第4章 国連における活動とその他の国際協力

 

 

第1節 政 治 問 題

 

1. 第30回国連総会

 

 国際連合第30回総会は,9月16日より12月17日までニューヨークにおいてルクセンブルグのガストン・トルン首相兼外相の議長の下に開催された。一般討論に参加した国計120カ国,本会議及び各委員会で審議された議題125,採択された決議は179に上つた。

 第30回総会の主な結果は,(イ)朝鮮問題に関する韓国支持決議案と北朝鮮支持決議案の双方採択,(ロ)パレスチナ人の民族自決権の行使を考究するためのパレスチナ委員会の設置及びジューネーヴ会議を含む中東和平努力へのPLOの参加に関する決議の採択,(ハ)シオニズムは人種主義及び人種差別の一形態であるとする決議案の採択,(ニ)国連憲章再検討問題に関してはじめてコンセンサスによる決議が採択されたこと,(ホ)軍縮問題についてかつてない程多数の決議(25本)が採択されたこと等である。

 国連の加盟国数は,144となり国連の普遍性は一段と高められた。他方,総会における勢力パターンについてみると,これら新加盟国が非同盟メンバー,あるいはその立場に近い姿勢をとつていることから,非同盟グループの地位の相対的向上がみられ,従来より指摘されていた同グループ主導の傾向が一層顕著になつたといえよう。これに伴い,欧米諸国の国連内での地位が相対的に低下したことは否めない。他方,米国が非同盟諸国の主張に真向から反論する立場を示したことは注目された。

 こうした中にあつてわが国は,共同提案国の主要メンバーとして推進した朝鮮問題,国連憲章再検討・国連強化の重要議題についてわが国の立場を貫くことに成功した。また,国際司法裁判所判事の選挙では小田滋教授が,わが国から戦後2人目の判事として当選した。

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2. 朝 鮮 問 題

 

(1) 第29回総会(74年)の決議3333(XXX)において希望が表明された

 本問題に関する安保理審議は開かれないまま,75年6月に入り,わが国は,米,加,ニュー・ジーランド等と共に決議案()を付して朝鮮問題を第30回総会の議題とするよう事務総長宛書簡にて要請した。

(2) これに対し,同年8月アルジェリア,中国,ソ連等は同様に,決議案()を付した議題要請を行つた。

(3) 第30回総会において,本件審議は「朝鮮問題」という一本化された議題の下に第1委員会で行われた。第1委員会の開催前,フランスは,わが方決議案に対し修正案を提出し,わが国をはじめとする共同提案国は同修正案を受諾し,わが方の改訂決議案()として再提出した。

(4) 第1委員会において計81カ国が上記2つの決議案をめぐつて討論を行つたが,わが国は次の諸点につき,先に提出した改訂決議案の趣旨を敷行しつつ概要次のとおりの発言を行つた。(イ)朝鮮問題の最終的解決のためには南北間の対話と協調が不可欠であり,1日も早く対話が再開されることを望む。(ロ)国連軍司令部解体と休戦協定の維持を可能にするための中間的措置につき合意されることが必要。(ハ)休戦協定に代る最終的平和解決のため新たな措置が早急にとられることを希望する。(ニ)上記の中間的措置及び新たな措置を講ずるため直接当事者が話合うことを慫慂する。

(5) 討論終了後の10月29日,双方の決議案が表決にかけられ,双方共可決され(),11月18日の本会議において再度表決の結果,双方共採択されてそれぞれ決議3390(XX)A,Bとなつた。

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3. 南部アフリカおよび非自治地域問題

 

(1) 概   説

 旧ポルトガル領アフリカ等が独立を達成する中で一般に非植民地化のプロセスは一層進展した。しかし年来の課題である南部アフリカ問題については大きな進展が見られず,国連においては南アフリカ共和国のアパルトヘイト政策及びナミビア不法統治に対する非難並びに南ローデシアの白人少数政権に対する圧力がますます強まつた。

 他方,西サハラ,東チモールなど従来のように民族自決・独立を支持するだけでは解決し得ないような問題が発生し,非植民地化に関する一般原則の実際の適用上の困難さを印象づけた。

(2) 南ローデシア問題()

 第30回国連総会では,多数支配実現以前の独立は認めるべきでないとの原則を再確認し,英国に対し全ての効果的措置をとるよう要請する条項などを含む包括的決議が表決に付されることなく全会一致で採択され,また対南ローデシア制裁措置の拡大・強化及び米国の南ローデシアからのクローム鉱輸入非難などを含む前回と同趣旨の制裁決議が採択された。

