候補した。最終的候補者は同教授を含め17名であつた。
11月17日,第30総会における選挙が行われ,投票の結果,わが国小田候補は総会及び安保理で第1回目の投票において絶対多数を獲得し,当選した。この結果故田中耕太郎博士についでわが国から2人目の国際司法裁判所裁判官(戦前の常設国際司法裁判所時代を含めると5人目)が誕生した。
他の4人の当選者は次のとおり。
M.Lachs(ポーランド)
S.Tarazi(シリア)
T.O.Elias(ナイジェリア)
H.Mosler(西独)
(1) 国家代表条約採択のための外交会議は,国連総会決議2966(XXVII)及び3072(XXVIII)に基づき,国連主催の下に,1975年2月4日より3月14日まで,81カ国の参加を得て,ウィーンにおいて開催された。
この条約(草案は国連国際法委員会(ILC)が23会期に採択したもの)は外交関係ウィーン条約,領事関係ウィーン条約及び特別使節団条約に引続きいわゆる国家の国際交渉機関の地位に関する多数国間条約であり,国連,専門機関等の普遍的性格を有する国際機関に対する代表部及びこれら国際機関により開催される国際会議に出席する代表団(オブザーバー代表部・代表団を含む)を対象としたものである。
採択された条約は6部により構成されており,第1部は「イントロダクション」(定義,適用範囲等),第2部は「国際機関に対する代表部」(オブザーバーを含む常駐代表部の任務,地位特権免除等),第3部は「内部機関及び会議に対する代表団」(任務,地位,特権免除等),第4部は「内部機関及び会議に対するオブザーバー代表団」,第5部は「総則」(国内法令尊重義務等),第6部は「最終条項」につきそれぞれ規定している。
(2) わが国としては,国際機関及び国際会議のホスト国の利益と代表団等を派遣する国の利益とのバランスを達成すること,国家代表の特権免除は国連憲章105条2項の趣旨に沿つた機能主義原則を基礎とすべきこと,国連特権免除条約等の既存の条約及び国際慣行を基礎に現実的な規定とすること,国際会議への代表団の特権免除についてはその任務の短期的性格に十分な配慮が払われるべきこと等の基本的見解に立ち,積極的に審議に参加した。
(3) 会議における主要論点は特権免除の範囲であつたが機能主義原則に立ち,ホスト国と派遣国の実際上の利益のバランスを図る観点に立つ西側諸国と派遣国の立場から外交使節団と同等の広範な特権免除を確保せんとしたその他の諸国との間の妥協が成立しないまま表決が行われ,多数決により派遣国グループの主張が採択されるという事態もみられた。
(4) 3月13日,全体会議において条約案全体が,賛成57,反対1(ベルギー),棄権15(米,英,仏,スイス,オーストリア,日本等)により採択され14日署名のために開放されたが,右表決において反対又は棄権票を投じた諸国には現在国連本部や専門機関が所在するすべての主要ホスト国が含まれている。
(5) なお,本条約中には民族解放団体のオブザーバーに関する規定はないが,会議においては,この点に関して国連総会に検討を要請し,とりあえずの間は各国が民族解放団体のオブザーバーに対して本条約中の関連規定に沿つて特権免除を与えるよう勧告する決議が採択された。また,将来本条約の対象となる国際機関や会議のホスト国を決定するにあたつては,国連総会が事務総長に対して当該招請国が本条約の当事国であるか否かを加盟国に通報することを要請するよう総会に勧告する決議が採択された。
右2決議の扱いは国連第30総会第6委議題に掲上されていたが,結局審議は次会期に延期された。