75年は,核兵器不拡散条約の発効後5年目にあたり,同条約の規定に従つて発効後5年目にその運用を検討するための再検討会議が5月5日より30日までジュネーヴにおいて開催された。同会議においては勿論のこと,同会議に前後して開催された軍縮委員会春会期及び夏会期並びに第30回国連総会においても,核の一層の拡散をいかにして防止するかという問題が大きくとりあげられた。75年の軍縮に関する最も中心的な問題は,この核拡散防止問題であつたといつてよいであろう。
75年の軍縮委員会においては,春及び夏会期に非核地帯の包括的検討に関する専門家会議,夏会期に平和目的核爆発に関する専門家会議及び環境変更技術の軍事利用禁止問題に関する専門家会議が開催される等,技術的な性格をもつ会合も多く開かれた。また,第30回国連総会の軍縮討議においては,19の議題のもとに25というかつてない数の決議が採択され,国連総会の軍縮討議の量的な拡がりもみられた。その25の決議の中には,軍縮に関する国連の役割の再検討を要請する決議も含まれていたが,これは,国連の努力にもかかわらず,最近顕著な進展をみせていない軍縮の分野において一層の進展をはかりたいとする国際社会の願望を象徴したものとも言える。本件再検討の第1回会合は76年1月にニューヨークで開かれたが,今後の成行きが注目される。
75年における軍縮問題の各案件中,わが国との関係で特に注目されるものは,次のとおりである。
(1) 63年の部分核停条約によつて宇宙空間,大気圏内及び水中での核実験が禁止され,地下核実験の禁止が残された問題となつていたが,74年7月3日には,米ソ両国間で76年3月31日以降150キロトン以上の地下核兵器実験を制限する条約が調印されたが,平和目的核爆発をめぐる米ソ間の合意かえられず76年3月31日現在本条約は発効していない。
(2) 75年秋の第30回国連総会では,すべての環境下におけるあらゆる核兵器実験を非難し,軍縮委員会に対し,包括的核実験禁止条約の締結に最も高い優先度を与えるよう要請する決議が,賛成106(わが国を含む),反対2,棄権24で採択された。なお,同総会において,ソ連は,核兵器実験完全全面禁止のための交渉に入るよう要請する決議案を核兵器実験の完全全面禁止に関する条約案とともに提出し,同案は,採択された。本決議案に対し中国は反対,西側諸国は総じて実効性等の観点から消極的な態度をとつた。
(1) 平時における化学兵器の開発,生産,貯蔵を禁止しようとする本問題は有効な検証手段の確保の問題をめぐつての東西の見解が対立している。このような中で74年4月,軍縮委員会においてわが国は,検証手段の確保との関連で解決可能なところから段階的に解決していくべきであるという考え方を基本にした条約案を提出したが,わが国のイニシアティヴは,本件審議を促進するものとして歓迎された。
(2) 74年7月3日の米ソ共同コミュニケにおいて,米ソは,化学戦争のための最も危険な手段に関する国際協定の締結について軍縮委員会での共同イニシアティヴを考慮する旨発表したが,75年の軍縮委員会においても本件につき大きな進展はなく,総じて米ソの共同イニシァティヴ待ちの空気が強かつたといえる。
(3) 75年の国連総会では,軍縮委員会に対し高い優先度をもつて本件に関する交渉を継続するよう要請する決議が全会一致で採択された。
(1) 72カ国の参加のもとて75年5月開催された核兵器不拡散条約の再検討会議は,メキシコ等の非同盟グループと米英ソ等が対立し難航したが,最終日になり,同条約体制の維持強化を謳つた最終宣言が全会一致で採択された。わが国は,決定には加わることができない署名国の資格で同会議に参加したが,多くの国がわが国の主張に耳を傾け,わが国の主張が最終宣言にとり入れられたことが注目された。また,同会議と相前後して西独,イタリア等が核兵器不拡散条約に参加し,同条約の普遍性は,一段と高まつた。
(2) 第30回総会においては,第29回総会に引続き,非核地帯設置問題を含む核拡散防止問題が大きな焦点となつたが,わが国は,本問題の1つの鍵である,平和目的の名のもとで行われる核爆発をいかに規制するかという問題に関し,核拡散防止のために効果的な措置を生み出すべく努力を結集するよう訴え,平和目的核爆発についての検討継続を要請する決議をオランダ,カナダ等とともに推進,同決議は採択された。
(1) この問題に関しては,最近の国連総会においては,もつぱら「ラ米核禁条約追加議定書の署名,批准」問題を中心としてとりあげられていたが,74年の総会ではインド及びパキスタンより「南アジア」,イラン,エジプトより「中東」,アフリカ諸国より「アフリカ」についての非核地帯設置決議案が,フィンランドより「非核地帯設置についての包括的検討」についての決議案が提案され,採択された。
(2) 75年の軍縮委員会では,上記フィンランド決議案に基づき非核地帯に関する専門家会議が開催されたが,多くの重要な点において参加国の間で意見の一致が得られず,本問題の複雑な性格が浮彫りにされた。
(3) 75年の第30回総会では,前記各決議に関する決議案に加えて,新たにニュー・ジーランド等より南太平洋非核地帯設置決議案,メキシコより非核地帯の定義に関する決議案が提出され,何れも採択された。
(1) 71年の総会で,スリ・ランカ等は,インド洋を平和地帯として宣言する決議を提案して採択され,72年の総会でこの問題を検討するアド・ホック委員会(わが国を含む15カ国)が設置された。73年の総会では,アド・ホック委員会に対し翌年の総会までにその審議の結果を総会に報告すること及び事務総長に対しインド洋における大国の軍事プレゼンスについての報告を作成して委員会に提出するよう要請する決議が採択された。74年の総会では,大国がインド洋でその軍事プレゼンスを差し控えるべきこと,インド洋沿岸国,後背国がインド洋会議を開催するため直ちに協議に入るべきこと等を要請する決議が採択された。
(2) 75年の総会では,上記決議にいうインド洋会議の目的,開催時期,場所等について関係国が協議を続行することを内容とする決議が採択された。
(1) 74年7月,本件に関する米ソ共同声明が発表されたのに続き,同年の第29回国連総会において,ソ連は,「国際の安全,人類の福祉及び健康の維持に反する軍事的及びその他の目的のために環境と気候に影響を与える行為の禁止」条約案を付した決議案を提出,同決議案は,決議3264(XXX)として採択された。
(2) 上記決議により本件に関する条約につき合意に達するよう要請された軍縮委員会は,75年の夏会期において,本件に関する専門家会議を開催した。次いで,8月21日になり,米ソは,同委員会に「環境変更技術の軍事的又はその他の敵対的利用の禁止に関する条約」と題する合意された同文の条約案をそれぞれ同委員会に提出した。
(3) 同年秋の第30回国連総会は,軍縮委員会に対し,本件に関する条約につき早期の合意に達するために交渉を続けるよう要請する決議3475(XXX)をコンセンサスで採択した。