 わが国は,対南ローデシア経済制裁を誠実に履行しており,両決議ともその基本的趣旨は十分支持できるので,武力行使の是認に通じるような項目等に留保した上で賛成した。

 75年3月モザンビークが南ローデシアとの国境閉鎖措置をとつたことに伴い,安保理は,モザンビークが同措置によつて被むる打撃を補うため各国及び国際機関がモザンビークに対し経済援助を行うよう呼びかける決議を,わが国を含む全メンバー国の賛成投票により採択した。

(3) ナミビア問題()

 第30回総会では,ナミビアの事態を国際の平和と安全に対する脅威であるとし,あらゆる手段による闘争の正統性を再確認するとともに,各国に対しナミビア天然資源の保護に関するナミビア理事会布告を履行するため適当な措置をとるよう要請し,同布告履行のための財政措置をとることを決定する旨の包括決議及びナミビア人の救済,訓練のためのナミビア基金決議が採択された。わが国は,武力行使を是認するような表現やナミビア布告の履行に関する条項につき留保を付したが,決議の基本目的は支持できるとの立場から上記二決議の双方に賛成した。

 76年1月安保理は,南アのナミビア不法占拠を非難し,ナミビアにおいて国連監視下の選挙が実施されるべきであるとし,南アに対しナミビアからの撤退とナミビア住民への権限移譲を求める決議をわが国の賛成を含む全会一致で採択した。

(4) 南アのアパルトヘイト政策問題

 第30回総会では7つの決議((あ)南ア信託基金に対する拠出要請,(い)南ア政治犯との団結,(う)南ア被抑圧者に対する国連の特別責任,(え)バンツースタン否認,(お)南アとのスポーツ交流停止要請,(か)アパルトヘイト特別委作業計画,(き)南ア情勢)が採択された。

 わが国は上記(3)の特別責任決議については,同決議が南アを独立の国家とみなしていないかのような表現等を含んでおり,問題があるので棄権した。また上記(7)の南ア情勢決議については,欧米諸国及び日本を名指しで非難するが如き表現を含んでおり,これはアパルトヘイト反対のための国際的な共通の努力の強化に資するとは考えられないこと,また対南ア直接投資を認めず武器禁輸を厳守する等西欧諸国に比し質的に異なる措置をとつているわが国を,これら諸国と同列にとらえることは受け入れ難いこと,更には南ア現政権は違法政権であり南ア国民を代表しないとする条項を含むことなど問題点が多いと考えられたので西欧諸国,北欧諸国の一部及び米国等とともに反対した。

 なお第29回総会への参加資格を停止された南アの代表は,第30回総会中議場へ全く姿を見せなかつた。

(5) 西サハラ問題

 安保理は75年10月下旬から11月上旬にかけ,モロッコによる西サハラへの行進という事態の中で,モロッコによる行進を遺憾とし,同国に対しただちに西サハラから引き揚げるよう要請した。このような状況の下で,モロッコのハッサン国王は行進の中止を指令し,懸念された西サハラ駐留スペイン軍との衝突は一応回避された。

 第30回総会では西サハラ住民の自決権行使のあるべき態様につき見解を異にする2つの決議がそれぞれ採択された。わが国は本件決議案が一本化されることを望んでいたが,これが実現しないまま表決に付されることとなり,いずれか一方の決議案のみが採択されることは本件問題の現実的,平和的解決に資するところではないこと,また双方の決議案とも互いに補完するような面も有していること等を考慮して,最終的には双方に賛成した。

(6) ポルトガル領チモール(東チモール)問題

 第30回総会は12月12日,インドネシアの軍事介入を強く遺憾とし同軍隊の遅滞なき撤退を要請するとともに,国連の事実調査団派遣を要請する等を骨子とする決議を採択した。わが国は,実情が十分明らかでない状況において性急にインドネシアを非難することは問題解決に資するものでなく事実究明が先決であると考え,また当初から妥当な決議採択のため共同して努力を行つてきた他のアジア諸国の動向等をも考慮して反対の投票を行つた。

 他方安保理は12月15日から22日にかけ本問題を審議し,インドネシアの武力介入及びポルトガルの責任不履行を遺憾としつつ,インドネシア軍の遅滞なき撤退,事務総長特使の現地派遣を要請する決議を全会一致で採択した。

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4. 中 東 問 題

 

 75年中の安全保障理事会における中東問題討議は,(イ)国連緊急軍(UNEF)及び国連兵力引離し監視軍(UNDOF)の任期延長問題及び(ロ)イスラエルのレバノン難民キャンプ攻撃問題をめぐつて行われた。また,第30回国連総会における本件主要議題は,(イ)シオニズム問題,(ロ)パレスチナ問題及び(ハ)中東情勢であつた。

 なお,イスラエルの国連追放問題が第30回総会で取り上げられるのではないかと当初予想されたが,結局,同総会の委任状委員会がイスラエル代表の委任状を承認した後,この問題が蒸し返えされることはなかつた。しかし,75年中の安保理及び国連総会の討議において,採択された決議では,それまでと異なりイスラエルの生存権保障の必要性の面が押えられ,イスラエルの占領継続非難,シオニズム非難,パレスチナ人の自決権達成の面が強く表面に押し出され,イスラエルに対する国際的圧力は一段と強化されていつたことが顕著である。

(1) 安保理討議

(イ) 安保理はUNEFの任期延長の決議を4月17日,7月24日および10月23日に,また,UNDOFの任期延長の決議を5月28日および11月30日に行つた(いずれの決議も,わが国を含む13カ国が賛成,中国およびイラクが投票不参加)。

 安保理審議でエジプトおよびシリアは,本任期延長問題にからませて,中東和平実現が遅れていることに強い不満を表明したが,結局,安保理議長がサダト大統領にアッピールの書簡を送つてエジプトを説得し,7月に3カ月間のUNEF任期延長を決議できた。

 その後エジプト・イスラエル間に第2次暫定協定が成立し,10月の安保理はUNEFの1年間任期延長を決議し,この局面における緊張は一応緩和された。

 他方,シリアのアサド大統領の事務総長に対する要請をきつかけに安保理は11月30日,UNDOFの6カ月間任期延長と併せ,パレスチナ問題を含む中東問題の討議を行うため,76年1月12日に安保理を開催することを決議した(賛成はわが国を含む13カ国。中国,イラクは投票不参加)。右決議直後,1本件安保理討議にPLOを招請することが,安保理理事国大多数の諒解である」旨の安保理議長ステートメントが行われた。

(ロ) イスラエルのレバノン難民キャンプ攻撃問題に関する審議において,安保理は12月58,先ずPLOの討議参加に関するエジプト等の要請を賛成9,反対3(米,英,コスタ・リカ),棄権3(日本,仏,伊)で可決した。

 わが国がPLOの安保理討議参加に棄権したのは手続規則との関係であつた。

 実質審議においてはレバノンにある難民キャンプ攻撃についてイスラエルのみを弾劾する決議案が表決に付されたが,米国の拒否権行使により否決された。

(2) 第30回国連総会討議

(イ) シオニズム問題

 総会は「あらゆる形態の人種差別の撤廃」という第3委員会議題の下に提出された「シオニズムは人種主義および人種差別の一形態であると決定する」という案文を主文とする決議を採択した。米国,西欧,一部ラ米諸国はシオニズム非難はイスラエルの存立そのものの否定に通ずるもので,また将来のアパルトヘイト撤廃運動にも悪影響を与えるものであるとして,非同盟および共産圏諸国の主張と真向から対立したため,本決議の審議は第30回総会でも,最も紛糾した審議の一つとなつた。わが国はシオニズムの概念が歴史的に変転し,国によつてその解釈が相違し,わが国自体十分な判断材料を持たないこと,および本決議が人種差別問題に関する将来の決議に及ぼす影響等を考慮し,これに棄権した。

(ロ) パレスチナ問題

 エジプトのサダト大統領は10月下旬本会議での演説で,中東問題解決のためPLOをジュネーヴ会議に招請すべきであると主張し,本議題の重要性を強調した。

 11月10日,総会は次の2つの決議を採択した。(i)(a)第29回総会決議3236に従い,パレスチナ人が固有の民族的権利を行使し得るよう,必要決議および措置の採択を検討するよう要請し,(b)国連主催の中東問題会議にPLOが他の当事者と平等の立場で参加するよう招請する趣旨のもの,及び(ii)(a)第29回総会決議3236に規定するパレスチナ人の権利行使を可能ならしめるための履行計画を作成する委員会(20カ国より構成)を創設し,(b)右委員会は76年6月1日までに事務総長に報告書および勧告を提出し,(c)安保理は同勧告を検討し,(d)安保理がとつた措置を考慮に入れて第31回総会はこの問題を審議する,という趣旨のものである。

 上記二決議案は,イスラエルの生存権について全然ふれておらず,内容が余りに一方に片寄り過ぎているのでわが国として棄権せざるを得なかつた第29回総会決議3236の履行を主眼とするものであつたため,わが国はその採択にあたり棄権した。

 ただし,前者の決議については,わが国は従来より中東紛争が関係当事者間の平和的話し合いにより解決さるべきであるとの考え方に立つており,この観点からPLOをジュネーヴ会議へ招請すべしとしたサダト大統領の提案そのものには賛成であり,エジプト原案のままであつたならこれを支持し得た旨の投票理由説明を行つた。

(ハ) 中 東 情 勢

 本議題を国連で討議することは中東和平達成のための雰囲気づくりに必ずしも貢献するものではないとの理由から,73年10月戦争後審議が行われていなかつたが,第30回総会においては,特にシリアの推進により審議が行われた。審議の後,(i)イスラエルに対する軍事,経済援助を停止するよう諸国に要請し,(ii)安保理に対し,総会,安保理関連決議を適当な時間表に従い,早急に履行するための必要措置をとるよう要請する等の趣旨の決議を採択した。わが国は,本決議が全般的に一方に片寄り過ぎており,安保理決議242の早期履行およびパレスチナ人の国連憲章に基づく自決権の達成が中東問題解決の基礎であるとするわが国の立場からは隔りがあること等の理由からこれに棄権した。

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5. 国連憲章再検討問題

 

 第29回総会決議により設置された国連憲章再検討のためのアド・ホック委員会が7月から8月の4週間ニューヨークで開催され,わが国もメンバー国として参画した。同委員会は結局,従来同様再検討積極派と消極派との間の原則問題をめぐる論争に終始し実質審議に入ることなく,終つた。

 こうしたアド・ホック委員会の経験に照らして,第30回総会では,わが国は他の再検討積極派諸国と共に本件作業への支持基盤の拡大を図り,また従来他の議題の下で審議されてきた国連の役割強化問題と合体し,「憲章及び国連役割強化に関する特別委員会」を設置する決議をコンセンサスにより採択することに尽力した。

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6. 加 盟 問 題

 

(1) 新 加 盟 国

 第30回総会は安全保障理事会の勧告に基づきカーボ・ヴェルデ,サントメ・プリンシペ,モザンビーク,パブア・ニューギニア,コモロ,スリナムの6カ国の加盟を承認し,これにより国連の加盟国は144カ国となつた。わが国は安全保障理事会及び総会の審議を通じて,これら諸国の加盟は国連の普遍性を高める等の見地より加盟歓迎の立場をとり,加盟を支持した。

(2) 南北両ヴィエトナム及び韓国の加盟問題

 8月の安保理において,南北両ヴィエトナム及び韓国から提出された加盟申請が審議されたが,韓国の方は議題から落ち,南北両ヴィエトナムについては,米国の拒否権により否決された(わが国は賛成投票を行つた)。

 9月より開催された第30回総会において,安保理に対し南北両ヴィエトナム加盟の再検討を行うことを要請する決議案が採択された。安保理は,これに基づき南北ヴィエトナムの加盟問題,及び韓国の要望に基づき同国の加盟問題を再審議したが8月の審議と同じ結果に終わつた。

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(注)

 同決議案骨子:(イ)南北対話の継続,(ロ)直接関係当事国による休戦協定維持のための適当措置を伴う国連軍司令部の解体。

(注)

 同決議案骨子:(イ)国連軍司令部の解体及び国連旗下の全ての在韓外国軍隊の撤退,(ロ)休戦協定の平和協定への代替,(ハ)南北両朝鮮間の大幅相互軍縮。

(注)

 同改訂決議案骨子:(イ)第28総会コンセンサスを再確認し,朝鮮の平和的再統一を促進するための対話継続な慫慂,(ロ)休戦協定に代る新たな措置につき直接関係当事国が交渉に入ることを希望,(ハ)第一歩として全直接関係当事国が休戦協定を維持するための措置と共に国連軍司令部が解体され得るためにできるだけ速やかに話し合うことを慫慂,(ニ)国連軍司令部が76年1月1日に解体されるよう,上記話合いが完了し,休戦協定維持のための代替措置がとられるよう希望。

(注) 双方決議案の表決結果は次のとおり。

第1委員会:

(イ)わが方案-賛成59反対51棄権29,(ロ)アルジェリア等案-賛成51反対38棄権50

本会議:

(イ)わが方案-賛成59反対51棄権29,(ロ)アルジェリア等案-賛成54反対43棄権42

(注)

 国連は,65年英国より一方的に独立を宣言した南ローデシア白人少数政権を終熄させるため,同政権に対し68年以降全面的経済制裁を行う一方,英国に対し1人1票に基づく政治的解決を求めるなどの決議を採択してきた。

(注)

 国際連盟時代南アの委任統治領であつたナミビア(旧南西アフリカ)に関する問題は,46年以来国連でとりあげられ,66年の第21回総会が,南アによるナミビア統治は終了したとし,同地域を国連の直接の責任下におくと決議した後,67年の第5回特別総会は,南アのナミビアからの撤退を求めるとともに,暫定的にナミビアを施政するものとしてナミビア理事会を設置する決議を採択した。しかし南アはこれら決議を無視し,依然として同地域に居座つている。